86 / 134
キューピッドは囁かれる
7
しおりを挟む
「恥ずかしい……」
「大丈夫。おれも感じているよ」
「ま、さきさん……っ」
誰にも知られたことのない、自分すら知らない秘めたところを、初めて恋してくれた人に探られて、拓かれる。そんな未知の世界に、言葉が追いつかない。
涙が出た。
「っ……ううっ……」
僕は自分のことを、強靭とまではいかなくても、繊細ではない思っていた。
本当は、こんなに臆病な人間だったなんて。
僕を抱いてくれる人が、僕を魅力的だと言ってくれる人が、この世にいるなんてありえないと決めつけていた。
どこかむなしく冷たかった心が温められて、涙が止まらない。
「こんなの、ぼ、僕じゃない……」
「真也」
「……っ、見ないで……いやだ、……みないで」
「怖いのか?」
その言葉には、首を必死に振って、否定した。
「この涙は、違うんです。あなたや行為が怖いんじゃなくて、こ、この状況に頭が追いつかなくて……」
「……」
「胸がいっぱいで、嬉しいのか苦しいのかわからない……と、止まらないんです」
涙の伝った頬にいたわしげな指が走る。
「やめるか?」
涙を流れるに任せたまま、うっすらと目を開く。
僕を労ってくれる彼の顔を見ていると、怖いと思う先を、雅樹さんとなら見てみたいと思う。
僕の知らない感情を見せてくれた人となら、僕の知らないところへ行きたい……って。
「連れていって、ください……」
「うん。じゃあ一緒に恥ずかしくなろう」
雅樹さんが僕の涙をもう一度拭ってくれた。そのまま、手が自分の服と下着をおろす。
先ほどから服の上でも見えるほど怒張したそれは、僕のとは比べ物ならないくらいの大きさだった。
今さらになって、雅樹さんが『最初からすべてを受け入れようとしなくていい』と言ってくれた意味を察する。
アルファのそれは、通常よりも大きく、しかもオメガに種を残すための本能の名残か、簡単には抜けないような構造になっている。
ベータの身体なうえ、一度も受け入れたことのない僕の後ろへ無理に挿れれば、たぶん怪我ではすまないだろう。
笑おうとして、泣き顔のまま無理やり口角を上げた。
「……たしかにこれは、はじめてで受け入れられる気はしない、です」
「素直に口にしてくれるところが好ましいと思うよ」
そっと、彼のモノに手を伸ばして触れると、雅樹さんの全身がぴくりと一瞬だけわなないて、先端から透明な液が滴った。
「でも、ほ、本当に僕で……?」
「好きな人が、おれの手で恥じらって、感じて、こちらに触れてくれる。それだけでいいんだ」
「好きな人──んっ」
雅樹さんは僕を口づけで貪ってくる。勃起してぬらりとした僕のものへ、自分のものをこすり合わせた。
「……んんっ!」
塞がれた口元から叫びのような吐息が漏れる。
握られているわけでも、口でされているわけでも、ましてや挿入しているわけでもない。なのに、熱ととろみで触れられた箇所が、あまりに気持ちいい。
「ん……ふっ……」
喘ぎはキスで封じ込められて、まるで僕のその苦しさまでも、雅樹さんは味わおうとしてくれているみたいで。
「あぁ……っ!」
あっけなく、僕は果てた。飛び散った白が僕の腹や彼のペニスにかかる。
倦怠感にも似た快感がやってくる。
「っ……!」
雅樹さんも続けて精を吐き出した。
僕の出した白い熱のおかげだろうか。もしそうだとしたら──。
「真也、その顔はいけない」
「っ、え……?」
「煽らないでくれ」
「あ、煽ってません」
「その顔を今まで誰にも見せたことがないと思うと、今日は挿れないと決めているのに……揺さぶられる」
見ると雅樹さんのものがまた怒張していた。それをごまかすかのように「キス……」と吐息交じりに雅樹さんはつぶやいて、もう何度かわからない唇を迫ってくる。
その時の雅樹さんの顔のほうが──艶っぽくて、雄らしくて、欲情に切羽詰まっている美貌のほうが、よっぽど僕を煽り立てた。
雅樹さんの唇を受け入れながら、自分から腕を伸ばして彼の首に絡ませた。呼応していっそう激しくなった雅樹さんの舌が僕の歯をなぞり、僕の舌を雅樹さんが歯で捕まえて、さらに激しく貪っていく。萎えていた僕のそこも、また徐々にそそり立ってくる。
またお互いのペニスを突き合わせる。
雅樹さんの大きな手が二つまとめにそれらを扱き上げた。
「あ、あぁっ」
背が戦慄いた。雅樹さんの指に追い立てられて何度も腰が跳ねる。
「やっ、あ……ぁあ」
「かわいいよ」
「まさき、さんっ……、やぁ…!」
キスは顎の下に落ちて、首筋を甘噛みされて、耐えきれない喘ぎが僕の口から漏れた。
「っ……ぅ、あッ、あ…」
これが……セックス。体でお互いの心を確認する行為。
「はっ……、きもち、い……っ」
「……真也」
雅樹さんが幸せそうに、唇を歪める。
「真也」
名を呼んでほしい、と言われている気がした。
「雅樹さん……」
応えて、また名を呼ばれ、名を呼ぶ。喘いで快感を伝え合う。
それ以外には静寂の中で進む行為。
僕にはそれが、頭の中で文字として知っている激しい行為よりも、いっそう心地よく感じる。
僕たちはそうして静かに果て続けてて、互いの心を何度も確かめ合った。
「大丈夫。おれも感じているよ」
「ま、さきさん……っ」
誰にも知られたことのない、自分すら知らない秘めたところを、初めて恋してくれた人に探られて、拓かれる。そんな未知の世界に、言葉が追いつかない。
涙が出た。
「っ……ううっ……」
僕は自分のことを、強靭とまではいかなくても、繊細ではない思っていた。
本当は、こんなに臆病な人間だったなんて。
僕を抱いてくれる人が、僕を魅力的だと言ってくれる人が、この世にいるなんてありえないと決めつけていた。
どこかむなしく冷たかった心が温められて、涙が止まらない。
「こんなの、ぼ、僕じゃない……」
「真也」
「……っ、見ないで……いやだ、……みないで」
「怖いのか?」
その言葉には、首を必死に振って、否定した。
「この涙は、違うんです。あなたや行為が怖いんじゃなくて、こ、この状況に頭が追いつかなくて……」
「……」
「胸がいっぱいで、嬉しいのか苦しいのかわからない……と、止まらないんです」
涙の伝った頬にいたわしげな指が走る。
「やめるか?」
涙を流れるに任せたまま、うっすらと目を開く。
僕を労ってくれる彼の顔を見ていると、怖いと思う先を、雅樹さんとなら見てみたいと思う。
僕の知らない感情を見せてくれた人となら、僕の知らないところへ行きたい……って。
「連れていって、ください……」
「うん。じゃあ一緒に恥ずかしくなろう」
雅樹さんが僕の涙をもう一度拭ってくれた。そのまま、手が自分の服と下着をおろす。
先ほどから服の上でも見えるほど怒張したそれは、僕のとは比べ物ならないくらいの大きさだった。
今さらになって、雅樹さんが『最初からすべてを受け入れようとしなくていい』と言ってくれた意味を察する。
アルファのそれは、通常よりも大きく、しかもオメガに種を残すための本能の名残か、簡単には抜けないような構造になっている。
ベータの身体なうえ、一度も受け入れたことのない僕の後ろへ無理に挿れれば、たぶん怪我ではすまないだろう。
笑おうとして、泣き顔のまま無理やり口角を上げた。
「……たしかにこれは、はじめてで受け入れられる気はしない、です」
「素直に口にしてくれるところが好ましいと思うよ」
そっと、彼のモノに手を伸ばして触れると、雅樹さんの全身がぴくりと一瞬だけわなないて、先端から透明な液が滴った。
「でも、ほ、本当に僕で……?」
「好きな人が、おれの手で恥じらって、感じて、こちらに触れてくれる。それだけでいいんだ」
「好きな人──んっ」
雅樹さんは僕を口づけで貪ってくる。勃起してぬらりとした僕のものへ、自分のものをこすり合わせた。
「……んんっ!」
塞がれた口元から叫びのような吐息が漏れる。
握られているわけでも、口でされているわけでも、ましてや挿入しているわけでもない。なのに、熱ととろみで触れられた箇所が、あまりに気持ちいい。
「ん……ふっ……」
喘ぎはキスで封じ込められて、まるで僕のその苦しさまでも、雅樹さんは味わおうとしてくれているみたいで。
「あぁ……っ!」
あっけなく、僕は果てた。飛び散った白が僕の腹や彼のペニスにかかる。
倦怠感にも似た快感がやってくる。
「っ……!」
雅樹さんも続けて精を吐き出した。
僕の出した白い熱のおかげだろうか。もしそうだとしたら──。
「真也、その顔はいけない」
「っ、え……?」
「煽らないでくれ」
「あ、煽ってません」
「その顔を今まで誰にも見せたことがないと思うと、今日は挿れないと決めているのに……揺さぶられる」
見ると雅樹さんのものがまた怒張していた。それをごまかすかのように「キス……」と吐息交じりに雅樹さんはつぶやいて、もう何度かわからない唇を迫ってくる。
その時の雅樹さんの顔のほうが──艶っぽくて、雄らしくて、欲情に切羽詰まっている美貌のほうが、よっぽど僕を煽り立てた。
雅樹さんの唇を受け入れながら、自分から腕を伸ばして彼の首に絡ませた。呼応していっそう激しくなった雅樹さんの舌が僕の歯をなぞり、僕の舌を雅樹さんが歯で捕まえて、さらに激しく貪っていく。萎えていた僕のそこも、また徐々にそそり立ってくる。
またお互いのペニスを突き合わせる。
雅樹さんの大きな手が二つまとめにそれらを扱き上げた。
「あ、あぁっ」
背が戦慄いた。雅樹さんの指に追い立てられて何度も腰が跳ねる。
「やっ、あ……ぁあ」
「かわいいよ」
「まさき、さんっ……、やぁ…!」
キスは顎の下に落ちて、首筋を甘噛みされて、耐えきれない喘ぎが僕の口から漏れた。
「っ……ぅ、あッ、あ…」
これが……セックス。体でお互いの心を確認する行為。
「はっ……、きもち、い……っ」
「……真也」
雅樹さんが幸せそうに、唇を歪める。
「真也」
名を呼んでほしい、と言われている気がした。
「雅樹さん……」
応えて、また名を呼ばれ、名を呼ぶ。喘いで快感を伝え合う。
それ以外には静寂の中で進む行為。
僕にはそれが、頭の中で文字として知っている激しい行為よりも、いっそう心地よく感じる。
僕たちはそうして静かに果て続けてて、互いの心を何度も確かめ合った。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
201
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる