俺は大型トラックになった~トラックで無双する異世界旅~

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2 大型トラック異世界を走る

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 俺はトラックのエルヴだ。

 エルヴってのが、俺の車種名だ。

 つい最近まで、エルヴは小型トラックしかなかったが、メーカーが心機一転。エルヴにも大型車種を追加した。

 それで多分だが、俺はトラックのエルヴだと思う。

 正確にエルヴだと断定出来ているわけではない。自分の型番を見られるわけでもないしな。

 内装や装備、ライトの位置。白銀のウイングボディ。これらの状態から、エルヴじゃないかって思っただけだ。俺がエルヴってのは、なんの確証もない。多分そうだろうという、俺の推測だ。

 まぁ、俺は車大好きだし? トラックはもちろん、ダンプとか、重機も大好きだからよ。この際もう、エルヴとかどうでもよくなってきるけどな!! 

 異世界に来ちまったし! 大型トラックになって!!!



 俺はつい先ほど、異世界と思われる大草原に生まれた。

 生まれた、というよりは、召喚? 

 突然、草原のど真ん中にいた。一人で。いや、トラックだから、一台だけで。

 それからいろいろと自分のことを確認しつつ、ゆっくりと走りだした。

 走り出したことに、意味はない。トラックだから、走るもんだ。草原だろうと関係ない。

 ガタガタと、道なき道を走り続ける。時速は30キロほどで。

 タイヤのパンクが怖いので、できるだけ安全に行く。

 整備士がいないので、タイヤ交換は誰もしてくれない。もしタイヤがパンクして立ち往生したら、俺の異世界人生は一発で終わりだ。いや、人じゃないから、人生じゃなくクルマ生か?

 とにかく俺は走った。人里目指して走っているのだ。

 草原には、大きな岩がゴロゴロ転がってやがる。

 アスファルトを走るように設計されているトラックには、かなりきついぞ。

 オフロード専用のモンスタートラックでもなければ、タイヤがイカレちまう。

 早くどこか整地された道に出なければ。

 俺はゆっくりと岩を避けながら走り続けると、グロい光景を見てしまった。100メートル以上先で、ライオンのような猛獣が、シカみたいな動物を食っていた。

 ライオンには羽が生えており、尻尾は蛇だった。大きさも通常のライオンよりも大きめに見える。当然、食い殺された方のシカはミンチみたいになっている。

 うわぁ。マジでこんな光景を見るとは思わなかった。弱肉強食じゃねぇか。しかも見たことねぇライオンだし、かなり獰猛そうだ。魔物ってやつだろうな。

 あまり近づかないように、かなり迂回して走っていたが、奴は俺に気付いた。

 耳がいいのか、俺のエンジン音に気付いたらしい。

 ライオンの化け物は、背中に生えた羽を使って、空を飛んで俺を急襲してきやがった。

 空を飛べるのかよ! その羽は飾りじゃねぇのかよ! 思ったが、どうしようもない。どんどんライオンの化け物は近づいてくる。

 もちろん、俺は恐怖しかない。

 トラックになっちまってるが、俺は元人間だ。そんな化け物に襲われたら、おしっこちびって気絶する自信がある。

 ライオンの化け物は、空から俺のフロントガラスめがけて突っ込んできやがった。

 走っている道は、岩だらけ。今からUターンして避けるにも無理がある。大きな岩に乗り上げて、トラックが横転したらそれこそお陀仏だ。

 仕方ない。

 突っ込んでくるなら、やるまでよ。

 目の前の直線なら、少しだけ加速できそうだ。俺は岩に注意しつつ、出来るだけ加速させる。

 俺はエンジンを吹かして一気に加速。ライオンの化け物に体当たりすることにした。

 速度を上げてぶつかれば、死ぬのは奴の方だ。例えぶつかって死ななくても、墜落させればいい。

 落ちたところをひき殺してやる。

 雄たけびをあげて突っ込んでくる化け物に、ギアを入れ替えて加速する。

 俺は突っ込み、奴と正面衝突。

 ドンっという、肉がぶつかる音が車内に響く。ライオンの化け物は俺に体当たりされ、敢え無く墜落。

 かなり吹っ飛ばされると思ったが、奴もかなりの重さだったらしく、数メートル手前に落下した。

 俺のフロントガラスはクモの巣状にヒビが入ってしまった。ボディも凹み、フレームがかなりゆがんだ。ライトも片方ぶっ壊れた。

 異世界に来ていきなりピンチだ。

 こんなにぶっ壊れて、誰が直してくれるというんだ。ここにはちゃんとした整備工場があるんだろうな?

 俺は破損した自分の体にがっかりして、跳ね飛ばした化け物に近づいてみる。

 奴は地面に墜落して、ピクリとも動かない。死んだのだろうか?

 近くまで車を走らせる。1メートル近くまで近づき、見てみると、奴は死んでいた。

 首の骨が突き出ており、脳みそがまき散らされている。
 
 かなりグロテスクだ。人間の俺なら吐いていた。

 奴に近づいたところで、俺の体が発光しはじめる。

 ヘッドライトをつけたとかではない。トラック全体が、光り出したのだ。

 何事だ。召喚か? 王様に呼び出されるのか。

 俺は覚悟して待ったが、召喚はされなかった。

 代わりに起きたのは、俺のボディが治ったこと。動画の逆再生のように、見る見るうちに俺のボディが治ったのだ。

 そこで俺に搭載されているナビから声がした。

『レベルが8に上がりました』

 なに? レベル? 8だと?

『レベルが上がりました。ガソリンを満タンにし、傷を修復します。レベルアップにより、お好きな改造を選べます』

 改造だと? まさかついにチート能力が?

『お好きな改造を選べます』

 ナビは続けた。

 レベルアップで得られる改造は以下の通り。

 1 リペア(小)の魔法を覚えられる。

 2 最大積載量を100キロ増やせる

 3 レーダー(小)を設置できる。

 ナビは言う。レベルアップ5ごとに、好きな改造を選べるらしい。選べるのは一個だけ。次回のレベルアップにも今回の改造は選べるらしい。

 ナビも、レベルアップするごとに機能が増えていくのだという。今は大したナビもできない状態らしい。なんだかゲームみたいな世界だな? 俺はゲームの中のトラックになったんじゃないだろうな?

 まぁいい。それよりも、俺はリペアとレーダーについて聞いた。今は積載量などどうでもいい。

 リペアは、簡単な傷の修復ができるとのこと。こすりキズなども、新品同様に治るらしい。聞いたところによると、簡単なパンク修理もできるようで、これはかなり使える能力だ。

 レーダー(小)は、魔物や生物の位置を特定できる。大きな魔力を持つ建造物なども警告してくれるらしい。ただし、能力が(小)の為、大した距離を感知できない。

 今のところ俺の視力がすさまじく良いので、それでカバーしよう。レーダーは後だ。今はリペアという魔法を取得しよう。本当にできるのならな。

 ちなみに、魔法を使うとガソリンが減るらしい。

 命の水、ガソリンが。

 そういや俺はガソリンがなくなったらどうなるんだ。死ぬのか? これも大きな問題だな。

 俺はいろいろその場で考えつつ、走り出そうとした。

 すると。

『キマイラの死体は回収しますか?』

 というナビからの連絡が入った。

 回収だと? どうやって?

 俺は回収すると言ったら、ナビは了解しましたと言った。

 どうするのかと思ったら、突然俺の荷台が開いた。ウイーンというモーター音とともに、俺の荷台が翼のように開く。

 荷台には、食料品やらがダンボールで詰まれている。

 まだ空きスペースがあるので、化け物巨体も積めるが、荷卸しする人間がいないぞ。どうするつもりだ。

 と思ったら、荷台の中に隠されるように設置されていた“ウインチ”が動いた。

 車の牽引などに使う、あのウインチだ。巻き上げ機ともいうが。

 ウインチから、鉄製のフックが高速で射出されると、化け物の体に突き刺さる。血が、勢いよくとび散った。

 ウインチは、突き刺さったのを確認したのか、ワイヤーを巻き上げだした。ずるずると、俺の荷台に化け物が引き込まれていく。垂れた脳みそも一緒に。

 うわあああああ。

 俺の荷台にそんなグロい物をいれないでくれぇぇえええ。

 思ったが、後の祭り。

 きちんと化け物(キマイラ)も収納され、荷台のウイングが閉じた。収納完了だ。

 俺の荷台は、奴の血でぐちゃぐちゃ。

 これはこれで非常にまずい状態だ。常温だから腐るし、何より化け物の血で俺のボディが錆びるかもしれない。

 回収するのは間違いだった。

 ちなみに、捨てたいとナビに言ったところ、無視された。

 捨てる手段がないのか、不機嫌なのか、よくわからない。

 俺はいらない物を拾ってしまった。化け物を捨ててくれる人間を探すしかない。俺の荷台も掃除してくれる奴がいい。
 
 最悪錆びたらリペアの魔法で直すが、ガソリンが減るのが問題だ。

 ガソリン問題もあるし、俺は人間のいる街を探すべきだと思った。

 満タンでどれくらい走れるか知らないが、俺は人間がいることを願って、草原を走り続けた。


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