この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

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第一章 伝説の水魔法使い

32 スナイパーライフル、D-9

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 ゴキブリを焼いた後、リザはナイフで解体を始めた。肉を取るのだという。

 一体どこに肉があるのかと言うと、剥がした背中の殻に、肉がついているとのことだ。

 リザは、ゴキブリの足をもぎ取り、腹を掻っ捌いて内臓を除去したのち、背中の肉を取り出した。

 ゴキブリから、緑っぽい体液が噴き出る。

 俺はもう、気持ち悪すぎて見ていられない。食べたくないので牛車の中で寝たふりをしようとしたが、リザにたたき起こされる。

「はいこれ。アオ君の分♡」

 アツアツのゴキブリ肉が渡された。見た目は串に刺さった白身肉と言う感じだ。

 味付けは岩塩のみというシンプルなものだが、リザはおいしいとパクパク食べている。串に刺さっている肉は鶏肉のささみに見えるので、一見食べられそうに見えるが、脳が危険信号を発している。

「アオ君、おいしいから! 食べてみなって!」

 リザは俺が食べるのをじっと見てきたので、意を決した。

 彼女の好意を無にするわけにはいかないと、俺はゴキブリ肉を口の中へ放り込んだ。

 すると、瞬時に口内へ広がるゴキブリの油。そしてゴキ汁。一瞬吐きそうになったが、俺の舌は訴えた。

「うまい」

 味はエビ。触感は鶏肉のささみ。俺の口の中に、異世界の味が広がった。

「でしょ!? おいしいんだよこいつらは! こいつらは普段深い土の中にいるから、採取が難しいんだ。今回は運良くとれたんだ」

 リザは喜んでいるが、気味が悪くて飲み込めない。味はおいしいが、脳が飲み込むなと言っている。

 しばらくモチャモチャと口の中にゴキブリ肉が滞在したが、勇気を出して胃の中に流し込んだ。

「アオ君! まだ少しあるから、これ食べてね♡」

 リザは俺にまたゴキブリ肉を寄越した。語尾にハートマークがつくほどに、食べてほしがっている。

 俺は食いたくなかったが、リザがあまりに笑顔なので、断れなかった。地獄はしばらく続いた。


★★★


 休憩を終えて再び出発する。だんだん夜が明けてきて、空が白み始めてきた。

 牛車を操れるのは今のところリザだけなので、彼女は御者の席に座っている。俺はというと、牛車の中から銃身を出してスコープで周りを覗いていた。暗視装置付きなので、暗闇でも良く見える。

 スコープは俺の魔力を吸収して稼働するようだ。覗き込むと、デジタルのように数字が浮かび上がっている。

「風速計に弾道予測。視野角も広く、暗視装置付き。倍率も100倍以上ある…………らしい」

 魔導銃に関してはよく分からん。スポッター(観測手)なしで、敵を正確に狙撃できるライフルみたいだが、ほんとうに狙撃できるのか不明だ。

「射撃練習もしたいが、今はスコープで覗くだけにしよう」

 本物の銃に触れるだけでも楽しいんだ。スコープで覗くだけでも満足さ。俺は牛車の中からスナイパーライフルをにょっきりと出して、スコープで周りを見渡していた。二脚を立てて銃身を固定し、外を眺めるのだ。

 夜明けの街道には、人の姿が無い。鳥の鳴き声はどこかから聞こえるが、人の気配はなかった。

 盗賊団は結局現れなかったようだ。よかったよかったと、内心ホッとしていたが、やっぱりそう簡単に行くわけがなかった。

 ライフルのスコープをしばらく覗いていると、突然倒れた馬車が映った。左斜め前方、900メートル以上先に、馬車が倒れている。良く見ると、煙が上がっており、人が何人か倒れている。

「うげ。まじか? 異世界あるある、馬車で襲われるアレか?」

 俺はスコープの倍率を上げて、倒れた人の状態を確認する。

「頭が吹き飛んでます。死んでます。はい」

 間違いなく、前方の街道で、戦闘が行われている。いや、すでに行われた後か? とにかく、近くに盗賊団がいる。もしくは、何かのいざこざで人殺しがあったか。

「リザ! 牛車を止めろ! 敵がいる!!」

「なに!? 私の気配察知魔法には何もかからないぞ!」

「ここよりもずっと先にいる! 900メートル以上先で、殺人事件だ!」

「なんだと!?」

 リザは牛車をすぐにとめて道の脇に避けた。

「アオ君。スナイパーライフルを貸してくれ。私のライフルはドットサイトしかついていないんだ。スコープで見せてくれ」

「分かった」

 俺はリザにライフルを貸した。

 戦闘は、間近に迫っていた。 


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