この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
75 / 85
第二章

73 風の魔将軍ルセリア

しおりを挟む
 俺は今、エルメールの王都から三番目に近い、寒村に来ていた。

 ここはアルテアの息がかかった数少ない村である。

 俺たちはこの村に隊商(キャラバン)という名目で逗留していた。そして、今。

 俺の目の前には、風の魔将軍ルセリア、その人がいた。村長の家の、隠し応接室で、俺たちは秘密の会議を行っていたからだ。


◆◆◆


「歓迎します。御使い様」

 彼女は俺に跪いて、頭を垂れた。王に忠義する騎士のような姿だ。

「えっと、ルセリアさん? 初めて会ったよな? どうして俺が御使いだと?」

 ルセリアは跪いたまま、顔だけ上げてこう言った。

「私は風の魔法を得意としています。隣の国に巻き起こった新しい風は、私の耳にも届いております」

 彼女は、まっ白い肌にまっ白い髪をしていた。純白の鎧をまとっており、まるで戦乙女だ。

「隣の国って、俺が湖を聖水に変えたやつか?」

「その通りでございます」

 彼女は再び頭を垂れる。長い彼女の髪が、ボロボロの木床にふわりと落ちる。

「おい。跪くのは止めてくれ。あんたの綺麗な髪も、床について汚れちまうぞ」

 俺は立ち上がるように言ったが、彼女は跪いたまま動かない。

「私ごときの髪を心配して下さるとは……。お優しい方だ」

 ルセリアはいちいち大仰に振る舞う。

「じゃぁあんたは、隣の国で起きたことを知っていると?」

「知ったのはつい先日の話です。こちらに常駐するルドミリアの枢機卿が、話していたのを目撃しました」

 ほう。そうなのか。

「でも、それだけで子供の俺を御使いだと思ったのか?」

「御使い様が着ていらっしゃるその外套(レインコート)。それはサンドドレイクの鱗より紡がれし、高級な品です。私の先祖は、かつて存在した、風の英雄カインの末裔。少しですが、誰も知らない水神様のおとぎ話も残っています」

「おとぎ話?」

「はい。水神リル様は、三匹の聖獣を従えていて、さらに聖獣の下にいる数千の獣たちまでも味方にしていた。その獣たちの中には、サンドドレイクがいて、リル様はその魔物をとても気に入っていたと聞いています。そして、サンドドレイクより作られた、外套もお気に入りだったとか」

 へぇ。このコートが? アルテアも知らないんじゃねぇの? その話。

「アルテア。その話知ってたか?」

「いえ。初耳です。ですが、各地にリル様や英雄たちの話は、形を変えて残っていると言います。私が知らないだけで、この国にもいろんな伝承があるのではと思います」

 ふうむ。そうなのか。

「ダーナ様の御使い、アオ様。我ら2000の風は、アオ様とアルテア様のお力になります。どうぞお許しください」

 2000の風。それは、2000名の騎士ってことか? ずいぶん早く説得が終わったな。聖水を水筒に入れて持ってきたんだが、見せる必要なく終わったな。アルテアの言っていた通り、俺が説得に来ただけで、スムーズに終わった。

「アルテア。どうするんだ? ルセリアを味方にするんだろ? どうやら、味方になってくれるみたいだぞ」

「そうですね。ありがとうございます。アオ様。これで作戦の切り札が一つ手に入った」

 アルテアが、作戦の駒を一つ手に入れた。まだ兵士の数は足りないが、現実的な数字になってきた。あとは金で傭兵を雇い、数を埋められるだけ埋める。

「アルテア様。今までお力になれず、すみませんでした」

 ルセリアが申し訳なさそうな顔をする。

「それは、私も仕方ないことだと思っています。あなたの囚われた家族は、決起の際に、なんとか助け出しましよう。それまで、殺されないように家族を守ってやってください」

「はい。ありがとうございます」

 ルセリアはアルテアに頭を下げるが、その顔はすぐれない。何か含みを持った顔だ。この作戦に不安があるのだろうか? それとも、別の何かがあるのだろうか?

 俺はルセリアのことをもっと知ろうと、彼女について質問をしようとした。そこで、外から爆発する音が聞こえた。

 爆弾が爆発したような、ものすごい音と衝撃が響いた。

「なっ! なんだ!?」

 その衝撃に驚いて、俺とアルテアは席を立った時、応接室に駆け込んでくる老人がいた。この村の村長だった。

「アルテア様! 神殿騎士たちが攻めてきました!」

 村長は頭から血を流していた。爆発した瓦礫の破片が、体に刺さっている。致命傷ではないが、かなり痛そうだ。

「神殿騎士だと? なぜこの時期に神殿騎士が? この村を襲撃して何のメリットが………はっ! まさか!」

 アルテアはルセリアを見た。

「まさかルセリア。この会談を利用して、私をルドミリア教会に売ったのですか?」

 アルテアは消去法で考えた。一番考えられるのは、ルセリアが俺たちを裏切ったことくらいだ。

「なっ! 違います! そんなことはしていません! あなたの姉に誓った、固い約束がある! 私は誰にも見つからないように、単独でこの村に来ました! 嘘ではありません!」

「…………」

 アルテアは答えない。

 ものすごく場の空気が悪い。神殿騎士も襲ってきているし、もはや、この会談はおしまいである。

「アルテア様! 早くお逃げを!」

 村長が早く逃げるように言ってくる。

「そういや、一緒に来ていた兵士たちは? リザやライドはどうなった?」

 今回、護衛としてリザとライドに来てもらっている。ライドはこの村で物資の調達をしていたので、ちょうどよく合流出来た感じだった。

「御使い様! 彼らは今、神殿騎士たちと交戦中です!」 
   
 すでに戦ってんのかよ。最悪の状況だぜ。

「アオ様! 逃げましょう!」

 アルテアも逃げるように言ってくるが、どこへ逃げるというのか。ここは荒野の真ん中の村だぞ。それに、リザやライドを置いて逃げたくない。ライドは強欲でがめつい奴だが、いろいろと助けてくれた。見捨てて逃げると後味が悪すぎる。

「ルセリアはどうすんだ?」

「私も捕まるわけにはいきません。残念ですが、ここは一旦引かせていただきます」

 ルセリアも逃げるのか。俺たちを襲って来ないあたり、彼女は首謀者じゃないかもな。彼女も嵌められた一人か。別に内通者がいたと考えるのが妥当だ。そうでなけりゃ、ルセリアはすごい演技力を持った、悪女だぞ。

「何をしているんですアオ様! さぁ早く!」

「それは分かっているが、仲間を見捨てて逃げられん」

「しかしここであなたが捕まれば、すべて終わりです!」

 アルテアの言うことはもっともだ。これはかなり、ピンチだぞ。今回はヌアザの助けは期待できない。クーも砦にいる。リザやライドは交戦中。犠牲を払わずにここを切り抜けるのは、難しすぎる。

 俺がどうするか考えていると、床の下から飛び出てくる生物がいた。 

「お前は!」



 
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...