やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第三章 】やがて光りの王となり

冬の日々②

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「……なあ、ウィルってどんな奴だったんだ?」

 ウィルバートがさらに踏み込んで過去のことを尋ねる。
 マティアスは「うーん……」と唸り悩んだ。過去のウィルと今のカイ。本質は余り変わらないように感じている。

「口うるさかったかな」

 マティアスは過去のウィルバートを思い浮かべ「ふふっ」と笑った。

「よく口喧嘩したよ。でも優しかった。自分のりんごの方が甘かったらそっちをくれるような人」

 ウィルバートは「ふーん」と相槌を打ちつつ、マティアスの髪の手入れを再開した。布で水気をとりつつ櫛をかける。

「あと……剣術が凄かった。城の兵士で競う武闘大会があるんだけど、アーロンに次いで二位でさ」

 当時ウィルバートは二十歳だった。アーロンは既に近衛兵隊長で、決勝は接戦だったのをよく覚えている。

「本当にあとちょっとでアーロンに勝てるんじゃないかと思ったんだけどね、最後の最後でアーロンが一瞬の隙を突いて。……でも私は酷いんだ。ウィルが負けてちょっとホッとしてたから」

「なぜ?」

「優勝者は決まって『この勝利を陛下に捧げます』って言うんだ。近衛兵は皆、王の配下だから。でも騎士なら別だ。仕えている主の名を出す。いずれ私の騎士になればその時は私に勝利を捧げてくれるはずだと思ってたから」

 その時まだ十三歳だったマティアスはウィルバートが祖父イーヴァリの所有であることが悔しくて堪らなかった。今思えば実に幼稚であると思うのだが。

 懐かしく感じる十年以上前の城や人々。思いを巡らせているとウィルバートが少し皮肉っぽく笑った。

「それさ、わざと負けたんだろ」

 まるで確信があるかのようだ。

「なぜそう思う?」

 マティアスは驚きながらウィルバートの方を向いた。

「いや、絶対そうだろう。大事な最終局面で隙を見せるなんてさ、その程度なら決勝まで残らないんじゃないか」

 マティアスはふと思い出した。

 決勝でウィルバートが負けた直後、従者が止めるのも聞かずマティアスは競技場の地下へと走った。負けても準優勝の快挙を成し遂げたウィルバートに賛辞を贈る最初の者になりたかったからだ。
 ウィルバートの姿を見つけ駆け寄ろうとした時、アーロンがウィルバートに「ふざけてんのか!!」と怒鳴り、ウィルバートの頭を思いっきり拳で殴ったのを目撃した。兜を被ったままのウィルバートの頭。『ガンッ!』と鈍い音か響きアーロンの拳の方が痛そうだと思った。
 ウィルバートは項垂うなだれ、アーロンの怒りを受け入れていた。マティアスは上官に叱られるウィルバートを見ているのは良くないと思い、声を掛けずにその場から去ったのだが。

「じゃあ……ウィルはアーロンに気を使ったのか」

 あれはわざと負けたウィルバートに対しアーロンが怒っていたのだ。当時のマティアスは何故怒られていたのかわからなかったが、今「わざと負けたんだろ」と言われて腑に落ちた気がした。

 一人納得したマティアスにウィルバートが笑いながら「いや、違うだろ」と口を挟んできた。

「そこに気を使ったとかじゃなくてさ……同じこと考えてたんじゃないのか」

「同じこと?」

 マティアスは再び振り返り、髪を梳かすウィルバートを見た。ウィルバートは櫛を置くと菜種油を少量手に取り髪に馴染ませながらさらに続ける。

「だからさ……勝利を捧げるならマティアスがいいって、思ったんだろう」

 思ってもみなかった指摘にマティアスは動揺した。

「そ、そうなのかな……」

「まあ、それは本人にしか分からないけどな」

 もうその時の心情をウィルバートに聞くことは叶わないが今本人がそう思うなら、その説はかなり有力なように思える。

「嬉しそうにすんなよ」

 自然と頬が緩んでしまったマティアスをウィルバートが背中から抱き締めてきた。

「カイが聞きたいって言ったんじゃないか。ちょっ、あっ、痛いよっ」

 ウィルバートがきつく抱き締めながらマティアスの首筋に噛みついてきた。マティアスは笑いながらそれを諌める。
 ウィルバートは噛んだ部分を舐め始め、そのままマティアスを暖炉の前で押し倒した。そして寝巻きの中に手を入れ、下着も着けていないその素肌を弄り始める。

「んっ……あ……カイ……」

 笑っていたマティアスの声色が甘い音に変わる。

「腹立ってきた。慰めろよ……薪、燃え終わるまで」

 ウィルバートが頰にキスを落としながら要求してくる。その幼稚な命令を可愛く感じマティアスは頷き自らウィルバートの唇に唇を寄せた。

 暖炉では赤々と薪が燃えていた。
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