俺は自販機使いの魔王

無名

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ニホンジン魔王爆誕

魔王様、自販機を召喚する

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 俺の前職は、自販機の開発する会社の職員だった。営業職ではなく、開発側の職員だ。

 本当はロボット工学の研究者になりたかったが、夢半ば挫折。機械に詳しい俺は、縁あって自販機開発会社に就職した。

 来る日も来る日も自販機を開発した。俺は別に自販機が嫌いじゃなかったので、次々に新しい自販機の企画、開発をしていった。

 大企業でもなかったので、給料はそこそこだ。ワンルームアパートに一人で住むのがやっとの状態である。

 一応、俺は自販機というものに熟知している。

 そう思っている。

「魔王様、これはなんですか?」

 俺はリシャールに言われ、「うむむ」と唸った。

 答えようがない。なぜ円卓の隣に自販機が現れたのだ。しかも5台も。理解に苦しむ。

 俺は先ほど莫大な魔力を発生させた。城全体を包み込むほどの魔力を。

 怪我をしたり、腹をすかせたり、息も絶え絶えの魔族たちに、俺の魔力で喝を入れた。まだ死ぬのは早い。人間どもを一人でも倒すのだ。そんな思いを込めた魔力を放出した。というか、よく分からず勝手に放出された。

 そんでもって、気が付いたら城の至る所に自販機が設置されていた。どうやら、俺の魔力が具現化したらしい。

「これが魔王様の新しい力? いったいこれは? 勇者たちが使うアーティファクトに似ている。魔王様も同じような力を手に入れたのか? これはもしかして勇者たちを倒せる足がかりに?」

「なにこれなにこれ」

 考え込むリシャールとは対照的に、エルナは自販機にペタペタ触っている。すごく面白がっている。

「リシャールにエルナよ。これは自販機というものだ」

「自販機?」

「そうだ。これはこうやって買うんだ」

 俺は彼らに買い方を教えるが、コイン投入口がない。なんだこれは。無料の自販機か?

 俺はおもむろに、おでんの缶詰の購入ボタンを押した。

 すると、俺の指先から何か抜けていくものを感じる。少し脱力するくらいの、体調の変化が起こる。

 ガコン!

 次の瞬間、取り出し口におでん缶が落ちてきた。

 なんだ? 今何が起きた? 俺はもう一度おでん缶のボタンを押す。すると指からまた何か抜けていく。そして商品が落ちてくる。

 なんだこれは? 何か吸い取られた?

 俺は理解できなかったが、一応商品は買えた。よし、確認するか。

 取り出し口から出て来たのは、日本でよく見るおでん缶。だが、表記は魔人語。俺は読めないはずだが、魔王の記憶が残っていたようだ。魔人語でも難なく読めた。

「リシャール。これはおでん缶だ。おいしいぞ」

「オデンカン? で、ございますか?」

 俺はおでん缶の蓋を開けて食べる。

 うむ。ダシがきいていて、なかなかうまい。 
  
「な! それは食べ物なんですか!? そんな、こんな鉄の塊から食べ物が出てくるなんて!」

 リシャールは驚いているが、逆に聞いた。

「缶詰を知らんのか?」

「あ、いや。缶詰ですか? それはさすがに知っています。ただ、このような缶詰を買う機械など見たこともなくて。光ったり、変な音が鳴っていますし」

 変な音? 購入した時の電子音か? 

「エルナもエルナも~。食べゆー」

 5歳なのに、かなり舌ったらずなエルナ。俺はエルナにアツアツのおでんを食べさせた。食べさせたのは、大根だ。

「うお! お! これ! おいしい!!」  

 エルナは変な声を出して喜んでいる。俺からおでん缶をひったくると、ガツガツと食べだす。よほど腹が減っていたのか?

 俺はリシャールにもおでん缶を渡し、開け方を教える。パカッと蓋を開けると、中にあるつまようじを使って食べるリシャール。

「これは美味しいですね。もしかしたら、食糧事情が改善するかもしれない。これはすごいことですよ。私もその自販機、使ってみても?」

「ああ構わん」

 リシャールは自販機に近づき、おでん缶のボタンを押す。するとリシャールは叫んだ。

「なに!? 魔力が吸われた! なんだこれは! ぐっ!」

 リシャールは膝をついた。

「どうしたリシャール!」

 俺はリシャールに駆け寄り、膝をついて苦しむリシャールに肩を貸す。

「す、すみません。まさか魔力を吸われるとは思わず。失態を」  

 取り出し口を見ると、きちんとおでん缶は出ている。

「あぁ~。エルナも押す。他の奴が欲しい」

 俺の足元でピョンピョン跳ねるエルナ。

「エルナ様! 危険です! これは魔物です! 食べ物を生み出せる、新種の魔物です!」

 リシャールは何か勘違いをしている。魔物ではない。自販機だ。

 そうか。俺の指から抜けて行ったのは、魔力か。おでん缶のボタンから吸い取られたのは、魔力だったのだ。

「エルナも押す! 押す!」

 騒ぐエルナ。こんな子供では無理ではないか? 歴戦の騎士リシャールが膝をついているんだぞ?

 エルナは俺を見てめちゃくちゃ騒ぐ。やはり子供だな。こういうのは大好きらしい。頭に小さな角がなければ、本当に人間の子供だ。

「おじいちゃん! 押させて!!」 

 エルナは魔王しゃまではなく、俺のことをおじいちゃんと呼んだ。

 魔王の残滓は嬉しがったが、俺は嬉しくなかった。俺はじじいではない。

 あまりに騒ぐので、俺はエルナを抱き上げる。身長の小さいエルナに、手が届くように抱いたのだ。これで商品のボタンを押せる。

「魔王様! エルナ様では無理です! かなりの魔力を吸い取られました! 死にますよ! これは人間界におけば、きっと全滅させることが出来るほどのものです!」

 んな無茶な。それは無理だろう。

 そういえばリシャールの話によると、勇者とやらも何か似たような武器を使うらしいな。もしかしたら、勇者とやらは地球人か? 俺と似たような境遇か? 記憶に一番あるものを武器にして、転生しているのか? これが夢じゃなければの話だが。

「だいじょうぶだよ。エルナなら死なないよ」

「すごい魔力を吸い取られましたよ! エルナ様では危険です!」

「大丈夫だ。死ぬ前に俺がなんとかするよ」

 なんとなく、魔力を貸したり与えたりできる気がする。ほんの少し前まで魔力のことすら分からなかったが、”これが魔力”と認識すると、俺の脳みそは高速で理解していった。

 前魔王の力か知らんが、俺には魔力を操る力がある。それも大量に。

 もし危険なら、死ぬ前に、エルナに魔力を送り込めばいい。俺は抱いたエルナにボタンを押させた。

 エルナは悩んだ末、チョコバーのボタンを押した。お菓子だと認識したようだ。

「うわ! すごい疲れる!! たのしい~!」

 エルナは叫ぶが、元気そうだ。膝をついたリシャールとはかなり違う。もしかして、俺の孫だから魔力が多いのだろうか?

「そんな。エルナ様は私よりも? さすが魔王様のお孫。将来が恐ろしい」  

 エルナに負けたことよりも、エルナの将来を考えるリシャール。さすがだ。イケメンで心も広い。

 とにかく、この自販機、城中に出現したぞ。民たちが面白半分にボタンを押すかもしれん。リシャールであれだ。魔力の少ない物は本当に死ぬかもしれん。

 俺は民たちが集まっている、玉座の間へ急いだ。



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