死にたがり(愛されたがり)の悪役令息

たまも。

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フォンルージュ家編

57-わからずや

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喉…乾いた…


失っていた意識が浮上する。


目を開けると見覚えがある天井が見える。
僕の部屋だ。僕は今自分の部屋で寝ているのか。

長い間眠ったように頭はスッキリしていた。


寝起きでぼーー…としていると部屋の扉が開く。

タオルとバケツを持ったラルクが起きている僕を見つけた瞬間、心底安心したような、泣きそうな顔で僕を見る。

どうやら僕の看病をしてくれていたみたいだ。僕が起きたから横に落ちてしまっているが、水に濡れたタオルが枕横に落ちていた。


「あにうえ…ッ、」


タッタッタッ…ぼふんっ!


「グェッッ!」


ラルクが生きているという安心もつかの間、バケツとタオルを床に置き、走ってベットにいる僕に体当たりかの如くラルクが抱きついてきた。

重い、乗っかるな、痛いと抗議しようと思ったが、肩に暖かい雫が落ちる感覚がして、やめた。


「ッ良かったぁ…!も…起きないと、おもって…ッ」


ラルクが僕を抱きしめながら泣いている。
抱きしめ返そうと手で背中を掴もうとするが、前に襲ってしまった時の、僕に怯えたラルクを思い出して、手を下に降ろした。


「…手大丈夫なの?」


グスグスと僕の肩で泣くラルクに問いかける。

僕が母上を屠ろうとしたのを防いだ手。
僕が傷つけてしまった手。


「…なんでとめたんだよ…」


自然と毀れてしまった疑問に泣いていたラルクがピクッと反応する。
僕の肩に手を置き、抱き締めていた身体を引き剥がす。右肩に置かれた手には包帯が巻いてあった。

僕が刺したところだ。

そのまま僕を真っ直ぐ見つめ、目を赤くしたまま真剣な顔で僕を見据える。


「止めなかったら兄上が人殺しになってた。それがどういう事か分からないんですか」


「…なってもよかったのに」


「っ…なんだよそれ…あんな奴でも殺せば処刑されるんだぞ!

しかも、あんな…魔法まで晒して……おれのせいですか。俺がいたから?

おれ、あにうえが、辛くなるくらいなら、いくらでもあんなの我慢したのに…

あんな危ないことしなくたって…父上にバレたらきっと、」


ラルクの為なんかじゃない。僕が耐えれなかったんだ。穏便に済ませた方が、我慢した方が良かったのは分かってる。

でももう、耐えれなかった。前世の分まで蓄積されてるのに、ルークの分も追加されたら断罪される前に潰されてしまう。

だからやった。ラルクの為とか、そんな良い奴じゃない。僕は卑怯で弱いクソみたいな人間だから。


「…何勘違いしてんの、ラルク。

僕はただ死にたかっただけ。誰の為でもなく自分のため。

あいつらを脅したのもただ気に食わなかったから。

バレて処刑されるなら、殺してくれるなら本望だよ。父上のせいで自分だけでは死ねないからね」


ラルクが信じられないものを見るかのような顔で僕を見る。

…僕に何を期待してるの。僕はラルクが思うような聖母でも何でもない。

ただ死にたいだけのクソ野郎だ。
だから君を襲った。刺した。傷つけた。


ラルクがジュエルと同じ道を辿ると思って助けただけじゃない。

僕は綺麗な人間じゃないから。

醜くて汚くて気持ち悪くて、それが僕だから。



「…そんなにいなくなりたいんですね。

おれを置いていきたいんだ。母様みたいに、おれの前から勝手に消えるんだ」


ハイライトをなくした瞳が揺れている。
きっとラルクの地雷に触れている。
でも今更、ルークを演じきれてる訳でもないし、どうでもいいか。

もう何もかもどうでも…

もう疲れた…。


「…俺が甘かったんだ。おれが思ってる以上に兄上は、何も分かってなかったんだな」


ラルクはふらりと幽霊みたいな足取りで、ベットから降りて棚から木製の箱を出して、蓋を開ける。

中には色とりどりの前世で言う『大人の玩具』が沢山入っていた。


「おれが馬鹿な兄上を躾直す。死にたいなんて思えないように。自分がした事後悔するまで、教えてやる」
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