俺は大型トラックになった~トラックで無双する異世界旅~

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5 機械騎士ジェーン

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 ジェーン視点

 私は馬のフリードと一緒に、草原の巡回警備をしていた。

 草原にある開拓村を見て回り、問題が無いかチェックする仕事だ。開拓村が魔物に襲われて困っていれば、私が魔物を討伐する。それが仕事だ。

 ちなみにだが、私は人間に生み出された魔導生命体だ。ジェーン0235番という名前だ。性別は女で、剣士タイプだ。

 私は、戦争や危険な仕事を請け負うために生み出された。

 大量生産の低位階騎士。安いコストで生み出された私は、王都での仕事は与えられない。辺境の地での過酷な仕事をしなければならない。

 国から支給された、軍馬のフリードと一緒に。

 草原は、危険な土地だ。開拓地としては申し分ないが、魔物や野盗がたくさんいる。人間が住みよい街を作るのは、たくさんの犠牲が必要だ。

 私は低位階で弱いので、魔物討伐しようとして逆に返り討ちに合うことも少なくない。命からがら逃げだしたことも多くある。

 しかしながら、私は「くっ殺」だ。

 最悪、敵につかまったら潔く諦める。

 最後に、「くっ! 殺せ!」というのが、私の遺言となるだろう。

 機械騎士として、死ぬ時くらいは潔く逝きたい。

 私は、草原を巡回警備しつつ、とある開拓村から、救難の魔法無線を受けた。

『た、助けてくれ! 誰か! 来てくれ! 魔物の群れが急に現れたんだ! 誰か応答してくれ! うわぁぁぁ!!』

 悲鳴とともに、無線は切れた。かなり切羽つまった様子だと思われる。

 魔物の群れというからには、かなりの数だろう。私一人では到底無理だろうが、行かなければならない。

 近くの魔力波を検索するが、誰もいない。半径10キロ圏内は私一人だけだ。どうやら同型の機械騎士は近くにいないようだ。

 草原は広く、開拓村も無数にある。圧倒的にハンターや機械騎士の数が足りていないので、魔物に襲われた村は滅ぶのがほとんどだ。

 望みはかなり薄いが、私は人間に作られた騎士だ。たった一人でも、いかなければならない。

 私は救難信号を受けた村を目指し、軍馬のフリードを走らせた。フリードの銀色の鬣(たてがみ)が波のように揺れ、私はフリードともに草原を駆けた。


★★★


 大型トラック「エルヴ」視点

 
 キマイラを荷台から捨てて、走ること7日

 小型の魔物を倒しつつ走り続け、レベルは24にまで上がった。

 少しずつ魔物を倒して、レベルを上げてを繰り返したのだ。レベルアップ時の燃料満タンと、傷の修復を、きちんと計算しなければならない。魔物を倒しすぎるのも良くない。

 ガソリン満タンだが、もしかしたらこれから必要なくなるかもしれない。意外と魔素吸引システムがいい仕事をするのだ。

 一時間毎に、3リットル近くの魔素を吸収するのだ。節約して走ったり、アイドリングで休憩しながら走れば、ガソリンの心配はなさそうだ。突然の自然災害や、魔物に襲われたりすれば別だが、普通に走る分にはガソリンは無くならない。日常的に役立ちそうだ。

 それから俺は、大型の魔物を避けてゆっくりと草原を走る。まったく景色が変わらぬ草原を走り続け、俺はようやく村と思われるものを発見した。

 木で出来た、いくつかの小屋を発見したのだ。

 一応400メートル近く手前からトラックを停車させて、村を確認している。視力がかなり上がっているので、400メートル先でもよく見える。

 俺が村を確認すると、20戸くらい小屋が見える。特に塀もなければ柵もない村だ。かなり貧しそうな村だが、畑が見える。トウモロコシのような食べ物が実っている。

 建てられた小屋はかなり傷んでいるが、人が暮らしている雰囲気はある。農機具なども家の周りに置いてある。

 問題は、人の姿が見えないことだ。どうしたのだろうか? 

 もう少し近づかなければわかりそうにない。

 俺はトラックをゆっくりと村に近づけ、村の様子を見ることにした。

 俺は徐行しながら、ゆっくりと村の入り口まで近づく。ここまで近づけば、さすがに俺のエンジン音で誰かが気づきそうなものだが、誰も村から出てこない。

 シーンと静まり返っている。俺の勘違いだったのだろうか? ここは廃村か?

 さらに村の中にトラックを進めると、最悪なものを発見してしまった。

 人が、死んでいた。

 顔がつぶれており、年齢の判別が出来ない。

 内臓がまき散らされていることから、魔物に襲われたと見える。血も新しいことから、それほど時間がたっていないことも伺える。

 俺は小屋の間を縫って走るが、村人と思われる人間は全員死んでいた。老若男女問わずだ。

 うわぁ。

 なんだこれは。村が全滅? 魔物に襲われて?

 国とかはないのだろうか? なぜ放置なのだ? 辺境の村だからか?

 せっかく出会えた人間が、全員死体。これはひどい。

 ちくしょう。最悪だ。こんだけ頑張って走ったのに、なんの情報も得られないのか。この世界はどうなってやがる。

 これではせっかくの人体生成の魔法も、使う機会が無い。俺はトラックのまま村の奥に進んでいく。誰か生き残りでもいればいいのだが……。



 ジェーン視点

 私は開拓村に到着した。

 救難の無線を受けてから、すでに2時間近くが経過してしまった。全滅していなければよいのだが、2時間もあれば村は全滅するのに十分だ。

 私はフリードから降りて、腰に装着している剣を引き抜く。フリードを守るように私が前を歩き、開拓村の中に入って行く。

 貧しい掘立小屋みたいな開拓村。それでも畑ではラキの実が生っている。この地方の特産品だ。黄色い実を潰すとジュースになる。

 農機具が放ったらかしで、農民の姿が無い。近くに馬小屋を見つけたので、小屋に入って、フリードをつないでおく。

「他の馬も家畜も、見当たらないな。全員逃げたのだろうか?」

 私はフリードに大人しくしているように言って、村を探索すると、残念なものを見つけてしまった。

 村の中央広場付近で、大量の死体を発見してしまった。村人が交戦したような跡がある。

「この歯型。サンドドレイクでも現れたか?」 

 比較的大型の魔物に襲われたと見える。村人を食い殺してはいるが、骨までは食っていない。グレイジャッカルだったら、骨も残さず食べられている。

「また一つ、村が消えたか」

 ジェーンはため息をつく。

「仕方ない。火葬をするか」
 
 村人の血の匂いにつられて、ジャッカルたちが集まってしまう。その前に火葬をして供養しよう。

 私は村の奥に行き、柔らかそうな畑の土を掘って、穴を作ることにした。ここに村人を入れて火葬にするのだ。

 私はえっさほいさと、せっせに穴を掘っていたら、突然巨大な唸り声が響いた。

「な! なんだこの唸り声は!! ドラゴンでも現れたか!!?」

 私はその唸り声を初めて聞いた。信じられないほどの重い唸り声だ。低く、それでいて力強い。ドラゴン並みの唸り声だ。

 これは、ものすごい魔物が現れた。死ぬかもしれないと、恐怖した。

 音は、村の入り口の方から聞こえる。

 ブオンブオン!! 

 と、なんだかすごい音が聞こえる。

 やばい。私もついに年貢の納め時か?

 遺言である「くっ! 殺せ!」をいう時が来たのだろうか?

 馬のフリードのところに行き、手綱は外しておく。私が死んでも街に帰れるようにだ。

「フリード。言ってくる。私が死んだら、街への報告、頼んだぞ」

 私は剣を携えて、「ブオンブオン!!」と唸り声をあげる魔物に近づいていくのだった。 


★★★


 俺は滅びた村を見つけて、トラックで探索していた。

 小屋の間をゆっくりと徐行し、ぶつけないように走る。

 村人の死体を発見してから、おびただしい血痕が地面に増えてきた。どうやら村の中央広場となっている場所で、大きな魔物と交戦したらしい。

「あ~。ここで戦ったのか。全員死んでる。これはキマイラクラスの魔物に殺されたな」

 ミンチになっている。村人がひき肉状態だ。しかも殺しただけで、食っていない村人もいる。一匹か、数匹の大型魔物の仕業だろう。俺が殺したジャッカルたちとは、獲物の食い方が違うしな。 
「はぁ。収穫なしか。これからどうしようか? また草原を走るのか? はぁ。疲れたな~」 

 こうも一人だとつらい。俺だって人肌が恋しい時があるんだ。せっかく子供になれる魔法を手に入れたんだ。邪な心を持って、綺麗なおねぇさんに甘えたいんだ。

 俺は心の中でため息をつきながら、ゆっくりとトラックを走らせる。

 すると小屋の影から、突然人が飛び出してきた。

 剣を持った騎士風の人間に攻撃されたのだ。

 見ると、全身鎧の騎士だ。飛び掛かりつつ、俺に切りかかってきたのだ。

「死ねぇええ!! 化け物があぁぁ!!」

「うわ! なんだなんだ!!」

 びっくりしたが、俺のボディは鋼鉄製。斬鉄でもできなければ、俺のフレームは切り落とせない。

 騎士風の人間は、左のドアを剣で叩いたが、大きな凹みを作るだけで切り裂くことはできなかった。

 むしろ、俺がドアをいきなり開けてやった。タクシーの開くドアみたいに。

 俺のドアアタックを食らって、騎士は吹き飛んだ。

「ぐあ~」

 騎士がゴロゴロと転がっていく。

 俺はすかさず、トラックのスピーカーから声を出した。

 言葉が通じるか分からないが、コミュニケーションは必要だ。

「おい! そこの奴! いきなり攻撃してくるとは何事だ!!」

 機械的な音声で、少し人間味にかけるが、仕方ない。男性のボイスパターンがこれしかなかったのだ。

 騎士は俺のドアでぶっ叩かれて、地面にうずくまっている。結構やりすぎたか? 大型トラックのドアだしな。

「ぐぐぐ。貴様。なんだ。その鉄の箱は。その中に入っているのか? どうやら魔物ではなさそうだな。姿を見せろ。魔人の類か?」

 騎士は立ち上がると、俺に剣を向けた。兜をかぶっているので、顔が見えない。というか、言葉が通じる。日本語みたいに聞こえる。

「俺はそうだな。名前か。俺は、エルヴという。魔人がなんなのかしらんが、俺は魔人じゃない。たまたま草原を走っていたらこの村を見つけた。少し村人の話が聞きたくて立ち寄っただけだ」 

「私は姿を見せろと言ったぞ。その動く鉄の箱はなんだ? 魔国の新しい装甲車か?」 

 魔国? 装甲車だと? いったい何を言ってやがる。これが装甲しているように見えるか? 俺はトラックだぞ!

「なら、あんたの名前を言って、兜を取れ。俺は名前を言ったぞ。エルヴだ」

 俺はそういったが、奴はまた切りかかってきた。問答無用らしい。

 俺は緊急的にバックすると、奴の斬撃を避けた。ギャグみたいにひょいっと、トラックで避けた。

「くそ! デカい癖に早い! 私の剣を避けるとは!!」

 俺はそのままバックし続けようと思ったが、小屋が邪魔をしてバックできない。奴はまた俺に飛び掛かってきたので、再度ドアアタックを食らわせる。

 奴はゴロゴロと転がって行った。

「グアアア!!」

「いきなり何すんだ!! 名前を言えって言っただけだろう!! 話もまともに出来んのか!!」

 騎士はぶつけた腕を抑えて唸っていたが、俺を見て観念したようだ。人がトラックと戦おうなど無謀もいい所だ。

「くっ! 私は、ジェーン0235だ! 帝国の機械騎士だ!」

 そういって、騎士は兜を取った。騎士は、男でもなく、人間でもなかった。

 白目は黒く、瞳は金色。髪の色は真っ赤で、肌の色は無機質な灰色だった。

 なというか、アンドロイド? 人工的に作られたような女だった。ただし、とっても美人なのは違いない。

「ジェーン? あんた、人間じゃ、ないのか?」

「はぁ? なんだ? 私を見たことがないのか? 機械騎士だといったろう。人間に作られた魔導生命体だ。魔物の攻撃を受けていると村から連絡があったので、一番近くにいた私が来たが、すでに村は全滅していた。これは、お前がやったのか? お前はなんなんだ?」
 
 一気にまくし立ててくるジェーン。俺への警戒心がものすごい。

 肌の色とか髪の色、目の色がかなりおかしいが、目鼻立ちは非常に整っている。

 ふむ。そうだな。

 彼女を捕まえて話をしよう。この世界の情報を手に入れるには、最高の相手だ。女騎士だし、「くっ殺せ!」とか言わないだろうか?

「答えろ!! 貴様はなんだ!!」

「俺はたまたま通りがったんだ。本当だ。このトラック、いや、えーと。車だが、これは俺だ。俺自身だ」

「はぁ? 何を言っている?」

 俺も言っててわかんねぇよ! トラックが俺です。本体はトラックです! なんて、馬鹿みたいだろう。だけど本当なんだから仕方ない!

「姿を見せろ。やはり魔人か。人間を滅ぼしに、偵察にでも来たか」

 ジェーンは剣を構える。
  
「まてまてまて!! 今、姿を見せる!! だから切りかかるな!!」

 仕方ない。ここはガソリン(本当は魔素だけど)を使って、人体生成するしかない。もったいないが、トラック状態では話が通じない。やるしかない。

 行くぞ。人体生成!!
 
 運転席に光が集まり、子供の体が形成される。数十秒で俺は出来上がったので、ガチャリとドアを開けて、ぴょんっとジャンプして降りた。大型トラックなので、座席が高くて、着地した時こけた。

「イテテテ」

 俺はお尻をさすりながら、騎士に向き直る。

「俺がエルヴだ!!」

 胸を張ってジェーンに言ったが、俺は忘れていた。人体生成は服まで生成しない。俺は全裸でジェーンの前に飛び出してしまった。

「え? こ、子供? な、なんで裸なんだ? それに、この子供、とんでもなく、可愛い」

 ジェーンが俺を見て、顔を赤らめる。敵と遭遇している危険な場面だというのに、それでも俺の可愛さはジェーンの心を射抜いたらしい。

「君は、一体。それになぜ裸んぼだ? それに股のモノは、男の子か?」

 股のモノだと? 俺は自分の股を見る。見事なまでのドリルがそこにはあった。

 らめぇぇえ!! 俺のドリルはまだ未発達よ!

 などと馬鹿なことを思ったが、ジェーンは続けた。

「君が、エルヴなのか? 声がさっきの奴と違うぞ?」

「声? 声などどうにでも変えられる! 俺がエルヴだ! とにかく、話がしたい! 説明も大変そうだから、俺のトラックに乗ればわかる! 乗れ!!」

 俺はトラックを指さして、乗れと言った。

 ジェーンはマジか? みたいな顔をしていたが、俺はジェーンのもとにトタトタと走りよる。俺が近づくと、ビクッと震えたが関係ない。そのまま手を引っ張って無理やりトラックに乗せることにする。

「お、おい。ちょっとまて。本気か? 君は人を騙す妖精の類じゃないだろうな。本当に人間か」

「いいから来て!」

 ジェーンは、俺に手を引っ張られたとき、トラックを見たり、俺の顔を見たりしていなかった。

 ジェーンは、俺のドリルばかり見ていた。
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