この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
47 / 85
第一章 伝説の水魔法使い

45 話し合いはほどほどにして、計画開始!

しおりを挟む
 俺たちは牛車に乗り、忘れてはいけないポニーのオルフェを連れて、ダーナ教会に向かった。

 教会に到着すると、すでにクーが待機していた。司祭や助祭、教会の関係者が、何か不審な動きをしていないか聞いてみた。俺たちのことを教会本部に通報しているなら、もはやこの教会は頼れない。

 クーに聞いてみると、特に不審な動きは無いということだ。影から見張っていたらしいが、司祭の行動に問題は無いらしい。聖騎士を待ち伏せさせているとか、国に通報したりはなさそうだ。

 その後クーの手引きで礼拝堂に入ってみると、昨日のゴリラ司祭が信者に説教をしていた。

 汚れてはいたが、高級そうなローブを着て、左手には聖書らしきものを持っている。女神像がある壇上に立ち、集まった数少ない信者たちに向け、ダーナの教えを説いていた。 

 礼拝堂に入った時、一瞬、ゴリラ司祭と俺たちは目があったが、この場では知らないふりをしておく。信者たちが目の前にいるし、騒ぎ立てるのは不味い。

 俺たちもその信者の中に入り込み、説教が終わるまで聞くことにした。ゴリラ司祭はこう言っていた。

「暴力を暴力で返してはいけません。相手を赦すことが出来れば、憎しみ合うことはそこで止まります。私たちは今日も明日も困難に立ち向かわなければなりませんが、希望を捨てなければ必ず夢は叶います」

 というようなことを、信者たちに説いていた。信者たちを見ると、その話を理解しているのかよく分からない。服はボロボロ、顔は垢だらけ。靴すら履いていない奴もいる。信者の集まりと言うより、炊き出し目当てのホームレスだな。

 ただ、説教を聞く人々の中に多くの子供たちもいたので、ここには孤児がいる。奴隷にされたりしていない。そこはヌアザの教会と違うところだ。シスターも数人いるし、働いている人は多い。

 俺はリザやライドを連れ、説教が終わったゴリラ司祭に会いに行く。

「こんにちは。司祭殿。少し話をしたいのですが」

 リザが声をかけると「ここではまずい。こちらへ」と言って、すぐに執務室のようなところに案内される。かなり警戒されている。まぁ、当たり前か。

 執務室は床が抜けているなどのボロボロの内装だったが、一人の助祭がいた。助祭とは、司祭の仕事をフォローする人間だ。机に向かって何やら書類を書いている。俺たちに視線を向けたが、特に何も言って来ない。

「ここに座ってください」

 ゴリラ司祭に言われるまま、備え付けられてあったソファーに座る。するとプルウィアがどこからともなくやってきて、元気よく挨拶してくれた。

「アオ様! 来てくれたのね! ありがとう!」

 ニコニコ笑顔で出迎えてくれた。この朽ちた教会で、彼女の笑顔だけが癒しだよ。

 見ると彼女はお盆を持っていて、その上にはお茶らしき飲み物があった。飲んでくださいとテーブルに置かれるが、俺はその飲み物を見て言葉を失う。死んだ芋虫のような物が混入していたからだ。

「どうぞ! とっておきのレモネードです!」

 プルウィアはニコニコしてレモネードを置いて、部屋を出て行った。子供ながら、客の応対もしているらしい。

 俺は置かれたレモネードを見て、匂いを嗅いでみるが、錆びた鉄のような匂いがする。色も黒い。人が飲むものではないと思った。

 隣に座ったリザとクーは疑いもせずゴクゴクと飲んでいるが、ライドは躊躇している。彼は腐っても商人だ。水の良し悪しが分かっているのだろう。飲もうとしない。

 テーブルを挟んで俺たちの向かいに座ったゴリラ司祭は、ため息をついて俺たちに話しかけてきた。

「私は司祭のマーティンと申します。率直に伺いますが、水魔法使い様。あなたは我々に何を求めているのですか? ここには子供が多く、出せるお金もありません。昨日、我々から盗もうとしたものは、何なのですか?」

 社交辞令だろうが、筋肉ダルマが敬語で話してくる。気持ち悪い。昨日のように、山賊らしく話しかけてきてほしい。その方が交渉しやすい。

「いや、水を売ろうと思ってる。だから、あんたたちに水の事業を手伝ってほしい。ただ、俺を追っている奴らもいるだろうから、そいつらには俺のことを秘密にしてほしい」

「追っている奴ら? あなた方は犯罪者なのですか?」

「犯罪は犯してないと思うよ」

 うん。オーガのクーを勝手に連れまわしてるけど、人殺しはしてないな。大丈夫だろ!

「犯罪者ではない? では、先日来た聖騎士が探していたのは、あなたですか?」

「聖騎士ってのがどんな奴らか知らんが、多分そうだろうな」

 カイトの街で、神父のヌアザが聖騎士を呼び寄せるとか言ってたし。

「教会本部で探しているのはあなたなのですか? ヌアザ様とはお知り合いで?」

「あぁ。ヌアザとは知り合いだな。ここにいるリザもそうだ」

「ふむ。そうですか。では大事な質問です。あなたはルドミリア教会の水魔法使い様ではないのですか? スパイとかですか?」

 スパイ? ルドミリア? はげしく勘違いしてるな。ルドミリア教会とは仲が悪いと聞くが、本当らしいな。

「俺はどこの教会にも属してない。流浪の水魔法使いだ。ここにいるライドは冒険者で商人だ。俺の水を売ってくれる。リザは俺の護衛だ。オーガのクーは出会ったばかりだが、リザと同じく俺の護衛みたいなもんだ」

 筋肉ダルマのマーティン司祭は、俺のことをじっと見てる。嘘をついてると思ってんのか?

「はっきり言うぞ。これ以上面倒くさい話はしたくない。黙って俺に従え」

「なっ、なんだと?」

 ゴリラが目つきを変える。隣に座っていたライドは、俺の言葉を聞いて呆気にとられている。仮にも司祭に向かって、十歳の子供が命令してるんだ。そりゃ常識ある奴だったら驚くだろうな。

「マーティンのおっさんに聞くぞ。プルウィアに、綺麗な水を飲ませたくないのか?」

 俺は目の前にある汚いレモネードに指を突っ込み、綺麗な純水に変えてみせる。まるで手品だが、混入していた芋虫は、俺の浄化魔法で光の粒になり、透明な水へと変わった。

「こ、これは……伝説の浄化魔法」

 ゴリラが驚いてる。ていうか、浄化魔法って伝説だったのかよ。

「付き合ってもらうのは短期間だ。その間だけ、俺たちの秘密を守らせろ。職員だけじゃなく、子供たちにもだ。話は以上! さっそく水魔石を復活させる。行くぞリザ! クー! ライド!」

「「はい!」」 

 二人は元気よく返事をしてくれたが、ライドは頭を抱えていた。

「なんで俺がお前の手下みたいになってんだよ、まったく。信じられねぇガキだぜ。いい金になると思ったが、このガキについてきたのは失敗だったかな……」

 俺たちはソファから立ち上がると、水魔石復活に取り掛かった。

 計画開始だ。


しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...