やがて光りの王となり

雉村由壱

文字の大きさ
141 / 208
【 第三章 】やがて光りの王となり

憧れの暮らし②

しおりを挟む
「真冬になったら雪で家から出られない日もあるだろうから、こっちにも食料置いておいたほうがいいって」

 パンを齧りながらウィルバートが報告してくる。

「料理……したことある?」

 マティアスは不安に思いウィルバートに尋ねた。

「簡単なものなら作れるよ。レオンは……無いよな」

 ウィルバートがマティアスを偽名で呼びつつ確認してくる。

「料理は無いけど、魔術薬を作る勉強はしてきた。大して変わらないんじゃないかと思うのだが……」

「まあ、簡単なことからちょっとずつ覚えたら良いんじゃないか」

 ウィルバートが苦笑いしながら答えた。

 現状、食事はヘルガに用意してもらっていた。朝食や昼食は貰ってきたものをこの小屋で食べ、夕食はハラルドの家で四人で食べている。さすがに老夫婦の冬に蓄えを食い尽くすわけにはいかないので、ウィルバートがハラルドと相談し黒真珠を売った金貨で麦や芋、豆など買い、渡してある。
 さらにマティアスとウィルバートの噂を聞きつけた村人たちが不憫に思い、様々な食料を提供してくれている。実にありがたい。

 マティアスが負傷しているので薪集めなど力仕事はウィルバートがしている。しかしマティアスは生活能力が乏しく力仕事以外も結局ウィルバートがしている状態だ。なので料理くらい覚えてなんとか役に立たねばとマティアスは思っていた。

 マティアスは料理でふと思い出した。

「あのさ、バル……魔術師へのお礼、明日が約束の日なんだ」

「ああ、もう十日経つのか」

 日々忙しいウィルバートはすっかり忘れていたようだ。

「でさ、ヘルガさんにスープの作り方を教わって、それを振る舞うのはどうかと思ってるんだが」

「そんなのでいいのか?」

マティアスの言葉にウィルバートは意外そうな顔をした。

「あのスープはとても美味しかった。問題はヘルガさんが迷惑じゃないかかどうかだと思うのだが」

 負傷してから目覚めた時、初めて口にしたあのスープはこれまでの人生で一、二を争う程の美味しさだった。幼い頃カノラ村で母と過ごした日々の味がした気もする。

「そうだな。夕食の時にでも相談してみよう」

 ウィルバートがそう同意してくれ、マティアスはホッとした。

「じゃあ、薪集め行ってくる」

 朝食を食べ終わったウィルバートが席を立った。マティアスはふと思い立ちウィルバートに尋ねた。

「あ、あのさ、何か私でも出来ることは無いか? もう熱も下がってるし……」

「その食器、片付けてくれれば、」

「それは当然やるつもりでいる。他にだ」

 マティアスの申し出にウィルバートは「うーん……」と少し悩み「じゃあ、」と言って布の束を指し示した。

「裁断、一人でやってみるか?」

 ウィルバートは忙しい時間の合間に、服を作っている。さすがテーラーの職人として働いていたこともあり、布を調達し、ヘルガに裁縫道具を借りてきてからわずか一日でマティアス用の下着三着を作った。それから日常で必要なシャツなどを日々着々と増やしている。
 マティアスもウィルバートの作業の傍らで出来そうなことを手伝っていた。

「線の外側を切ればいいのだな」

「そうだ。分かるところだけでいいよ。迷うところがあったらそこはやらなくていいから」

「ああ。やってみる」

 そう言いながら家を出るウィルバートを玄関先まで見送る。戸口でウィルバートは念押しするようにマティアスを見て言った。

「疲れたと思ったらちゃんと休めよ」
「うん」
「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」

 ウィルバートが見えなくなるまで手を振り、それからマティアスは小さく「よしっ」と呟いて家の中に戻った。

 まずは朝食の食器の片付けから始めた。
 ミルクを入れたカップは水瓶から少量の水を柄杓でかけ洗い流す。パンの木皿は大して汚れないので、パン屑をはらうだけでいいとウィルバートから言われた。

 それからマティアスは丸テーブルの上にウィルバートが印を付けた布を広げた。裁縫箱から裁ちバサミを取り出す。切る位置は線から指二本分程外側だ。
 簡単そうな形から選び、緊張しつつハサミを入れる。ジョッジョッとよく研がれたハサミが布を切っていく。

「出来たっ」

 一枚切り終えてマティアスは小さく呟いた。

(簡単じゃないか!)

 そう思い、やや浮かれつつ作業を進めた。

 次に手に取ったのはやや分厚い生地。確かウィルバートが防寒用の外套にすると言っていたものだ。先程と同じようにハサミを入れ切っていく。生地が厚い分抵抗があると感じつつ作業を進めるとさらに切りにくくなった。同じ生地一枚でも厚さが違ったりするのだろうかと思い、途中でハサミを止めて生地を裏返してみた。

「えっ!」

 生地の裏にべつのもう一枚が重なっていた。マティアスは焦ってその一枚を剥がすとウィルバートが引いた線とは全く違う部分を切ってしまっていた。

「ああ、なんてことを………!」

 マティアスはあまりのショックにしばらくそこで固まっていた。『どうしよう』と思ってもどうしようもない。魔術を使えば直せそうだが、この村で魔術は使わないと約束した。ウィルバートが帰ったら素直に謝るしかない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

処理中です...