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キューピッドは囁かれる
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重ねた指を自分から絡めて、雅樹さんの手の甲に触れる。
「きみ、二重だよな。眼鏡のせいか、あまり意識していなかったが」
眼鏡を取るのは寝室で、雅樹さんは風呂を銭湯で済ませるから僕が着替えるのを見るタイミングもない。
冷静にそんなことを考えていると、固く閉じたまぶたにキスが落ちてきた。
「きれいだ」
「きれいじゃない……」
「またそうやって卑下する」
恥ずかしすぎて目も開けられずにいると、雅樹さんの絡めていないほうの手が、僕の襟元に触れた。
「抱きたい」
「……」
「真也。きみを抱きたい」
恐る恐る目を開けた。いつもより深く、だが泣きそうな微笑みの雅樹さんがこちらを見下ろしている。
すぐに腕で目を隠して、頷いた。熱に全身が浮かされる。
「電気……」
「わかった」
部屋が暗がりに落ちた。襟元からボタンが一つ一つ外されていき、インナーをたくし上げられて、突起ごと胸を赤の他人に晒す。
雅樹さんの手がスラックスに伸びてきて、「待って」ととっさに声が口をついて出る。
「だ、男性とは、はじめてなんです」
「そうか。光栄だな」
「だから、その、僕って下かなって……だとしたら、何もしてなくて」
「何も?」
「後ろとか……」
「ああ」
何が面白いのか、雅樹さんは音を立てずにうすら笑う。
「ち、知識だけ知っているのは、変な趣味とかではなくて、僕がBL小説の編集部門にいるからで」
「ああ、知ってるよ」
「今さらそんなことを言ってすみません。えっと、それで」
「緊張しているのか。かわいいな」
恥ずかしさのあまり喉が締め付けられる。雅樹さんの額が僕の額に触れてきて、吐息を間近に感じた。
「挿れるだけがセックスじゃないよ、真也。だからいきなり全部を受け入れようとしなくていい」
唇や、頬、顎にキスを落とされる。
雅樹さんに、探られている。僕の感じられるところを。
「真也がおれの手で癒された時の声を、聞いてみたい。ゆっくりと、時間をかけて」
「ぁ……」
「身体で心を確かめ合う行為なんだよ」
下唇を啄ばまれたのが合図のように、雅樹さんの探る舌が口内に入ってきた。
先ほどよりも深いキス。
ねっとりとして官能的な彼の舌が僕の形を知ろうとするたび、何か甘い、ずっと溶けない柔らかな果実を食べているかのような感触がする。脳が痺れる。
呼応しようと彼の舌を追いかけて、自分から舌を伸ばしてみる。
「ん……んっ……」
雅樹さんの口の中の形を、味わってみる。くちゅくちゅと、お互いを探り合うリップ音がいやらしくて、でも心地よい。
「……はっ…ぁ……」
お互いの唾液が混ざり合って、呼吸の音だけが静かに、だけど情熱的に繰り返すのがたまらない。
雅樹さんも呼吸を少し乱しているのがわかる。キスを味わってくれている。
それに対して性的に興奮している自分がいる。
自分の中にこんな欲が隠れているなんて、知らなかった。
雅樹さんの指が僕の首から腹に伝ってく。さっきよりも敏感になった肌がびくりと震えて、腰を浮かしそうになる。
指はそのまま下腹部から股座の膨らみを這い、スラックスを下着ごとさげられた。
ソファの上でほとんど全裸になってしまった僕の、茂みを雅樹さんの指がかき分けて、竿に触れられた。
「あッ……」
「感じてくれているんだな」
「だって……雅樹さんの、キスが……あぁっ」
かすかに触れるだけだった竿を今度は指でなぞられて、今度こそ腰がのけぞった。さっきまで頬に触れてくれた大きな手に優しく包み込まれて、少し扱かれるだけで先走りが出る。
他人に触れられると──特別な人に触れられると、自分でするよりも早く達しそうになる。
処理と愛撫が、こんなにも違うものだなんて……。
「きみ、二重だよな。眼鏡のせいか、あまり意識していなかったが」
眼鏡を取るのは寝室で、雅樹さんは風呂を銭湯で済ませるから僕が着替えるのを見るタイミングもない。
冷静にそんなことを考えていると、固く閉じたまぶたにキスが落ちてきた。
「きれいだ」
「きれいじゃない……」
「またそうやって卑下する」
恥ずかしすぎて目も開けられずにいると、雅樹さんの絡めていないほうの手が、僕の襟元に触れた。
「抱きたい」
「……」
「真也。きみを抱きたい」
恐る恐る目を開けた。いつもより深く、だが泣きそうな微笑みの雅樹さんがこちらを見下ろしている。
すぐに腕で目を隠して、頷いた。熱に全身が浮かされる。
「電気……」
「わかった」
部屋が暗がりに落ちた。襟元からボタンが一つ一つ外されていき、インナーをたくし上げられて、突起ごと胸を赤の他人に晒す。
雅樹さんの手がスラックスに伸びてきて、「待って」ととっさに声が口をついて出る。
「だ、男性とは、はじめてなんです」
「そうか。光栄だな」
「だから、その、僕って下かなって……だとしたら、何もしてなくて」
「何も?」
「後ろとか……」
「ああ」
何が面白いのか、雅樹さんは音を立てずにうすら笑う。
「ち、知識だけ知っているのは、変な趣味とかではなくて、僕がBL小説の編集部門にいるからで」
「ああ、知ってるよ」
「今さらそんなことを言ってすみません。えっと、それで」
「緊張しているのか。かわいいな」
恥ずかしさのあまり喉が締め付けられる。雅樹さんの額が僕の額に触れてきて、吐息を間近に感じた。
「挿れるだけがセックスじゃないよ、真也。だからいきなり全部を受け入れようとしなくていい」
唇や、頬、顎にキスを落とされる。
雅樹さんに、探られている。僕の感じられるところを。
「真也がおれの手で癒された時の声を、聞いてみたい。ゆっくりと、時間をかけて」
「ぁ……」
「身体で心を確かめ合う行為なんだよ」
下唇を啄ばまれたのが合図のように、雅樹さんの探る舌が口内に入ってきた。
先ほどよりも深いキス。
ねっとりとして官能的な彼の舌が僕の形を知ろうとするたび、何か甘い、ずっと溶けない柔らかな果実を食べているかのような感触がする。脳が痺れる。
呼応しようと彼の舌を追いかけて、自分から舌を伸ばしてみる。
「ん……んっ……」
雅樹さんの口の中の形を、味わってみる。くちゅくちゅと、お互いを探り合うリップ音がいやらしくて、でも心地よい。
「……はっ…ぁ……」
お互いの唾液が混ざり合って、呼吸の音だけが静かに、だけど情熱的に繰り返すのがたまらない。
雅樹さんも呼吸を少し乱しているのがわかる。キスを味わってくれている。
それに対して性的に興奮している自分がいる。
自分の中にこんな欲が隠れているなんて、知らなかった。
雅樹さんの指が僕の首から腹に伝ってく。さっきよりも敏感になった肌がびくりと震えて、腰を浮かしそうになる。
指はそのまま下腹部から股座の膨らみを這い、スラックスを下着ごとさげられた。
ソファの上でほとんど全裸になってしまった僕の、茂みを雅樹さんの指がかき分けて、竿に触れられた。
「あッ……」
「感じてくれているんだな」
「だって……雅樹さんの、キスが……あぁっ」
かすかに触れるだけだった竿を今度は指でなぞられて、今度こそ腰がのけぞった。さっきまで頬に触れてくれた大きな手に優しく包み込まれて、少し扱かれるだけで先走りが出る。
他人に触れられると──特別な人に触れられると、自分でするよりも早く達しそうになる。
処理と愛撫が、こんなにも違うものだなんて……。
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