この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
16 / 85
第一章 伝説の水魔法使い

16 池の水を浄化して次の街へ

しおりを挟む
 リザを正式な護衛として雇うこととなった。ギルドを通さない、完全な私兵扱いとして、俺に忠誠を誓うという。俺が水魔法を使えると知るや否や、ものすごい変わり身である。

 しかし、俺をさらったりするという考えが無いようだ。俺は前世が日本だったため、奴隷と言うのにはなじみが無い。テレビニュースでは人さらいの話を聞いていたし、海外では奴隷は当たり前だった。ましてやこの治安が悪い異世界では、奴隷など至極当然にいる。現に今までの俺がそうだったしな。

 俺の力を見てもなお護衛につくということは、売るよりも俺に仕えることの方が、メリットがあるのだろう。

 リザがどんな奴かまだ計りかねるが、とにかく戦力は必要なので、これ以上は何も言わないでおく。

「アオ様。あちらに池がありました。すでに人の飲める水ではありませんが、アオ様なら水に変えられるのでは?」

「なんだそのアオ様と言うのは」

「水魔法使いは神の御使いですし、私はアオ様に仕えると決めました」

「やめろ。今まで通りにしてくれ」

「良いのですか? たっぷりと甘やかしますよ?」

「甘やかす? 何を言っているか分からん。今までどおりでいい」

「ふふふ。アオ君は人としてもできてるね。いい男になる」

 リザは俺のぼさぼさの髪をかき分け、顔をよく見る。

「そんな髪では奴隷に見える。後で私が切ってあげよう。かわいい顔が台無しだ」

 リザは俺を見てニコニコ。やはり、怖いくらいの変わり身だ。とはいえ、水魔法を使う前から、リザは誠実な女だった。子供の俺を一人の人間として扱ってくれたので、まぁ、このくらいは許してやる。

「リザ。池があると言ったな。案内してくれ」

「分かった」

「オルフェはそこにいてくれ。牛たちもな。あぁそうだ。のどが渇いているだろ。水を少しやろう」

 俺は桶に水を入れてオルフェと牛に与える。

「モー」

 牛は喜んで飲んだ。

★★★


 俺は池に来ると、鼻を押さえた。なんと、中で人が死んでいるではないか。水を飲もうとして村人が死んだようだ。腐乱死体になって浮いている。

 池は赤黒く、もはや人が飲めるものではない。魚も浮いているので、養殖をしていたのかもしれない。

「しかし、なんで急にこんなことに」

「これはあくまで噂だ。私が旅をしている中で聞いたのだが、王都の奴らが原因らしい」

「王都のやつら?」

「国王の命令で、水脈から水を無理に吸い上げていると聞いた。もしかしたらそれが原因でこうなったのかも」

 地下水の流れが止まったのか? それで酸性の濃度が局地的に高くなったのだろうか? なんだか、国家規模の犯罪らしいぞ。下手にかかわらない方がいいな。

「リザ。池の水を浄化してもいいが、俺は飲まないぞ。人が死んでいる水など、飲む気になれない」

「それは私もだ。だけど、何にしても水は必要だ。牛たちや、これからの旅で洗い物に使えばいい」

 いや、洗い物でも嫌だが。牛たちを連れていくとなると、やはり仕方ないか。

「分かった。樽に汲んでくれ。浄化する」

「了解」

 リザが樽に毒水を汲み、俺が魔法で浄化する。直接水に触ると焼けただれるので、鉄の棒を持って水を掻き混ぜる。鉄は、良く魔力を通すので、こういう時に重宝する。

 俺はグルグルと水をかき混ぜる。かなり疲れるが、仕方ない。生活水の為だ。

「すごい! 本当に水になった!! 透明になっていく!!」

 リズは俺の魔法を見て、ピョンピョン飛び跳ねる。年相応の、女の子らしい仕草だ。

「すごいすごい!! アオ君さえいれば、私は幸せになれる!」

 幸せになる? 何を言い出すんだこの女は。心の声が漏れているぞ。それに、俺の力はまだ大したことはない。いずれは海の水を大量に真水に変えてやるが、今は無理だ。今後の、俺の努力次第だな。

「アオ君。絶対に君を守り抜く。誰にも渡さない!」

 なんだか俺はリザの物になってしまったが、それは構わない。俺に協力的な態度なら、今は許してやる。俺はまだ10歳の子供だしな。大人になれば、逆転する。

 俺は樽に純水を一杯に入れ、牛たちに担がせた。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...