俺は自販機使いの魔王

無名

文字の大きさ
3 / 6
ニホンジン魔王爆誕

魔王様、自販機を召喚する

しおりを挟む
 俺の前職は、自販機の開発する会社の職員だった。営業職ではなく、開発側の職員だ。

 本当はロボット工学の研究者になりたかったが、夢半ば挫折。機械に詳しい俺は、縁あって自販機開発会社に就職した。

 来る日も来る日も自販機を開発した。俺は別に自販機が嫌いじゃなかったので、次々に新しい自販機の企画、開発をしていった。

 大企業でもなかったので、給料はそこそこだ。ワンルームアパートに一人で住むのがやっとの状態である。

 一応、俺は自販機というものに熟知している。

 そう思っている。

「魔王様、これはなんですか?」

 俺はリシャールに言われ、「うむむ」と唸った。

 答えようがない。なぜ円卓の隣に自販機が現れたのだ。しかも5台も。理解に苦しむ。

 俺は先ほど莫大な魔力を発生させた。城全体を包み込むほどの魔力を。

 怪我をしたり、腹をすかせたり、息も絶え絶えの魔族たちに、俺の魔力で喝を入れた。まだ死ぬのは早い。人間どもを一人でも倒すのだ。そんな思いを込めた魔力を放出した。というか、よく分からず勝手に放出された。

 そんでもって、気が付いたら城の至る所に自販機が設置されていた。どうやら、俺の魔力が具現化したらしい。

「これが魔王様の新しい力? いったいこれは? 勇者たちが使うアーティファクトに似ている。魔王様も同じような力を手に入れたのか? これはもしかして勇者たちを倒せる足がかりに?」

「なにこれなにこれ」

 考え込むリシャールとは対照的に、エルナは自販機にペタペタ触っている。すごく面白がっている。

「リシャールにエルナよ。これは自販機というものだ」

「自販機?」

「そうだ。これはこうやって買うんだ」

 俺は彼らに買い方を教えるが、コイン投入口がない。なんだこれは。無料の自販機か?

 俺はおもむろに、おでんの缶詰の購入ボタンを押した。

 すると、俺の指先から何か抜けていくものを感じる。少し脱力するくらいの、体調の変化が起こる。

 ガコン!

 次の瞬間、取り出し口におでん缶が落ちてきた。

 なんだ? 今何が起きた? 俺はもう一度おでん缶のボタンを押す。すると指からまた何か抜けていく。そして商品が落ちてくる。

 なんだこれは? 何か吸い取られた?

 俺は理解できなかったが、一応商品は買えた。よし、確認するか。

 取り出し口から出て来たのは、日本でよく見るおでん缶。だが、表記は魔人語。俺は読めないはずだが、魔王の記憶が残っていたようだ。魔人語でも難なく読めた。

「リシャール。これはおでん缶だ。おいしいぞ」

「オデンカン? で、ございますか?」

 俺はおでん缶の蓋を開けて食べる。

 うむ。ダシがきいていて、なかなかうまい。 
  
「な! それは食べ物なんですか!? そんな、こんな鉄の塊から食べ物が出てくるなんて!」

 リシャールは驚いているが、逆に聞いた。

「缶詰を知らんのか?」

「あ、いや。缶詰ですか? それはさすがに知っています。ただ、このような缶詰を買う機械など見たこともなくて。光ったり、変な音が鳴っていますし」

 変な音? 購入した時の電子音か? 

「エルナもエルナも~。食べゆー」

 5歳なのに、かなり舌ったらずなエルナ。俺はエルナにアツアツのおでんを食べさせた。食べさせたのは、大根だ。

「うお! お! これ! おいしい!!」  

 エルナは変な声を出して喜んでいる。俺からおでん缶をひったくると、ガツガツと食べだす。よほど腹が減っていたのか?

 俺はリシャールにもおでん缶を渡し、開け方を教える。パカッと蓋を開けると、中にあるつまようじを使って食べるリシャール。

「これは美味しいですね。もしかしたら、食糧事情が改善するかもしれない。これはすごいことですよ。私もその自販機、使ってみても?」

「ああ構わん」

 リシャールは自販機に近づき、おでん缶のボタンを押す。するとリシャールは叫んだ。

「なに!? 魔力が吸われた! なんだこれは! ぐっ!」

 リシャールは膝をついた。

「どうしたリシャール!」

 俺はリシャールに駆け寄り、膝をついて苦しむリシャールに肩を貸す。

「す、すみません。まさか魔力を吸われるとは思わず。失態を」  

 取り出し口を見ると、きちんとおでん缶は出ている。

「あぁ~。エルナも押す。他の奴が欲しい」

 俺の足元でピョンピョン跳ねるエルナ。

「エルナ様! 危険です! これは魔物です! 食べ物を生み出せる、新種の魔物です!」

 リシャールは何か勘違いをしている。魔物ではない。自販機だ。

 そうか。俺の指から抜けて行ったのは、魔力か。おでん缶のボタンから吸い取られたのは、魔力だったのだ。

「エルナも押す! 押す!」

 騒ぐエルナ。こんな子供では無理ではないか? 歴戦の騎士リシャールが膝をついているんだぞ?

 エルナは俺を見てめちゃくちゃ騒ぐ。やはり子供だな。こういうのは大好きらしい。頭に小さな角がなければ、本当に人間の子供だ。

「おじいちゃん! 押させて!!」 

 エルナは魔王しゃまではなく、俺のことをおじいちゃんと呼んだ。

 魔王の残滓は嬉しがったが、俺は嬉しくなかった。俺はじじいではない。

 あまりに騒ぐので、俺はエルナを抱き上げる。身長の小さいエルナに、手が届くように抱いたのだ。これで商品のボタンを押せる。

「魔王様! エルナ様では無理です! かなりの魔力を吸い取られました! 死にますよ! これは人間界におけば、きっと全滅させることが出来るほどのものです!」

 んな無茶な。それは無理だろう。

 そういえばリシャールの話によると、勇者とやらも何か似たような武器を使うらしいな。もしかしたら、勇者とやらは地球人か? 俺と似たような境遇か? 記憶に一番あるものを武器にして、転生しているのか? これが夢じゃなければの話だが。

「だいじょうぶだよ。エルナなら死なないよ」

「すごい魔力を吸い取られましたよ! エルナ様では危険です!」

「大丈夫だ。死ぬ前に俺がなんとかするよ」

 なんとなく、魔力を貸したり与えたりできる気がする。ほんの少し前まで魔力のことすら分からなかったが、”これが魔力”と認識すると、俺の脳みそは高速で理解していった。

 前魔王の力か知らんが、俺には魔力を操る力がある。それも大量に。

 もし危険なら、死ぬ前に、エルナに魔力を送り込めばいい。俺は抱いたエルナにボタンを押させた。

 エルナは悩んだ末、チョコバーのボタンを押した。お菓子だと認識したようだ。

「うわ! すごい疲れる!! たのしい~!」

 エルナは叫ぶが、元気そうだ。膝をついたリシャールとはかなり違う。もしかして、俺の孫だから魔力が多いのだろうか?

「そんな。エルナ様は私よりも? さすが魔王様のお孫。将来が恐ろしい」  

 エルナに負けたことよりも、エルナの将来を考えるリシャール。さすがだ。イケメンで心も広い。

 とにかく、この自販機、城中に出現したぞ。民たちが面白半分にボタンを押すかもしれん。リシャールであれだ。魔力の少ない物は本当に死ぬかもしれん。

 俺は民たちが集まっている、玉座の間へ急いだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...