やがて光りの王となり

雉村由壱

文字の大きさ
127 / 208
【 第三章 】やがて光りの王となり

髪を撫でる手①

しおりを挟む
  翌朝、マティアスはまだ眠っていた。

 カイは老夫婦にマティアスのことを『フォルシュランドの伯爵家の息子レオン』と紹介し、自身のことは『レオンの友人で商人のウィル』だと名乗った。苗字は名乗らなかったが特に聞かれなかった。

 老夫婦は夫のハラルド・エクルンドと、妻のヘルガ。二人でこの村に長年暮らしていると聞いた。
 昨夜もう一組いた老夫婦は隣家の住人で、藁束を運んでくれたり、マティアスをそのベッドに乗せるのを手伝ってくれたらしい。

「顔色が良くなってきたわね」

 ヘルガがマティアスの顔を覗き込み嬉しそうに言った。
 カイはヘルガが作ってくれたごく薄いパン粥をマティアスの唇に匙で含ませていた。

 カイは夜の内にマティアスの身体を拭き、若者から貰った寝巻きを着せた。寝巻きは丈が長くそれ一枚でマティアスの足首あたりまで覆えた。傷部分は皮膚が薄く心許ないのでヘルガから布を貰い包帯のように巻いている。

「あなたも少し休みなさいね。二階のベッド使ってもいいし」

「ありがとうございます。でもここに居させて貰います。俺、床でも問題なく寝られますので」

 カイはやんわりと断った。森で暮らしてた時を思えば、屋根があるだけてもありがたい。それにマティアスの側は離れられない。

 そしてヘルガは畑仕事に出て行った。ハラルドも既に出ている。季節は秋。収穫や冬支度に忙しい時期だろうに、昨夜は夜中までこの大騒ぎに付き合わせてしまったことをカイは申し訳なく思った。

 マティアスに何口か粥を飲ませるとカイは床に座ったままマティアスが眠る藁のベッドに上半身を伏せた。

 両腕に顎を乗せながら、アルヴァンデール国王の寝顔を不躾にも眺め続ける。閉じられた瞼を縁取る金色の長い睫毛。寝顔もやはり美しい。いくらでも眺めていたいと思った。だが早く目覚めて欲しいとも思う。でないとやはり安心できない。

 そんなことを思っているうちに瞼が重くなってきた。
 よくよく思い返せば、祝賀会用の服作りにこの一週間睡眠不足だった上に、昨日は輝飛竜に乗って空を飛び、湖で溺れながら泳ぎ、マティアスを背負い森をひたすら歩いたのだ。身体は疲れ切っていた。
 カイはそのまま吸い込まれるように眠りに落ちた。


「ほら、いらっしゃい」

 ソファに座った母が微笑み、膝をポンポンと叩きながら手招きする。もう膝枕なんて歳じゃないと思いつつも今日は甘えたいと言う気持ちが強かった。一瞬の躊躇いを呑み込みソファに腰をおろすと、母の柔らかな腿に頭をなげだした。

「どうだった? 怖かった?」
「別に……」

 母が柔らかな手で頭を撫でてくれる。
 強がっているが本当はとても怖かった。

 今日、初めて父に連れられて坑道に入った。
 坑道は階層ごとに深く入り組み、想像よりも広く、暗く、不気味だった。

 坑道がある山は二百年から三百年に一回、巨大で凶悪な魔物が現れ毒を撒き散らすと言う。前回それが起こったのが約三十年前。
『だから今が一番安全な時で、今が一番石を掘らねばならない時だ。私とお前の世代はそれを背負う義務がある』
 と父は語った。

 約三十年前に魔物が出た時、王様や王様の家族など四人が死んだと聞いた。それ以前にも何百年、何千年と昔からあの山では多くの人が死んでいるのだ。それを怖いと感じないわけがない。

「強い子ね。私はね、ここに嫁いで来てからずっと怖いわ。今は安全だよって言われても、もしかしたらって思うとやっぱり怖い。特にあなた達を産んでからもっと怖くなった」

「……ふーん」

 普段は厳つい坑夫達にも啖呵を切る母ですら、あの山が怖いと思っていた事を知り、自分の恐怖心も恥ずべきものでは無いように思えてきた。

 母は恐怖心を拭い去るかのように髪に指を通し優しく頭を撫で続けてくれる。

「あー、兄ちゃんだけずるい!」
「ずるい~」

 母を独り占めしていた所に弟と妹が走り寄ってきた。母の膝枕で寝転んでいる所へ、二人で揃って抱きついてくる。

「ぐぇっ! お前ら苦しいっ!」

 睨んで責めるが二人とも「エヘヘ」と笑いながら腹に乗ってくる。

「もう、仔犬みたいにじゃれついてっ!」

 母が笑いながら犬を撫でるように三人の頭をそれぞれぐしゃぐしゃに撫で回した。

 母と子供三人で揉みくちゃになって笑った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

処理中です...