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【 第三章 】やがて光りの王となり
震②
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「どうしよう……どうしよう……っ!」
二人とも急いで服を着て一階に降りた。だが何かできる訳でも無い。オロオロと歩き回るマティアスにウィルバートが尋ねてきた。
「火焔石って、実際は何なんだ? 石炭とはちがうのか?」
「わ、わからないんだ……」
先王イーヴァリが老魔術師ベレフォードと共に長年研究し、その後をマティアスが引き継ぎベレフォードやその弟子たちと調査を進めてきたが結局よく分からないままだ。
「大量に火に焚べるわけにもいかなくて研究はあまり進んでなかった……。だからヴィーが教えてくれた『使わなければ厄災は起きない』と言う情報はかなり有力だったんだ」
「さっきヴィーは『小さきモノたちが閉じ込められている』とか言ってたよな? 中に何か生き物がいるのか?」
「生き物……」
マティアスは身の奥からざわつくように気味悪さが湧き出てるのを感じた。
「……火焔石を燃やすと、燃え尽きる寸前に嫌な音がするんだ。鉄の板を擦ったようなキィーッてて音。でもその音は魔力があるものにしか聴こえない」
マティアスが幼い頃、この音を母は嫌がり自室の暖炉では薪を使っていた。王家出身の母がせっせと薪を運んでいると周りの大人達は皆代わりに運ぼうとしたが、母は『私の我儘だから』とその申し出を断っていた。
あの不快な音。単に高音が不快なのだと、そう言うモノなのだと気に留めてなかったが、もしかして………
「その音ってのは、その魔物か何かの断末魔ってことか?」
「そうだったのかも……」
それを何千年と渡り燃やし消費していたのかと考えると恐ろしくなる。
「ヴィーは山に帰ったんだろうか……」
バルヴィアの切羽詰まったあの様子。すぐに黒霧の厄災は起こってしまうのか、はたまた数カ月や数年先なのか。おそらく何千年と時を過ごしているバルヴィアは通常の人と時間感覚が違うだろう。
「もしかしたら、からかって来ただけかもしれないぞ。ちゃっかりヘルガさん所でメシ食ってるかも」
ウィルバートが気休めの薄い可能性を言う。マティアスをなんとか励ましたいと思ってくれているのだろう。
「……ハラルドさんとヘルガさんに聞いてこよう」
しかしここに居ても何も出来ない。マティアスは居ても立っても居られずハラルドの家に行くことにした。
約ひと月ぶりに訪ねるエクルンド家。疎遠になるまで二つの家を直線で結ぶようにマティアスが雪を踏み道を作っていたが、今は雪が完全にその小道を覆い隠し、かつて道があったことすら感じさせない。
やや遠回りだが雪掻きしてある村道を通り、二人はハラルドの家へと向かった。
「ハラルドさん、ヘルガさん、レオンです。いらっしゃいますか?」
マティアスは不安が膨れ上がる胸を抱えながらその玄関扉を叩いた。
「どうした? 二人揃って……」
すぐにハラルドが顔を出した。突然の訪問に大きな目見開きを驚いた様子だ。
「突然すみません……! あの、ヴィーは来てますか?」
「ヴィー? 今日は来てないが……」
ハラルドが即答する。マティアスは落胆の色を隠しきれず、暗い声色で「そうですか……」と呟いた。
「ヴィーがどうかしたの?」
すると中で聞いていたらしいヘルガが顔を出した。久しぶりに見るヘルガの顔。マティアスは自身が緊張するのを感じた。
「あっ、その……さっき来たんですが様子が変で……」
マティアスの言葉にハラルドとヘルガは顔を見合わせた。
「ヴィー、一昨日の晩に来たのよ。大雪の日」
「そうだ。なのにあいつ、大して食べてないのに突然『帰る』って言って行っちまったんだ」
バルヴィアはいつも雪など気にすることなくハラルド宅を訪ねていたはずだ。やはりバルヴィアがふざけてあんなことを言っていたとは思えなくなってきた。
「……レオン、あなた顔が真っ青よ」
ヘルガがマティアスを見て心配そうな顔をする。
その時だった。
ドンッ! と低く轟音が響いた。
その場にいた四人が驚き顔を見合わせると同時に、ゴゴゴ……と唸るような音と共に大地が震えた。
「地震だっ! 外へっ!」
ウィルバートが叫び、その場にいた四人とも急いで外へと走った。道まで出て辺りを見渡すと他の家からも村人たちが出てきている。あちこちの木からは雪がバサバサと落ちているが、揺れはさほど大きくはなくすぐに収まった。
「ああ、驚いたな。大したこと無くて良かった」
ハラルドは落ち着いた調子で、ヘルガも「そうね」と呟いた。しかしマティアスは心臓が早鐘の様に鳴り響き、冷や汗がジワッと噴き出してきているのを感じた。
「大丈夫か?」
ハァハァと荒く息をするマティアスを気遣いウィルバートが声をかけてくる。マティアスはウィルバートの腕にしがみついた。
「い、今の揺れって……」
心配そうに見つめるウィルバートに縋りつき、マティアスは震える唇で言葉をひねり出そうとした。
「お、おいっ、あれっ……」
するとハラルドが南の空を指差し叫び、マティアスとウィルバートもその方向に視線を向けた。
「あっ……あああぁぁぁっ!!」
マティアスはそれが目に入った瞬間、悲鳴を上げた。
森の高い木々の奥に見える山脈のさらに向こう。青い空に黒い靄が昇り始めていた。
「マティアスっ!」
膝から崩れ落ちるマティアスをウィルバートが抱き支える。マティアスは南の空を瞬きもせず見つめ声を震わせた。
「お、起こってしまった……『黒霧の厄災』が、起こってしまったっ!」
二人とも急いで服を着て一階に降りた。だが何かできる訳でも無い。オロオロと歩き回るマティアスにウィルバートが尋ねてきた。
「火焔石って、実際は何なんだ? 石炭とはちがうのか?」
「わ、わからないんだ……」
先王イーヴァリが老魔術師ベレフォードと共に長年研究し、その後をマティアスが引き継ぎベレフォードやその弟子たちと調査を進めてきたが結局よく分からないままだ。
「大量に火に焚べるわけにもいかなくて研究はあまり進んでなかった……。だからヴィーが教えてくれた『使わなければ厄災は起きない』と言う情報はかなり有力だったんだ」
「さっきヴィーは『小さきモノたちが閉じ込められている』とか言ってたよな? 中に何か生き物がいるのか?」
「生き物……」
マティアスは身の奥からざわつくように気味悪さが湧き出てるのを感じた。
「……火焔石を燃やすと、燃え尽きる寸前に嫌な音がするんだ。鉄の板を擦ったようなキィーッてて音。でもその音は魔力があるものにしか聴こえない」
マティアスが幼い頃、この音を母は嫌がり自室の暖炉では薪を使っていた。王家出身の母がせっせと薪を運んでいると周りの大人達は皆代わりに運ぼうとしたが、母は『私の我儘だから』とその申し出を断っていた。
あの不快な音。単に高音が不快なのだと、そう言うモノなのだと気に留めてなかったが、もしかして………
「その音ってのは、その魔物か何かの断末魔ってことか?」
「そうだったのかも……」
それを何千年と渡り燃やし消費していたのかと考えると恐ろしくなる。
「ヴィーは山に帰ったんだろうか……」
バルヴィアの切羽詰まったあの様子。すぐに黒霧の厄災は起こってしまうのか、はたまた数カ月や数年先なのか。おそらく何千年と時を過ごしているバルヴィアは通常の人と時間感覚が違うだろう。
「もしかしたら、からかって来ただけかもしれないぞ。ちゃっかりヘルガさん所でメシ食ってるかも」
ウィルバートが気休めの薄い可能性を言う。マティアスをなんとか励ましたいと思ってくれているのだろう。
「……ハラルドさんとヘルガさんに聞いてこよう」
しかしここに居ても何も出来ない。マティアスは居ても立っても居られずハラルドの家に行くことにした。
約ひと月ぶりに訪ねるエクルンド家。疎遠になるまで二つの家を直線で結ぶようにマティアスが雪を踏み道を作っていたが、今は雪が完全にその小道を覆い隠し、かつて道があったことすら感じさせない。
やや遠回りだが雪掻きしてある村道を通り、二人はハラルドの家へと向かった。
「ハラルドさん、ヘルガさん、レオンです。いらっしゃいますか?」
マティアスは不安が膨れ上がる胸を抱えながらその玄関扉を叩いた。
「どうした? 二人揃って……」
すぐにハラルドが顔を出した。突然の訪問に大きな目見開きを驚いた様子だ。
「突然すみません……! あの、ヴィーは来てますか?」
「ヴィー? 今日は来てないが……」
ハラルドが即答する。マティアスは落胆の色を隠しきれず、暗い声色で「そうですか……」と呟いた。
「ヴィーがどうかしたの?」
すると中で聞いていたらしいヘルガが顔を出した。久しぶりに見るヘルガの顔。マティアスは自身が緊張するのを感じた。
「あっ、その……さっき来たんですが様子が変で……」
マティアスの言葉にハラルドとヘルガは顔を見合わせた。
「ヴィー、一昨日の晩に来たのよ。大雪の日」
「そうだ。なのにあいつ、大して食べてないのに突然『帰る』って言って行っちまったんだ」
バルヴィアはいつも雪など気にすることなくハラルド宅を訪ねていたはずだ。やはりバルヴィアがふざけてあんなことを言っていたとは思えなくなってきた。
「……レオン、あなた顔が真っ青よ」
ヘルガがマティアスを見て心配そうな顔をする。
その時だった。
ドンッ! と低く轟音が響いた。
その場にいた四人が驚き顔を見合わせると同時に、ゴゴゴ……と唸るような音と共に大地が震えた。
「地震だっ! 外へっ!」
ウィルバートが叫び、その場にいた四人とも急いで外へと走った。道まで出て辺りを見渡すと他の家からも村人たちが出てきている。あちこちの木からは雪がバサバサと落ちているが、揺れはさほど大きくはなくすぐに収まった。
「ああ、驚いたな。大したこと無くて良かった」
ハラルドは落ち着いた調子で、ヘルガも「そうね」と呟いた。しかしマティアスは心臓が早鐘の様に鳴り響き、冷や汗がジワッと噴き出してきているのを感じた。
「大丈夫か?」
ハァハァと荒く息をするマティアスを気遣いウィルバートが声をかけてくる。マティアスはウィルバートの腕にしがみついた。
「い、今の揺れって……」
心配そうに見つめるウィルバートに縋りつき、マティアスは震える唇で言葉をひねり出そうとした。
「お、おいっ、あれっ……」
するとハラルドが南の空を指差し叫び、マティアスとウィルバートもその方向に視線を向けた。
「あっ……あああぁぁぁっ!!」
マティアスはそれが目に入った瞬間、悲鳴を上げた。
森の高い木々の奥に見える山脈のさらに向こう。青い空に黒い靄が昇り始めていた。
「マティアスっ!」
膝から崩れ落ちるマティアスをウィルバートが抱き支える。マティアスは南の空を瞬きもせず見つめ声を震わせた。
「お、起こってしまった……『黒霧の厄災』が、起こってしまったっ!」
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