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2.man 日常の隙間
しおりを挟む「ただいま!ごめん遅くなって、、今から飯作るけん勘弁してな。」
俺は玄関で靴を脱ぎながら、リビングに向かって大きな声を出した。ここでは毎日の晩ご飯を作るのが俺の仕事になっている。就活中、東京にいる間の宿泊施設としてゲストハウスを選んだ。ゲストハウスは、浅草の近くにあって普段は外国人とか色々と観光客が泊まるらしい。就活時期は、学生に貸しとく方が絶対的に安定した収入になるのでそうしているそうだ。まんまと俺はそこにあやかっている。俺以外にも3人の学生が住んでいて、4人で4LDKを使っている形だ。オーナーからの契約事項は主に以下の通り。安くする代わりに掃除や料理を提供しない。物を壊した時は、事情聴取されて過失を認められたら弁償する。家事はみんなで分担して行うこと。ぶっちゃけ普通に生活する分には何の問題もない。まぁ他にも性的な行動は慎めとか同居人の人権を尊重しろとか諸々あった気がする。3ヶ月そこらでそんな問題は起こり得ないだろうが。
自分に割り当てられた部屋に荷物を投げてスーツを脱ぐ。スウェットに早着替えして、足早にキッチンに向かった。ただキッチンについてみると明らかに誰かが下準備した形跡があった。ジャガイモや人参、玉ねぎが切ってあって、豚肉が解凍してある。キョロキョロと周りを窺っていると、同居人の由梨加という女の子がやってきた。彼女は1年浪人をしてるので1つだけ歳が上だ。
「あ、守人くん今日面接夕方って言ってた気がしたから簡単な物作ってあげようかと思ってたの。カレーかシチューかで悩んでて、、、どうする?」
と、尋ねてきた。正直、こんな気の利く子がいたら普通惚れると思う。俺がルー系はハヤシライスが1番好きなこと以外、何も問題にならない。
「シチューにしよっか。あと俺がするよ。由梨加さん毎日ちゃんと掃除してるのに俺のことやらせちゃ申し訳ないし。」
そう言って俺は包丁やら何やらを引き取って豚肉を適度なサイズに切り始めた。
「にしても守人くんって料理上手だよねー。大学生なってからずっと自炊してたとか??」
由梨加さんは、俺が料理を引き取ってもキッチンから出て行かなかった。鍋の火を見てくれたり小さい部分を少し手伝いながら、ずっと談笑しようとしている。
「まぁそんなもんですかね。でもそんなに手の込んだものは無理ですよ。」
と答えたものの、料理を鍛えたのは意識的だ。自炊で自然とっていうのとは違う。自炊していたことで上手くなったのは確実にあるが。
高2の時、綾乃を何回か家に呼んだことがある。たいていは2人でWiiをしたり、スマホゲームをした。でもたまに1日来たり昼前後に来たりすると、昼ごはんどうしようかって話になってお互いに何度か作っていた。当時はどうしても毎回、綾乃の料理の方が美味しかった。俺が料理を上手くなったきっかけは、それが悔しくて練習したせいだ。ある時チャーハンだけは勝とうと思ってめちゃくちゃ練習した時期がある。そのくせ本番で油を入れ過ぎてギットギトのチャーハンを2人で笑いながら食べた。余ったのを母さんに食べさせたら爆笑していたのもしっかり覚えている。
この前、就活で綾乃を見たからか、こんな風に綾乃のことを思い出すのは久しぶりな気がする。ここ1年くらいは1度も頭に出てこなかったのに。
必死に線を引いていた思い出が日常に侵入し始めているのが分かる。もう一度引き直さないと、今の日常が崩れてしまうような危うさがある。
綾乃のことを思い出し始めた瞬間、1人になりたいと思い始めた。「シチューできたら声かけますから。」と言って俺は、由梨加さんをリビングに行くよう促した。少しキョトンとした顔をされたが、由梨加さんはそのままリビングに行ってテレビを見始めた。由梨加さんは、普通に気が利くし、利かせてくれる。居心地がいい相手で同居人としては助かる。綾乃のことは一旦頭から切り離さないといけない。とりあえず目の前の具材が4人分のシチューにしては少ないのを解決すればいい。
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