この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第一章 伝説の水魔法使い

42 プルウィア

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 あたしは、孤児。

 名前はプルウィア。

 死んだ両親が、つけてくれた名前。

 意味は、雨。

 この乾いた大地に恵みをもたらす子供として、名付けてくれた。

 でも、両親は汚れた水を飲んで死んじゃった。あたしだけに綺麗な水を飲ませてくれて、自分たちは汚い水を飲んでいたんだ。あたしがきちんと大人になれるように、病気にならないように、自分たちが犠牲になって育ててくれた。

 感謝したけど、恨みもした。

 こんなところにあたし一人残して、二人で天国に行くなんてずるい。そう思った。

 重金属の混ざった水を飲んで、両親が死んだのが一年前。遺言から、ダーナ教会に私が預けられるのが決まって、あたしは司祭様の元で働いてる。他の孤児たちと一緒に、水をろ過する仕事をしてるの。

 街の周りにある赤い水。湖の水をろ過してるの。飲み水は配給されるんだけど、それけじゃ暮らしていけないから、仕方ないんだ。

 孤児の私たちはその毒水を汲んで、特殊なろ過器に入れて、ろ過するの。

 ろ過器は司祭様が作ってくれたんだけど、ポンコツなのかすぐに壊れちゃうんだ。司祭様は壊れるたびに修理すんだけど、三日持たずに壊れちゃう。新しいろ過器が欲しいけど、お金が無いんだ。女神像の修理にお金を使ったみたいだし、今はほんと苦しい。

 一日一食、硬いパンとドロドロのスープ一杯しか食べられないの。毎日、すごくお腹が減ってる。

 食べ物が無いのに女神像を修理するなんて馬鹿げてる。そう思った子もいたけど、仕方ないよ。女神様の首が取れて、羽ももげて変な玉も床に落ちてボロボロだった。

 教会のシンボルがそんなボロボロじゃ、誰もお祈りになんて来ないし、お布施も無くなる。しょうがないよね。

 ルドミリア教会の奴らも毎回嫌がらせして信者がいなくなるし、せめて女神像だけでもしっかりしてないとね。

 そういえば、数日前に教会本部から聖騎士の人が来てたけど、何だったのかなぁ? 誰かを探しているみたいだったけど。本部からの聖騎士様だから、何か食べ物でも持ってきてくれたのかと期待したけど、違った。

 がっかりしたけど、仕方ない。早く赤い水をろ過して、洗濯しなきゃね。

 あたしの一日は、こんな感じ。水のろ過をして、みんなの服とか洗濯して、教会の掃除とかするの。まだ子供だからそれくらいしかできない。

 夜になったらすぐに寝るだけ。明かりが無いから、仕方ない。

 時々、両親がさびしくなって目が覚めることがあるけど、今日は違った。

 なんだか、礼拝堂の方から物音が聞こえたの。

 もしかしてルドミリア教会の悪い奴らかもしれないから、あたしは礼拝堂の方に行ってみた。

 恐る恐る、足音を立てないように、ゆっくりと礼拝堂を覗いてみた。

 すると、大きい男の人と、女の人、魔物のような体格の人がいた。

 そして、そんな人たちに交じって、小さな男の子がいた。最初は女の子とか思ったけど、声が低かったから、男の子だと思った。

 ルドミリア教会の奴らじゃないって、すぐに分かった。格好も冒険者風の格好だし、絶対違う。

 もしかして物取りかもしれないけど、小さな男の子がいるし、変だと思った。

 だから、声をかけてみた。怖いけど、確認しなきゃいけない。

「お兄ちゃんたち、誰?」

 これで人さらいとかだったら、大声を出して叫んでやる。普段の司祭様はポンコツだけど、元冒険者で、本当はすごく強いんだ。きっとこの人たちにも負けないはず。

 あたしが「誰?」と聞いてから、数十秒も経った。返事が無い。その人たちはあたしを見て、どうするか考えてるみたい。

 なんだかひそひそ話してる。聞き耳を立てると、こんなことを喋ってる。

「リザ。どうする?」

「説得しよう。話せばわかってくれる」

「お前は馬鹿か? 相手は子供だぞ。アオのような賢い子供じゃなかったら、説得など無意味だ。気絶させて逃げるべきだ」

「ライド! なに馬鹿なこと言っているんだ! 子供に暴力など!」

「そうだぞライド。相手は子供だぞ」

「アオ。お前がそれを言うな。お前も子供だろうが」

 なんだか、こんな話が聞こえてきた。

 あたしを気絶させるとか言ってる。人さらいかもしれない。やっぱり大声を出して司祭様を呼ぼう。

 司祭様の部屋はここから遠いけど、あの人は地獄耳だ。子供たちの叫び声を聞き洩らしたことは一度もない。普段はボケッとしてるけど、ここぞという時は頼りになるの。

 あたしは息を思いっきり吸い込んだ。叫ぶのは久しぶりだけど、きっと大丈夫。

 そう思って口を膨らませていたら、あたしの前に男の子が近寄ってきた。

 何をするつもりなのかと思ったら、一瞬ニヤリと男の子は笑った。

 その男の子は、私が考えもしない『奇跡』を見せてくれたの。

 両手を掲げると、教会の中に雨を降らしたの。

 虹が出るくらいの、綺麗な雨を。

 プルウィアを。

「そこの君。悪いけど、この教会、ほこりっぽいから水で洗い流させてもらった」

 男の子はドヤ顔であたしを見てる。どうだ! ってくらいの顔で、あたしを見てる。

「ちょっとアオ君! なんで急に魔法を使ってるんだ!」

「そうだぞアオ! こんなに魔力を無駄遣いしやがって! 無意味に水をぶちまけるな!」

「ふっ。さすがアオだな」

 なんだか、周りにいる人たちが騒いでたけど、男の子は手から水を出して、ふわふわと浮かばせてた。あたしを見て、ニコニコしてた。あたしは叫ぶことも忘れて、絶句した。

「俺はアオ。水魔法使いだ」

「えっ」

 水魔法使いは、ダーナ様から遣わされた、神の御使いだって聞いてる。

 この子が、水魔法使い? 嘘でしょ? 世界に数人しかいないって聞いたよ?

「嘘じゃない。ほら」

 アオっていう男の子は、あたしの汚れた手を綺麗な水で洗い流してくれた。すごく冷たくて、気持ちよかった。

「君の名前は?」

「えっと、その。あたしはプルウィア」

「そうかプルウィア。深夜に忍び込んでごめん。少し用があってきたんだけど、俺たちに協力してくれないか?」

「え?」

 協力って何? 何する気なの? 一体なんなの?

 その子はあたしの手を握ると、こう言ったの。

「見られたからには仕方ない! 君も俺の金儲けに付き合ってくれ!」

 え?

 金儲け? はい?

 男の子を見ると、ものすごい笑顔であたしを見てる。

 あたしは金儲けって言われて、返す言葉が無かった。

 でも、これがあたしの転機だった。人生が変わる瞬間だったの。

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