この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第二章

64 便所掃除(後半から閲覧注意)

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 アルテアに水魔法使いのことを聞いてみると、いろいろと種類があるようだ。

 水は個体、液体、気体と、いろいろな形になる。水の硬度やペーハー値なども変わってくる。このような性質をすべてカバーする水魔法使いは、かつて存在した水神リルしかいないという。

 体内で練り上げる魔術式と魔力が複雑すぎるので、土魔法と水魔法は扱いが難しいようだ。土と水はとても親和性が高く、かつての水神リルには、多くの土魔法使いが仲間にいたとか、そんな話もしていた。

 基本的に、アルテアのような水魔法使いがマジョリティ多数派で、俺のような水魔法使いがマイノリティ少数派。そういうことだった。

「アルテア。水魔法使いのことは何となくわかった。でもさ、よく話に出てくる、水神リルって何者なんだ?」

「水神リル様をご存知ないのですか? 水神リル様は、ダーナ様から遣わされた、神の御使い様ですよ」

「え、水神リルが神の御使い?」

「はい。遥かな昔、神の代行者として地上に降臨し、数々の自然災害、飢饉を救った英雄です。他にも戦争もいくつか終結させ、世界を平和に導いた立役者です。魔導大戦がはじまる前は、この国も豊かな大地が広がっていたと言います」

「それは水神リルがやったのか?」

「はい。この国には水神リル様の遺物が多く残っていますし、塩トマトという作物を伝えられたのも、水神リル様です」

 塩トマト? そう言えば畑の隅っこにトマトが植えてあったな。あれが塩トマトか? というか、日本の『トマト』で言葉が通じるんだな。

「トマトは塩害に強く、汚染された土壌を回復させる力がある作物です。これを伝えたのは、伝説の水魔法使いリル様だと言われています。数百年後の今日。この国が塩害に苦しむことが分かっていたのでしょうか? すごい先見の明を持った方です」

 アルテアは、やたらと水神の肩を持つな。っていうか、塩トマトって熊本県の特産品だぞ。フルーツトマトの元祖って言われてる、ものすごい甘いトマトだ。大震災で脚光を浴びたトマトでもある。

「アルテア。水神リルってのは、いつごろ生きていた奴なんだ?」

「詳しいことは分かりませんが、数百年前だと言われています。魔導大戦がはじまるずっと以前の話です」

「ふうむ。相当前に生きていたのか」

 時間の概念が壊れるが、神の御使いって言われてるし、水神リルって、転生者じゃないか? 塩トマトのことからも、日本人だと思われるが……。

 俺はリルのことを知れば知るほど、日本人と合致することに気が付いた。これは、かなりきな臭いぞ。ダーナ様は、この世界に日本人を送り込むのが好きなのか?

「分かったアルテア。とりあえず水魔石からは大量の水が出るようになった。これでしばらくは持つだろう」

「はい。本当にありがとうございます」

 アルテアは深々と頭を下げた。

 ドラ〇もんのような形をした水魔石をもう一度見ると、水がドバドバ出ていた。チョロチョロではない。噴水のため池にも水が入りきらず、外にあふれ出ている。あふれ出た水は排水管を通って、砦各所の貯水槽に流れるようだ。

 これで水不足は解消される。大量の水が流れたし、作物の育ちも良くなるはずだ。今後はもっと作物を育てて、食料を改善できる。

 そして、次に俺が目を向けた物が、砦の下水処理についてだ。

「アルテア。この砦、全体的にドブ臭いぞ。どうなってる?」

 砦の通路には、ゴミは落ちていない。多分、掃除を徹底しているのだろう。それに、ゴミは燃料としても使っていると、アルテアが教えてくれた。

 問題は、トイレや生活排水などの水回りが整っていないそうだ。岩山の中だし、近くの川も干上がっている。汚水処理が間に合わず、砦全体がドブ臭い。特に下層の方から臭ってくる。多分、排せつ物を地下に貯めているのだろう。

「すみません。アオ様。お金があればいろいろと化学薬品で処理できるのですが、さすがにそこまでは手が回らず……」

 アルテアはしょんぼりと肩を下げた。

「よし。ならば聖水を使って、汚水を浄化するぞ。ちょうど、水魔石から聖水が出たばっかりだしな」

「え? 伝説の聖水を汚水に混ぜるのですか?」

「そうだ。現状、それ以外にない。病気になってからでは遅い。聖水で砦を綺麗にするぞ!」

 俺は王子であるアルテアに命令。神の御使いである権力を、ここぞとばかりに行使した。

「あの、浄化するのは分かりました。方法はどうするのです?」

「そのままの意味だ。便所に聖水を入れて浄化する」

「えぇ? 汚物を貯めている便槽に、直接聖水を入れるのですか?」

 アルテアは顔をしかめた。汚いことは嫌みたいだ。俺だって嫌だが、仕方あるまい。

「何か、他に方法があるのか? 意見があるのなら聞こうじゃないか」

「意見は、ないのですが……もしかして、私もやるのですか?」

「当たり前だ。嫌なことは全部住民に押し付けるのか?」

「うっ。それは……」

 便所掃除など、王族のアルテアがやるべきことではないが、俺は差別しない。相手が王だろうが神だろうが、関係ない。それにな、マハトマ・ガンジーは、奴隷の仕事を自らすることで、差別をなくそうと頑張ったんだぞ。王とは、民の規範にならねばならん。

「俺だって嫌なんだ。だけど、嫌なことを率先してやらなきゃ、王とは言えんだろ。すぐに便所掃除をするぞ。俺は快適な砦ライフを送りたいんだ」

「快適な砦ライフ?」

「反乱軍の砦ってのは、男の憧れなんだよ。そこが汚いのは我慢ならん」

 俺は意味不明の理屈を言って、嫌がるアルテアに命令。どっちが王様か分からん状態だ。

 砦の住人総出で、トイレにたまった汚水を綺麗にする。

 ここの砦には下水処理が無く、ぼっとん便所である。一応、臭塔という排気設備があるが、気休め程度。砦内がかなり臭い。入り口から上階の方は気にならなかったが、下層の方は様々な臭いが混ざって、かなり臭い。これでは病気になる。下層で育てている小麦にも悪影響だ。

 感染病になったら大変なので、聖水をみんなで汲み上げて、ボットン便所に流す。一応洋式便所だったが、かなり汚い。尿が固まって石になってるし、いろいろと茶色い。清掃用具も、まともにないようだ。

 しかも普段の便所掃除は難民たちの仕事で、みんな嫌々やっていた。溜まった便を汲み上げて捨てるのも、難民たちだ。これはかなり可哀想な作業である。よくこれで病気にならなかったと、感心している。このひどい現状、なんとかしてやりたい。

 俺は吐き気を押さえて、みんなで聖水を便所に流した。老若男女、貴族や王族も混じって、全員でバケツリレーだ。

 便槽(し尿層)に聖水を大量に流し込む。あふれる一歩手前まで、聖水を入れてやった。

「みんなストップ! このままだと糞があふれる!! ストップだ!! うげぇぇえ!!」

 吐きそうになるが、我慢する。アルテアはすでに匂いで気絶して、リタイア。担架で運ばれていった。新参者の俺が、なぜか頑張っている。

「みんな、他の便槽にも聖水を入れるぞ! あと少しだ!」

 バケツリレーで聖水を便所にぶちこみ、数時間放置。砦内にあるトイレすべてに聖水を入れた。


★★★



「よし! 匂いが消えたな!!」

 砦にいた難民、奴隷、兵士や貴族。全員が驚いている。匂いが消えて便所が綺麗になっているんだからな。

 これはまるで魔法だ。

 ……いや、魔法だったな。聖水は魔法の水だ。だから無理やり解決できる。

 細かいことは気にしてはならん。すべては魔法で解決だ。理論がどうたらとは考えてはいけない。

「こんな力技が通用するとは……。信じられない。長年の問題をたった一日で解決するとは。一体どうなっているんだ」

 アルテアが驚いているが、気にしない。ボットン便所内も綺麗にして、病気も防いだ。これで老人や子供たちが病気で死ぬ確率が下がる。

 便槽にたまっていた汚水も浄化され、綺麗な水になっている。まるで流れる小川のようだ。便槽から『し尿』を汲み上げる難民も、作業が楽になるだろう。なにせ、汲み上げるのは汚水ではなく、浄化された水だからな。

「あとで便所を簡易水洗にしよう。やっぱりボットンは嫌だ。そして、時間がある時に下水処理を作るんだ」

 俺はアルテアに提案し、アルテアも頷いた。 

 快適な砦ライフと言う意味が、アルテアにも通じた瞬間だった。
 







 
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