teenager 〜overage〜

今日から閻魔

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3.woman  悪戯なタイミング

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 就活の履歴書やESを書き上げて、まだ1つだけ残っている筆記のためだけにSPIの勉強をして、週1で通うゼミでは卒論の骨子を考えながら足りない部分の補足をいつ研究するか悩んで、ラストまでは勘弁して下さいと言いながら大学1年の時から続けている居酒屋バイトに週3-4で出る。そんな毎日は、本当にあっという間に過ぎる。社会人になってもそうなのだろうが、1個1個を本気でやっていたら体を壊しかねないなぁというのが率直な感想。やる事が多い。せっかくLINEを動かしたのに、学科の仲間内でご飯に行く日も調整がなかなか難しく、全員が綺麗に空いている夕飯時が無かったので、今日の私がバイト上がった後22時からということになった。息抜きの場を作るのすらハードだ。どうしてこんな面倒なのかと嘆きたい。結局のところ、私たちは就活生だった。

 そんなこんなで、私は渋々顔ながらバイトに来ている。スタッフルームでバイト着に着替える。このバイトがなければ今日もう飲んでるんだけどと思ってはしまうが、前掛けを腰に締めたら何となく仕事する気持ちになってしまう。丸三年も同じバイトをすると、惰性でも働けてしまうみたいだ。
「おはようございます!」
 惰性は内側に留めて、キッチンに挨拶をしながら、オーダーを取る用のミニバインダーをお尻のポケットに刺した。
「お!綾乃ちゃんいつもありがとね~就活生なのに週3も週4も入ってくれる子他にいないよ。」
 店長がキッチンから顔だけ出して返事をしてくれる。私がこのバイトを続けてこれた理由は、この人が1番大きい。最初の頃の私は、居酒屋で酔ったおじさんと話すのが怖かったし、オーダーは取り間違えるわ、運び間違えるわでてんやわんやだった。にも関わらず店長の対応は、いつでも紳士だった。仕事に真剣で、人に対して真面目だった。興奮して怒る時ですら、ミスの話、どうしたらしなくなるかの話だけ考えながらしてくれた。「若い奴は、」とか「女の子はほんと」とか「ゆとり」、「仕事なめてんのか」なんて一般的に新人バイトが言われそうな心無い言葉は一度も無かった。ただ仕事の話を淡々と。そんな店長なのだ。だからついついバイトを頼まれると就活生のくせに入ってしまう自分がいる。まぁ今日は18-22時のシフトなので割と軽い。うちは半分立ち飲み席、半分座敷の店になっていて、バイトも何となく対応に行く方を分けている。今日の私は立ち飲み側だけ回せば良さそうなシフトだった。今日飲みに行く仲間内で早くから暇な2.3人がうちに来るみたいなことを言っていたから、それなりに楽しいバイトになるだろう。


 と思っていたが、その思いは破れた。
 19時過ぎになって、暖簾をくぐってきた就活生の男子3人組の中に守人がいたのだ。幸い、守人は私に気づかないまま座敷に通されていった。今日は座敷に行く事がないので、スルーしておけば何でもない。そう思いつつも、私は落ち着かないままバイトをする羽目になった。
 20時ごろ、今日飲みに行くメンツの中の梨香子と華ちゃんが2人で立ち飲みしに入ってきた。私は心底ほっとした。心の平穏がようやく取り戻されたという気持ちだ。そんな私の安堵を読み取ったのか華ちゃんが話しかけてきた。
「顔疲れてるけど何かあった??
 あ、乾杯はハイボール2つで!」
私は、角のウィスキーを取りながら答えた。
「なんか高校の同級生がふらっと来ちゃってさ、気疲れ。」
しかし、この気疲れという単語が梨香子を刺激してしまった。
「男?女?気疲れる関係とは?」
ルンルンで聞いてくる。この子はこういう男女のお話大好き系なのだ。他人が掘り下げられている時は聞く手間が省けて楽しいけれど、自分が掘り下げられていくとなるとなかなかに辛い。
 数秒迷ったが、結局私は当たり障りないように返した。
「高2のときすごい仲よかった男の子。」
「なんだー、そんな特別な関係とかじゃないんだ。
 ちょっとトイレ行ってくる!奥だっけ?」
私がそうそう、奥だよーと返したら、梨香子はあっさりトイレに行ってしまった。まぁ元彼とか言わなければ大丈夫だよねと自分に言い聞かせる。
「綾乃が働いてるの見るの初めてだから新鮮、なんか良いね♪」
華ちゃんがニコニコ話しかけてくる。確かに梨香子は前に他の子と来た事があるが、華ちゃんは初めてだ。居酒屋で、しかも立ち飲み屋というおじさんくさいイメージの場所で私が働いているのはギャップがあるらしい。私は、華ちゃんとバイトの失敗談とか立ち飲み屋の面白いところを楽しくおしゃべりすることにした。


 10分くらいしてようやく梨香子が帰ってきた。なんだか興奮状態に見える。
「ねえねえ!座敷の奥、3人組の手前の男の子が良い感じだった!店員さーん、あの人たちと近い席とかになれないですか?」
この子は、本当に男女の話が好きなんだなぁと思う。しかも今日のお客さんで3人組の男子というのは、おそらく守人たちだけだ。梨香子は、掘り下げる天才なのかもしれない。
「理由もなく近くの席に移動とか無理だよー、他のお客さんもういるんだし、、、」
私は少しだけ困った風に見せて里佳子の提案から逃げようとした。
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