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【 第一章 】未熟な王子と暫定騎士
秋の庭
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マティアスは兵舎を出て城内の外通路を走り抜けた。
自身の居室近くの庭に出て、嗚咽が堪えられなくなり脚を止めた。庭の端に設置されたガゼボに入り木製の椅子にヨロヨロと腰を下ろす。
「うっ……ひっ……」
過呼吸状態になり苦しい。こんなに泣いたのは子供の時以来だ。でもそういう時はいつも近くにウィルバートがいて慰めてくれた。
庭が秋の夕陽に照らされていた。
その庭は知らない者が見たら城の中とは思えないような田舎の風景が再現されている。自然の小川を模した水路が流れ、その周りに野山の草木が生い茂っている。木々の葉は赤や黄色に色づき始め、秋の花がひっそりと咲き風に揺れていた。
『マティアス! カノラの庭、作ってくれるって!』
この庭を作ることが決まった時、ウィルバートが嬉しそうに言ってきてくれたことをマティアスは思い返した。
当時ウィルバートは七歳も年下のマティアスに丁寧な言葉で話すことに違和感があったようで、その砕けた口調を度々大人たちに注意されていた。それでも二人きりになるとこうして親しげに話してくれ、マティアスはそれが嬉しかった。
マティアスに遊び場を作って欲しいと大人たちに頼んでくれたのもウィルバートだった。当時城には大人が眺める観賞用の庭しかなく、子供が遊べるような場所ではなかったからだ。
そしてウィルバートの提案が受け入れられ、マティアスが過ごしていたカノラ村の野山が再現されたのがこの庭だ。
この庭で二人で長い時間を過ごした。
春にはウィルバートが花冠を作ってくれた。妹にもよく作っていたらしい。
夏は小川で服のまま水遊びをしてハンナを呆れさせた。
秋には巨大な蜂の巣を見つけて好奇心からそれをつつき、ベレフォードに大目玉を喰らった。
冬は薄く積もった雪をかき集めて雪だるまを作った。土が混じった無様な出来に二人で大笑いした。
どれも楽しい思い出だ。とても幸せな時間だった。だが、ウィルバートはどうだったのだろうか。ただ無碍にできない王族の子だったから仕方なく子守をしていただけなのかもしれない。
ウィルバートから縁談が来たと聞いた時、ウィルバートの愛情か自分からよそへ移ることに嫉妬した。しかしウィルバートはマティアスを愛してはいないのだ。当然愛されていると自惚れていた自分が恥ずかしくなる。
ウィルバートが自分を愛してないならば、自分は誰に愛されているのだろうか。
イーヴァリは血の繋がった実の祖父ではあるがマティアスにとってはこの国の王だと言う印象しかない。イーヴァリもまたマティアスのことを時期国王の候補としてしか見ていないとマティアスは感じていた。
ベレフォードもハンナもアーロンもマティアスが王子だから大事にしてくれているだけだと思えてくる。王子としてではなくただマティアス本人を見てくれる人は居るのだろうか。
ウィルバートがマティアスにとっては唯一それに当てはまる人物だと思っていたのだが……。
たぶん本当に愛してくれていたのは母セルフィーナだけだったのだろう。その母すらもう居ない。
陽が沈み、庭は暗闇に飲み込まれていった。
自身の居室近くの庭に出て、嗚咽が堪えられなくなり脚を止めた。庭の端に設置されたガゼボに入り木製の椅子にヨロヨロと腰を下ろす。
「うっ……ひっ……」
過呼吸状態になり苦しい。こんなに泣いたのは子供の時以来だ。でもそういう時はいつも近くにウィルバートがいて慰めてくれた。
庭が秋の夕陽に照らされていた。
その庭は知らない者が見たら城の中とは思えないような田舎の風景が再現されている。自然の小川を模した水路が流れ、その周りに野山の草木が生い茂っている。木々の葉は赤や黄色に色づき始め、秋の花がひっそりと咲き風に揺れていた。
『マティアス! カノラの庭、作ってくれるって!』
この庭を作ることが決まった時、ウィルバートが嬉しそうに言ってきてくれたことをマティアスは思い返した。
当時ウィルバートは七歳も年下のマティアスに丁寧な言葉で話すことに違和感があったようで、その砕けた口調を度々大人たちに注意されていた。それでも二人きりになるとこうして親しげに話してくれ、マティアスはそれが嬉しかった。
マティアスに遊び場を作って欲しいと大人たちに頼んでくれたのもウィルバートだった。当時城には大人が眺める観賞用の庭しかなく、子供が遊べるような場所ではなかったからだ。
そしてウィルバートの提案が受け入れられ、マティアスが過ごしていたカノラ村の野山が再現されたのがこの庭だ。
この庭で二人で長い時間を過ごした。
春にはウィルバートが花冠を作ってくれた。妹にもよく作っていたらしい。
夏は小川で服のまま水遊びをしてハンナを呆れさせた。
秋には巨大な蜂の巣を見つけて好奇心からそれをつつき、ベレフォードに大目玉を喰らった。
冬は薄く積もった雪をかき集めて雪だるまを作った。土が混じった無様な出来に二人で大笑いした。
どれも楽しい思い出だ。とても幸せな時間だった。だが、ウィルバートはどうだったのだろうか。ただ無碍にできない王族の子だったから仕方なく子守をしていただけなのかもしれない。
ウィルバートから縁談が来たと聞いた時、ウィルバートの愛情か自分からよそへ移ることに嫉妬した。しかしウィルバートはマティアスを愛してはいないのだ。当然愛されていると自惚れていた自分が恥ずかしくなる。
ウィルバートが自分を愛してないならば、自分は誰に愛されているのだろうか。
イーヴァリは血の繋がった実の祖父ではあるがマティアスにとってはこの国の王だと言う印象しかない。イーヴァリもまたマティアスのことを時期国王の候補としてしか見ていないとマティアスは感じていた。
ベレフォードもハンナもアーロンもマティアスが王子だから大事にしてくれているだけだと思えてくる。王子としてではなくただマティアス本人を見てくれる人は居るのだろうか。
ウィルバートがマティアスにとっては唯一それに当てはまる人物だと思っていたのだが……。
たぶん本当に愛してくれていたのは母セルフィーナだけだったのだろう。その母すらもう居ない。
陽が沈み、庭は暗闇に飲み込まれていった。
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