やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第三章 】やがて光りの王となり

決意③

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「面白そうじゃ。よかろう」

 魔術師が嗤いを納めると同時にコンコンと扉がノックされ執事が盆を持って入ってきた。

「便箋をお持ちいたしました」
「さぁ、さっさと書け」

 魔術師が執事を示しマティアスに促す。カイが盆を受け取ると執事はスッと頭を下げ退出して行った。カイは明らかに操られている執事を不憫に思った。

 机がないのでマティアスは床で背中を丸め、ペンにインクを付け真っ白な便箋に流れるように文をしたためていく。

 内容が気になるが流石に人の手紙を読むのは良くないと思い、目を逸らしているカイにマティアスが声を掛けてきた。

「読んでくれ。もしもの為に偽装してるが、何か問題があったら教えて欲しい」

 書き終えた便箋を渡され、カイは頷き手紙に目線を落とした。


『 親愛なる我が妹へ

 元気にしていますか? 私は無事目的地に着くことができました。旅の途中で迂闊にも怪我を負ってしまいましたが、妻の介抱と現地の方の助けもあり問題なく回復に向かっています。
 ここはとても良いところです。なのでしばらくはここで休暇を楽しむことにしました。
 新しい仕事には慣れましたか? 真面目な我が妹のことだから慣れない仕事場でも気を張っていることが手に取るようにわかります。思わぬ出来事もあるでしょうが、そんな時は無理をせず父母の元でゆっくり過ごして欲しいと願っています。
 春になったら妻と二人、各地を巡りながら帰るつもりです。たくさん土産話を持って帰るので楽しみに待っていてください。

貴女のただ一人の兄より 』


 美しい筆跡で書かれたその手紙を読み終えカイは顔を上げた。

「大丈夫だと思う」

 カイはそう言って便箋をマティアスに返した。受け取ったマティアスはインクが乾いていることを確認し封筒に入れ封をする。

(妻って……)

 カイは耳が熱くなるのを感じた。カモフラージュでそう書かれているのは理解しているが、何となくむず痒く心の奥が浮足立った感覚がする。

(どっちかと言うと夫だけどな……)

 そんな風に思うと余計に恥ずかしくなってきた。ふと横を見るとマティアスも心無しか耳が赤い気がした。

「じゃあ、これをマリアンナに渡してくれ」

 マティアスはその手紙を魔術師に渡し、付け加えた。

「お礼、考える時間が欲しい。十日後に来てくれ」

 魔術師は「わかった」とだけ言うと炎で紙が燃えるように一瞬でその場から消えた。

「す、凄いなっ」

 カイは驚き声を上げた。
 マティアスは「ふぅ」と大きく溜め息をついてゆっくりと立ち上がり言った。

「さぁ、戻ろうか」


 熱が上がってしまったマティアスを馬車の荷台に寝かせ、カイは帰路を急いだ。

「すまない。結局この村に足止めすることになった……」

 毛布にくるまりながらマティアスが申し訳なさそうに呟く。

「いいじゃないか。手紙にも書いた通り休暇だと思えよ」

「そう……だな……」

 カイの言葉にマティアスが小さく返事をする。

 国王としては一刻も早く帰らねばという思いがあることは確かだと感じる。だがもう足掻いても仕方ないのだ。

 怪我を負ったままなのは可哀想だとは思うが、マティアスが魔術師に抱かれるという判断をしなかったことにカイは密かに安堵していた。そしてこれから長い期間、一緒にいられることへの喜びも。

「冬をどこで越すかだな。ハラルドさんに相談してみよう。あのままあの家で厄介になるのは流石に無理かもしれない」

 現状はリビングと言うか玄関先に藁を積んで寝ている状態だ。流石に邪魔になる。
 どこか居候できそうな家を紹介してもらうか、それが駄目なら街に出て宿を探すか、住み込みで働かせてもらうか……。負傷しているマティアスを働かせるわけにいかないし、王様がそもそも働けるのかも疑問だ。黒真珠のボタンを資金源に果たしてやっていけるだろうか。いや、なんとかするしかないのだ。

「そう言えば、魔術師へのお礼はどうする?」

 カイはふと思い立ちマティアスに尋ねた。

「うーん、どうしようかなぁ……」

「治療してもらった時に治療費の話をしたらカネはいらないって言ってたから、カネと高価なものは必要としてないようだな」

「そうだな。そういう物欲的な感情は持ってないと思う」

「そもそもあの人とはどういう関係なんだ?」

「関係……腐れ縁、かな?」

 腐れ縁。かなりざっくりした答で答えになっていないように感じる。一国の王に腐れ縁などあるのだろうか。

「あの人、ずっとレオンをつけているのか?」

「私よりどっちかと言うと……まあ、少々事情が複雑なのだ……」

 マティアスはそう説明を避けようにカイは感じた。

「名はなんて言うんだ?」

「名は……そのまま呼ぶことは出来ない」

「はぁ? それは本名なのか?」

「アレが名乗ったのが本名だとすれば……」

「なんだそりゃ……」

 カイは不審に思いながらもそれ以上は追求してはいけない気がした。
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