この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第二章

73 風の魔将軍ルセリア

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 俺は今、エルメールの王都から三番目に近い、寒村に来ていた。

 ここはアルテアの息がかかった数少ない村である。

 俺たちはこの村に隊商(キャラバン)という名目で逗留していた。そして、今。

 俺の目の前には、風の魔将軍ルセリア、その人がいた。村長の家の、隠し応接室で、俺たちは秘密の会議を行っていたからだ。


◆◆◆


「歓迎します。御使い様」

 彼女は俺に跪いて、頭を垂れた。王に忠義する騎士のような姿だ。

「えっと、ルセリアさん? 初めて会ったよな? どうして俺が御使いだと?」

 ルセリアは跪いたまま、顔だけ上げてこう言った。

「私は風の魔法を得意としています。隣の国に巻き起こった新しい風は、私の耳にも届いております」

 彼女は、まっ白い肌にまっ白い髪をしていた。純白の鎧をまとっており、まるで戦乙女だ。

「隣の国って、俺が湖を聖水に変えたやつか?」

「その通りでございます」

 彼女は再び頭を垂れる。長い彼女の髪が、ボロボロの木床にふわりと落ちる。

「おい。跪くのは止めてくれ。あんたの綺麗な髪も、床について汚れちまうぞ」

 俺は立ち上がるように言ったが、彼女は跪いたまま動かない。

「私ごときの髪を心配して下さるとは……。お優しい方だ」

 ルセリアはいちいち大仰に振る舞う。

「じゃぁあんたは、隣の国で起きたことを知っていると?」

「知ったのはつい先日の話です。こちらに常駐するルドミリアの枢機卿が、話していたのを目撃しました」

 ほう。そうなのか。

「でも、それだけで子供の俺を御使いだと思ったのか?」

「御使い様が着ていらっしゃるその外套(レインコート)。それはサンドドレイクの鱗より紡がれし、高級な品です。私の先祖は、かつて存在した、風の英雄カインの末裔。少しですが、誰も知らない水神様のおとぎ話も残っています」

「おとぎ話?」

「はい。水神リル様は、三匹の聖獣を従えていて、さらに聖獣の下にいる数千の獣たちまでも味方にしていた。その獣たちの中には、サンドドレイクがいて、リル様はその魔物をとても気に入っていたと聞いています。そして、サンドドレイクより作られた、外套もお気に入りだったとか」

 へぇ。このコートが? アルテアも知らないんじゃねぇの? その話。

「アルテア。その話知ってたか?」

「いえ。初耳です。ですが、各地にリル様や英雄たちの話は、形を変えて残っていると言います。私が知らないだけで、この国にもいろんな伝承があるのではと思います」

 ふうむ。そうなのか。

「ダーナ様の御使い、アオ様。我ら2000の風は、アオ様とアルテア様のお力になります。どうぞお許しください」

 2000の風。それは、2000名の騎士ってことか? ずいぶん早く説得が終わったな。聖水を水筒に入れて持ってきたんだが、見せる必要なく終わったな。アルテアの言っていた通り、俺が説得に来ただけで、スムーズに終わった。

「アルテア。どうするんだ? ルセリアを味方にするんだろ? どうやら、味方になってくれるみたいだぞ」

「そうですね。ありがとうございます。アオ様。これで作戦の切り札が一つ手に入った」

 アルテアが、作戦の駒を一つ手に入れた。まだ兵士の数は足りないが、現実的な数字になってきた。あとは金で傭兵を雇い、数を埋められるだけ埋める。

「アルテア様。今までお力になれず、すみませんでした」

 ルセリアが申し訳なさそうな顔をする。

「それは、私も仕方ないことだと思っています。あなたの囚われた家族は、決起の際に、なんとか助け出しましよう。それまで、殺されないように家族を守ってやってください」

「はい。ありがとうございます」

 ルセリアはアルテアに頭を下げるが、その顔はすぐれない。何か含みを持った顔だ。この作戦に不安があるのだろうか? それとも、別の何かがあるのだろうか?

 俺はルセリアのことをもっと知ろうと、彼女について質問をしようとした。そこで、外から爆発する音が聞こえた。

 爆弾が爆発したような、ものすごい音と衝撃が響いた。

「なっ! なんだ!?」

 その衝撃に驚いて、俺とアルテアは席を立った時、応接室に駆け込んでくる老人がいた。この村の村長だった。

「アルテア様! 神殿騎士たちが攻めてきました!」

 村長は頭から血を流していた。爆発した瓦礫の破片が、体に刺さっている。致命傷ではないが、かなり痛そうだ。

「神殿騎士だと? なぜこの時期に神殿騎士が? この村を襲撃して何のメリットが………はっ! まさか!」

 アルテアはルセリアを見た。

「まさかルセリア。この会談を利用して、私をルドミリア教会に売ったのですか?」

 アルテアは消去法で考えた。一番考えられるのは、ルセリアが俺たちを裏切ったことくらいだ。

「なっ! 違います! そんなことはしていません! あなたの姉に誓った、固い約束がある! 私は誰にも見つからないように、単独でこの村に来ました! 嘘ではありません!」

「…………」

 アルテアは答えない。

 ものすごく場の空気が悪い。神殿騎士も襲ってきているし、もはや、この会談はおしまいである。

「アルテア様! 早くお逃げを!」

 村長が早く逃げるように言ってくる。

「そういや、一緒に来ていた兵士たちは? リザやライドはどうなった?」

 今回、護衛としてリザとライドに来てもらっている。ライドはこの村で物資の調達をしていたので、ちょうどよく合流出来た感じだった。

「御使い様! 彼らは今、神殿騎士たちと交戦中です!」 
   
 すでに戦ってんのかよ。最悪の状況だぜ。

「アオ様! 逃げましょう!」

 アルテアも逃げるように言ってくるが、どこへ逃げるというのか。ここは荒野の真ん中の村だぞ。それに、リザやライドを置いて逃げたくない。ライドは強欲でがめつい奴だが、いろいろと助けてくれた。見捨てて逃げると後味が悪すぎる。

「ルセリアはどうすんだ?」

「私も捕まるわけにはいきません。残念ですが、ここは一旦引かせていただきます」

 ルセリアも逃げるのか。俺たちを襲って来ないあたり、彼女は首謀者じゃないかもな。彼女も嵌められた一人か。別に内通者がいたと考えるのが妥当だ。そうでなけりゃ、ルセリアはすごい演技力を持った、悪女だぞ。

「何をしているんですアオ様! さぁ早く!」

「それは分かっているが、仲間を見捨てて逃げられん」

「しかしここであなたが捕まれば、すべて終わりです!」

 アルテアの言うことはもっともだ。これはかなり、ピンチだぞ。今回はヌアザの助けは期待できない。クーも砦にいる。リザやライドは交戦中。犠牲を払わずにここを切り抜けるのは、難しすぎる。

 俺がどうするか考えていると、床の下から飛び出てくる生物がいた。 

「お前は!」



 
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