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【 第三章 】やがて光りの王となり
英雄②
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ウィルバートはそう愛の言葉を囁くと再び唇を合わせてきた。マティアスの口腔内にウィルバートの舌が入ってきて、より深いくちづけをしようとした時。
「あー……、盛り上がってるところ悪いが、その辺にしといて貰えるか。姉さまが失神しそうだ」
突然した男の声にウィルバートは驚きマティアスから顔を離した。そしてクラウスとセラフィーナを呆然と見つめる。
「あ、あのね、ウィル。紹介するよ。母です……」
マティアスは戸惑いつつもセラフィーナを示した。
マティアスに紹介されたセラフィーナは顔を真っ赤にして両手を自身の頬に当てて固まっていた。
「あと、叔父のクラウス殿下……。殿下にお会いするのは私も初めてなんだけど……」
ウィルバートは口をパクパクさせて混乱しながらも状況を必死に飲み込もうとしているようだ。
「ま、まさかあの英雄の……クラウス殿下とセラフィーナ殿下……!」
「英雄かどうかは知らんがな。だが積もる話は全てを片付けた後だ」
クラウスがそう言い火口を見た。マティアスもその方向に目をやるとすでに赤い炎は消え、黒い毒霧も漂っていない。そこにあるのはただただ朝を迎えつつある岩と砂の山頂。
四人で火口へと向かい、姿勢を低くしその窪みを覗き込んだ。一見何も無いような半球状に窪み。
「中心にいるわね」
まだうす暗い早朝の山。セラフィーナが目を凝らし、三人の男たちに小声で確認する。
「ああ。いる」
セラフィーナの問いかけにクラウスも静かに頷いた。その中心に小さく存在するもの。それが何かマティアスは確信して叫び駆け出した。
「ヴィーっ!」
斜面を転がるように降り、窪みの中心へと走り急ぐ。
「はあっ?!」
「な、何してるの?! マティアスっ!」
クラウスとセラフィーナはマティアスの行動に驚き叫び止めてくる。しかしウィルバートは理解できたようでマティアスの後を追い火口へと降り着いてきた。
マティアスは窪みの中心にそれを見つけると迷うこと無く抱き上げ呼びかけた。
「ヴィー! 大丈夫か?!」
それは真っ赤な髪をした赤子だった。しかし生まれたての人の子よりさらに一回り小さい。
「ヴィー! しっかりしろ!」
マティアスに呼びかけられたその赤子は薄っすらと目を開けた。
「……お前ら……なかなかやりおるの……」
蚊の鳴くような力のない声でバルヴィアは笑い答えた。
「マティアス! 何をしているの?!」
その時後から追ってきたセラフィーナが叫ぶ。
「そうだ! そんなものに触れるな!」
さらにクラウスは剣を抜いた。
「そこまで力を失っていれば完全に倒せる! 私たちはその為に時を渡って来たんだ!」
「そうよ! マティアス! 今三人で力を合わせればバルヴィアを完全に消滅させられる! もう王家の誰かが死ななくて済むのよ!」
そしてセラフィーナも杖を構えた。そんな母と叔父を見つめながらもマティアスはバルヴィアを守るように抱きかかえ二人に叫んだ。
「違うんです! 『黒霧の厄災』はヴィーの、バルヴィアのせいじゃない! ヴィーは悪くない!」
「な、何を言ってるの?」
マティアスの叫びにセラフィーナとクラウスは戸惑いの表情を見せる。
「ヴィーが教えてくれたんです。火焔石を使わなければ『黒霧の厄災』は起きないって。火焔石にはなにか魔物が入ってるみたいなんです! それを我々が焼くから、その小さいものたちの苦しみや悲しみが大量に集まりってヴィーを暴走させてるんです!」
「そ、そんなの、その魔物の嘘かもしれないだろう! マティアス、お前はソレに惑わされてる!」
マティアスの説明が信じられないクラウスが反論してくる。そして苦しげに剣を握りしめた。
「アルヴァンデールの負の連鎖を断ち切る為に……私と姉さまは、愛する人とももう会えないことを覚悟して時を渡ったんだ! 今さら引けない! マティアス! それを下ろせっ!」
マティアスはクラウスから目をそらすと母セラフィーナを見た。
「母さま、お願い。信じてください。母さまは火焔石が燃え尽きる時の音を嫌っていましたよね? あれはきっとその中にいるモノの最期の叫びです。母さまはその悲しみを感じ取っていたのではないですか?」
マティアスの問いかけにセラフィーナは固まった。マティアスはウィルバートに近づくと抱いていたバルヴィアを「ちょっとお願い」と言って託した。ウィルバートは戸惑いながらも弱々しいバルヴィアを抱きかかえてくれた。
「『魂の解放』がまだ有効な今なら出来る気がする……」
マティアスはそう言うと足元に転がっていた六角形の黒い石を拾い上げた。火焔石だ。
「試しに一つ、解放してみましょう」
マティアスがそう宣言するとクラウスとセラフィーナは驚き息を呑んだ。
「どんな魔物が出てくるか分からないのでご注意を」
「そんなっ、マティアス危険よ!」
「いや、姉さま、今確認した方がいい。マティアス、やってみろ。危険な魔物なら私が切る」
心配するセラフィーナをよそにクラウスは剣を構えた。マティアスはクラウスをみて頷くと火焔石を両手で包み頬をよせた。
「閉じ込められて苦しいだろう。さあ、出ておいで……」
マティアスが優しげに囁くと石が金色に包まれた。マティアスの手の中で石が溶けていくように変化していく。そしてフワリと緑の光が舞い出てきた。
「な、何と言うことだ……」
クラウスが呆然と呟き、セラフィーナは口を押さえて固まっている。ウィルバートにもその光りが見えているようで黒い瞳が光を追っている。
それは明らかに魔物ではなく妖精だった。
「あー……、盛り上がってるところ悪いが、その辺にしといて貰えるか。姉さまが失神しそうだ」
突然した男の声にウィルバートは驚きマティアスから顔を離した。そしてクラウスとセラフィーナを呆然と見つめる。
「あ、あのね、ウィル。紹介するよ。母です……」
マティアスは戸惑いつつもセラフィーナを示した。
マティアスに紹介されたセラフィーナは顔を真っ赤にして両手を自身の頬に当てて固まっていた。
「あと、叔父のクラウス殿下……。殿下にお会いするのは私も初めてなんだけど……」
ウィルバートは口をパクパクさせて混乱しながらも状況を必死に飲み込もうとしているようだ。
「ま、まさかあの英雄の……クラウス殿下とセラフィーナ殿下……!」
「英雄かどうかは知らんがな。だが積もる話は全てを片付けた後だ」
クラウスがそう言い火口を見た。マティアスもその方向に目をやるとすでに赤い炎は消え、黒い毒霧も漂っていない。そこにあるのはただただ朝を迎えつつある岩と砂の山頂。
四人で火口へと向かい、姿勢を低くしその窪みを覗き込んだ。一見何も無いような半球状に窪み。
「中心にいるわね」
まだうす暗い早朝の山。セラフィーナが目を凝らし、三人の男たちに小声で確認する。
「ああ。いる」
セラフィーナの問いかけにクラウスも静かに頷いた。その中心に小さく存在するもの。それが何かマティアスは確信して叫び駆け出した。
「ヴィーっ!」
斜面を転がるように降り、窪みの中心へと走り急ぐ。
「はあっ?!」
「な、何してるの?! マティアスっ!」
クラウスとセラフィーナはマティアスの行動に驚き叫び止めてくる。しかしウィルバートは理解できたようでマティアスの後を追い火口へと降り着いてきた。
マティアスは窪みの中心にそれを見つけると迷うこと無く抱き上げ呼びかけた。
「ヴィー! 大丈夫か?!」
それは真っ赤な髪をした赤子だった。しかし生まれたての人の子よりさらに一回り小さい。
「ヴィー! しっかりしろ!」
マティアスに呼びかけられたその赤子は薄っすらと目を開けた。
「……お前ら……なかなかやりおるの……」
蚊の鳴くような力のない声でバルヴィアは笑い答えた。
「マティアス! 何をしているの?!」
その時後から追ってきたセラフィーナが叫ぶ。
「そうだ! そんなものに触れるな!」
さらにクラウスは剣を抜いた。
「そこまで力を失っていれば完全に倒せる! 私たちはその為に時を渡って来たんだ!」
「そうよ! マティアス! 今三人で力を合わせればバルヴィアを完全に消滅させられる! もう王家の誰かが死ななくて済むのよ!」
そしてセラフィーナも杖を構えた。そんな母と叔父を見つめながらもマティアスはバルヴィアを守るように抱きかかえ二人に叫んだ。
「違うんです! 『黒霧の厄災』はヴィーの、バルヴィアのせいじゃない! ヴィーは悪くない!」
「な、何を言ってるの?」
マティアスの叫びにセラフィーナとクラウスは戸惑いの表情を見せる。
「ヴィーが教えてくれたんです。火焔石を使わなければ『黒霧の厄災』は起きないって。火焔石にはなにか魔物が入ってるみたいなんです! それを我々が焼くから、その小さいものたちの苦しみや悲しみが大量に集まりってヴィーを暴走させてるんです!」
「そ、そんなの、その魔物の嘘かもしれないだろう! マティアス、お前はソレに惑わされてる!」
マティアスの説明が信じられないクラウスが反論してくる。そして苦しげに剣を握りしめた。
「アルヴァンデールの負の連鎖を断ち切る為に……私と姉さまは、愛する人とももう会えないことを覚悟して時を渡ったんだ! 今さら引けない! マティアス! それを下ろせっ!」
マティアスはクラウスから目をそらすと母セラフィーナを見た。
「母さま、お願い。信じてください。母さまは火焔石が燃え尽きる時の音を嫌っていましたよね? あれはきっとその中にいるモノの最期の叫びです。母さまはその悲しみを感じ取っていたのではないですか?」
マティアスの問いかけにセラフィーナは固まった。マティアスはウィルバートに近づくと抱いていたバルヴィアを「ちょっとお願い」と言って託した。ウィルバートは戸惑いながらも弱々しいバルヴィアを抱きかかえてくれた。
「『魂の解放』がまだ有効な今なら出来る気がする……」
マティアスはそう言うと足元に転がっていた六角形の黒い石を拾い上げた。火焔石だ。
「試しに一つ、解放してみましょう」
マティアスがそう宣言するとクラウスとセラフィーナは驚き息を呑んだ。
「どんな魔物が出てくるか分からないのでご注意を」
「そんなっ、マティアス危険よ!」
「いや、姉さま、今確認した方がいい。マティアス、やってみろ。危険な魔物なら私が切る」
心配するセラフィーナをよそにクラウスは剣を構えた。マティアスはクラウスをみて頷くと火焔石を両手で包み頬をよせた。
「閉じ込められて苦しいだろう。さあ、出ておいで……」
マティアスが優しげに囁くと石が金色に包まれた。マティアスの手の中で石が溶けていくように変化していく。そしてフワリと緑の光が舞い出てきた。
「な、何と言うことだ……」
クラウスが呆然と呟き、セラフィーナは口を押さえて固まっている。ウィルバートにもその光りが見えているようで黒い瞳が光を追っている。
それは明らかに魔物ではなく妖精だった。
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