やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第三章 】やがて光りの王となり

憧れの暮らし③

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 その時、コンコンと玄関扉をノックする音と共に「ダンだけどー、誰かいるー?」と声がして、マティアスは扉をそっと開けた。

「やあ、ダン。どうしたんだい?」
「ああ、レオン! これりんご。やるよ」

 そう言ってダンは足元に置いた木箱を開けて中を見せた。中にはめいいっぱいりんごが詰まっている。

「わぁ、こんなにたくさん! いいのかい?」
「ああ、春先まで持つしさ。中まで運ぶ?」
「ありがとう。でもどこ置いて良いかわからないからウィルが帰ったら運んでもらうよ」

 マティアスはウィルバートからの言いつけを思い出しやんわりと断った。

「そうか。一人なのか? 何か手伝おうか?」
「いや、私も暇なくらいだし……」
「そっか。暇なら村案内する? まだよく知らないだろ?」

 ダンがぐいぐいと話して来るのでマティアスは少し戸惑った。しかしウィルバートから『誰かと二人きりになってはいけない』注意を受けている。なんとか断らなくてはと考えた。

「ありがとう。……でも、ウィルにちゃんと傷を治すように言われてるから、安静にしてるよ」

 マティアスの答えにダンは「そっか……」と残念そうに答えた。

「あのさ、ひょっとして……」

 ダンが何やら聞きにくそうに、だが聞きたそうに尋ねてきた。

「二人って恋仲なのか?」

「えっ!」

 突然の質問にマティアスは驚いた。そして顔が熱くなり心臓がバクバクと鳴り始める。

「な、なぜそう思う?!」

 マティアスの質問にダンは頭を掻きながら苦笑いしている。

「いや、何となく見ててそうなぁ~って思って」
「わ、私はそんなに顔に出てるのか?!」
「え……いや、どっちかって言うと……」

 ダンがモゴモゴと何か言っているがマティアスは激しく動揺した。

 ここへ来てからマティアスはウィルバートへの想いを出来るだけ押さえあまり態度に出さないよう心掛けているつもりだった。
 記憶のない今のウィルバートに一度だけ抱いてもらったが、その後避けられていたことを思うと、やはり男は無理だと思われたのだと予想している。

「わ、私が一方的に想っているだけなんだ……。ウィルは女の人が好きだから……」

「そう、なのか……。じゃあ、レオンは男の方が好きなの?」

 ダンの問にマティアスは「うーん」と唸り考えた。

「……ウィルしか好きになったこと無いから、よく分からない」

 マティアスの答えにダンは「そっか」と小さく言い、眉尻を下げて少し笑った。

「なんかゴメンな。まだ会ったばかりなのにこんな事聞いて。今度ウィルの薪集め手伝うよ。言っといて」

 ダンはそう言うと「じゃあ!」と手を振り帰って行った。


 ダンを見送りりんごの木箱を家の中に運ぼうと持ってみた。力を込めると傷に鈍痛が走り諦めた。玄関先にりんごを残したまま家に入り背もたれの無い丸椅子に腰を下ろす。

「はぁぁ……」

 深い溜め息が胸の奥から吐き出される。
 やはりウィルバートへの想いがダダ漏れになっているようだ。

 輝飛竜に攫われこの国で目覚めてからウィルバートはマティアスを王として扱っていない。その気さくな態度は出会った時のウィルバートそのものだ。それにつられマティアスは子供時代に戻ったかのようにウィルバートに甘えてしまった。

 髪を洗いに泉に連れて行って貰った時などは、微熱とウィルバートが側にいてくれる嬉しさから、かなり浮かれていたと感じる。今思えば。
 抱きかかえて泉に入れろなどと要求してしまったが、ウィルバートにどう思われていたか……。優しいウィルバートは応じてくれたが、男に興味がないのだから気持ちが悪かったかもしれない。

(もっとわきまえなくては……)

 マティアスにとっては側にいてくれるだけで嬉しいし、現状敵国に身を置いている状態ではウィルバートだけが頼りなのだ。

 その時、玄関前の階段を駆け上がる足音が響き、勢いよく玄関扉が開いた。

「レオン!」

 大声と共にウィルバートが慌てて入って来た。

「ウィル! どうした?」

 驚きながら見るとウィルバートがマティアスに駆け寄ってきた。

「ダンにそこで会って……! ちょっと戻ってきた」
「あ、うん、りんごを貰ったよ」
「大丈夫か? 何かされなかったか?」
「な、なにもされてないよ」
「だが……顔が赤い」

 そう言ってウィルバートがマティアスの頬を撫でる。『わきまえなくては』と思っていたのにそれだけでさらに体温が上昇してしまうのを感じた。

「な、なにもないよっ」

 マティアスは目を逸らしテーブルを見つめて思い出した。

「あ、ウィル、あのね……」
「なに?」
「裁断、失敗しちゃって…」
「ん?」

 マティアスは誤って切ってしまった布を見せた。

「二枚重なってたのに気付かず切ってしまって……すまない」

 がっかりされる事を覚悟しつつ、出来るだけ誠実に謝る。ウィルバートは布を手に取り確認しながら微笑んだ。

「ああ、ここか。まあ俺達が着るだけなんだから繕えばいいよ」
「じゃあこれは私のか?」
「いや、これは……俺の外套の前身頃だな」
「私のには出来ないのか?」
「大きさが違うから……。そんなに気にするなよ。どうせ着てればちょっと破けたりするもんなんだから」

 ウィルバートはそう言うとマティアスの頭をグリグリと撫でてきた。

「すまない……かえって仕事を増やしてしまった」
「大したことじゃないよ。で、本当にダンには何もされてないんだな?」

 切ってしまった布のことはどうでも良いと言うようにウィルバートは話を戻してきた。

「本当に何も無いよ。りんごを貰って、ああ、今度薪集め手伝うって言ってたよ」

 ウィルバートは「そうか」と微かに溜め息をついた。
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