この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第一章 伝説の水魔法使い

40 水をもとめて

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 俺は宿に到着し、牛やオルフェの世話をしたのち、部屋に戻った。部屋は、ライドが一部屋、リザと俺とオーガのクーが、相部屋だ。

 異世界の宿に初めて泊まったが、なかなかにひどい作りでがっかりである。

 隙間風は多いし、虫はいる。普通にゴキブリ君が走り回っているのは、不愉快でしかない。特に、一階はロビー兼、酒場になっているのか、夜になってもうるさい。

 出てくる夕食も泥のような不味い飯で、一体何を煮込んで作ったのか分からない料理だ。人肉だけは勘弁してくれと思うが、この世界情勢だ。人の肉が使われているかもしれん。

 リザは相変わらず落ち込んでおり、宿の夕食をほとんど食べずに残していた。不味い飯だったので仕方ないが、何か子供たちに対して思うことがあるのだろう。ヌアザとシスターのアリアンを慕っていたしな。

 オーガのクーだが、彼女には全身を覆うローブを着せた。頭にもフードをかぶせ、宿の中に入らせた。安宿の為か、金を大目に払うと、クーのことは目に入っていないようだった。体が大きいので、人の目につくところでの移動は、極力避けるべきだな。一応彼女には、手錠のようなものを付けた。ライドがどこからか持ってきたものだが、多分無駄だな。オーガの怪力には勝てまい。

 そしてライドだが、夕食時も相変わらず金勘定をしていた。俺たちとは違うテーブルで、一人で飯を食べている。ライドは別注文で肉を頼んでいたが、その肉も真っ黒で、何の肉だか怪しいものだ。彼はその肉を食べながら、金を数えてメモを取っていた。 

 
 なんやかんやあって、夕食を終えて深夜。

 みんなが寝静まった時に、俺はベッドから出た。

 となりのベッドでは、リザが寝息を立てている。壊れかけたソファでは、クーが毛布をかぶって寝ている。誰も起きていない。

 俺は静かにベッドから降りると、壁に立てかけていたスナイパーライフルを手に取った。横に置いてあったありったけの弾薬を持ち、ライフルを背負って部屋を出る。

 防犯の為か、宿の玄関はカギがかかっていたので、二階の窓から出る。

 うんしょ、おいしょ。

 背が小さい俺は、頑張って窓から出て、屋根伝いに移動する。空を見ると、満天の星空。カラッカラに渇いた風が吹き荒れている。

 雨などは全く降っていないようで、砂埃が舞っていた。

 俺は背負ったスナイパーライフルに弾丸を込めると、スコープ越しに街を見渡した。暗視装置が付いているので、夜でも良く見える。

 深夜の為か宿の近くは人があまり歩いていない。真っ暗だ。俺は屋根に寝そべり、ライフルの二脚を立てる。持ち歩くのはかなり重いので、屋根に固定した。

 そしてスコープを覗いて周りを監視。街の中で明るい場所を発見した。魔石灯と呼ばれる、蛍光灯に似た明かりが見える。ネオン管のようなきらびやかな明かりも見えたので、多分あそこが歓楽街だ。現在いる宿から、一キロ以上離れている場所にある。

 さらに周りを見渡し、歓楽街を超えて四キロほど。俺の求める場所があった。相変わらず、ボロボロだったが。

「よし。行くか。リザには借りがあるしな」

 俺は場所を見定めると、スナイパーライフルを回収。肩に担いだ。屋根から降りて歓楽街に向かおうとしたところで、後ろから声をかけられた。

「何をしている」

 ビクゥ!! 

 俺は小さく飛び上がった。

 後ろを見ると、クーが仁王立ちしていた。屋根の上で、仁王立ちである。やはりというか、手錠はしていない。引きちぎったようだ。

「もう一度聞くぞ。何をしているんだ?」

「い、いや。えぇとだな。ちょっとあそこまで行こうと思ってだな」

「あの明るいところか? あそこは酒場や女たちが夜の商売をする場所だぞ。子供が行くところじゃない」

「違うよ。どこを見てる。歓楽街の、もっと先だ」

「もっと先?」

 さすがにオーガでも見えないか? 俺は暗視装置付きのスコープで見てるからな。

「俺がこれから行こうとしているのは、ダーナ教会だ」

「ダーナ教会? それは、水魔法使いとしてか?」

「あ? どういう意味か分からないけど、あそこにダーナの女神像があるなら、きっと水魔石もあると思ってな」

「水魔石?」

「あぁ。女神像があるなら、きっとある。水が俺を呼んでるっていうか、中二病みたいな感覚があるんだ」

 そう。見たことも無いエネルギーが、俺の中から湧き上がるっていう、意味不明の感覚だ。中学二年生で発症するアレだ。

「確かに、私の里にもダーナの女神像はあった。水の魔石は分からないけどな」

 オーガの里にもダーナの女神像はあったのか。なら、この王都にもあるはずだ。もしも壊れてたら、ただの丸い石ころだ。そんなもの盗む必要もねぇだろ。まだ残ってるはずだ。

「アオ。お前の言っていることがよく分からない。結局、何をしようと言うんだ?」 

 俺はこれ以上のことを喋るか迷った。本当は一人で動くつもりだった。だけど、水魔石を使うなら、結局ライドも巻き込んだ大仕事になる。

 俺は意を決して、クーに喋った。

「良く聞いてくれよ? 俺は水魔石を復活させて、大量の水を作る。そして儲けるんだよ。儲けた後は、タダで水を配って、水の価格をゼロにする」

「は? 価格をゼロにだと?」

「そうだ。水に困らなければ、採掘の奴隷もいなくなる。水魔石で大量の水を作り、この王都をデフレさせてやる。そして、子供たちや、お前の捕まった仲間を、解放する。リザや神父のヌアザには借りがあるしな。子供たちを助けるのは金儲けのついでだよ。ここまで話を聞いちまったなら、お前も手を貸せ。仲間が大切なんだろ?」

 俺はクーに向かって手を伸ばすが。

「そんなこと、出来るはずがない。水魔石の復活などと、戯言だ」

「いや、もう水魔石の一つは復活させた」

「復活させただと? 笑わせるな」

 クーは俺の言葉に懐疑的な表情を見せているが、これは事実だ。

「信じる信じないは自由だが、水は、いずれ世界に満ちる。お前も知ることになる」

 完璧なほど、病的な俺のセリフが決まった。風もいい具合に吹いて、俺のボブカットの髪がたなびいている。

「なっ…………」

 クーは驚いた顔をしていた。こんな子供が何を言い出すかと思っていたんだろう。

 悪いが、俺の中身はおっさんだぜ。子供じゃねぇ。いずれ来る俺だけのハーレムに向けて、行動させてもらう!

 クーは、なぜか俺の自信満々の笑顔に、心打たれたようだ。ふっと肩をすくめると、こう言った。

「やっとか。やっと世界の調律者が、動いたか……。やはりダーナ様は私たちを見離していなかったようだな」

 クーは調律者がなんたらと、分からないことをブツブツ言っていたが、俺を見ると、初めて笑ってくれた。

 八重歯がチャームポイントの、可愛い笑顔だった。結構、グッとくる可愛さだった。

「アオ君。手を貸そう。どうすればいい?」

 おおやった。俺の無茶苦茶な話で、手を貸してくれるようだ。子供の戯言と切って捨てられなかった。さすが魔法がある異世界だな。子供の意見がすんなり通る!

 俺とクーが手を取り合い、握手をしようとしたところで、突然リザが声をかけてきた。

「うおぉぉぉおん。アオ様ぁ~! わだじはずっとあなたにお仕えしていぎまずぅ~。ずびびびびび!」

 リザは俺とクーを見て、鼻水を垂らして号泣していた。ゲデルンゲデルンと鼻水を垂らして、キャラ崩壊している。

「うわ! なんだお前! 起きてたのか! 屋根にまで上がってきやがって!」

 リザも俺が部屋を出たことに気付いていた。その上で、俺とクーを尾行していたようだ。

「さすが私の見込んだ御使い様です! 命の限り付いていきます!」

 リザが敬語で話してくる。止めてほしい。俺の最終的な目標はハーレムパーティーで世界一周だ。こんな小さな国で躓いていられない。

 だから金を得るためにも、水魔石が必要だと思ったのだ。

 俺は、結局、俺の為に動いているだけさ。高尚な存在じゃない。

 
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