38 / 85
第一章 伝説の水魔法使い
36 オーガが起きたが……
しおりを挟む
俺たちはギスギスした雰囲気のまま、街道を歩き続ける。王都に近くなれば近くなるほど、小さな集落が増えきた。村と言うには程遠い、ベースキャンプのような集落だ。彼らはそこで違法な取引をしているみたいだが、俺たちには関係ない。
食料も買い足すことはしないので、狩りで食料を得ることになった。
リザは言っていた通り、虫は取って来なかった。代わりに取ってきたのは、巨大なカタツムリだった。食料と金の節約を両得する代わりに、狩りをする。冒険者なら誰もが考えるので、街道沿いにはあまり動物がいない。ライドでさえ食べないと言われる、巨大なカタツムリを、リザは取ってきた。
「なんだそれは! 虫じゃないか!」
リザが取ってきたのは、魔物と変わらないほどの巻貝だった。大きさは人の頭ほどもあるカタツムリだ。
「アオ君。こいつは貝の一種で、虫じゃない」
「いや待て、リザ。そいつは冒険者ですら食べない、魔物だぞ。寄生虫だらけで、食ったら死ぬぞ」
さすがのライドもドン引きしている。ねばねばした液体を出して、カタツムリは触手を伸ばしている。
「寄生虫は、熱で死ぬ。油で揚げれば大体が死ぬだろう」
大体と言うのが怖すぎる。異世界の寄生虫は熱で死ぬのだろうか?
「こいつは水のない場所でも逞しく水を貯める貝なんだ。食べるべきだぞ」
リザはそう言って、強引に調理を始める。街道の脇に牛車を止め、焚火を作って油で揚げる。貝の名前は長くて覚えられなかったが、日本にいるアフリカマイマイという奴に似ていた。
油で揚げたら小さくなり、ぬるぬるの液体を出していた。とても食べられるものには見えなかったが、リザはおいしそうに食べている。リザといる限りゲテモノは避けられないようで、俺は観念してカタツムリを食べた。
「あっ。意外に美味いな」
「だろう?」
こりこりとした食感でなかなか行ける。寄生虫が怖いので、聖水を飲んでなんとかごまかす。失敗したら死ぬだけだが、そうなったら仕方ない。食い物に関して、俺は諦めた。
「リザ。お前は相当金が無かったんだな。初めて水を高額で売りつけて悪いと思ったよ」
ライドはカタツムリを爆食いしているリザを見て、残念な顔をしていた。リザは顔が整っているだけに、ゲテモノをガツガツ食う姿は残念すぎた。
★★★
それからしばらく移動していると、オーガが目を覚ました。
悪夢にうなされていたようで、大きな声で寝言を言っていたのが気になる。
俺はさっきの巨大カタツムリと水を持って、オーガに近づいた。食い物があまりないので、化け物カタツムリで我慢してもらう。リザに聞いたら、オーガも食べるんじゃないか? と言っていた。
現在のオーガはローブで手足を縛っているので全く動けない。ミノムシ状態だ。
オーガがゆっくりと目を覚ましたので、身振り手振りで危険な相手じゃないと伝える。銃を撃ちまくったのに危険な相手ではないと認識させるのはさすがに困難だが、今はこれしかない。俺はあたふたとジェスチャーを繰り返す。
ジッとオーガは俺を見ていたが、特に何も言って来ない。落ち着いているのだと、勝手に判断した。
まずはくちもとに水を持って行き、水を飲ませてみる。すると、のどが渇いていたのかゴクゴクと飲んでくれた。第一関門は突破だ。
次に腹が減っているだろうと思い、先ほどのマイマイ君を食べさせる。そのままだと見た目が悪いので、小麦粉にまぶして形をごまかした。
老人介護のように口元まで飯を持って行って食べさせる。人間からの食べ物は拒むものと思ったが、拒まずに食べてくれた。
「おいしいだろ? アフリカマイマイだぞぉ」
すでにアフリカマイマイと言ってしまったが、気にしないことにした。名前が覚えられなかったのでアフリカマイマイで統一だ。
もぐもぐと口を動かしていたので大丈夫かと思ったが、突然オーガが咳き込んだ。
「(’(&%&))(’)(&&’(’%%)=!!!!」
なんだか騒いでいる。
オーガ語はよく分からない。
リザに聞いても分からないので、仕方なくライドに聞いたら、一部の単語は分かったと言っていた。どうでもいいが、ライドは博識な奴だった。
「一部だけを訳すぞ。多分こう言っているな。『ウムール貝を食わせて殺す気か!』と言っている」
「ウムール貝?」
「俺たちがさっき食ったアフリカマイマイのことじゃないか? オーガたちが何と呼んでいるかは分からないが、多分このカタツムリのことだろう」
俺に感化されたのか、ライドまでアフリカマイマイと呼んでいたが、そこは聞き流した。
「%#==&%$%$$|(’$%$$%#%&%!!!」
「寄生虫がどうのこうのと言っているな」
「おいライド。やっぱり食ったらいけない奴だったんじゃないか? なんで言わなかった」
「はぁ!? 最初からそう言っただろうが! 俺には発言権はないんだろ? 話を聞かずに食いまくったお前たちが悪い。しかも俺にまで食わせやがって。美味かったのが逆に腹立つよ。まずかったら吐き出すつもりだったからな」
至極まともなことを言うライド。確かに、おかしいのはリザだったようだ。食いまくった俺も同罪だな。
オーガはバタバタと暴れている。やっぱり、オーガですら食べない奴だったのだ。リザの頭のねじはどこか吹っ飛んでいるようだった。
俺は大丈夫大丈夫と言ったが、話が通じない。ミノムシのまま跳ね続ける。仕方ないので、落ち着くまでそのままにすることにして、移動を開始することになった。
しばらく騒いでいたが、疲れたオーガは眠ってしまった。髪がぼさぼさで汚かったので、俺とリザが眠っている間に整えてやる。案外人間らしい顔をしていた。大きな牙が生えているので、美人とまでは言わないが、魔物にしてはかわいらしい顔をしていた。
「多分、変態貴族の性奴隷用に捕まったんだろう。オーガの精力は強いから、三日三晩犯しても倒れない」
「そうなのか。不憫な奴だな」
「そうだな」
さっき食わせたアフリカマイマイがさらに不憫さを加速させる。悪いことをしてしまった。
再びオーガが目を覚ますまで、俺たちは休憩をしつつ移動を続けた。
そして、俺たちの腹は壊れず、元気ハツラツだった。
食料も買い足すことはしないので、狩りで食料を得ることになった。
リザは言っていた通り、虫は取って来なかった。代わりに取ってきたのは、巨大なカタツムリだった。食料と金の節約を両得する代わりに、狩りをする。冒険者なら誰もが考えるので、街道沿いにはあまり動物がいない。ライドでさえ食べないと言われる、巨大なカタツムリを、リザは取ってきた。
「なんだそれは! 虫じゃないか!」
リザが取ってきたのは、魔物と変わらないほどの巻貝だった。大きさは人の頭ほどもあるカタツムリだ。
「アオ君。こいつは貝の一種で、虫じゃない」
「いや待て、リザ。そいつは冒険者ですら食べない、魔物だぞ。寄生虫だらけで、食ったら死ぬぞ」
さすがのライドもドン引きしている。ねばねばした液体を出して、カタツムリは触手を伸ばしている。
「寄生虫は、熱で死ぬ。油で揚げれば大体が死ぬだろう」
大体と言うのが怖すぎる。異世界の寄生虫は熱で死ぬのだろうか?
「こいつは水のない場所でも逞しく水を貯める貝なんだ。食べるべきだぞ」
リザはそう言って、強引に調理を始める。街道の脇に牛車を止め、焚火を作って油で揚げる。貝の名前は長くて覚えられなかったが、日本にいるアフリカマイマイという奴に似ていた。
油で揚げたら小さくなり、ぬるぬるの液体を出していた。とても食べられるものには見えなかったが、リザはおいしそうに食べている。リザといる限りゲテモノは避けられないようで、俺は観念してカタツムリを食べた。
「あっ。意外に美味いな」
「だろう?」
こりこりとした食感でなかなか行ける。寄生虫が怖いので、聖水を飲んでなんとかごまかす。失敗したら死ぬだけだが、そうなったら仕方ない。食い物に関して、俺は諦めた。
「リザ。お前は相当金が無かったんだな。初めて水を高額で売りつけて悪いと思ったよ」
ライドはカタツムリを爆食いしているリザを見て、残念な顔をしていた。リザは顔が整っているだけに、ゲテモノをガツガツ食う姿は残念すぎた。
★★★
それからしばらく移動していると、オーガが目を覚ました。
悪夢にうなされていたようで、大きな声で寝言を言っていたのが気になる。
俺はさっきの巨大カタツムリと水を持って、オーガに近づいた。食い物があまりないので、化け物カタツムリで我慢してもらう。リザに聞いたら、オーガも食べるんじゃないか? と言っていた。
現在のオーガはローブで手足を縛っているので全く動けない。ミノムシ状態だ。
オーガがゆっくりと目を覚ましたので、身振り手振りで危険な相手じゃないと伝える。銃を撃ちまくったのに危険な相手ではないと認識させるのはさすがに困難だが、今はこれしかない。俺はあたふたとジェスチャーを繰り返す。
ジッとオーガは俺を見ていたが、特に何も言って来ない。落ち着いているのだと、勝手に判断した。
まずはくちもとに水を持って行き、水を飲ませてみる。すると、のどが渇いていたのかゴクゴクと飲んでくれた。第一関門は突破だ。
次に腹が減っているだろうと思い、先ほどのマイマイ君を食べさせる。そのままだと見た目が悪いので、小麦粉にまぶして形をごまかした。
老人介護のように口元まで飯を持って行って食べさせる。人間からの食べ物は拒むものと思ったが、拒まずに食べてくれた。
「おいしいだろ? アフリカマイマイだぞぉ」
すでにアフリカマイマイと言ってしまったが、気にしないことにした。名前が覚えられなかったのでアフリカマイマイで統一だ。
もぐもぐと口を動かしていたので大丈夫かと思ったが、突然オーガが咳き込んだ。
「(’(&%&))(’)(&&’(’%%)=!!!!」
なんだか騒いでいる。
オーガ語はよく分からない。
リザに聞いても分からないので、仕方なくライドに聞いたら、一部の単語は分かったと言っていた。どうでもいいが、ライドは博識な奴だった。
「一部だけを訳すぞ。多分こう言っているな。『ウムール貝を食わせて殺す気か!』と言っている」
「ウムール貝?」
「俺たちがさっき食ったアフリカマイマイのことじゃないか? オーガたちが何と呼んでいるかは分からないが、多分このカタツムリのことだろう」
俺に感化されたのか、ライドまでアフリカマイマイと呼んでいたが、そこは聞き流した。
「%#==&%$%$$|(’$%$$%#%&%!!!」
「寄生虫がどうのこうのと言っているな」
「おいライド。やっぱり食ったらいけない奴だったんじゃないか? なんで言わなかった」
「はぁ!? 最初からそう言っただろうが! 俺には発言権はないんだろ? 話を聞かずに食いまくったお前たちが悪い。しかも俺にまで食わせやがって。美味かったのが逆に腹立つよ。まずかったら吐き出すつもりだったからな」
至極まともなことを言うライド。確かに、おかしいのはリザだったようだ。食いまくった俺も同罪だな。
オーガはバタバタと暴れている。やっぱり、オーガですら食べない奴だったのだ。リザの頭のねじはどこか吹っ飛んでいるようだった。
俺は大丈夫大丈夫と言ったが、話が通じない。ミノムシのまま跳ね続ける。仕方ないので、落ち着くまでそのままにすることにして、移動を開始することになった。
しばらく騒いでいたが、疲れたオーガは眠ってしまった。髪がぼさぼさで汚かったので、俺とリザが眠っている間に整えてやる。案外人間らしい顔をしていた。大きな牙が生えているので、美人とまでは言わないが、魔物にしてはかわいらしい顔をしていた。
「多分、変態貴族の性奴隷用に捕まったんだろう。オーガの精力は強いから、三日三晩犯しても倒れない」
「そうなのか。不憫な奴だな」
「そうだな」
さっき食わせたアフリカマイマイがさらに不憫さを加速させる。悪いことをしてしまった。
再びオーガが目を覚ますまで、俺たちは休憩をしつつ移動を続けた。
そして、俺たちの腹は壊れず、元気ハツラツだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,743
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる