この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
41 / 85
第一章 伝説の水魔法使い

39 王都の水情報

しおりを挟む
 俺とオーガのクーは、牛車で大人しく待っていた。二時間ほど待っていただろうか?

 しばらくしてリザとライドが帰ってきた。

 ライドは意気揚々としているが、リザの顔つきがおかしい。何か落ち込んでいるような表情だ。水屋との交渉は決裂したのだろうか? ライドの表情を見る限り、そうは思えないのだが。

「リザ。水は売れそうなのか?」

「ん? あぁ。売れた。これから水樽を運び込むから、少しだけ手伝ってくれ」

 リザの顔は浮かないままだ。声のトーンも低い。何があったのだろうか?

 俺が心配していると、ライドが急に怒鳴った。

「おいお前! ロープをほどいたのか!? オーガを野放しにしたら大ごとになるぞ!!」

 クーをロープで縛っていないので、ライドが怒ったようだ。さっきロープがほどけたからな。そのままにしていた。

「別に、逃げる気配はないし、逃げられないだろ。こんな王都のど真ん中で」

「だからと言って、危険が無いわけじゃない!! そいつの恐ろしさはお前も見ただろ!!」

 ライドがヒステリックに騒いでる。うるさい。オーガの危険性など俺は知らん。

「騒がないでくれ。クーに関しては俺がきちんと見ている。心配するな」

「ちょっとまて、クーだと? そいつの名前か? オーガの言葉が分かるようになったのか?」

 別に、普通に喋ったけどな。オーガ語じゃなく、俺たちが喋る大陸語で。きちんと話は通じるし、言うことも聞いてくれる。今のところ、敵意は全くない。

「どういうことだアオ。そいつと契約したのか?」

「契約? そんなものは知らん。とにかく説明はあとだ。水を売るんだろ? さっさとしてくれ」

「…………アオ、きちんと説明はしてもらうからな」

 子供に良いようにあしらわれて、ライドはご立腹だ。作業を進める為、俺が作った水樽を全て外に運び出すことになる。クーは俺の指示に従い、水樽を荷台から移動させてくれた。馬車から出ないように、水をリザに受け渡していた。

 リザはオーガが言うことを聞いているのを見て驚いていたが、「やはりアオ君は神の御使い様」などと言って自己完結していた。

 
★★★


 水を売った金は全部で10万シリンほどになった。小樽8個を売ってその金になった。

 多いと思われるが、ライドには仲介料として3万シリンを払った。文句を言われると面倒なのでそのくらいの金を払ったのだ。リザにも3万払い、俺の手元には4万シリンとなった。これでオルフェや牛たちの餌をたくさん買える。

 ライドはそれ以外にも別の商品を売りつけて金を得ていたようだが、それは知らない。ただ、リザがずっと浮かない顔をしていた。水屋から帰ってきてから、ずっとだ。リザに元気がないと、なんだか落ち着かない。

 奇虫を取ってきては俺に食わせてくれるリザ。生血を飲んで、下痢をして、自分のおしっこを飲む根性ある女。そのリザが元気でないと、なんだか不安になる。まだ出会ってから浅いが、俺はすでにリザを信頼していた。

 俺はリザに聞いてみた。

「リザ。どこか具合が悪いのか? 元気がないみたいだが」

「あ? いや、そんなことはない……」

 御者台に乗って、牛車を操るリザ。手綱を握る手に、力が無い。今向かっているのは宿がある場所だが、リザは御者台に乗ったままボーっとしている。

「どうしたんだ? 言ってくれ」 

 月の物か? 生理ならどうしようもないが、どうなんだ? おじさんに言ってみろ。

「すまない。あまり顔に出すつもりはなかったんだが、今回はどうしようか悩んでいてな」

 リザが口ごもる。一体何があったんだ?

 あまり聞くのも悪いかと思って荷台に戻ろうとしたら、金を数えていたライドが口を開いた。

「教会の子供が働かされていたんだよ。それを見てリザがおかしくなったんだ」

「ライド! お前!」

「どうせわかることだ。今言っても変わるまい」

「どういうことだライド。教会の子供?」

「水屋の建物があっただろう? あの建物の地下には、大きな採掘場がある。王都があるこの島からは、少量だが水魔石が採掘されるんだ」

「水魔石が採掘される? あんな街中で、しかも建物の下で採掘しているのか?」

 地盤が沈没したらどうする気だ? 馬鹿なのか?

「そうだ。採掘場って言っても、地下は迷宮になってる。王都の地下には、ダンジョンが広がってるんだよ。この王都には、ダンジョンへの入り口が腐るほどある。奴ら水屋はその入り口の上に建物を建てて、不当に水魔石を採掘してる。奴隷の子供たちを使ってな」

 何? 子供たちを使って?

「まさかその子供たちってのは……」

 俺がリザに聞くと、リザは残念そうな顔で言った。

「ヌアザ様の所にいた、教会の子供たちだ。私があの水屋に入ったら、牢屋に入れられていた。泥だらけで、傷だらけだった。私を見て助けを求めていたが、どうしようもなかった」

「そうだったのか……」

 宗教間の戦争だか知らないが、結局は捕まえた子供を奴隷として売ったらしい。ヌアザはその戦いに負けて、子供を奪われたんだな。

「助けたくても助けられない。奴隷は文化の一つだから、金で買い戻すしか方法は無い。たとえ買い戻しても、全員を養う余裕はない。ましてやあれだけの人数、逃がすなど不可能だ」

 リザは肩を落とした。元気がなかったのはこれが原因か。

 まったく、次から次へとろくでもない事ばかりだ。とんでもない国だぜここは。

 俺はオーガのクーを見ると、クーは俺をじっと見ていた。

 クーも目で訴えているように見えた。

『私の里も滅ぼされた。女子供たちは奴隷にされた』

 なぜだか、そう言っているように見えた。

 なにか期待しているように俺を見ていたが、俺はまだ子供だ。水魔法使いとして未熟だし、何もできない。

 今はあきらめてくれ。

 宿に着くまで、俺も無言になり、牛車には重い空気が漂った。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...