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【 第二章 】異国の仕立て屋と黒衣の王
疑惑②
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マティアスは大きく深呼吸し口を開いた。
「アルヴァンデール国王としてそのような疑いをかけられているのは実に心外だ。刻印など無いことを確認していただきましょう」
「マティアス様っ!」
カイは思わず叫んでしまった。
カイはただの仕立て屋だ。国王、司祭、公爵の三人が話す場に口を挟めるような立場では無い。それでも黙っていることができなかった。
マティアスは司祭と公爵に向けていた冷たい視線を和らげカイを見た。
「大丈夫だ。カイ、手を貸してくれるか。疑っている者たちに触れられたくないんでね」
マティアスは柔らかでありながら棘のある言葉で二人を牽制し、そしてルーカスを見た。
「ルーカス、外に出ていなさい」
「しかし!」
「大丈夫だから。部屋の前で待機だ。何かあれば呼ぶ」
マティアスに笑顔で言われたルーカスは目に涙を溜め頭を下げると部屋を出て行った。
それを見送ったマティアスは司祭とクレモラ公爵を見て冷たい声色で言った。
「さっさと終わらせましょう」
「で、では上から順に行きましょう。ええっと……あの椅子をお借りして……」
司祭は先程までカイが座っていた一人掛けのソファを示した。カイはそれを三人の前に運び、マティアスを座らせた。
「お、御髪から失礼します」
司祭が躊躇いながらクレモラ公爵に確認する。
「頭皮に刻印があった例もありますからな」
クレモラ公爵が鼻息荒く言った。『絶対に見つけてやる』と言う意気込みを感じる。
カイはマティアスからの指示を待つことなくその金の髪に触れ、髪を一つに束ねていた革紐を解いた。絶対にこの二人には触らせたくなかったからだがマティアスもそれが当然のように何も言わずカイに任せてくれた。
「どこからでもどうぞ」
マティアスが呆れたような声で言い、頭を差し出すように前に下げた。
カイは金の髪を掻き上げるように頭皮を晒す。その美しい金糸はサラサラと指の間を滑っていく。ずっと触っていたい触り心地だった。
「もっと、こうっ!」
クレモラ公爵の手がマティアスの髪に触れようとした時、カイはとっさにその手首を掴んだ。
「なっ!」
平民に突然手首を強く掴まれた公爵はカイをきつく睨んだ。しかしカイも引かず睨み返す。
「確認したい所があればおっしゃってください」
低く威嚇するように言うとマティアスが微かに笑ったようで、その肩が少し揺れた。
端から順に髪を掻き分け、司祭と公爵が確認していくがマティアスの頭皮は実に綺麗なものだった。
「頭にはございませんね」
司祭がその場の皆に確認する。クレモラ公爵は残念そうにしながら「次はお顔を確認させて頂きます」と先に進むよう促してきた。
マティアスの瞳は間近で見ると本当に美しかった。宝石を嵌め込んたような澄んだ緑で吸い込まれそうだ。それを縁取る睫毛も金色だ。
それをクレモラ公爵は「白目に刻印があるかもしれない」と言い、カイにマティアスな瞼を引き上げさせ、さらに眼球を上下左右に動かさせた。
結局目にも刻印は無く、耳や鼻の穴まで確かめ、遂に口の中を開かせた。
マティアスに「あー」っと大きく口を開かせ、綺麗な白い歯が並び、中央に赤い舌が鎮座しているその空洞を中年男が二人で覗き込む。
「舌を上げていただけますか」
クレモラ公爵が依頼し、マティアスは従い舌の裏も見せる。さらに上を向かせ上顎や喉の奥まで覗き込まれ、カイは腹の内側からどんどんと怒りが増していくのを感じた。
「口の中にも無いようですな」
司祭が確認完了の言葉に、マティアスは口を閉じた。
口を開けたままで苦しかったのか、マティアスは微かに溜息をついた。さらに襟足に微かに汗をかいている。
「それでは陛下、上からお召し物を脱いで頂けますか」
諦められないクレモラ公爵が言ってきた。
マティアスはカイに視線を向け、首の後ろを示し、背開きのシャツを脱がすように指示してきた。不本意ではあるが、手伝わない訳にはいかない。
カイは金の髪をよけ、首の後ろに付いているボタンに指をかけた。一つ二つと外していくにつれ、マティアスの白くきめ細かな肌が露になっていく。
カイが全てのボタンを外し終えるとマティアスは実に男らしくシャツを脱ぎ捨て、上半身を晒した。さらにそのまま下肢の被服にも手をかけた。
「へ、陛下っ、順々で結構でございますっ!」
司祭が汗を滝のように流しながら止めた。しかしマティアスはそのまま脱ぎ続ける。
「生娘でもあるまし。もう面倒だ」
なんてことは無いように淡々と服を脱ぎ、生まれたままの姿になったマティアスは司祭とクレモラ公爵に向かって両手を広げた。
「さぁ、刻印があるかご確認ください」
「ああ、なんと恐れ多い……っ!」
司祭は両手で顔を覆って跪いたが、クレモラ公爵はマティアスの前に歩み出た。そしてギラつく両方の眼を開く。そこには『何としても刻印を見つけたい!』と言う執念を感じた。
カイも負けじとマティアスに歩み寄った。そして司祭に向かって強く言った。
「司祭様もしっかりご確認くださいっ! 確認される方が一人では正しく真実が伝えられません!」
まるで『嘘つく者がいる』とでも言っているようなその言葉にクレモラ公爵はカイを強く睨み、司祭はオロオロと顔をあげた。
マティアスが堂々としているならば、それこそ女にするような気遣いはむしろ失礼だとカイは悟った。
「アルヴァンデール国王としてそのような疑いをかけられているのは実に心外だ。刻印など無いことを確認していただきましょう」
「マティアス様っ!」
カイは思わず叫んでしまった。
カイはただの仕立て屋だ。国王、司祭、公爵の三人が話す場に口を挟めるような立場では無い。それでも黙っていることができなかった。
マティアスは司祭と公爵に向けていた冷たい視線を和らげカイを見た。
「大丈夫だ。カイ、手を貸してくれるか。疑っている者たちに触れられたくないんでね」
マティアスは柔らかでありながら棘のある言葉で二人を牽制し、そしてルーカスを見た。
「ルーカス、外に出ていなさい」
「しかし!」
「大丈夫だから。部屋の前で待機だ。何かあれば呼ぶ」
マティアスに笑顔で言われたルーカスは目に涙を溜め頭を下げると部屋を出て行った。
それを見送ったマティアスは司祭とクレモラ公爵を見て冷たい声色で言った。
「さっさと終わらせましょう」
「で、では上から順に行きましょう。ええっと……あの椅子をお借りして……」
司祭は先程までカイが座っていた一人掛けのソファを示した。カイはそれを三人の前に運び、マティアスを座らせた。
「お、御髪から失礼します」
司祭が躊躇いながらクレモラ公爵に確認する。
「頭皮に刻印があった例もありますからな」
クレモラ公爵が鼻息荒く言った。『絶対に見つけてやる』と言う意気込みを感じる。
カイはマティアスからの指示を待つことなくその金の髪に触れ、髪を一つに束ねていた革紐を解いた。絶対にこの二人には触らせたくなかったからだがマティアスもそれが当然のように何も言わずカイに任せてくれた。
「どこからでもどうぞ」
マティアスが呆れたような声で言い、頭を差し出すように前に下げた。
カイは金の髪を掻き上げるように頭皮を晒す。その美しい金糸はサラサラと指の間を滑っていく。ずっと触っていたい触り心地だった。
「もっと、こうっ!」
クレモラ公爵の手がマティアスの髪に触れようとした時、カイはとっさにその手首を掴んだ。
「なっ!」
平民に突然手首を強く掴まれた公爵はカイをきつく睨んだ。しかしカイも引かず睨み返す。
「確認したい所があればおっしゃってください」
低く威嚇するように言うとマティアスが微かに笑ったようで、その肩が少し揺れた。
端から順に髪を掻き分け、司祭と公爵が確認していくがマティアスの頭皮は実に綺麗なものだった。
「頭にはございませんね」
司祭がその場の皆に確認する。クレモラ公爵は残念そうにしながら「次はお顔を確認させて頂きます」と先に進むよう促してきた。
マティアスの瞳は間近で見ると本当に美しかった。宝石を嵌め込んたような澄んだ緑で吸い込まれそうだ。それを縁取る睫毛も金色だ。
それをクレモラ公爵は「白目に刻印があるかもしれない」と言い、カイにマティアスな瞼を引き上げさせ、さらに眼球を上下左右に動かさせた。
結局目にも刻印は無く、耳や鼻の穴まで確かめ、遂に口の中を開かせた。
マティアスに「あー」っと大きく口を開かせ、綺麗な白い歯が並び、中央に赤い舌が鎮座しているその空洞を中年男が二人で覗き込む。
「舌を上げていただけますか」
クレモラ公爵が依頼し、マティアスは従い舌の裏も見せる。さらに上を向かせ上顎や喉の奥まで覗き込まれ、カイは腹の内側からどんどんと怒りが増していくのを感じた。
「口の中にも無いようですな」
司祭が確認完了の言葉に、マティアスは口を閉じた。
口を開けたままで苦しかったのか、マティアスは微かに溜息をついた。さらに襟足に微かに汗をかいている。
「それでは陛下、上からお召し物を脱いで頂けますか」
諦められないクレモラ公爵が言ってきた。
マティアスはカイに視線を向け、首の後ろを示し、背開きのシャツを脱がすように指示してきた。不本意ではあるが、手伝わない訳にはいかない。
カイは金の髪をよけ、首の後ろに付いているボタンに指をかけた。一つ二つと外していくにつれ、マティアスの白くきめ細かな肌が露になっていく。
カイが全てのボタンを外し終えるとマティアスは実に男らしくシャツを脱ぎ捨て、上半身を晒した。さらにそのまま下肢の被服にも手をかけた。
「へ、陛下っ、順々で結構でございますっ!」
司祭が汗を滝のように流しながら止めた。しかしマティアスはそのまま脱ぎ続ける。
「生娘でもあるまし。もう面倒だ」
なんてことは無いように淡々と服を脱ぎ、生まれたままの姿になったマティアスは司祭とクレモラ公爵に向かって両手を広げた。
「さぁ、刻印があるかご確認ください」
「ああ、なんと恐れ多い……っ!」
司祭は両手で顔を覆って跪いたが、クレモラ公爵はマティアスの前に歩み出た。そしてギラつく両方の眼を開く。そこには『何としても刻印を見つけたい!』と言う執念を感じた。
カイも負けじとマティアスに歩み寄った。そして司祭に向かって強く言った。
「司祭様もしっかりご確認くださいっ! 確認される方が一人では正しく真実が伝えられません!」
まるで『嘘つく者がいる』とでも言っているようなその言葉にクレモラ公爵はカイを強く睨み、司祭はオロオロと顔をあげた。
マティアスが堂々としているならば、それこそ女にするような気遣いはむしろ失礼だとカイは悟った。
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