この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第一章 伝説の水魔法使い

38 水屋とオーガのクー

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 俺たち一行は、ライドの案内で水屋に到着した。

 水屋というからには、水を作ったり浄化したりする設備を持っている商会かと思った。

 違った。

 『水』を作っている商会だった。

 場所は王都の端っこ。島の南東に位置する場所で、貴族が住んでいる高級住宅街とは真逆の場所。貧民街と呼べるような場所に水屋はあった。建物は五階建てのビルであり、日本で言う、オフィスがある会社と言う感じだ。浄化設備がある場所には見えない。

「アオ。お前は牛車で待っていろ。俺とリザで水を売ってくる」

「俺も行くぞ」

「ふざけるな。お前を連れて行って、水屋の会頭にどう説明するんだ。ここの商会の会頭は、頭がキレる。お前を見せるわけにはいかない。もしもお前が水魔法使いだとバレたら、一生牢獄の中で水を作り続けなければいけないぞ」 

「む。そうか。そうだな」

 確かに、俺は見た目は子供、頭脳は大人だった。名探偵もびっくりの子供だということを忘れていた。

「子供が大人の商売に口を出すな。変な奴だと思われる。というか、お前はもう変な奴だけどな」

 ライドが呆れて俺を見ている。

「お前はメスのオーガとままごとでもしていろ」

 ムカつくセリフばかり言うライドだが、ここは黙っておいた。ただ、リザにだけは忠告した。

「リザ、なにかおかしいと思ったら、すぐに逃げるんだぞ」

「ふふふ。分かっているよアオ君。君は大切な御使い様だからな」

 リザは俺の頭をくしゃっと撫でた。久しぶりに子ども扱いされた。

 二人は牛車を路肩に止めて、建物の中に入っていく。俺は一人で留守番だ。

 おっと、一人じゃなかった。オーガがいたんだった。

 オーガはロープで手足を縛り、布でくるんでミノムシ状態だ。数時間その状態だったので、さすがに苦しいだろう。怪我をしていた包帯を取り換え、水も与えなきゃいけない。のどが渇いるだろうしな。

 俺は牛車の幌をがっちりと固定し、誰にも覗かれないようにする。

「よし。大声を出さないでくれよ?」

 オーガをくるんでいた布を、静かに取る。オーガは、ぱっちりと目を開けていた。寝ていたわけではなく、起きていた。

 俺をじっと見ている。

「包帯を取り換えるから、おとなしくしていてくれ。それと、水を用意したから、体を拭いてやるよ」

 ミノムシのようになっていたので、いくらかロープを緩めてやる。上体を起こし、藁の上に座らせる。

 俺はオーガの口まで水を持って行き、飲むように指示する。するとオーガは抵抗することなく、俺の水をゴクゴクと飲んでいた。

 水を飲む間も、じっと俺を見ている。

 あんまりガン見されると困る。俺を見ても楽しくないぞ。

 俺はオーガに巻いていた包帯を、新しいものと交換した。包帯の巻き方など分からないのでぐちゃぐちゃだが、傷が治ればそれでいい。俺は水で怪我の部分を洗い流し、軟膏を塗って包帯を巻いた。体は傷だらけでやせ細っているが、美しいプロポーションをしている。

「しかし、オーガの治癒力はすごいな。あれだけ撃たれたのに、もう傷がふさがってる。肉が盛り上がって、銃弾が体から出てる」 

 傷跡も綺麗に治ってる。すごい回復力だ。これは人間から恐れられるわけだな。

 俺は木の桶を用意して、手から水を出した。オーガは、俺の水魔法を凝視している。別にオーガに俺の水魔法を見せても、問題ない。俺の女にすると一度決めたので、手放すつもりはない。奴隷と言うわけではないが、俺から逃げることは許さん。

 俺はせっせと水を生み出し、オーガの汚れた体を洗ってやる。すぐに真っ黒になったので、汚くなった水を浄化する。俺がいる限り、エンドレスで水を使い続けられる。体を拭く時調子に乗って、オーガの巨乳を触りまくったが、何も言って来なかった。プルンプルンで、すごく気持ちよい感触だった。

 シラミが湧いたオーガの頭も綺麗に洗ってやる。シャンプーなどないので、薬草の煮汁で頭を洗うしかない。メントールのように頭皮がスースーするが、汚れはこれでおちるので問題ない。オーガは俺の指示通り、静かに従い洗髪された。

 最後に、干した芋を食わせることにした。俺が直接持って、食べさせるスタイルだ。

 指を食いちぎられる恐怖があったが、オーガはおとなしく従ってくれる。案外大人しい。食べている間も、ずっと俺を見つめている。ガンミするのだけは止めてほしい。

 オーガの体を洗った残り水は、再度俺が浄化して、綺麗にする。飲めるまで綺麗にしたら、牛たちに飲ませた。ポニーのオルフェには、新鮮な水を飲ませた。俺の親友だから、そこは勘弁してほしい。

 一応説明すると、ここは建物の横にある、路地のような場所だ。道路の路肩に駐車している。人通りは非常に少ない。そのおかげで、誰にも見られることなく、牛たちに水を与えることが出来た。家畜に与える水でも、人に見られていたら何を言われるか分からない。俺は周り確認しつつ、オルフェたちに水を与えた。

 世話が終わると、再び牛車の荷台に戻った。俺も飯を食べようかとおもったら、オーガは自力でロープを取って、俺が来るのを待ち構えていた。

「な! お前! どうやってロープを!」

 俺は立てかけていたスナイパーライフルに手を伸ばしたが、オーガに組み敷かれた。一瞬の出来事だった。

「ぐあ!」

 関節をキメられ、荷台の上で転がされる俺。子供の俺と、オーガの体格差では、まったく歯が立たない。腕の関節をキメられて、背中を押さえつけられる。立ち上がれない。

「ど、どうするつもりだ! 俺を殺す気か!?」

「…………」

 オーガは俺をじっと見ている。大人しく従っていたので、油断してしまった。こうなることを予想しなかった俺の失態だ。

 オーガに俺の言葉が通じるだろうか? 「水が飲みたい」と言っていたので、少しでも話は通じるかもしれない。捕まえてからはオーガ語しか喋っていないが、どうなんだろうか?

「おい。俺を捕まえてもろくな目に合わないぞ。リザが俺を助けにくる」

 精一杯の虚勢を張るが、オーガには聞こえているのだろうか? 俺をじっと見たまま、動かない。

 最悪は、水の魔法でオーガを殺すことになる。この至近距離であれば、水を圧縮させて刃のように飛ばせる。地球で言うところの、ウォーターカッターだ。本来は砂利などを混ぜているので、水だけで切っているわけではないが、水圧を高めれば水だけでも金属を切り裂ける。

 ほとんど練習したことはないが、今の俺ならやれる。相手は動いていないし、超至近距離だ。

「おい。もう一度言うぞ。手を離せ。怒らないから、手を放して言うことを聞け」

 言うと、オーガはゆっくりと手を放した。なんと、俺の命令に従ったのだ。

 おお! やれば出来る子じゃないか! 偉いぞ!

 そう思ったが、オーガはこう言った。

「お前は弱いな。私に簡単に倒される。本当に水魔法使いなのか?」

「え?」
 
 流ちょうに、俺らが話す大陸語を喋った。オーガ語ではない。やはり、こいつは喋れたのだ。

「お前は水魔法使いなのか? 答えろ」

 オーガからすごい圧力を感じる。答えた方が良さそうだ。

「そ、そうだ。俺は水魔法使いだ」

「そうか。ならばなぜ、我らの里を滅ぼした。水魔法使いは全ての人種に平等なはずだ。我らを滅ぼした水魔法使いは誰だ」

 里を滅ぼした? 水魔法使い?

「い、いや。何を言っているのか分からない。俺はつい最近まで奴隷だった。村が水不足になったので、逃げだして旅をしているんだ」

「奴隷? 水不足で逃げ出した? お前は水魔法使いではないのか?」

「俺はまだ大量の水を作り出せないんだよ。子供で魔力も少ないみたいだし。だから訓練をして、魔力を高めてる」

「…………」

 オーガは俺をじっと見たまま黙り込む。

 垂れた前髪の隙間から、オーガの綺麗な蒼い瞳が見えた。

 水魔石のように透き通った蒼い瞳が、俺をじっと見ている。

「なぜ、お前を殺そうとした私を助けた」

「しらねぇよ。水が飲みたいって言ってたし、ダーナ様とやらの声が、俺の頭に響いたんだよ」

 村の奴らを見捨てる時は、ダーナ様の声は聞こえなかった。なのに、コイツの時は聞こえた。理由は不明だが、助けるべき奴なんだろう。俺の偽善者魂もすごかったしな。

「そうか。分かった。礼を言う」
 
 そう言って、オーガは幌から頭をだし、牛車の外を見まわした。

「ここはどこだ?」

「王都だ」

「そうか。分かった」

 オーガは言うと、その場に腰を下ろして目をつぶって動かなくなる。

 こいつの考えていることが分からない。ロープをちぎれるなら、逃げるんじゃないのか? なぜここに居座ってる? やっぱり、王都の中にいるから、むやみに動かないのだろうか?

 俺はどうするべきか考えていると、オーガは俺に聞いてきた。

「私の名前はクーだ。お前の名前は?」

「え? な、名前? お、俺はアオだ」

「アオ? ふーん。そうか。少しだけ、世話になる」

 世話になるだと? 一体、どういうつもりなのだろうか? 里を滅ばされたとか言っていたのも気になるな。

 最初に見た時は俺たちを殺そうとして怒り狂っていたし、家族でも殺されたのだろうか?

「アオ」 

「な、なんだよ」

「水をくれないか?」

「俺の作り出した水か?」

「あぁ」

 俺はオーガのクーに言われるまま、手から水を出してコップに注いだ。その注いだ水を、クーに手渡すと、ゴクゴクと一気に飲んでいた。

「アオの水はおいしいな。みんなに飲ませたかった」

 クーはそう言うと、床を見つめて何もしゃべらなくなった。

 なんだか、すごくさびしそうに見えた。
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