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12 第二の開拓村到着
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トラックを走らせ続け、第二の開拓村に近づいてくる。
5百メートル以上離れた遠くからではあるが、俺はようやく人間の姿を見ることができた。この開拓村は規模が大きいのか、村を囲むように壁があり、門番が立っている。俺はその門番を見たのだ。
見たところ、地球にいる人間と変わらない。普通の人間だ。俺は門番の男たちを見て、ほっとした。ようやく人里に来たんだと。
ほっとしたが、思ったことがある。見た目は地球人と同じだが、門番を見て感じたのだ。
「レーダーに反応する人間の魔力って、弱いんだな」
俺は運転席に座っているジェーンに話しかける。
「人間の大半は弱いぞ。勇者と呼ばれる人間ですら、上級の魔人には勝てない」
はぁ? 勝てないのか? この世界の魔法や武器は、魔人に通用しないのか?
「おいおい。それじゃどうやって魔人に勝つんだよ。滅ぼされるぞ」
「現に人間の国は滅ぼされている。このままいけば人類滅亡は間違いないだろう」
真顔でサラッと言うんだな。ジェーンって人間の味方じゃなかったっけ?
「機械騎士が生産されるようになってからは、かなり押し返したが、それでも人間側は劣勢だ」
「それじゃどうすんだよ」
「私程度の一騎士が考えることじゃない。私は命令に従って動くだけだ。もしその命令が、人類滅亡につながったとしても、仕方ないことだ」
ずいぶんとドライなのね。人間の感情があると言っても、やっぱり機械的な部分もあるんだな。
「私には疑問がある。今さらだが、エルは人間の味方なのか? それとも中立なのか? 魔人の味方ということはないだろうが、どうなんだ?」
人間の味方か。そういわれると困るな。俺はトラックだしな。人間に差別されたら嫌いになるかもな。
それに魔人ってのを見たことがないしな。どっちがいい奴なんて分からない。
分からないが、現時点での答えは決まってる。
「味方だな。俺自身、魔物なのか精霊なのか分からんが、人間の味方だな」
元人間なのだから、当たり前だ。
「そうか。エルが味方なら千人力だ」
おう。俺は無敵の大型トラックだぜ。
★★★
開拓村に行くにあたって、トラックが問題となる。巨大なトラックで村に突撃するわけにはいかない。仕方ないので、近くにあった竹林にトラックを隠すことにした。
大草原の中に竹林っておかしな気もするが、あったんだからしょうがない。
トラックを竹林に隠すと、馬のフリードを降ろす。
フリードには、今まで取った魔物の素材を担がせる。ジェーンは開拓村で売りさばくらしい。騎士のくせに、金のことにはうるさい奴だ。地球の騎士道精神は、この世界で通用しないらしい。
今回だが、俺は人体生成をして開拓村に行くことにした。情報収集をしたいからだ。それに、この世界の金も欲しいしな。俺も純度が高い魔石をいくつかポーチに入れている。売れるなら売って金にするつもりだ。
一応言っておくと、俺の見た目は完全に幼稚園児だ。黄色い帽子をかぶって、子供用のポーチをぶら下げている。ダンボールの物資から拝借した。
男の子用の服が見つからなかったので、例によって女の子用のワンピースを着ている。肩からぶら下げているポーチは、魔石でパンパンだ。
「エルの人間の姿は、いつ見ても可愛いな」
ジェーンが俺のほっぺをプニプニ触ってくる。俺は別に嫌じゃないので、ジェーンにされるがままだ。
「今回は8時間ほど人間の姿でいるぞ。一日通して、村で過ごしてみる」
俺は握り拳を作って、決意を固める。長時間の人体生成は初めてだ。どうなるか楽しみでもある。
「うむ。わかった。エルは全滅した開拓村で生き残っていた、唯一の子供。そういう設定でいこう」
「おう。村の案内は頼んだぜ。ということで、すまんがおんぶしてくれ。この姿だと歩きづらいんだ。村までまだ距離があるし、疲れる。おんぶしてくれ」
俺はジェーンに両手を伸ばして、おねだり。これは5歳児の特権だな。
「仕方ない奴だな。ほら、背中に乗れ」
ジェーンは嫌がるそぶりを一切見せず、俺をおんぶしてくれる。
「軽いな。魔素の塊というのは本当だな。体重は10キロほどか? ここまで来ると、精霊というのは間違いなさそうだ」
「そんなことよりさっさと行こうぜ。フリードが待ってるぜ」
重そうな荷物をたくさん背中に乗せ、フリードは俺たちを待っていた。
「じゃぁ行くか」
★★★
開拓村「シープツー」
羊たちがたくさん暮らす村。貿易の要でもある、比較的大きな規模の村だ。
この世界では、4000人以上の人口は町とみなされるらしい。ジェーンから聞いた。
開拓村「シープツー」は、3000人近い人が住む大きな村だ。騎士団や、ギルド協会の支部もある。唯一の娯楽施設がある開拓村である。ここは町に認定される寸前の村だ。この規模になると、身寄りのない人だけではない。出生証明書を持っている騎士が多く常駐する。
草原で採れた資源をこの村で売り買いし、大きな街へと運ぶ。それがシープツーの役割。
実は他にも「シープワン」という開拓村もあるが、そこは防衛の砦だ。村というよりは基地とのことだ。
「シープスリー」は最終防衛ラインとのことで、そこも魔物が入ってこないようにするため、騎士団が駐留する村となっている。
まぁ細かい話は置いといて、俺たちはシープツーに到着したわけだが。
村の入り口付近で、兵士と思われる人が俺たちを呼び止めた。
「ジェーン型か? 識別番号は?」
「0235だ」
兵士はジェーンの目に、何かの機械をかざしてチェックしている。網膜スキャンというやつか?
「間違いないな。入っていいぞ。そっちの子供は?」
「全滅していた村で生き残っていた子供だ」
「ほう? ずいぶんと可愛い子だな。こんな子が開拓村にいたのか?」
開拓村は、身寄りのないものが集まる場所。規模が大きい開拓村でも、戦争孤児や、天涯孤独の人が多い。あまり容姿に優れた人はいない。
「たまたま見つけたんだ。今は私が保護している。騎士団に許可をもらうから、通してくれ」
「まぁ、いいだろう。幼児だし、保護が最優先だな」
兵士の人は俺の頭を撫で、「行っていいぞ」と言った。
俺はひやひやしたが、なんとか無事に村に入ることに成功する。
フリードを伴い、ジェーンに手を引かれる。俺は完全に、騎士のお姉さんと手をつないだ幼稚園児だ。
ジェーンの案内で、まずギルドに行くことになった。
「騎士団へ出頭するのはあとだ。まずは魔物の素材を売る。騎士団の人間に魔物の素材のことがばれると、面倒だからな」
なにが面倒なのか分からないが、まずは魔物の素材を売るらしい。ギルドに買い取り所があるらしく、俺はジェーンに案内された。
ギルドは、二階建ての大きめな建物だ。木造建築で、場末の酒場って感じもする。村の入り口近くにすぐあった。
開け放たれた観音扉をくぐると、そこには冒険者? 兵士? よくわからないが、人が結構いる。
「あれは全員冒険者、ハンターと呼ばれる奴らだ。街から街へ流れてくる、渡り鳥だ」
「へぇ。辺境の村かと思ったが、人も多いし、結構栄えているんだな」
俺はようやくたくさんの人を見られて安心だ。草原で独りぼっちはつらかったからな。
「ここは草原の開拓村でも、重要な村だ。もう少しで町認定される予定だ」
俺はそうなのかと言って、キョロキョロと周りを見る。俺のことをじろじろ見る奴はいなくて、みんな素通りだ。子供は珍しくないらしい。
ジェーンに手を引かれてやってきたのは、買取所のカウンター。俺は背が低いので、カウンターにいる人の顔が見えない。わざわざ子供用の椅子を用意してもらって、俺はカウンターのお姉さんと向き合った。
「赤い髪の色。ジェーン0235よね?」
「そうだアミリア。いつもの0235だ。他のジェーンじゃない」
「そう。よかったぁ。最近見ないから死んだかと思ったわ。今日は何の用? 買い取り?」
「ああ。運よく大量の魔物を狩れた。馬に素材を乗せているから、裏に回していいか?」
「ええ。裏口に回って? それで、この小さい子は何? よく見ると、とんでもなく可愛いけど」
アミリアは帽子をかぶった俺を覗き込む。アミリアは30歳前半のお姉さんだ。顔つきも普通で、近所の優しいお姉さんって感じだ。チャームポイントは、ブラウンの髪を三つ編みにしていることかな。
「全滅していた開拓村で、唯一生き残っていた子供だ」
「へぇ~。どうするの? この子。孤児院に預けるの?」
「責任を持って、私が保護する」
「はぁ? 下級騎士の貴方じゃ、養育権は得られないでしょう?」
「大丈夫だ。私はすでに中級上位、いや、上位クラスの力を得ている」
「ちょっとまってよ。最近見ないと思ったら、あなたが上位クラス? どういうこと?」
「悪いが、まずは買取をしてくれ。アミリアの仕事だろう? 他の客が待っているぞ?」
後ろを見ると、二人ほど、冒険者がイライラして待っている。世間話をしている俺たちが邪魔なようだ。
「あ。すみませんお待ちのお客様。今お呼びしますので」
アミリアはそういって、ジェーンに買取札を渡した。裏口に馬を連れて行くように指示し、アミリアとはそこで別れた。
馬のフリードを、ギルドの裏口に連れて行く。すると、裏口には血なまぐさい匂いが広がっていた。
裏口には解体所と、精算所があり、冒険者が何人か金を受け取っているのが見えた。解体所の奥の方では、魔物をさばいているギルド員が見える。
天井からつるされた大型の魔物から、肉を切り分けている。
「ジェーン0235だ。魔物を持ってきた。大体私が解体したが、解体しきれない魔物もあった。解体してほしい。それと、素材もあるから、買取を願う」
でっぷりと太った、エプロンをしたギルド員。マスクをつけて、片手に包丁を持っている。血だらけなので、かなり怖い。
「こんなところに子供を連れてくるな。怖がるだろう」
「この子は特別だ。あんたは気にしなくて良い」
「…………、まぁ素材さえもらえりゃいいけどよ」
ギルド員は案外イイ奴みたいだ。俺のことを心配してくれた。
ジェーンは、フリードに積んでいたたくさんの魔物を下し、職員に渡した。フリードも背が軽くなったのか、ヒヒンッと鳴いた。後で通信販売で買った、はちみつでも上げよう。
「これだけの数、どうやって狩った? 毛皮の量が10を超えてるぞ。こっちのワニの皮も、なかなか良い品質だ」
チェーンマシンガンで蜂の巣にしたワニでも、体が大きかったので皮が多く取れた。金になるらしい。
「たくさんあるから、査定に時間がかかる。そっちのベンチで少し待ってな。お嬢ちゃんは、あっちの女から、ジュースでももらって待ってな」
「うん。ありがとう」
俺のことをお嬢ちゃんと間違っていたが、太ったギルド員のおっさんは良い奴だ。子供が好きらしい。
俺は解体所の隅にあったベンチに座り、オレンジ色のジュースをもらって飲んでいた。酸味が有る、ミカンジュースみたいな味だ。
「この村の特産品だな。そのジュースは」
「そうなのか?」
「ラキの実畑があるんだ。全滅していた開拓村で少し生えていたやつだ。ここの畑は規模がおおきいから、けっこうすごいぞ。あとで見に行くか?」
ふむ。これはラキの実というのか。オレンジだな。
「どうする? あとで行くか?」
「時間があったら行く。見たい」
「そうか。あとで行こうな」
ジュースを飲む俺の頭を、ゆっくりと撫でるジェーン。完全に子供扱いだ。
一応言っておくが、俺がトラックになる前は、35歳のおっさんだったぞ。ダンディーなおっさんだったんだ。夢を壊して申し訳ないがな。まぁ、ジェーンには黙っておくけど。
しばらく待っていると、精算所の人に呼ばれて、金をもらった。
ジャッカルの毛皮が一枚3000ギール。ワニの皮が10万ギール。他、草原で出会ったモグラやシカの魔物、大型のクロサイみたいな魔物、牙や骨も売れて、全部で200万ギールになった。
ギールというのが分からなかったので、ジェーンに聞いた。すると、1ギールでエール酒が20杯以上飲めるとのこと。ギールの下の桁がジールというらしい。
200万ギールあれば、1年は遊んで暮らせる額とのことだ。かなりの金額ということになる。
「いやはや、私がこんな大金をもつ日が来るとは。最高だな」
魔物素材は一部を除き、すべてジェーンに上げている。細かい魔石なども報酬としてジェーンに与えている。ジェーンが強くなるために。
純度の高い魔石や、大きな魔石は俺がもらっている。通信販売で魔素に変換できるからだ。
「これもすべてエルのおかげだ。まだまだトラックには素材があるし、あとでまた売りに来よう」
いきなりこんなに売りつけて大丈夫なのか心配になるが、黙ってみておこう。
「エルは魔石の換金だったな。魔石屋にいけば換金できるが、まずは騎士団の協会支部に来てほしい。そこでエルの保護責任者に、私がなる。いいか?」
「ジェーンは上司に俺のことを精霊だと報告するのか?」
「いや、様子を見る。あの人なら多分話しても大丈夫だろうが、念のためエルのことは死んだ冒険者の子供ということにしよう。いきなり精霊だと言っても信じてもらえないだろうし」
「そうだな。分かった」
初めて出会ったのが、ジェーンでよかった。下手に擦れた人間だったら、俺が良いように利用されていた。
え? ジェーンに魔物の素材をボッタクられている?
いやいや、そんな風には感じない。魔物を倒すのなんて、もはや俺にとってはついでだ。魔物の死体は、レベルアップに必要な副産物に過ぎない。解体してくれるし、そのくらいジェーンにあげるよ。
「そうか。これからも長い付き合いになるかもな。変な出会い方だったが、私は運が良かった。これからもよろしく頼む」
ジェーンは俺の小さな手を包み込み、握手をした。
俺もジェーンの手を握り返した。剣を握っているからか、結構、ごつごつしている手だった。
5百メートル以上離れた遠くからではあるが、俺はようやく人間の姿を見ることができた。この開拓村は規模が大きいのか、村を囲むように壁があり、門番が立っている。俺はその門番を見たのだ。
見たところ、地球にいる人間と変わらない。普通の人間だ。俺は門番の男たちを見て、ほっとした。ようやく人里に来たんだと。
ほっとしたが、思ったことがある。見た目は地球人と同じだが、門番を見て感じたのだ。
「レーダーに反応する人間の魔力って、弱いんだな」
俺は運転席に座っているジェーンに話しかける。
「人間の大半は弱いぞ。勇者と呼ばれる人間ですら、上級の魔人には勝てない」
はぁ? 勝てないのか? この世界の魔法や武器は、魔人に通用しないのか?
「おいおい。それじゃどうやって魔人に勝つんだよ。滅ぼされるぞ」
「現に人間の国は滅ぼされている。このままいけば人類滅亡は間違いないだろう」
真顔でサラッと言うんだな。ジェーンって人間の味方じゃなかったっけ?
「機械騎士が生産されるようになってからは、かなり押し返したが、それでも人間側は劣勢だ」
「それじゃどうすんだよ」
「私程度の一騎士が考えることじゃない。私は命令に従って動くだけだ。もしその命令が、人類滅亡につながったとしても、仕方ないことだ」
ずいぶんとドライなのね。人間の感情があると言っても、やっぱり機械的な部分もあるんだな。
「私には疑問がある。今さらだが、エルは人間の味方なのか? それとも中立なのか? 魔人の味方ということはないだろうが、どうなんだ?」
人間の味方か。そういわれると困るな。俺はトラックだしな。人間に差別されたら嫌いになるかもな。
それに魔人ってのを見たことがないしな。どっちがいい奴なんて分からない。
分からないが、現時点での答えは決まってる。
「味方だな。俺自身、魔物なのか精霊なのか分からんが、人間の味方だな」
元人間なのだから、当たり前だ。
「そうか。エルが味方なら千人力だ」
おう。俺は無敵の大型トラックだぜ。
★★★
開拓村に行くにあたって、トラックが問題となる。巨大なトラックで村に突撃するわけにはいかない。仕方ないので、近くにあった竹林にトラックを隠すことにした。
大草原の中に竹林っておかしな気もするが、あったんだからしょうがない。
トラックを竹林に隠すと、馬のフリードを降ろす。
フリードには、今まで取った魔物の素材を担がせる。ジェーンは開拓村で売りさばくらしい。騎士のくせに、金のことにはうるさい奴だ。地球の騎士道精神は、この世界で通用しないらしい。
今回だが、俺は人体生成をして開拓村に行くことにした。情報収集をしたいからだ。それに、この世界の金も欲しいしな。俺も純度が高い魔石をいくつかポーチに入れている。売れるなら売って金にするつもりだ。
一応言っておくと、俺の見た目は完全に幼稚園児だ。黄色い帽子をかぶって、子供用のポーチをぶら下げている。ダンボールの物資から拝借した。
男の子用の服が見つからなかったので、例によって女の子用のワンピースを着ている。肩からぶら下げているポーチは、魔石でパンパンだ。
「エルの人間の姿は、いつ見ても可愛いな」
ジェーンが俺のほっぺをプニプニ触ってくる。俺は別に嫌じゃないので、ジェーンにされるがままだ。
「今回は8時間ほど人間の姿でいるぞ。一日通して、村で過ごしてみる」
俺は握り拳を作って、決意を固める。長時間の人体生成は初めてだ。どうなるか楽しみでもある。
「うむ。わかった。エルは全滅した開拓村で生き残っていた、唯一の子供。そういう設定でいこう」
「おう。村の案内は頼んだぜ。ということで、すまんがおんぶしてくれ。この姿だと歩きづらいんだ。村までまだ距離があるし、疲れる。おんぶしてくれ」
俺はジェーンに両手を伸ばして、おねだり。これは5歳児の特権だな。
「仕方ない奴だな。ほら、背中に乗れ」
ジェーンは嫌がるそぶりを一切見せず、俺をおんぶしてくれる。
「軽いな。魔素の塊というのは本当だな。体重は10キロほどか? ここまで来ると、精霊というのは間違いなさそうだ」
「そんなことよりさっさと行こうぜ。フリードが待ってるぜ」
重そうな荷物をたくさん背中に乗せ、フリードは俺たちを待っていた。
「じゃぁ行くか」
★★★
開拓村「シープツー」
羊たちがたくさん暮らす村。貿易の要でもある、比較的大きな規模の村だ。
この世界では、4000人以上の人口は町とみなされるらしい。ジェーンから聞いた。
開拓村「シープツー」は、3000人近い人が住む大きな村だ。騎士団や、ギルド協会の支部もある。唯一の娯楽施設がある開拓村である。ここは町に認定される寸前の村だ。この規模になると、身寄りのない人だけではない。出生証明書を持っている騎士が多く常駐する。
草原で採れた資源をこの村で売り買いし、大きな街へと運ぶ。それがシープツーの役割。
実は他にも「シープワン」という開拓村もあるが、そこは防衛の砦だ。村というよりは基地とのことだ。
「シープスリー」は最終防衛ラインとのことで、そこも魔物が入ってこないようにするため、騎士団が駐留する村となっている。
まぁ細かい話は置いといて、俺たちはシープツーに到着したわけだが。
村の入り口付近で、兵士と思われる人が俺たちを呼び止めた。
「ジェーン型か? 識別番号は?」
「0235だ」
兵士はジェーンの目に、何かの機械をかざしてチェックしている。網膜スキャンというやつか?
「間違いないな。入っていいぞ。そっちの子供は?」
「全滅していた村で生き残っていた子供だ」
「ほう? ずいぶんと可愛い子だな。こんな子が開拓村にいたのか?」
開拓村は、身寄りのないものが集まる場所。規模が大きい開拓村でも、戦争孤児や、天涯孤独の人が多い。あまり容姿に優れた人はいない。
「たまたま見つけたんだ。今は私が保護している。騎士団に許可をもらうから、通してくれ」
「まぁ、いいだろう。幼児だし、保護が最優先だな」
兵士の人は俺の頭を撫で、「行っていいぞ」と言った。
俺はひやひやしたが、なんとか無事に村に入ることに成功する。
フリードを伴い、ジェーンに手を引かれる。俺は完全に、騎士のお姉さんと手をつないだ幼稚園児だ。
ジェーンの案内で、まずギルドに行くことになった。
「騎士団へ出頭するのはあとだ。まずは魔物の素材を売る。騎士団の人間に魔物の素材のことがばれると、面倒だからな」
なにが面倒なのか分からないが、まずは魔物の素材を売るらしい。ギルドに買い取り所があるらしく、俺はジェーンに案内された。
ギルドは、二階建ての大きめな建物だ。木造建築で、場末の酒場って感じもする。村の入り口近くにすぐあった。
開け放たれた観音扉をくぐると、そこには冒険者? 兵士? よくわからないが、人が結構いる。
「あれは全員冒険者、ハンターと呼ばれる奴らだ。街から街へ流れてくる、渡り鳥だ」
「へぇ。辺境の村かと思ったが、人も多いし、結構栄えているんだな」
俺はようやくたくさんの人を見られて安心だ。草原で独りぼっちはつらかったからな。
「ここは草原の開拓村でも、重要な村だ。もう少しで町認定される予定だ」
俺はそうなのかと言って、キョロキョロと周りを見る。俺のことをじろじろ見る奴はいなくて、みんな素通りだ。子供は珍しくないらしい。
ジェーンに手を引かれてやってきたのは、買取所のカウンター。俺は背が低いので、カウンターにいる人の顔が見えない。わざわざ子供用の椅子を用意してもらって、俺はカウンターのお姉さんと向き合った。
「赤い髪の色。ジェーン0235よね?」
「そうだアミリア。いつもの0235だ。他のジェーンじゃない」
「そう。よかったぁ。最近見ないから死んだかと思ったわ。今日は何の用? 買い取り?」
「ああ。運よく大量の魔物を狩れた。馬に素材を乗せているから、裏に回していいか?」
「ええ。裏口に回って? それで、この小さい子は何? よく見ると、とんでもなく可愛いけど」
アミリアは帽子をかぶった俺を覗き込む。アミリアは30歳前半のお姉さんだ。顔つきも普通で、近所の優しいお姉さんって感じだ。チャームポイントは、ブラウンの髪を三つ編みにしていることかな。
「全滅していた開拓村で、唯一生き残っていた子供だ」
「へぇ~。どうするの? この子。孤児院に預けるの?」
「責任を持って、私が保護する」
「はぁ? 下級騎士の貴方じゃ、養育権は得られないでしょう?」
「大丈夫だ。私はすでに中級上位、いや、上位クラスの力を得ている」
「ちょっとまってよ。最近見ないと思ったら、あなたが上位クラス? どういうこと?」
「悪いが、まずは買取をしてくれ。アミリアの仕事だろう? 他の客が待っているぞ?」
後ろを見ると、二人ほど、冒険者がイライラして待っている。世間話をしている俺たちが邪魔なようだ。
「あ。すみませんお待ちのお客様。今お呼びしますので」
アミリアはそういって、ジェーンに買取札を渡した。裏口に馬を連れて行くように指示し、アミリアとはそこで別れた。
馬のフリードを、ギルドの裏口に連れて行く。すると、裏口には血なまぐさい匂いが広がっていた。
裏口には解体所と、精算所があり、冒険者が何人か金を受け取っているのが見えた。解体所の奥の方では、魔物をさばいているギルド員が見える。
天井からつるされた大型の魔物から、肉を切り分けている。
「ジェーン0235だ。魔物を持ってきた。大体私が解体したが、解体しきれない魔物もあった。解体してほしい。それと、素材もあるから、買取を願う」
でっぷりと太った、エプロンをしたギルド員。マスクをつけて、片手に包丁を持っている。血だらけなので、かなり怖い。
「こんなところに子供を連れてくるな。怖がるだろう」
「この子は特別だ。あんたは気にしなくて良い」
「…………、まぁ素材さえもらえりゃいいけどよ」
ギルド員は案外イイ奴みたいだ。俺のことを心配してくれた。
ジェーンは、フリードに積んでいたたくさんの魔物を下し、職員に渡した。フリードも背が軽くなったのか、ヒヒンッと鳴いた。後で通信販売で買った、はちみつでも上げよう。
「これだけの数、どうやって狩った? 毛皮の量が10を超えてるぞ。こっちのワニの皮も、なかなか良い品質だ」
チェーンマシンガンで蜂の巣にしたワニでも、体が大きかったので皮が多く取れた。金になるらしい。
「たくさんあるから、査定に時間がかかる。そっちのベンチで少し待ってな。お嬢ちゃんは、あっちの女から、ジュースでももらって待ってな」
「うん。ありがとう」
俺のことをお嬢ちゃんと間違っていたが、太ったギルド員のおっさんは良い奴だ。子供が好きらしい。
俺は解体所の隅にあったベンチに座り、オレンジ色のジュースをもらって飲んでいた。酸味が有る、ミカンジュースみたいな味だ。
「この村の特産品だな。そのジュースは」
「そうなのか?」
「ラキの実畑があるんだ。全滅していた開拓村で少し生えていたやつだ。ここの畑は規模がおおきいから、けっこうすごいぞ。あとで見に行くか?」
ふむ。これはラキの実というのか。オレンジだな。
「どうする? あとで行くか?」
「時間があったら行く。見たい」
「そうか。あとで行こうな」
ジュースを飲む俺の頭を、ゆっくりと撫でるジェーン。完全に子供扱いだ。
一応言っておくが、俺がトラックになる前は、35歳のおっさんだったぞ。ダンディーなおっさんだったんだ。夢を壊して申し訳ないがな。まぁ、ジェーンには黙っておくけど。
しばらく待っていると、精算所の人に呼ばれて、金をもらった。
ジャッカルの毛皮が一枚3000ギール。ワニの皮が10万ギール。他、草原で出会ったモグラやシカの魔物、大型のクロサイみたいな魔物、牙や骨も売れて、全部で200万ギールになった。
ギールというのが分からなかったので、ジェーンに聞いた。すると、1ギールでエール酒が20杯以上飲めるとのこと。ギールの下の桁がジールというらしい。
200万ギールあれば、1年は遊んで暮らせる額とのことだ。かなりの金額ということになる。
「いやはや、私がこんな大金をもつ日が来るとは。最高だな」
魔物素材は一部を除き、すべてジェーンに上げている。細かい魔石なども報酬としてジェーンに与えている。ジェーンが強くなるために。
純度の高い魔石や、大きな魔石は俺がもらっている。通信販売で魔素に変換できるからだ。
「これもすべてエルのおかげだ。まだまだトラックには素材があるし、あとでまた売りに来よう」
いきなりこんなに売りつけて大丈夫なのか心配になるが、黙ってみておこう。
「エルは魔石の換金だったな。魔石屋にいけば換金できるが、まずは騎士団の協会支部に来てほしい。そこでエルの保護責任者に、私がなる。いいか?」
「ジェーンは上司に俺のことを精霊だと報告するのか?」
「いや、様子を見る。あの人なら多分話しても大丈夫だろうが、念のためエルのことは死んだ冒険者の子供ということにしよう。いきなり精霊だと言っても信じてもらえないだろうし」
「そうだな。分かった」
初めて出会ったのが、ジェーンでよかった。下手に擦れた人間だったら、俺が良いように利用されていた。
え? ジェーンに魔物の素材をボッタクられている?
いやいや、そんな風には感じない。魔物を倒すのなんて、もはや俺にとってはついでだ。魔物の死体は、レベルアップに必要な副産物に過ぎない。解体してくれるし、そのくらいジェーンにあげるよ。
「そうか。これからも長い付き合いになるかもな。変な出会い方だったが、私は運が良かった。これからもよろしく頼む」
ジェーンは俺の小さな手を包み込み、握手をした。
俺もジェーンの手を握り返した。剣を握っているからか、結構、ごつごつしている手だった。
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大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
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瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
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冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
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王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
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みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
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三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
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