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【 第三章 】やがて光りの王となり
憧れの暮らし②
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「真冬になったら雪で家から出られない日もあるだろうから、こっちにも食料置いておいたほうがいいって」
パンを齧りながらウィルバートが報告してくる。
「料理……したことある?」
マティアスは不安に思いウィルバートに尋ねた。
「簡単なものなら作れるよ。レオンは……無いよな」
ウィルバートがマティアスを偽名で呼びつつ確認してくる。
「料理は無いけど、魔術薬を作る勉強はしてきた。大して変わらないんじゃないかと思うのだが……」
「まあ、簡単なことからちょっとずつ覚えたら良いんじゃないか」
ウィルバートが苦笑いしながら答えた。
現状、食事はヘルガに用意してもらっていた。朝食や昼食は貰ってきたものをこの小屋で食べ、夕食はハラルドの家で四人で食べている。さすがに老夫婦の冬に蓄えを食い尽くすわけにはいかないので、ウィルバートがハラルドと相談し黒真珠を売った金貨で麦や芋、豆など買い、渡してある。
さらにマティアスとウィルバートの噂を聞きつけた村人たちが不憫に思い、様々な食料を提供してくれている。実にありがたい。
マティアスが負傷しているので薪集めなど力仕事はウィルバートがしている。しかしマティアスは生活能力が乏しく力仕事以外も結局ウィルバートがしている状態だ。なので料理くらい覚えてなんとか役に立たねばとマティアスは思っていた。
マティアスは料理でふと思い出した。
「あのさ、バル……魔術師へのお礼、明日が約束の日なんだ」
「ああ、もう十日経つのか」
日々忙しいウィルバートはすっかり忘れていたようだ。
「でさ、ヘルガさんにスープの作り方を教わって、それを振る舞うのはどうかと思ってるんだが」
「そんなのでいいのか?」
マティアスの言葉にウィルバートは意外そうな顔をした。
「あのスープはとても美味しかった。問題はヘルガさんが迷惑じゃないかかどうかだと思うのだが」
負傷してから目覚めた時、初めて口にしたあのスープはこれまでの人生で一、二を争う程の美味しさだった。幼い頃カノラ村で母と過ごした日々の味がした気もする。
「そうだな。夕食の時にでも相談してみよう」
ウィルバートがそう同意してくれ、マティアスはホッとした。
「じゃあ、薪集め行ってくる」
朝食を食べ終わったウィルバートが席を立った。マティアスはふと思い立ちウィルバートに尋ねた。
「あ、あのさ、何か私でも出来ることは無いか? もう熱も下がってるし……」
「その食器、片付けてくれれば、」
「それは当然やるつもりでいる。他にだ」
マティアスの申し出にウィルバートは「うーん……」と少し悩み「じゃあ、」と言って布の束を指し示した。
「裁断、一人でやってみるか?」
ウィルバートは忙しい時間の合間に、服を作っている。さすがテーラーの職人として働いていたこともあり、布を調達し、ヘルガに裁縫道具を借りてきてからわずか一日でマティアス用の下着三着を作った。それから日常で必要なシャツなどを日々着々と増やしている。
マティアスもウィルバートの作業の傍らで出来そうなことを手伝っていた。
「線の外側を切ればいいのだな」
「そうだ。分かるところだけでいいよ。迷うところがあったらそこはやらなくていいから」
「ああ。やってみる」
そう言いながら家を出るウィルバートを玄関先まで見送る。戸口でウィルバートは念押しするようにマティアスを見て言った。
「疲れたと思ったらちゃんと休めよ」
「うん」
「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」
ウィルバートが見えなくなるまで手を振り、それからマティアスは小さく「よしっ」と呟いて家の中に戻った。
まずは朝食の食器の片付けから始めた。
ミルクを入れたカップは水瓶から少量の水を柄杓でかけ洗い流す。パンの木皿は大して汚れないので、パン屑をはらうだけでいいとウィルバートから言われた。
それからマティアスは丸テーブルの上にウィルバートが印を付けた布を広げた。裁縫箱から裁ちバサミを取り出す。切る位置は線から指二本分程外側だ。
簡単そうな形から選び、緊張しつつハサミを入れる。ジョッジョッとよく研がれたハサミが布を切っていく。
「出来たっ」
一枚切り終えてマティアスは小さく呟いた。
(簡単じゃないか!)
そう思い、やや浮かれつつ作業を進めた。
次に手に取ったのはやや分厚い生地。確かウィルバートが防寒用の外套にすると言っていたものだ。先程と同じようにハサミを入れ切っていく。生地が厚い分抵抗があると感じつつ作業を進めるとさらに切りにくくなった。同じ生地一枚でも厚さが違ったりするのだろうかと思い、途中でハサミを止めて生地を裏返してみた。
「えっ!」
生地の裏にべつのもう一枚が重なっていた。マティアスは焦ってその一枚を剥がすとウィルバートが引いた線とは全く違う部分を切ってしまっていた。
「ああ、なんてことを………!」
マティアスはあまりのショックにしばらくそこで固まっていた。『どうしよう』と思ってもどうしようもない。魔術を使えば直せそうだが、この村で魔術は使わないと約束した。ウィルバートが帰ったら素直に謝るしかない。
パンを齧りながらウィルバートが報告してくる。
「料理……したことある?」
マティアスは不安に思いウィルバートに尋ねた。
「簡単なものなら作れるよ。レオンは……無いよな」
ウィルバートがマティアスを偽名で呼びつつ確認してくる。
「料理は無いけど、魔術薬を作る勉強はしてきた。大して変わらないんじゃないかと思うのだが……」
「まあ、簡単なことからちょっとずつ覚えたら良いんじゃないか」
ウィルバートが苦笑いしながら答えた。
現状、食事はヘルガに用意してもらっていた。朝食や昼食は貰ってきたものをこの小屋で食べ、夕食はハラルドの家で四人で食べている。さすがに老夫婦の冬に蓄えを食い尽くすわけにはいかないので、ウィルバートがハラルドと相談し黒真珠を売った金貨で麦や芋、豆など買い、渡してある。
さらにマティアスとウィルバートの噂を聞きつけた村人たちが不憫に思い、様々な食料を提供してくれている。実にありがたい。
マティアスが負傷しているので薪集めなど力仕事はウィルバートがしている。しかしマティアスは生活能力が乏しく力仕事以外も結局ウィルバートがしている状態だ。なので料理くらい覚えてなんとか役に立たねばとマティアスは思っていた。
マティアスは料理でふと思い出した。
「あのさ、バル……魔術師へのお礼、明日が約束の日なんだ」
「ああ、もう十日経つのか」
日々忙しいウィルバートはすっかり忘れていたようだ。
「でさ、ヘルガさんにスープの作り方を教わって、それを振る舞うのはどうかと思ってるんだが」
「そんなのでいいのか?」
マティアスの言葉にウィルバートは意外そうな顔をした。
「あのスープはとても美味しかった。問題はヘルガさんが迷惑じゃないかかどうかだと思うのだが」
負傷してから目覚めた時、初めて口にしたあのスープはこれまでの人生で一、二を争う程の美味しさだった。幼い頃カノラ村で母と過ごした日々の味がした気もする。
「そうだな。夕食の時にでも相談してみよう」
ウィルバートがそう同意してくれ、マティアスはホッとした。
「じゃあ、薪集め行ってくる」
朝食を食べ終わったウィルバートが席を立った。マティアスはふと思い立ちウィルバートに尋ねた。
「あ、あのさ、何か私でも出来ることは無いか? もう熱も下がってるし……」
「その食器、片付けてくれれば、」
「それは当然やるつもりでいる。他にだ」
マティアスの申し出にウィルバートは「うーん……」と少し悩み「じゃあ、」と言って布の束を指し示した。
「裁断、一人でやってみるか?」
ウィルバートは忙しい時間の合間に、服を作っている。さすがテーラーの職人として働いていたこともあり、布を調達し、ヘルガに裁縫道具を借りてきてからわずか一日でマティアス用の下着三着を作った。それから日常で必要なシャツなどを日々着々と増やしている。
マティアスもウィルバートの作業の傍らで出来そうなことを手伝っていた。
「線の外側を切ればいいのだな」
「そうだ。分かるところだけでいいよ。迷うところがあったらそこはやらなくていいから」
「ああ。やってみる」
そう言いながら家を出るウィルバートを玄関先まで見送る。戸口でウィルバートは念押しするようにマティアスを見て言った。
「疲れたと思ったらちゃんと休めよ」
「うん」
「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」
ウィルバートが見えなくなるまで手を振り、それからマティアスは小さく「よしっ」と呟いて家の中に戻った。
まずは朝食の食器の片付けから始めた。
ミルクを入れたカップは水瓶から少量の水を柄杓でかけ洗い流す。パンの木皿は大して汚れないので、パン屑をはらうだけでいいとウィルバートから言われた。
それからマティアスは丸テーブルの上にウィルバートが印を付けた布を広げた。裁縫箱から裁ちバサミを取り出す。切る位置は線から指二本分程外側だ。
簡単そうな形から選び、緊張しつつハサミを入れる。ジョッジョッとよく研がれたハサミが布を切っていく。
「出来たっ」
一枚切り終えてマティアスは小さく呟いた。
(簡単じゃないか!)
そう思い、やや浮かれつつ作業を進めた。
次に手に取ったのはやや分厚い生地。確かウィルバートが防寒用の外套にすると言っていたものだ。先程と同じようにハサミを入れ切っていく。生地が厚い分抵抗があると感じつつ作業を進めるとさらに切りにくくなった。同じ生地一枚でも厚さが違ったりするのだろうかと思い、途中でハサミを止めて生地を裏返してみた。
「えっ!」
生地の裏にべつのもう一枚が重なっていた。マティアスは焦ってその一枚を剥がすとウィルバートが引いた線とは全く違う部分を切ってしまっていた。
「ああ、なんてことを………!」
マティアスはあまりのショックにしばらくそこで固まっていた。『どうしよう』と思ってもどうしようもない。魔術を使えば直せそうだが、この村で魔術は使わないと約束した。ウィルバートが帰ったら素直に謝るしかない。
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