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三章
3-81 本日は死を刻む悪魔に関しての情報提供があるとか
しおりを挟む先にベルを宿に戻し、テロペアにベルを頼んだ。スティアは「私も管理局に行く」とは言っていたが、お兄ちゃんとしてはあんな事があった後に妹を連れて行きたくなかったので強引に置いてきた。
ようは、大会でのオレのチームで管理局に向かったのだ。
テロペアがベルを心配しながらも終始何かを考えているようだったのは気になったが、「管理官に何か言う事あるか?」と確認しても「べちゅにー」しか言わなかったので、こっちは分からないまま。
管理局に行って説明すると、直ぐに奥へと案内される。ちょっと高級な応接間、みたいなところに通されて、座って待っているように言いつけられた。
ゆっくりとソファーに腰を下ろせば、程よく沈みながらもしっかりと身体を支えてくれる感触。多分高いソファーだ。
オレはディオンとラナに挟まれて座ったまま、とりあえずあの嫌な光景から記憶を引きはがすために、管理官が来るまでの間はソファーの良さについて考える事にする。
高すぎず低すぎない、座り心地のいいソファーの表面は、革だ。何の革かはわからないがあまり固すぎず、オレの実家のベッドよりもはるかに寝心地がよさそうだ。それから、えっと……。
「失礼。お待たせいたしました」
オレが必死にソファーについて考えを巡らせていると、ドアが開いて管理官がいっぱい入ってきた。
最初に入ってきた大会の運営委員長のアンスリウムさんはわかる。あの、今朝も見たムキムキの人だ。
次に入ってきたムキムキで目つきが鋭くて怖い男は、ジギタリスに似ていると思ったら「バンクシア・ボルネフェルトです」と名乗ったから、多分ジギタリスのお父さんだろう。ジギタリスよりもムキムキで威圧感が半端じゃない。
この二人の肩には十二枚の管理官の階級章がついている。かなり偉い人らしい。
いや、十二枚の管理官はもう一人いた。アンスリウムさんやバンクシアさんには見劣りする程度の程よいムキムキ加減の男。彼は自らを「クレマチス様の側近のモルセラ・ドライツェーン・ディックハウトと申しますが、私の事は置物か何かだとでも思って下さい。別に貴方達と私が話す必要性はございませんので」などとものすごく厭味ったらしい事を言っていた。
間髪入れずに、一緒に入ってきた件のクレマチス様が「モル。失礼だろう」と叱責したが。
クレマチス様は大会の初日に挨拶をしているのを見たし、シアが「クレチー先輩」とかふざけた呼び方をしていたから記憶にあるけど、やっぱり近くにいると緊張する。
まさか王族までこの場に出てくるとは思わなかったから、そっちの心の準備が出来ていなかった、というのもある。
クレマチス様はたいそう端正なお顔立ちで、品性を感じる。黒い髪はサラサラで、なんかいい感じのシャンプーとか使ってるんだろうなぁ、と、オレはぼんやりと眺めた。
そのクレマチス様がオレ達の正面のソファーに腰かけると、すごくムキムキの二人が後ろに立ち、嫌味な側近とやらがドアの辺りに控える。
「こんな時間にご足労頂き、感謝する」
「あ、いえ、そんな」
クレマチス様がお礼を言うと、オレ達は慌てて首を横に振った。振りまくった。
国の偉い人、こんなに簡単にお礼を言っちゃうのか。びっくりした。
「特に何でも屋のクルトさんには、ネモフィラの件でもご迷惑をおかけしていたにもかかわらず、ご挨拶にも行く事も出来ずに申し訳ない」
「いやいやいやいや! 大丈夫ですから! 本当に! その件はお気になさらず!」
そういえばフィラも王族だっけ! すっかり忘れてた!
しかもあの一件に関しては本人から謝罪も貰ってるし、もう気にしていない。少なくともオレは。
他のメンバー……特に所長とかベルの真意はよくわからないが。
それにしてもクレマチス様は、オレが何でも屋のクルトってわかってるんだな。下々の事まで覚えておられて凄い。
多分ここに来る前に誰が来たのかは伝えられていただろうけど、それにしたってフィラが迷惑かけた何でも屋の職員、ってすぐに分かるあたり、なぁ。
「本日は死を刻む悪魔に関しての情報提供があるとか」
「情報提供というよりも、先ほど死を刻む悪魔が人を襲っている現場に居合わせまして」
メインで話すのはディオンだ。ここに来るまでの間にざっくりまとめ、代表してディオンが言った方がスムーズに伝わるだろうと決めてきた。
「お怪我などは?」
「無いです」
「それは良かった」
クレマチス様は微笑み、後ろの営委員長のアンスリウムさんも、ものすごく安心した顔をする。
アンスリウムさんの隣のバンクシアさんは無表情のまま変わらないが、ジギタリスが無表情のまま相手の緊張を和らげようと「にゃ」とか言った前例を考えると、この人もオレ達が緊張しまくっていたら語尾に「にゃ」をつけるかもしれない。
従者の人は小声で「精術師風情がクレス様に心配されるなど」とか大変失礼な事を言いやがったので、こいつだけは敵だ。リリちゃん先輩……間違った。リリウムさんとか、ライリーさんにめちゃめちゃに怒られればいい。
「こちらに怪我はないのですが、少々気がかりな事が」
ディオンが相手の反応を確認してから、切り出す。
「シュヴェルツェが死を刻む悪魔と共に出現しました」
「あと、アイゼアも出ました!」
連動して思い出して、言ってしまってから、オレは「しまった」と口を押えた。隣のラナが「ドンマイだよ! 大丈夫! クルトはただ伝えたかっただけなんだから気にしないで」と、過剰包装したようなフォローをくれた。
ちなみにディオンは苦笑いを浮かべるにとどめている。場所が場所だもんな。ごめん。
「クレマチス様。発言の許可を頂けますか」
「ああ」
ここまで静観を決め込んでいたバンクシアさんが、ジギタリスよりもさらに低くて威圧感のある声で尋ねた。ちょっと怖い。
「明確な状況を知るため、時系列で出来事を聞きたいのですが」
「そうだね」
クレマチス様はバンクシアさんの提案に頷いてから、視線を再度オレ達に向ける。
「申し訳ない。最初から話して頂けないだろうか」
「え、ええ。勿論です」
そう促されると、オレ達……というか、主にディオンが最初から順を追って何があったのかを伝えた。
それこそ、人の気配も精霊の気配もなくなって、髭野郎とシュヴェルツェが出てきて、そのあと死を刻む悪魔が現れて髭野郎を殺し、アイゼアまで出てきて髭野郎の死体も背負っていなくなった、という話だ。
「死を刻む悪魔の口ぶりからすると、必ず明日現れ、大会中に何かをするのではないかと考えられます」
ディオンがここまで口にすると、部屋は静まり返った。
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