この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第一章 伝説の水魔法使い

48 真理を説く位なら、知識を説け

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 水を売り始めて、二週間が経過した。 

 連日、水を売って金が入ってくる。そろそろ王都の水屋たちも、透明な水が大量に出まわまっていることに気付くはずだ。

 貴族だけに水を売り払っているわけではないからな。この教会に水があると知られるのも時間の問題だ。もしもバレれば、子供たちが襲われてしまう。

 時間が無いが、水魔石はまだ50個くらいしかない。俺の魔力もどんどん上がり、大きめの水魔石も直せるようになってきた。しかし、まだまだ足りない。

 水魔石一つで作り出せる水の量は、それほど多くない。人間一人に換算すれば多いが、王都の人口に換算すると、全く足りない。水の浄化能力も、俺よりずっと低いため、数が必要だ。

「偶然大量に水魔石を見つけたのは良かったが、それでもまだ足りないか?」

 いや、きっとなんとかなるはずだ。水質を悪化させているのはルドミリア教会の奴らだというし、これは意図的なもの。この惑星が壊れたわけじゃない。なら、治せる。大地と水は、きっと元に戻る。

 俺はそう考え、次の一手に出た。

「マーティン司祭。話がある」

「なんですか? アオ様」

 このゴリラ司祭。俺が本物の水魔法使いだと知ると、手のひらを返したように敬語を使ってくる。別にそれはいいが、俺は山賊風の司祭が好きだ。子供に敬語など不要だ。

「おっさん。俺に敬語を使うな。俺はまだ子供だぞ」

 中身は俺の方がおっさんだけどね。

「いえ、伝説の水魔法使い様を呼び捨てなどできません」

「いいから、最初に出会った時みたいに、小僧っていえよ。その方がしっくりくる。俺は、様を付けられるほどえらくない。ただのクソガキだ」

「クソガキだなんてそんな……」

 おっさんは言いよどむ。

「ふん。まぁいいや。話ってのは、これのことだ」

 俺は一つの本をマーティンのおっさんに渡した。

「これは?」

「みりゃ分かるだろ。子供向けの教科書だ」

「そうですね。貴族様や、大商人の子供向けに作られた教科書ですね。これがどうしたのですか?」

 それを見てまだ分からないのか? 渡したのは教科書だぞ?

「真理で腹は膨れない。パンがどうやって作られるのか子供たちに教え、学を教えろ。説教を辞めろとは言わない。ただ、説教をする時間を減らし、学を教えろ。教育があれば、奴隷は減る」

 イングランドの哲学者フランシス・ベーコンは言った。

『知識は力なり』

 真理で麦は作られない。宗教の教えを否定するわけではないが、貧困を脱却するためには学が必要だ。だから俺はマーティンのおっさんに教科書を渡した。俺自身、こちらの世界の言語は知らない。読み書きが出来ないのだ。

「俺を含め、文字の書き方を教えてくれ」 

「え? 文字を? もしかしてアオ様は、文字を書けないのですか?」

「書けないし、読めない。まったく出来ないわけじゃないが、読み書きは得意じゃない」

「しかし、あなたは水魔法使い様ではないのですか?」

「おいおい。水魔法使いってのは、生まれた時から全知全能なのか? 俺の格好を見ろ。俺が、神様や王族に見えるのか?」

 俺の格好は、ここにいる孤児たちとなんら変わりない。見た目は、普通の子供だ。

「俺たちに、文字を教えてくれ」

「…………」

 マーティンのおっさんは泣きそうになっていた。俺が子供だということを忘れていたようだ。一人の孤児であることを忘れていたのだ。

「そうだったな。アオも一人の子供だった。水魔法使いでなんでもできると思って、忘れていた。この教会にいる以上、アオも俺の息子だ。なんでも聞け」

 マーティンのおっさんは涙を拭うと、教科書を握りしめた。俺に敬語は辞めたようだ。

「あっそうだ。こいつらにも読み書き教えてくれよな」

 俺は大声でクーを呼ぶと、オーガの女子供を呼び寄せた。数は20人程度だが、オーガがゾロゾロと現れた。この街で奴隷になっていた奴らだ。彼らは子供でも、体はデカい。屈強な戦士のようだ。

「…………なんだこいつらは。討伐対象のオーガじゃないのか?」

「討伐対象なんて言うなよ。異種族を差別するなんて、聖職者のすることなのか? オーガだって、言葉を喋れるんだぜ? クーを見ただろ?」

「それはそうだが……。アオ。お前は一体何をする気なんだ? この国を侵略するのか?」

 侵略? 馬鹿を言うな。ハーレムの王国を作りたいだけだ。

「俺は自由気ままに生きたいだけだ。侵略などバカバカしい」

「ふっ! ははは! さすがダーナ様から遣わされた御使い様だ。言うことが違うな。こんな世界でも、自由気ままに生きたいか」

 あぁそうだ。せっかくチート魔法をもらったんだから、やれるところまでやる。

「そんじゃ、教科書はこっちで用意するから、明日から文字の読み書きを教えてくれよ」

「分かった。準備しておく」
 
「よし! クー! こいつらの為に教科書と武器を買いに行くぞ! 姿がばれない様に顔を隠せ!」

「はっ! お前たち、おとなしく留守番しているのだぞ!」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 すっかり懐いたオーガのクーは、俺に跪いて返事をした。その他のオーガも跪いて返事をした。なんだか、軍隊みたいだ。

 オーガを従える10歳の子供。その様子を見ていたマーティン司祭は、苦笑いだった。



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