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第一章 伝説の水魔法使い

51 死闘

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 俺はクーと合流し、指示をする。水を売りに行っているリザとライドに、最終段階に移ったことを伝えてもらう。あとは、教会で力仕事をしているオーガたちに指示し、各自水魔石を5個ずつ持たせる。20人いるので、計100個の水魔石である。

 彼らは水魔石を持つと、俺の顔を見て頷き街の中へ散って行った。

 プルウィアが息を切らせ、俺の所に戻ってきたところで、聞いてみる。

「司教様が来ているって、どこにいるんだ? まさか中に招き入れたのか?」

「そんなことしないよ! あいつらは敵だもん! 神殿騎士まで連れて来ているし、教会の中には入れられない! みんなが連れてかれちゃう!」

 うん? 神殿騎士? 教会が飼い馴らす私兵か? となると、国の騎士を連れて来たわけじゃないのか。

「プルウィア、あいつら、喧嘩するつもりで来たのか?」

「分からない。ときどき嫌がらせはしてくるけど、騎士を連れて来たことはなかった。今はマーティン様が教会の入り口で入らせないように話してる」

「そうか。なら、俺が行くか」

「ちょ! アオ様は逃げて! 行っちゃダメ!」

「あぁいいんだ。倒すことが目的じゃないから」

「え?」

 時間稼ぎできればいいんだよ。もともと司教とは戦うつもりはなかったんだ。

「プルウィアは安全なところで隠れていなさい」

 俺は壁に立てかけていたスナイパーライフルを担ぐと、教会の入り口に行ってみた。

 マーティン司祭含め、助祭やシスターたちが騒いでるのが目に入った。教会の入り口はすぐ礼拝堂に繋がっているので、俺は並べられた椅子に隠れつつ、スナイパーライフルを設置。スコープを覗いて様子をうかがってみる。

「ロイド司教! 何のつもりだ! 連絡もなしに神殿騎士を連れて来て、我が教会の中をあらためるだと!?」  

「いや、うちの司祭たちがね、君の教会から水を運び出しているのを目撃したらしいんですよ。街の中も今は水が大量に出回っているし、これはおかしいんです」

「なにがおかしいというんだ?」

「王都は数年前から水不足でしょう? 我が教会本部から水を輸入しているし、急に水が出回るのはおかしいんですよ」

「新たな水源を発見したのかもしれないぞ。いいがかりはよせ」

「水源は我々が抑えていますよ。新しい水源など、どこにもない」

「なぜそう言い切れる!? お前たちが我が教会に足を踏み入れる理由にはならん!」

「いやぁ、証言者が何人もいれば、家宅捜査は当たり前でしょう。街で出回っている水の量は、すでに個人で売買できる量を超えています。水にかかる税金も納めていないようですし、これは犯罪ですよ?」

「…………」

「我々は陛下の許可も頂いています。国家反逆罪になりたくなければ、いい加減そこをどいてください。うちの神殿騎士とは戦いたくないでしょう?」

「………くっ」

 なんだか、そんな話が聞こえてきた。

 籠城作戦は通用しない感じだな。リザとライドが戻ってくるのを待つべきだが、この教会に入られるのは困る。子供たちがいるからな。

 あとは街中に散って行ったオーガたちが、早く計画を終えてくれれば問題ないんだが、時間的に無理かな。

「さぁ、どいてください。怪我をしますよ」

 ロイド司教を見ると、目が細身で、顔もガリガリ。ワカメのような髪の毛をしているし、いかにも悪役ですって感じだな。イケメンではあるが、子供たちに好かれる顔ではないな。

 入り口に詰めている騎士たちを見ると、少なくとも2、3人ではない。もっといるな。外まで確認できないから何とも言えないが、俺一人じゃ分が悪すぎるか?

 うーん。ま、いいか。やれるところまでやってやるって決めたし、ロイドの力も見てみたい。

 俺はスナイパーライフルの二脚を立てて固定。弾丸を込めて、スコープを覗く。

 神殿騎士は全身鎧でガッチガチだが、関節部分までは鎧で覆われていない。距離も近いし、弾道計算してくれるこのライフルで、外すことはないだろう。 

 セーフティ解除。水瀬アオ! 狙い撃つぜ!

 俺は羽よりも軽いトリガーを引くと、「パシュン」という、ごく小さな発砲音が響いた。サイレンサー内臓だったので、音がまるで鳴らない。

 その直後、教会入口に詰めていた神殿騎士が「ぐああああ!!」と言って倒れた。

 スコープを覗くと、膝の半月板を見事に打ち抜いていた。

「うぉぉ。すげぇこのライフル。子供の俺でも簡単に当てられた。動いている相手に、簡単に当てられたぞ! しかもピンポイントで膝を撃ちぬいた! 異世界の銃、やべぇぇ」

 エアガンでも撃ったような感覚だが、目の前では人が血しぶきを上げて倒れている。罪悪感よりも、今握りしめているスナイパーライフルの性能にびっくりした。俺の大魔力で駆動しているから、普通の子供では動かせないが、動かせさえすれば、人を簡単に撃ち殺せる銃だ。水魔石の研究で、ライフルの練習はあまりしていなかったが、この結果はすごい。

 ……と、感動している場合ではなかった。奴らが本気になる前に、出来るだけ戦力を削いでおく。

 俺は狙いを定めると、次々に発砲。なだれ込んでくる神殿騎士の膝を撃ちぬく。音もなく放たれた弾丸に、バッタバッタと倒れていく騎士たち。

「うぉぉぉ。すげぇぇえ。このライフルすげぇぇええ」

 こんな簡単に倒せていいのか不思議に思ったが、どうやらこれはリザが用意してくれた特殊徹甲弾が効いたらしい。弾丸に込めた俺の魔力と相まって、すさまじい威力を出したようだ。対物対魔に優れている神殿騎士も、さすがに耐えられなかったのだ。

 俺はゲームをする感覚で、人を撃ち倒す。まるでFPSゲームである。パシュンパシュンと渇いた発砲音だけが俺の耳に残る。

 教会入り口の方では阿鼻叫喚で、マーティン司祭がシスターたちを避難させている。マーティン司祭だけはパニックにならず、職員たちを誘導し、逃がしている。

 うむ。さすがマーティンだ。元冒険者ってのは伊達じゃないな。

 俺は次々になだれ込んでくる騎士たちを撃っていくが、突然奴らの進行が止まった。大盾を構えて、入り口をふさいだのだ。

「撃ってきたのはそちらです。戦いたいのなら、私が相手になりましょう」

 直後、ロイド司教が水の槍を宙に浮かせて、俺のいる場所にぶっ放してきた。相手の力を計るとか、そう言った小細工は一切ない。マジで殺す気で撃ってきた。
 
 俺は、飛んでくる水槍を防ぐため、水の障壁を咄嗟に作る。水の盾が俺の周りに形成され、飛んできた水槍とぶつかりあって爆発する。

「ぐあ!! すげぇ威力だ!! 一発で水の盾が壊れた!!」

「ん? その魔法。その声。子供か?」

 俺が水魔法を使ったことをロイドに見られてしまう。フードで顔を隠しているので、顔までは見られていないが、かなりまずい状況だ。

「やはり、水魔法使いがいましたか。なかなかどうして、死にかけのダーナ教会も侮れませんね」

 ロイドは数十本の水槍を作り出すと、再度発射。俺に向けて、容赦なく投擲するのだった。


 
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