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【 第三章 】やがて光りの王となり
告白と告白①
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二月半ば。
カイはダンに家畜小屋の掃除を手伝って欲しいと頼まれ出向いた。
「で、レオンはその後どうだ?」
仕事の説明をするでも無く、ダンは小屋に入るなりカイに尋ねてきた。
「……表向きはまあ普通だが、まあ、結構落ち込んでると思う」
「マジかーっ!」
ダンの大きな声に驚いた家鴨がバサバサと羽ばたく。家畜小屋には家鴨や、山羊、犬がおり、実に賑やかだった。
「ほんっっと、すまん! あの家、人の出入り激しいんだからもっと警戒すべきだった」
頭を下げるダンにカイは驚いた。
どうやらダンは話が聞きたくてカイを呼び出したらしい。ここなら他の人に聞かれる可能性も低いと考えてくれたのだろう。
「ダンが謝るような事は何も無いだろう。それに……ダンは俺達のこと敵だとは思わないのか?」
カイの言葉にダンは小屋の天井を見上げ「うーん……」と考えつつ言った。
「まあ、全く気にしない訳じゃないけど、俺にとってはウィルもレオンももうよく知る友達だしな……」
ダンのその言葉にカイは安堵した。
「そう言って貰えるのはありがたいよ」
そしてダンはおずおずと尋ねてきた。
「やっぱり、ハラルドの爺さん達が受け入れられない感じなのか」
「そうだな……。それでも家を使わせてもらえるだけで有り難いし、あれからも結構心配してくれてるんだ」
一昨日、マティアスが夕食を盛大に焦がした。竈の火加減を上手く調節できず、あれよあれよと炊いていた麦とメギの実は炭と化したらしい。
焦げ臭さに寒空の中、窓を開けていた所、いつの間にか玄関先のにスープが入った鍋が置かれていた。それは明らかにヘルガが作ったもので、どうやら匂いで料理に失敗したことを察したヘルガが置いていってくれたようだった。その気遣いにマティアスは涙ぐみ喜んでいた。
しかし、マティアスはその後も少し時間が経つとまた鬱々と落ち込んでいるように見えた。軽口を叩けば笑ってくれるがどこか無理に顔を作っている。
「ハラルドさんたちも息子さんのことを思うと割り切れないんだろ。でもレオン自体を憎めない気持ちもあるんだと思う。俺はそれで十分だと思うんだけど、レオンは何か悲しそうって言うか不安そうって言うか……。まあ、故郷の心配事も重なってるんじゃないかと思うが」
「ああ、そうか。俺、レオンんとこの長? が代わったって話もしちゃったもんな……」
ダンはバツが悪そうに顔を顰めた。
「いや、事実は事実として知られて良かったと思う。帰り方も変わってくるから」
「帰り方?」
「そう。皆がレオンの帰還を待っている訳ではないってことだ」
「なんだよそれ……」
ダンはそれを聞くと眉間を寄せ不快感を露わにした。
カイは帰還の際にどうするのが安全かずっと考えていた。輝飛竜に襲われた事自体が国王暗殺未遂事件だ。その現場に軽々とマティアス本人を連れて行くのは憚れる。
「ちょっとしゃべりすぎだな」
カイは苦笑いで誤魔化した。しかしダンはなんとなく状況を察したようだった。
「なあ、レオンの代わりの長はもう立ってるんだろう?……ならさ、別に帰らなくても良いんじゃないか?」
ダンが踏み込んできた。
それはカイも思っていたことだった。
「……ああ。正直、あんな所に帰したくない」
カイは初めてその思いを口にした。実際に言葉にした途端、それはより強く胸に響いてくる。
「そうだよな! だってあそこで長やってるって事はさ、あの災害があったら……。あっ! 俺達、祭りの時にレオンに酷いこと言ってた! 本人に向って奴隷だなんて……」
ダンは自分も含め若者達が話した内容を思い出し慌ててた様子だ。
「あれは、レオンも納得してた。だから変えたいと思ってるんだって言ってたから」
カイが少し笑いながら説明するとダンは少しホッとしたようだった。
「そうか。責任感強いんだな……。何か今のレオンとイメージが違うな」
「ああ。長やってる時のレオンは全然違う」
「……じゃあ、ここでのレオンはウィルに甘えてるんだな。それが本当のレオンだろ?」
「どうかな」
カイは少し考える。
貴族に臆すること無く威厳を放つ王としてのマティアス。カイの前ではよく笑い、甘え、怒り、すぐ泣くマティアス。
「どっちも本当のあいつだけど、でも、俺と居るほうが絶対に幸せなはずだ」
カイの宣言にダンが口笛を鳴らした。
「そこまで想ってるならもう腹くくれよ。このままこの村で暮らすのも良いと思うぜ。ハラルドさんちが駄目そうなら俺が紹介してやるし」
ダンが頼もしい事を言って背中を押してくれる。
カイとしてはこのバルテルニア王国にマティアスが居続けるにはかなりリスクがあるように感じている。永住するならフォルシュランドが良い。以前フォルシュランドの浜辺を見たいとマティアスが言っていたことを思い出した。
「レオンがこの先も俺と暮らすことを了承してくれたら、その時相談するよ」
「おう! 頑張れよ!」
カイはダンを見て頷いた。
それはまさに求婚の決意だった。
カイはダンに家畜小屋の掃除を手伝って欲しいと頼まれ出向いた。
「で、レオンはその後どうだ?」
仕事の説明をするでも無く、ダンは小屋に入るなりカイに尋ねてきた。
「……表向きはまあ普通だが、まあ、結構落ち込んでると思う」
「マジかーっ!」
ダンの大きな声に驚いた家鴨がバサバサと羽ばたく。家畜小屋には家鴨や、山羊、犬がおり、実に賑やかだった。
「ほんっっと、すまん! あの家、人の出入り激しいんだからもっと警戒すべきだった」
頭を下げるダンにカイは驚いた。
どうやらダンは話が聞きたくてカイを呼び出したらしい。ここなら他の人に聞かれる可能性も低いと考えてくれたのだろう。
「ダンが謝るような事は何も無いだろう。それに……ダンは俺達のこと敵だとは思わないのか?」
カイの言葉にダンは小屋の天井を見上げ「うーん……」と考えつつ言った。
「まあ、全く気にしない訳じゃないけど、俺にとってはウィルもレオンももうよく知る友達だしな……」
ダンのその言葉にカイは安堵した。
「そう言って貰えるのはありがたいよ」
そしてダンはおずおずと尋ねてきた。
「やっぱり、ハラルドの爺さん達が受け入れられない感じなのか」
「そうだな……。それでも家を使わせてもらえるだけで有り難いし、あれからも結構心配してくれてるんだ」
一昨日、マティアスが夕食を盛大に焦がした。竈の火加減を上手く調節できず、あれよあれよと炊いていた麦とメギの実は炭と化したらしい。
焦げ臭さに寒空の中、窓を開けていた所、いつの間にか玄関先のにスープが入った鍋が置かれていた。それは明らかにヘルガが作ったもので、どうやら匂いで料理に失敗したことを察したヘルガが置いていってくれたようだった。その気遣いにマティアスは涙ぐみ喜んでいた。
しかし、マティアスはその後も少し時間が経つとまた鬱々と落ち込んでいるように見えた。軽口を叩けば笑ってくれるがどこか無理に顔を作っている。
「ハラルドさんたちも息子さんのことを思うと割り切れないんだろ。でもレオン自体を憎めない気持ちもあるんだと思う。俺はそれで十分だと思うんだけど、レオンは何か悲しそうって言うか不安そうって言うか……。まあ、故郷の心配事も重なってるんじゃないかと思うが」
「ああ、そうか。俺、レオンんとこの長? が代わったって話もしちゃったもんな……」
ダンはバツが悪そうに顔を顰めた。
「いや、事実は事実として知られて良かったと思う。帰り方も変わってくるから」
「帰り方?」
「そう。皆がレオンの帰還を待っている訳ではないってことだ」
「なんだよそれ……」
ダンはそれを聞くと眉間を寄せ不快感を露わにした。
カイは帰還の際にどうするのが安全かずっと考えていた。輝飛竜に襲われた事自体が国王暗殺未遂事件だ。その現場に軽々とマティアス本人を連れて行くのは憚れる。
「ちょっとしゃべりすぎだな」
カイは苦笑いで誤魔化した。しかしダンはなんとなく状況を察したようだった。
「なあ、レオンの代わりの長はもう立ってるんだろう?……ならさ、別に帰らなくても良いんじゃないか?」
ダンが踏み込んできた。
それはカイも思っていたことだった。
「……ああ。正直、あんな所に帰したくない」
カイは初めてその思いを口にした。実際に言葉にした途端、それはより強く胸に響いてくる。
「そうだよな! だってあそこで長やってるって事はさ、あの災害があったら……。あっ! 俺達、祭りの時にレオンに酷いこと言ってた! 本人に向って奴隷だなんて……」
ダンは自分も含め若者達が話した内容を思い出し慌ててた様子だ。
「あれは、レオンも納得してた。だから変えたいと思ってるんだって言ってたから」
カイが少し笑いながら説明するとダンは少しホッとしたようだった。
「そうか。責任感強いんだな……。何か今のレオンとイメージが違うな」
「ああ。長やってる時のレオンは全然違う」
「……じゃあ、ここでのレオンはウィルに甘えてるんだな。それが本当のレオンだろ?」
「どうかな」
カイは少し考える。
貴族に臆すること無く威厳を放つ王としてのマティアス。カイの前ではよく笑い、甘え、怒り、すぐ泣くマティアス。
「どっちも本当のあいつだけど、でも、俺と居るほうが絶対に幸せなはずだ」
カイの宣言にダンが口笛を鳴らした。
「そこまで想ってるならもう腹くくれよ。このままこの村で暮らすのも良いと思うぜ。ハラルドさんちが駄目そうなら俺が紹介してやるし」
ダンが頼もしい事を言って背中を押してくれる。
カイとしてはこのバルテルニア王国にマティアスが居続けるにはかなりリスクがあるように感じている。永住するならフォルシュランドが良い。以前フォルシュランドの浜辺を見たいとマティアスが言っていたことを思い出した。
「レオンがこの先も俺と暮らすことを了承してくれたら、その時相談するよ」
「おう! 頑張れよ!」
カイはダンを見て頷いた。
それはまさに求婚の決意だった。
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