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5 機械騎士ジェーン
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ジェーン視点
私は馬のフリードと一緒に、草原の巡回警備をしていた。
草原にある開拓村を見て回り、問題が無いかチェックする仕事だ。開拓村が魔物に襲われて困っていれば、私が魔物を討伐する。それが仕事だ。
ちなみにだが、私は人間に生み出された魔導生命体だ。ジェーン0235番という名前だ。性別は女で、剣士タイプだ。
私は、戦争や危険な仕事を請け負うために生み出された。
大量生産の低位階騎士。安いコストで生み出された私は、王都での仕事は与えられない。辺境の地での過酷な仕事をしなければならない。
国から支給された、軍馬のフリードと一緒に。
草原は、危険な土地だ。開拓地としては申し分ないが、魔物や野盗がたくさんいる。人間が住みよい街を作るのは、たくさんの犠牲が必要だ。
私は低位階で弱いので、魔物討伐しようとして逆に返り討ちに合うことも少なくない。命からがら逃げだしたことも多くある。
しかしながら、私は「くっ殺」だ。
最悪、敵につかまったら潔く諦める。
最後に、「くっ! 殺せ!」というのが、私の遺言となるだろう。
機械騎士として、死ぬ時くらいは潔く逝きたい。
私は、草原を巡回警備しつつ、とある開拓村から、救難の魔法無線を受けた。
『た、助けてくれ! 誰か! 来てくれ! 魔物の群れが急に現れたんだ! 誰か応答してくれ! うわぁぁぁ!!』
悲鳴とともに、無線は切れた。かなり切羽つまった様子だと思われる。
魔物の群れというからには、かなりの数だろう。私一人では到底無理だろうが、行かなければならない。
近くの魔力波を検索するが、誰もいない。半径10キロ圏内は私一人だけだ。どうやら同型の機械騎士は近くにいないようだ。
草原は広く、開拓村も無数にある。圧倒的にハンターや機械騎士の数が足りていないので、魔物に襲われた村は滅ぶのがほとんどだ。
望みはかなり薄いが、私は人間に作られた騎士だ。たった一人でも、いかなければならない。
私は救難信号を受けた村を目指し、軍馬のフリードを走らせた。フリードの銀色の鬣(たてがみ)が波のように揺れ、私はフリードともに草原を駆けた。
★★★
大型トラック「エルヴ」視点
キマイラを荷台から捨てて、走ること7日
小型の魔物を倒しつつ走り続け、レベルは24にまで上がった。
少しずつ魔物を倒して、レベルを上げてを繰り返したのだ。レベルアップ時の燃料満タンと、傷の修復を、きちんと計算しなければならない。魔物を倒しすぎるのも良くない。
ガソリン満タンだが、もしかしたらこれから必要なくなるかもしれない。意外と魔素吸引システムがいい仕事をするのだ。
一時間毎に、3リットル近くの魔素を吸収するのだ。節約して走ったり、アイドリングで休憩しながら走れば、ガソリンの心配はなさそうだ。突然の自然災害や、魔物に襲われたりすれば別だが、普通に走る分にはガソリンは無くならない。日常的に役立ちそうだ。
それから俺は、大型の魔物を避けてゆっくりと草原を走る。まったく景色が変わらぬ草原を走り続け、俺はようやく村と思われるものを発見した。
木で出来た、いくつかの小屋を発見したのだ。
一応400メートル近く手前からトラックを停車させて、村を確認している。視力がかなり上がっているので、400メートル先でもよく見える。
俺が村を確認すると、20戸くらい小屋が見える。特に塀もなければ柵もない村だ。かなり貧しそうな村だが、畑が見える。トウモロコシのような食べ物が実っている。
建てられた小屋はかなり傷んでいるが、人が暮らしている雰囲気はある。農機具なども家の周りに置いてある。
問題は、人の姿が見えないことだ。どうしたのだろうか?
もう少し近づかなければわかりそうにない。
俺はトラックをゆっくりと村に近づけ、村の様子を見ることにした。
俺は徐行しながら、ゆっくりと村の入り口まで近づく。ここまで近づけば、さすがに俺のエンジン音で誰かが気づきそうなものだが、誰も村から出てこない。
シーンと静まり返っている。俺の勘違いだったのだろうか? ここは廃村か?
さらに村の中にトラックを進めると、最悪なものを発見してしまった。
人が、死んでいた。
顔がつぶれており、年齢の判別が出来ない。
内臓がまき散らされていることから、魔物に襲われたと見える。血も新しいことから、それほど時間がたっていないことも伺える。
俺は小屋の間を縫って走るが、村人と思われる人間は全員死んでいた。老若男女問わずだ。
うわぁ。
なんだこれは。村が全滅? 魔物に襲われて?
国とかはないのだろうか? なぜ放置なのだ? 辺境の村だからか?
せっかく出会えた人間が、全員死体。これはひどい。
ちくしょう。最悪だ。こんだけ頑張って走ったのに、なんの情報も得られないのか。この世界はどうなってやがる。
これではせっかくの人体生成の魔法も、使う機会が無い。俺はトラックのまま村の奥に進んでいく。誰か生き残りでもいればいいのだが……。
ジェーン視点
私は開拓村に到着した。
救難の無線を受けてから、すでに2時間近くが経過してしまった。全滅していなければよいのだが、2時間もあれば村は全滅するのに十分だ。
私はフリードから降りて、腰に装着している剣を引き抜く。フリードを守るように私が前を歩き、開拓村の中に入って行く。
貧しい掘立小屋みたいな開拓村。それでも畑ではラキの実が生っている。この地方の特産品だ。黄色い実を潰すとジュースになる。
農機具が放ったらかしで、農民の姿が無い。近くに馬小屋を見つけたので、小屋に入って、フリードをつないでおく。
「他の馬も家畜も、見当たらないな。全員逃げたのだろうか?」
私はフリードに大人しくしているように言って、村を探索すると、残念なものを見つけてしまった。
村の中央広場付近で、大量の死体を発見してしまった。村人が交戦したような跡がある。
「この歯型。サンドドレイクでも現れたか?」
比較的大型の魔物に襲われたと見える。村人を食い殺してはいるが、骨までは食っていない。グレイジャッカルだったら、骨も残さず食べられている。
「また一つ、村が消えたか」
ジェーンはため息をつく。
「仕方ない。火葬をするか」
村人の血の匂いにつられて、ジャッカルたちが集まってしまう。その前に火葬をして供養しよう。
私は村の奥に行き、柔らかそうな畑の土を掘って、穴を作ることにした。ここに村人を入れて火葬にするのだ。
私はえっさほいさと、せっせに穴を掘っていたら、突然巨大な唸り声が響いた。
「な! なんだこの唸り声は!! ドラゴンでも現れたか!!?」
私はその唸り声を初めて聞いた。信じられないほどの重い唸り声だ。低く、それでいて力強い。ドラゴン並みの唸り声だ。
これは、ものすごい魔物が現れた。死ぬかもしれないと、恐怖した。
音は、村の入り口の方から聞こえる。
ブオンブオン!!
と、なんだかすごい音が聞こえる。
やばい。私もついに年貢の納め時か?
遺言である「くっ! 殺せ!」をいう時が来たのだろうか?
馬のフリードのところに行き、手綱は外しておく。私が死んでも街に帰れるようにだ。
「フリード。言ってくる。私が死んだら、街への報告、頼んだぞ」
私は剣を携えて、「ブオンブオン!!」と唸り声をあげる魔物に近づいていくのだった。
★★★
俺は滅びた村を見つけて、トラックで探索していた。
小屋の間をゆっくりと徐行し、ぶつけないように走る。
村人の死体を発見してから、おびただしい血痕が地面に増えてきた。どうやら村の中央広場となっている場所で、大きな魔物と交戦したらしい。
「あ~。ここで戦ったのか。全員死んでる。これはキマイラクラスの魔物に殺されたな」
ミンチになっている。村人がひき肉状態だ。しかも殺しただけで、食っていない村人もいる。一匹か、数匹の大型魔物の仕業だろう。俺が殺したジャッカルたちとは、獲物の食い方が違うしな。
「はぁ。収穫なしか。これからどうしようか? また草原を走るのか? はぁ。疲れたな~」
こうも一人だとつらい。俺だって人肌が恋しい時があるんだ。せっかく子供になれる魔法を手に入れたんだ。邪な心を持って、綺麗なおねぇさんに甘えたいんだ。
俺は心の中でため息をつきながら、ゆっくりとトラックを走らせる。
すると小屋の影から、突然人が飛び出してきた。
剣を持った騎士風の人間に攻撃されたのだ。
見ると、全身鎧の騎士だ。飛び掛かりつつ、俺に切りかかってきたのだ。
「死ねぇええ!! 化け物があぁぁ!!」
「うわ! なんだなんだ!!」
びっくりしたが、俺のボディは鋼鉄製。斬鉄でもできなければ、俺のフレームは切り落とせない。
騎士風の人間は、左のドアを剣で叩いたが、大きな凹みを作るだけで切り裂くことはできなかった。
むしろ、俺がドアをいきなり開けてやった。タクシーの開くドアみたいに。
俺のドアアタックを食らって、騎士は吹き飛んだ。
「ぐあ~」
騎士がゴロゴロと転がっていく。
俺はすかさず、トラックのスピーカーから声を出した。
言葉が通じるか分からないが、コミュニケーションは必要だ。
「おい! そこの奴! いきなり攻撃してくるとは何事だ!!」
機械的な音声で、少し人間味にかけるが、仕方ない。男性のボイスパターンがこれしかなかったのだ。
騎士は俺のドアでぶっ叩かれて、地面にうずくまっている。結構やりすぎたか? 大型トラックのドアだしな。
「ぐぐぐ。貴様。なんだ。その鉄の箱は。その中に入っているのか? どうやら魔物ではなさそうだな。姿を見せろ。魔人の類か?」
騎士は立ち上がると、俺に剣を向けた。兜をかぶっているので、顔が見えない。というか、言葉が通じる。日本語みたいに聞こえる。
「俺はそうだな。名前か。俺は、エルヴという。魔人がなんなのかしらんが、俺は魔人じゃない。たまたま草原を走っていたらこの村を見つけた。少し村人の話が聞きたくて立ち寄っただけだ」
「私は姿を見せろと言ったぞ。その動く鉄の箱はなんだ? 魔国の新しい装甲車か?」
魔国? 装甲車だと? いったい何を言ってやがる。これが装甲しているように見えるか? 俺はトラックだぞ!
「なら、あんたの名前を言って、兜を取れ。俺は名前を言ったぞ。エルヴだ」
俺はそういったが、奴はまた切りかかってきた。問答無用らしい。
俺は緊急的にバックすると、奴の斬撃を避けた。ギャグみたいにひょいっと、トラックで避けた。
「くそ! デカい癖に早い! 私の剣を避けるとは!!」
俺はそのままバックし続けようと思ったが、小屋が邪魔をしてバックできない。奴はまた俺に飛び掛かってきたので、再度ドアアタックを食らわせる。
奴はゴロゴロと転がって行った。
「グアアア!!」
「いきなり何すんだ!! 名前を言えって言っただけだろう!! 話もまともに出来んのか!!」
騎士はぶつけた腕を抑えて唸っていたが、俺を見て観念したようだ。人がトラックと戦おうなど無謀もいい所だ。
「くっ! 私は、ジェーン0235だ! 帝国の機械騎士だ!」
そういって、騎士は兜を取った。騎士は、男でもなく、人間でもなかった。
白目は黒く、瞳は金色。髪の色は真っ赤で、肌の色は無機質な灰色だった。
なというか、アンドロイド? 人工的に作られたような女だった。ただし、とっても美人なのは違いない。
「ジェーン? あんた、人間じゃ、ないのか?」
「はぁ? なんだ? 私を見たことがないのか? 機械騎士だといったろう。人間に作られた魔導生命体だ。魔物の攻撃を受けていると村から連絡があったので、一番近くにいた私が来たが、すでに村は全滅していた。これは、お前がやったのか? お前はなんなんだ?」
一気にまくし立ててくるジェーン。俺への警戒心がものすごい。
肌の色とか髪の色、目の色がかなりおかしいが、目鼻立ちは非常に整っている。
ふむ。そうだな。
彼女を捕まえて話をしよう。この世界の情報を手に入れるには、最高の相手だ。女騎士だし、「くっ殺せ!」とか言わないだろうか?
「答えろ!! 貴様はなんだ!!」
「俺はたまたま通りがったんだ。本当だ。このトラック、いや、えーと。車だが、これは俺だ。俺自身だ」
「はぁ? 何を言っている?」
俺も言っててわかんねぇよ! トラックが俺です。本体はトラックです! なんて、馬鹿みたいだろう。だけど本当なんだから仕方ない!
「姿を見せろ。やはり魔人か。人間を滅ぼしに、偵察にでも来たか」
ジェーンは剣を構える。
「まてまてまて!! 今、姿を見せる!! だから切りかかるな!!」
仕方ない。ここはガソリン(本当は魔素だけど)を使って、人体生成するしかない。もったいないが、トラック状態では話が通じない。やるしかない。
行くぞ。人体生成!!
運転席に光が集まり、子供の体が形成される。数十秒で俺は出来上がったので、ガチャリとドアを開けて、ぴょんっとジャンプして降りた。大型トラックなので、座席が高くて、着地した時こけた。
「イテテテ」
俺はお尻をさすりながら、騎士に向き直る。
「俺がエルヴだ!!」
胸を張ってジェーンに言ったが、俺は忘れていた。人体生成は服まで生成しない。俺は全裸でジェーンの前に飛び出してしまった。
「え? こ、子供? な、なんで裸なんだ? それに、この子供、とんでもなく、可愛い」
ジェーンが俺を見て、顔を赤らめる。敵と遭遇している危険な場面だというのに、それでも俺の可愛さはジェーンの心を射抜いたらしい。
「君は、一体。それになぜ裸んぼだ? それに股のモノは、男の子か?」
股のモノだと? 俺は自分の股を見る。見事なまでのドリルがそこにはあった。
らめぇぇえ!! 俺のドリルはまだ未発達よ!
などと馬鹿なことを思ったが、ジェーンは続けた。
「君が、エルヴなのか? 声がさっきの奴と違うぞ?」
「声? 声などどうにでも変えられる! 俺がエルヴだ! とにかく、話がしたい! 説明も大変そうだから、俺のトラックに乗ればわかる! 乗れ!!」
俺はトラックを指さして、乗れと言った。
ジェーンはマジか? みたいな顔をしていたが、俺はジェーンのもとにトタトタと走りよる。俺が近づくと、ビクッと震えたが関係ない。そのまま手を引っ張って無理やりトラックに乗せることにする。
「お、おい。ちょっとまて。本気か? 君は人を騙す妖精の類じゃないだろうな。本当に人間か」
「いいから来て!」
ジェーンは、俺に手を引っ張られたとき、トラックを見たり、俺の顔を見たりしていなかった。
ジェーンは、俺のドリルばかり見ていた。
私は馬のフリードと一緒に、草原の巡回警備をしていた。
草原にある開拓村を見て回り、問題が無いかチェックする仕事だ。開拓村が魔物に襲われて困っていれば、私が魔物を討伐する。それが仕事だ。
ちなみにだが、私は人間に生み出された魔導生命体だ。ジェーン0235番という名前だ。性別は女で、剣士タイプだ。
私は、戦争や危険な仕事を請け負うために生み出された。
大量生産の低位階騎士。安いコストで生み出された私は、王都での仕事は与えられない。辺境の地での過酷な仕事をしなければならない。
国から支給された、軍馬のフリードと一緒に。
草原は、危険な土地だ。開拓地としては申し分ないが、魔物や野盗がたくさんいる。人間が住みよい街を作るのは、たくさんの犠牲が必要だ。
私は低位階で弱いので、魔物討伐しようとして逆に返り討ちに合うことも少なくない。命からがら逃げだしたことも多くある。
しかしながら、私は「くっ殺」だ。
最悪、敵につかまったら潔く諦める。
最後に、「くっ! 殺せ!」というのが、私の遺言となるだろう。
機械騎士として、死ぬ時くらいは潔く逝きたい。
私は、草原を巡回警備しつつ、とある開拓村から、救難の魔法無線を受けた。
『た、助けてくれ! 誰か! 来てくれ! 魔物の群れが急に現れたんだ! 誰か応答してくれ! うわぁぁぁ!!』
悲鳴とともに、無線は切れた。かなり切羽つまった様子だと思われる。
魔物の群れというからには、かなりの数だろう。私一人では到底無理だろうが、行かなければならない。
近くの魔力波を検索するが、誰もいない。半径10キロ圏内は私一人だけだ。どうやら同型の機械騎士は近くにいないようだ。
草原は広く、開拓村も無数にある。圧倒的にハンターや機械騎士の数が足りていないので、魔物に襲われた村は滅ぶのがほとんどだ。
望みはかなり薄いが、私は人間に作られた騎士だ。たった一人でも、いかなければならない。
私は救難信号を受けた村を目指し、軍馬のフリードを走らせた。フリードの銀色の鬣(たてがみ)が波のように揺れ、私はフリードともに草原を駆けた。
★★★
大型トラック「エルヴ」視点
キマイラを荷台から捨てて、走ること7日
小型の魔物を倒しつつ走り続け、レベルは24にまで上がった。
少しずつ魔物を倒して、レベルを上げてを繰り返したのだ。レベルアップ時の燃料満タンと、傷の修復を、きちんと計算しなければならない。魔物を倒しすぎるのも良くない。
ガソリン満タンだが、もしかしたらこれから必要なくなるかもしれない。意外と魔素吸引システムがいい仕事をするのだ。
一時間毎に、3リットル近くの魔素を吸収するのだ。節約して走ったり、アイドリングで休憩しながら走れば、ガソリンの心配はなさそうだ。突然の自然災害や、魔物に襲われたりすれば別だが、普通に走る分にはガソリンは無くならない。日常的に役立ちそうだ。
それから俺は、大型の魔物を避けてゆっくりと草原を走る。まったく景色が変わらぬ草原を走り続け、俺はようやく村と思われるものを発見した。
木で出来た、いくつかの小屋を発見したのだ。
一応400メートル近く手前からトラックを停車させて、村を確認している。視力がかなり上がっているので、400メートル先でもよく見える。
俺が村を確認すると、20戸くらい小屋が見える。特に塀もなければ柵もない村だ。かなり貧しそうな村だが、畑が見える。トウモロコシのような食べ物が実っている。
建てられた小屋はかなり傷んでいるが、人が暮らしている雰囲気はある。農機具なども家の周りに置いてある。
問題は、人の姿が見えないことだ。どうしたのだろうか?
もう少し近づかなければわかりそうにない。
俺はトラックをゆっくりと村に近づけ、村の様子を見ることにした。
俺は徐行しながら、ゆっくりと村の入り口まで近づく。ここまで近づけば、さすがに俺のエンジン音で誰かが気づきそうなものだが、誰も村から出てこない。
シーンと静まり返っている。俺の勘違いだったのだろうか? ここは廃村か?
さらに村の中にトラックを進めると、最悪なものを発見してしまった。
人が、死んでいた。
顔がつぶれており、年齢の判別が出来ない。
内臓がまき散らされていることから、魔物に襲われたと見える。血も新しいことから、それほど時間がたっていないことも伺える。
俺は小屋の間を縫って走るが、村人と思われる人間は全員死んでいた。老若男女問わずだ。
うわぁ。
なんだこれは。村が全滅? 魔物に襲われて?
国とかはないのだろうか? なぜ放置なのだ? 辺境の村だからか?
せっかく出会えた人間が、全員死体。これはひどい。
ちくしょう。最悪だ。こんだけ頑張って走ったのに、なんの情報も得られないのか。この世界はどうなってやがる。
これではせっかくの人体生成の魔法も、使う機会が無い。俺はトラックのまま村の奥に進んでいく。誰か生き残りでもいればいいのだが……。
ジェーン視点
私は開拓村に到着した。
救難の無線を受けてから、すでに2時間近くが経過してしまった。全滅していなければよいのだが、2時間もあれば村は全滅するのに十分だ。
私はフリードから降りて、腰に装着している剣を引き抜く。フリードを守るように私が前を歩き、開拓村の中に入って行く。
貧しい掘立小屋みたいな開拓村。それでも畑ではラキの実が生っている。この地方の特産品だ。黄色い実を潰すとジュースになる。
農機具が放ったらかしで、農民の姿が無い。近くに馬小屋を見つけたので、小屋に入って、フリードをつないでおく。
「他の馬も家畜も、見当たらないな。全員逃げたのだろうか?」
私はフリードに大人しくしているように言って、村を探索すると、残念なものを見つけてしまった。
村の中央広場付近で、大量の死体を発見してしまった。村人が交戦したような跡がある。
「この歯型。サンドドレイクでも現れたか?」
比較的大型の魔物に襲われたと見える。村人を食い殺してはいるが、骨までは食っていない。グレイジャッカルだったら、骨も残さず食べられている。
「また一つ、村が消えたか」
ジェーンはため息をつく。
「仕方ない。火葬をするか」
村人の血の匂いにつられて、ジャッカルたちが集まってしまう。その前に火葬をして供養しよう。
私は村の奥に行き、柔らかそうな畑の土を掘って、穴を作ることにした。ここに村人を入れて火葬にするのだ。
私はえっさほいさと、せっせに穴を掘っていたら、突然巨大な唸り声が響いた。
「な! なんだこの唸り声は!! ドラゴンでも現れたか!!?」
私はその唸り声を初めて聞いた。信じられないほどの重い唸り声だ。低く、それでいて力強い。ドラゴン並みの唸り声だ。
これは、ものすごい魔物が現れた。死ぬかもしれないと、恐怖した。
音は、村の入り口の方から聞こえる。
ブオンブオン!!
と、なんだかすごい音が聞こえる。
やばい。私もついに年貢の納め時か?
遺言である「くっ! 殺せ!」をいう時が来たのだろうか?
馬のフリードのところに行き、手綱は外しておく。私が死んでも街に帰れるようにだ。
「フリード。言ってくる。私が死んだら、街への報告、頼んだぞ」
私は剣を携えて、「ブオンブオン!!」と唸り声をあげる魔物に近づいていくのだった。
★★★
俺は滅びた村を見つけて、トラックで探索していた。
小屋の間をゆっくりと徐行し、ぶつけないように走る。
村人の死体を発見してから、おびただしい血痕が地面に増えてきた。どうやら村の中央広場となっている場所で、大きな魔物と交戦したらしい。
「あ~。ここで戦ったのか。全員死んでる。これはキマイラクラスの魔物に殺されたな」
ミンチになっている。村人がひき肉状態だ。しかも殺しただけで、食っていない村人もいる。一匹か、数匹の大型魔物の仕業だろう。俺が殺したジャッカルたちとは、獲物の食い方が違うしな。
「はぁ。収穫なしか。これからどうしようか? また草原を走るのか? はぁ。疲れたな~」
こうも一人だとつらい。俺だって人肌が恋しい時があるんだ。せっかく子供になれる魔法を手に入れたんだ。邪な心を持って、綺麗なおねぇさんに甘えたいんだ。
俺は心の中でため息をつきながら、ゆっくりとトラックを走らせる。
すると小屋の影から、突然人が飛び出してきた。
剣を持った騎士風の人間に攻撃されたのだ。
見ると、全身鎧の騎士だ。飛び掛かりつつ、俺に切りかかってきたのだ。
「死ねぇええ!! 化け物があぁぁ!!」
「うわ! なんだなんだ!!」
びっくりしたが、俺のボディは鋼鉄製。斬鉄でもできなければ、俺のフレームは切り落とせない。
騎士風の人間は、左のドアを剣で叩いたが、大きな凹みを作るだけで切り裂くことはできなかった。
むしろ、俺がドアをいきなり開けてやった。タクシーの開くドアみたいに。
俺のドアアタックを食らって、騎士は吹き飛んだ。
「ぐあ~」
騎士がゴロゴロと転がっていく。
俺はすかさず、トラックのスピーカーから声を出した。
言葉が通じるか分からないが、コミュニケーションは必要だ。
「おい! そこの奴! いきなり攻撃してくるとは何事だ!!」
機械的な音声で、少し人間味にかけるが、仕方ない。男性のボイスパターンがこれしかなかったのだ。
騎士は俺のドアでぶっ叩かれて、地面にうずくまっている。結構やりすぎたか? 大型トラックのドアだしな。
「ぐぐぐ。貴様。なんだ。その鉄の箱は。その中に入っているのか? どうやら魔物ではなさそうだな。姿を見せろ。魔人の類か?」
騎士は立ち上がると、俺に剣を向けた。兜をかぶっているので、顔が見えない。というか、言葉が通じる。日本語みたいに聞こえる。
「俺はそうだな。名前か。俺は、エルヴという。魔人がなんなのかしらんが、俺は魔人じゃない。たまたま草原を走っていたらこの村を見つけた。少し村人の話が聞きたくて立ち寄っただけだ」
「私は姿を見せろと言ったぞ。その動く鉄の箱はなんだ? 魔国の新しい装甲車か?」
魔国? 装甲車だと? いったい何を言ってやがる。これが装甲しているように見えるか? 俺はトラックだぞ!
「なら、あんたの名前を言って、兜を取れ。俺は名前を言ったぞ。エルヴだ」
俺はそういったが、奴はまた切りかかってきた。問答無用らしい。
俺は緊急的にバックすると、奴の斬撃を避けた。ギャグみたいにひょいっと、トラックで避けた。
「くそ! デカい癖に早い! 私の剣を避けるとは!!」
俺はそのままバックし続けようと思ったが、小屋が邪魔をしてバックできない。奴はまた俺に飛び掛かってきたので、再度ドアアタックを食らわせる。
奴はゴロゴロと転がって行った。
「グアアア!!」
「いきなり何すんだ!! 名前を言えって言っただけだろう!! 話もまともに出来んのか!!」
騎士はぶつけた腕を抑えて唸っていたが、俺を見て観念したようだ。人がトラックと戦おうなど無謀もいい所だ。
「くっ! 私は、ジェーン0235だ! 帝国の機械騎士だ!」
そういって、騎士は兜を取った。騎士は、男でもなく、人間でもなかった。
白目は黒く、瞳は金色。髪の色は真っ赤で、肌の色は無機質な灰色だった。
なというか、アンドロイド? 人工的に作られたような女だった。ただし、とっても美人なのは違いない。
「ジェーン? あんた、人間じゃ、ないのか?」
「はぁ? なんだ? 私を見たことがないのか? 機械騎士だといったろう。人間に作られた魔導生命体だ。魔物の攻撃を受けていると村から連絡があったので、一番近くにいた私が来たが、すでに村は全滅していた。これは、お前がやったのか? お前はなんなんだ?」
一気にまくし立ててくるジェーン。俺への警戒心がものすごい。
肌の色とか髪の色、目の色がかなりおかしいが、目鼻立ちは非常に整っている。
ふむ。そうだな。
彼女を捕まえて話をしよう。この世界の情報を手に入れるには、最高の相手だ。女騎士だし、「くっ殺せ!」とか言わないだろうか?
「答えろ!! 貴様はなんだ!!」
「俺はたまたま通りがったんだ。本当だ。このトラック、いや、えーと。車だが、これは俺だ。俺自身だ」
「はぁ? 何を言っている?」
俺も言っててわかんねぇよ! トラックが俺です。本体はトラックです! なんて、馬鹿みたいだろう。だけど本当なんだから仕方ない!
「姿を見せろ。やはり魔人か。人間を滅ぼしに、偵察にでも来たか」
ジェーンは剣を構える。
「まてまてまて!! 今、姿を見せる!! だから切りかかるな!!」
仕方ない。ここはガソリン(本当は魔素だけど)を使って、人体生成するしかない。もったいないが、トラック状態では話が通じない。やるしかない。
行くぞ。人体生成!!
運転席に光が集まり、子供の体が形成される。数十秒で俺は出来上がったので、ガチャリとドアを開けて、ぴょんっとジャンプして降りた。大型トラックなので、座席が高くて、着地した時こけた。
「イテテテ」
俺はお尻をさすりながら、騎士に向き直る。
「俺がエルヴだ!!」
胸を張ってジェーンに言ったが、俺は忘れていた。人体生成は服まで生成しない。俺は全裸でジェーンの前に飛び出してしまった。
「え? こ、子供? な、なんで裸なんだ? それに、この子供、とんでもなく、可愛い」
ジェーンが俺を見て、顔を赤らめる。敵と遭遇している危険な場面だというのに、それでも俺の可愛さはジェーンの心を射抜いたらしい。
「君は、一体。それになぜ裸んぼだ? それに股のモノは、男の子か?」
股のモノだと? 俺は自分の股を見る。見事なまでのドリルがそこにはあった。
らめぇぇえ!! 俺のドリルはまだ未発達よ!
などと馬鹿なことを思ったが、ジェーンは続けた。
「君が、エルヴなのか? 声がさっきの奴と違うぞ?」
「声? 声などどうにでも変えられる! 俺がエルヴだ! とにかく、話がしたい! 説明も大変そうだから、俺のトラックに乗ればわかる! 乗れ!!」
俺はトラックを指さして、乗れと言った。
ジェーンはマジか? みたいな顔をしていたが、俺はジェーンのもとにトタトタと走りよる。俺が近づくと、ビクッと震えたが関係ない。そのまま手を引っ張って無理やりトラックに乗せることにする。
「お、おい。ちょっとまて。本気か? 君は人を騙す妖精の類じゃないだろうな。本当に人間か」
「いいから来て!」
ジェーンは、俺に手を引っ張られたとき、トラックを見たり、俺の顔を見たりしていなかった。
ジェーンは、俺のドリルばかり見ていた。
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山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!
黒崎隼人
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トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。
「あれ?なんか身体が軽いな」
その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。
これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
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大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
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瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
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冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
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代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
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その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
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みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
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三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
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