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アルファなBL作家が考証を求めてきます
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森村セイジの小説『触れて、性感帯』の主人公・フユミは、不感症に悩んでいる。だけどアキトという男の指が触れた時だけ、全身が性感帯になる特殊体質だった。
アキトはフユミを悦ばせたくて、性感帯になるところすべてを、愛撫し尽くしてくれる。フユミは救われて、小説の最後で二人は幸せそうだった。
でもそれは全部、フィクションだ。
そのはず、なのに……。
「あっ、ああ、あんっ……!」
恥ずかしいくらい下半身を広げて、恥ずかしいところまでを赤の他人に晒している。
ベッドに後頭部を押し付けられて、おれはシーツへ必死にしがみついた。
大きな、たくましい身体に抱かれてきゅんとしているのは、オレの生殖本能なのか、それともセイジさんのモノなのか、よくわからないくらい一つになっている。
耳を食まれて、ゾクゾクした。フユミは耳たぶまでもアキトの肌で触れれば性感帯で……主人公とは似ても似つかず、可愛くも美しくもないはずのオレは、オメガのせいなのか、今は自分自身どこかしこも性感帯みたいになっている。
「また香りが強くなった。嬉しい?」
「や、ん、耳元で、囁かないでっ……」
「この体位だと、こういうふうになるんだよ」
「あ……ああっ」
腰が振られて、のけぞった。
「あっ、お、奥……! せ、セイジさ……セイジさんっ、ど、どこ」
「ここいるよ」
「セイジさんの、おっきくて──あんっ、やぁっ!」
また、奥まで貫かれた。
「どこ、まで、オレの体か、わ、わかんな……」
「……ぼくもだ」
「こ、怖い……!」
「『もっと』、『触れて』。台詞通りに言って」
「『もっと』……」
なんで、オレはこの人のいいなりに……?
でも不思議と、気持ちいい。
「……『触れて』」
「上手に言えたね」
うまく言えたご褒美に、もっと……触れて、性感帯。
オレをどろどろのぐちゃぐちゃにして。
違う。これは考証なんだ。セイジさんはただ、オレの本能の処理に付き合ってくれているだけ。
セイジさんの顔を、まともに見られない。今あなたが、どんな表情をしているのかと思うと……!
まるで心を読まれたみたいに、逃げられないよう強く抱き寄せられる。
「やあっ……」
「肩、掴んでいいよ」
「でもっ、爪で、傷つけちゃうっ……」
「傷つけていい」
あなたにしがみつく。
もっと奥まで。セイジさんのぜんぶ、オレのナカに入れて。
オレを壊して。
「怖くない?」
セイジさんの低く甘い、しびれる声に、オレは何度も頷いた。
「かわいいな」
首の根元に、チリッと痛みが走る。
「ひ、っん……!」
キスマーク、つけてくれたの?
汗の匂い。オレの砦の中に香っている、オレ以外の誰かの匂いだ。
体がバラバラになるくらい、奥まで貫かれた。
意識が白く散った。
*
眠りに落ちた時いつも見る悪夢は、十一年前の過去の記憶だ。
当時男子校の高校三年生だったオレは、目立たない学生だった。美術部の部活に熱心に参加しても、他の部には幽霊部員だと思われるくらい影が薄かった。話しても口下手で、色白で、ひょろい男。カースト底辺というか、カーストピラミッドの外にいるような、誰にも見向きもされない存在。
そんなオレが、学年ただ一人のオメガだという理由だけで、当時カースト頂点にいたアルファの人気者と付き合っていた。
「卒業したら番になろう」。
幼稚園児みたいな約束だけを、固く結んで。
そんなとき、オレは全国高校生絵画コンクールで賞を取った。
すべてが狂う始まりの音を聞いたのは、その時だ。
今まで見向きもしなかった学生たちや先生が、本心ではよく咀嚼しきれていないオレの絵に対して絶賛をし始めた。
表彰式に呼ばれて、彼氏や担任たちと一緒に会場へ行った。その時ちょうど発情期が来そうな予感がして、病院から処方されたヒート抑制剤をあらかじめしっかり飲んでいた。
だが表彰台に上がり、審査員長を賞状を手渡され、一瞬相手の指の皮膚が触れたたとたん、オレはひっくり返った。薬で抑え込んだはずのヒートが始まったからだ。
そして次に気がついた時、オレは審査員長にのしかかられて、襲われそうになっていた。
審査員長は、アルファだった。彼はオレのフェロモンに当てられて、本能をむき出しにした。
だが、オレが今も恐れているのはその審査員長なんかじゃない。
『なんでΩがαより目立ってんの?』
オレが本当に恐れているのは──。
アキトはフユミを悦ばせたくて、性感帯になるところすべてを、愛撫し尽くしてくれる。フユミは救われて、小説の最後で二人は幸せそうだった。
でもそれは全部、フィクションだ。
そのはず、なのに……。
「あっ、ああ、あんっ……!」
恥ずかしいくらい下半身を広げて、恥ずかしいところまでを赤の他人に晒している。
ベッドに後頭部を押し付けられて、おれはシーツへ必死にしがみついた。
大きな、たくましい身体に抱かれてきゅんとしているのは、オレの生殖本能なのか、それともセイジさんのモノなのか、よくわからないくらい一つになっている。
耳を食まれて、ゾクゾクした。フユミは耳たぶまでもアキトの肌で触れれば性感帯で……主人公とは似ても似つかず、可愛くも美しくもないはずのオレは、オメガのせいなのか、今は自分自身どこかしこも性感帯みたいになっている。
「また香りが強くなった。嬉しい?」
「や、ん、耳元で、囁かないでっ……」
「この体位だと、こういうふうになるんだよ」
「あ……ああっ」
腰が振られて、のけぞった。
「あっ、お、奥……! せ、セイジさ……セイジさんっ、ど、どこ」
「ここいるよ」
「セイジさんの、おっきくて──あんっ、やぁっ!」
また、奥まで貫かれた。
「どこ、まで、オレの体か、わ、わかんな……」
「……ぼくもだ」
「こ、怖い……!」
「『もっと』、『触れて』。台詞通りに言って」
「『もっと』……」
なんで、オレはこの人のいいなりに……?
でも不思議と、気持ちいい。
「……『触れて』」
「上手に言えたね」
うまく言えたご褒美に、もっと……触れて、性感帯。
オレをどろどろのぐちゃぐちゃにして。
違う。これは考証なんだ。セイジさんはただ、オレの本能の処理に付き合ってくれているだけ。
セイジさんの顔を、まともに見られない。今あなたが、どんな表情をしているのかと思うと……!
まるで心を読まれたみたいに、逃げられないよう強く抱き寄せられる。
「やあっ……」
「肩、掴んでいいよ」
「でもっ、爪で、傷つけちゃうっ……」
「傷つけていい」
あなたにしがみつく。
もっと奥まで。セイジさんのぜんぶ、オレのナカに入れて。
オレを壊して。
「怖くない?」
セイジさんの低く甘い、しびれる声に、オレは何度も頷いた。
「かわいいな」
首の根元に、チリッと痛みが走る。
「ひ、っん……!」
キスマーク、つけてくれたの?
汗の匂い。オレの砦の中に香っている、オレ以外の誰かの匂いだ。
体がバラバラになるくらい、奥まで貫かれた。
意識が白く散った。
*
眠りに落ちた時いつも見る悪夢は、十一年前の過去の記憶だ。
当時男子校の高校三年生だったオレは、目立たない学生だった。美術部の部活に熱心に参加しても、他の部には幽霊部員だと思われるくらい影が薄かった。話しても口下手で、色白で、ひょろい男。カースト底辺というか、カーストピラミッドの外にいるような、誰にも見向きもされない存在。
そんなオレが、学年ただ一人のオメガだという理由だけで、当時カースト頂点にいたアルファの人気者と付き合っていた。
「卒業したら番になろう」。
幼稚園児みたいな約束だけを、固く結んで。
そんなとき、オレは全国高校生絵画コンクールで賞を取った。
すべてが狂う始まりの音を聞いたのは、その時だ。
今まで見向きもしなかった学生たちや先生が、本心ではよく咀嚼しきれていないオレの絵に対して絶賛をし始めた。
表彰式に呼ばれて、彼氏や担任たちと一緒に会場へ行った。その時ちょうど発情期が来そうな予感がして、病院から処方されたヒート抑制剤をあらかじめしっかり飲んでいた。
だが表彰台に上がり、審査員長を賞状を手渡され、一瞬相手の指の皮膚が触れたたとたん、オレはひっくり返った。薬で抑え込んだはずのヒートが始まったからだ。
そして次に気がついた時、オレは審査員長にのしかかられて、襲われそうになっていた。
審査員長は、アルファだった。彼はオレのフェロモンに当てられて、本能をむき出しにした。
だが、オレが今も恐れているのはその審査員長なんかじゃない。
『なんでΩがαより目立ってんの?』
オレが本当に恐れているのは──。
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