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アルファなBL作家が考証を求めてきます
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「うあッ!」
自分の叫び声で、目覚めた。
酸素が足りなくて、恐怖に体がすくんで、うなじを手で押さえながら、必死に呼吸の仕方を思い出す。
「はぁっ……はぁっ……」
もうやだ。
これ以上、オレを苦しませないで。過去にオレが何をしたというの。
オレは、アルファより目立たず生きているでしょう?
だから、もう赦して……。
「ううっ……」
手で触れたうなじがまだ綺麗なままなのが、唯一、オレが正気でいるためのよすがだった。
「……久斗くん?」
耳元に吐息混じりの声がかかる。
オレは一気に現実に引き戻された。そういえば、起き上がろうとしても、体に重みが乗っかってぜんぜん起き上がれない。
重みの原因を振り返ると、そこには……森村セイジ。
抱きしめられている腕を振りほどく。虫に負けない素早さでセイジさんから距離を取り、オレは狭いワンルームの壁に避難した。
恐すぎて、叫び声すら出ない。乱れるばかりの呼吸を整えるために、手の甲で口を押さえた。
オレ、昨日、何をやっちゃったんだ。服もいつの間にか着せられているし。
セイジさんは昨日の服を着ていた。オレの神聖なベッドからむくりと起き上がって、朝日の後光を浴びながら、こちらへにっこりと笑いかける。
「気分はどう?」
「サイアクに決まってんだろ」
「うん、その分だとヒートはおさまってるな。とりあえず安心した」
「ええ、ええ、そりゃ安心ですとも!」
絶対にお礼なんか言うもんか。
オレは震えの収まらない指を、部屋の出口に向けた。
「オレの砦から今すぐ出て行ってくれ」
「砦にしては抜け穴が多いな」
「うるせえ!」
カッと体が火照って、恥ずかしさを誤魔化すため壁に拳を叩きつける。
昨日のことを忘れるほうが無理だ。今すぐ消えたい。こんなことになるなら、もう二度と外になんか出て行かない!
「さっさと消え失せろ」
「いきなり口調がハードボイルド……。久斗くんって、恥ずかしくなると口が悪くなるの?」
「この態度が気に食わなくてオレを絵師から下ろしてもかまわないから、出てけ。口はもともとだっつうの」
「うそ。よがってた時はあんなに可愛い口調でおねだり──」
「クソがッッ!」
セイジさんはため息をついて、やっと出て行くそぶりを見せた。ベッドからゆっくりと起き上がり、乱れた前髪をかきあげて、床に放り投げられていた自身のカバンを掴み取る。
だが去り際、なぜかオレはセイジさんに腕を掴まれて、引っ張られた。
「さあ行こう」
「え、なに」
「お望み通りぼくはここから出て行くんだ。きみを病院へ連れにね」
「ぜったいに行かないそんな金ないアフターも費用がバカにならない」
「ラッパーみたいだな」
壁から出っ張っている柱の部分に、オレはしがみついた。とたんに服ごと背中を引っ張られる。セイジさんは意地でもオレをこの砦から出そうとしているらしい。
「いややめて服が伸びるやめてやめてやめて」
「薬代なら貸してあげるよ。十日一割でね」
「闇金め!」
「うそだよ。病院に行ってもらわないとぼくが困る。だからお金の心配はしなくていい」
「信じられる要素が一ミリも感じられねえ」
「森村セイジが孕ませたなんてことになったら、本当に笑えない。ぼくの名誉がかかってる」
そう言われた瞬間、ふっと体重が消えて、浮き上がった。服を引っ張られなくなった代わりに、体を抱き上げられる。
「え……えっ、や、やめて……やーめーてえー!」
オレの絶叫は、虚しく無意味な残響としてマンションの外へ消えた。
自分の叫び声で、目覚めた。
酸素が足りなくて、恐怖に体がすくんで、うなじを手で押さえながら、必死に呼吸の仕方を思い出す。
「はぁっ……はぁっ……」
もうやだ。
これ以上、オレを苦しませないで。過去にオレが何をしたというの。
オレは、アルファより目立たず生きているでしょう?
だから、もう赦して……。
「ううっ……」
手で触れたうなじがまだ綺麗なままなのが、唯一、オレが正気でいるためのよすがだった。
「……久斗くん?」
耳元に吐息混じりの声がかかる。
オレは一気に現実に引き戻された。そういえば、起き上がろうとしても、体に重みが乗っかってぜんぜん起き上がれない。
重みの原因を振り返ると、そこには……森村セイジ。
抱きしめられている腕を振りほどく。虫に負けない素早さでセイジさんから距離を取り、オレは狭いワンルームの壁に避難した。
恐すぎて、叫び声すら出ない。乱れるばかりの呼吸を整えるために、手の甲で口を押さえた。
オレ、昨日、何をやっちゃったんだ。服もいつの間にか着せられているし。
セイジさんは昨日の服を着ていた。オレの神聖なベッドからむくりと起き上がって、朝日の後光を浴びながら、こちらへにっこりと笑いかける。
「気分はどう?」
「サイアクに決まってんだろ」
「うん、その分だとヒートはおさまってるな。とりあえず安心した」
「ええ、ええ、そりゃ安心ですとも!」
絶対にお礼なんか言うもんか。
オレは震えの収まらない指を、部屋の出口に向けた。
「オレの砦から今すぐ出て行ってくれ」
「砦にしては抜け穴が多いな」
「うるせえ!」
カッと体が火照って、恥ずかしさを誤魔化すため壁に拳を叩きつける。
昨日のことを忘れるほうが無理だ。今すぐ消えたい。こんなことになるなら、もう二度と外になんか出て行かない!
「さっさと消え失せろ」
「いきなり口調がハードボイルド……。久斗くんって、恥ずかしくなると口が悪くなるの?」
「この態度が気に食わなくてオレを絵師から下ろしてもかまわないから、出てけ。口はもともとだっつうの」
「うそ。よがってた時はあんなに可愛い口調でおねだり──」
「クソがッッ!」
セイジさんはため息をついて、やっと出て行くそぶりを見せた。ベッドからゆっくりと起き上がり、乱れた前髪をかきあげて、床に放り投げられていた自身のカバンを掴み取る。
だが去り際、なぜかオレはセイジさんに腕を掴まれて、引っ張られた。
「さあ行こう」
「え、なに」
「お望み通りぼくはここから出て行くんだ。きみを病院へ連れにね」
「ぜったいに行かないそんな金ないアフターも費用がバカにならない」
「ラッパーみたいだな」
壁から出っ張っている柱の部分に、オレはしがみついた。とたんに服ごと背中を引っ張られる。セイジさんは意地でもオレをこの砦から出そうとしているらしい。
「いややめて服が伸びるやめてやめてやめて」
「薬代なら貸してあげるよ。十日一割でね」
「闇金め!」
「うそだよ。病院に行ってもらわないとぼくが困る。だからお金の心配はしなくていい」
「信じられる要素が一ミリも感じられねえ」
「森村セイジが孕ませたなんてことになったら、本当に笑えない。ぼくの名誉がかかってる」
そう言われた瞬間、ふっと体重が消えて、浮き上がった。服を引っ張られなくなった代わりに、体を抱き上げられる。
「え……えっ、や、やめて……やーめーてえー!」
オレの絶叫は、虚しく無意味な残響としてマンションの外へ消えた。
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