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【 第三章 】やがて光りの王となり
帰還③
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「マティアス様っ!」
さらに人垣を掻き分け飛び出してきた人物。
「ロッタ!」
マティアスが姉の様に慕うロッタ。ロッタはマティアスに駆け寄るとしっかりと抱き締めてくれた。
「マティアス様ぁっ! よくご無事でっ……!」
「ロッタ、心配かけたな」
「カイ様が輝飛竜から助けてくださったのですねっ!」
「ああ。でもそれだけじゃないんだ。ウィルには……カイにはたくさん助けてもらったんだ」
マティアスは微笑みながらウィルバートを見た。横に立つウィルバートが照れたように微笑み返す。その様子にロッタは二人の関係が進んだことを察したようで優しげな笑みを浮かべた。
「あなた、ロッタなの?! マリーかと思ったわ!」
「セ、セラフィーナ様?!」
マリーはロッタの母親の名前だ。二十年前カノラ村で暮らしていた義理姪にセラフィーナが驚き駆け寄ってきた。
その奥でクラウスが人垣からアーロンを見つけ声を掛けていた。
「アーロンお前……なんか、可愛くなくなったな!」
そしてアハハと豪快に笑いアーロンの肩を叩いている。対してアーロンは俯き肩を震わせると「また貴方にお会い出来るなんて……!」と涙していた。マティアスはアーロンが泣いているのを初めて見た気がした。
アーロンは涙を拭うとマティアスにも顔をむけた。
「陛下……。陛下をお守り出来ずこのアーロン・クランツ、近衛隊隊長として一生の不覚にございます……」
アーロンは片膝を付き頭を垂れた。
「アーロン、ウィルが助けてくれたんだ。お前が鍛えたウィルバート・ブラックストンが」
アーロンが驚いたように顔を上げた。
「全部話したのですか……?」
「ん、全部話たし、ついさっき、ウィルは全てを取り戻したんだ」
マティアスは微笑みながらウィルバートを見た。ウィルバートもまたアーロンに歩み寄った。
「お久しぶりです。クランツ隊長」
「ウィルバート……! 記憶が戻ったのか!」
そんなやりとりを横で聞いていたベレフォードが割って入ってきた。
「そ、そんな訳なかろう! 川に流した水は回収できん!」
「ベレフォード様もお久しぶりです。なんと言うか……あの世の狭間から『ウィルバート』を連れて帰ってきた感じでして……」
ウィルバートが頭を掻き困ったように二人に説明した。
その時、人垣が割れ一人の人物が走り寄ってきた。
「マティアス陛下っ!」
「サムエル様……」
名目上、現在のアルヴァンデール王国国王はサムエルであるにもかからず、サムエルはマティアスを『陛下』と呼んできた。
銀縁の丸眼鏡をかけた淡白な顔立ち。輝飛竜やその他生物の研究にしか興味を持たなく、いつも平坦な感情である印象のサムエル。しかしそこにいる彼はすっかりやつれ今にも倒れそうだった。
サムエルはマティアスの足元に崩れる様に座り込み、頭を地面に擦り付けるように下げてきた。
「申し訳ございません! 国を……私にはアルヴァンデールを守る力もっ! 知識もっ! 何もなかったっ! 貴族達に言われて……火焔石は売っても問題無いと言われて……こ、こんな事態にっ!」
サムエルの悲痛な叫びがバルコニーにこだまする。そこに居るのは国王の威厳とは程遠く背中を丸め小さく震える男の姿があるだけだ。
ベレフォードがマティアスの耳元で小さく囁いた。
「陛下。貴族の奴らはサムエル陛下に我が国の財政難を問い詰め、立て直すためにアンネリエ様を他国へ嫁がせろと迫ったのです」
「はぁ?!」
マティアスは思わず声を上げた。アンネリエはサムエルの第二子の姫だが、七歳か八歳のまだ子供だ。
「それが出来ぬのなら火焔石の使用禁止を解除せよと。私も火焔石の使用は危険だと散々説得したのです。ですが……マティアス陛下の、輝飛竜に襲われた王の指示は信用に値しないと……」
「それで使用を許可してしまってこの事態か……」
マティアスは深く溜め息をついた。
この『黒霧の厄災』は、マティアス自身が一部の貴族達を纏められなかった為に起こった事だと強く感じた。
「サムエル様。貴方に火焔石の使用許可を迫ったのは中心人物はクレモラ卿ですね」
「は、はい……」
頭を下げたまま答えるサムエルにマティアスは頷き声を張り上げた。
「クレモラ卿は城にいるか! すぐに捕らえよ!」
マティアスの指示にアーロンが「はっ!」と返事をし部下達に目配せするとすぐに兵士達が走り出す。
「サムエル様。フェイとサラの仔はどうなりました? 卵が割られたと思うのですが」
マティアスのその言葉に項垂れていたサムエルはガバッと顔を上げに驚いた表情を見せた。
「ぶ、無事です! もう孵化の寸前でしたからなんとか助かりました! しかし、陛下が何故それを? 誰がやったか知っているのですか?!」
「ええ。ああ、来ましたね」
マティアスはそう返事をしつつ人垣の奥を見た。兵士に付き添われてクレモラ卿がやってきたところだった。
「いやいや、マティアス様! まさかご無事だったとは! 素晴らしい!」
クレモラ卿は相変わらず派手な衣装に身を包み、手を揉みながらニコニコと笑顔でこちらに歩み寄ってきた。しかしその笑顔は引き攣っている。
「クレモラ卿、笑っておられるお立場ですか。サムエル陛下に火焔石の使用許可を迫ったのは貴方のようですね。それによりアルヴァンデールを揺るがす大事態になった事、どうお考えで?」
「ざ、財政難で仕方なかったのですっ!」
「いえ、我が国の経済的状況は回復しつつあった。この半年で急ぎ大量の火焔石を売る必要などどこにもない」
ピシャリと言い放つマティアスにクレモラは笑顔を引き、必死に弁解を始めた、
「し、しかし! 火焔石の使用が『黒霧の厄災』と関係している証拠など無かった! 可能性があると言うだけで使える財源を使わないのはどう考えてもおかしいです!」
「だが、現実に『黒霧の厄災』は起こったではないか! 大災害が起こる可能性を無視し、お前が民全体を危険に晒したのは事実だ!」
クレモラの馬鹿馬鹿しい言い分にマティアスも声を荒げた。そして端に控えていたマリアンナに目配せし、こちらに来るよう手招きした。クレモラはマリアンナの姿を見てさらに青くなった。
さらに人垣を掻き分け飛び出してきた人物。
「ロッタ!」
マティアスが姉の様に慕うロッタ。ロッタはマティアスに駆け寄るとしっかりと抱き締めてくれた。
「マティアス様ぁっ! よくご無事でっ……!」
「ロッタ、心配かけたな」
「カイ様が輝飛竜から助けてくださったのですねっ!」
「ああ。でもそれだけじゃないんだ。ウィルには……カイにはたくさん助けてもらったんだ」
マティアスは微笑みながらウィルバートを見た。横に立つウィルバートが照れたように微笑み返す。その様子にロッタは二人の関係が進んだことを察したようで優しげな笑みを浮かべた。
「あなた、ロッタなの?! マリーかと思ったわ!」
「セ、セラフィーナ様?!」
マリーはロッタの母親の名前だ。二十年前カノラ村で暮らしていた義理姪にセラフィーナが驚き駆け寄ってきた。
その奥でクラウスが人垣からアーロンを見つけ声を掛けていた。
「アーロンお前……なんか、可愛くなくなったな!」
そしてアハハと豪快に笑いアーロンの肩を叩いている。対してアーロンは俯き肩を震わせると「また貴方にお会い出来るなんて……!」と涙していた。マティアスはアーロンが泣いているのを初めて見た気がした。
アーロンは涙を拭うとマティアスにも顔をむけた。
「陛下……。陛下をお守り出来ずこのアーロン・クランツ、近衛隊隊長として一生の不覚にございます……」
アーロンは片膝を付き頭を垂れた。
「アーロン、ウィルが助けてくれたんだ。お前が鍛えたウィルバート・ブラックストンが」
アーロンが驚いたように顔を上げた。
「全部話したのですか……?」
「ん、全部話たし、ついさっき、ウィルは全てを取り戻したんだ」
マティアスは微笑みながらウィルバートを見た。ウィルバートもまたアーロンに歩み寄った。
「お久しぶりです。クランツ隊長」
「ウィルバート……! 記憶が戻ったのか!」
そんなやりとりを横で聞いていたベレフォードが割って入ってきた。
「そ、そんな訳なかろう! 川に流した水は回収できん!」
「ベレフォード様もお久しぶりです。なんと言うか……あの世の狭間から『ウィルバート』を連れて帰ってきた感じでして……」
ウィルバートが頭を掻き困ったように二人に説明した。
その時、人垣が割れ一人の人物が走り寄ってきた。
「マティアス陛下っ!」
「サムエル様……」
名目上、現在のアルヴァンデール王国国王はサムエルであるにもかからず、サムエルはマティアスを『陛下』と呼んできた。
銀縁の丸眼鏡をかけた淡白な顔立ち。輝飛竜やその他生物の研究にしか興味を持たなく、いつも平坦な感情である印象のサムエル。しかしそこにいる彼はすっかりやつれ今にも倒れそうだった。
サムエルはマティアスの足元に崩れる様に座り込み、頭を地面に擦り付けるように下げてきた。
「申し訳ございません! 国を……私にはアルヴァンデールを守る力もっ! 知識もっ! 何もなかったっ! 貴族達に言われて……火焔石は売っても問題無いと言われて……こ、こんな事態にっ!」
サムエルの悲痛な叫びがバルコニーにこだまする。そこに居るのは国王の威厳とは程遠く背中を丸め小さく震える男の姿があるだけだ。
ベレフォードがマティアスの耳元で小さく囁いた。
「陛下。貴族の奴らはサムエル陛下に我が国の財政難を問い詰め、立て直すためにアンネリエ様を他国へ嫁がせろと迫ったのです」
「はぁ?!」
マティアスは思わず声を上げた。アンネリエはサムエルの第二子の姫だが、七歳か八歳のまだ子供だ。
「それが出来ぬのなら火焔石の使用禁止を解除せよと。私も火焔石の使用は危険だと散々説得したのです。ですが……マティアス陛下の、輝飛竜に襲われた王の指示は信用に値しないと……」
「それで使用を許可してしまってこの事態か……」
マティアスは深く溜め息をついた。
この『黒霧の厄災』は、マティアス自身が一部の貴族達を纏められなかった為に起こった事だと強く感じた。
「サムエル様。貴方に火焔石の使用許可を迫ったのは中心人物はクレモラ卿ですね」
「は、はい……」
頭を下げたまま答えるサムエルにマティアスは頷き声を張り上げた。
「クレモラ卿は城にいるか! すぐに捕らえよ!」
マティアスの指示にアーロンが「はっ!」と返事をし部下達に目配せするとすぐに兵士達が走り出す。
「サムエル様。フェイとサラの仔はどうなりました? 卵が割られたと思うのですが」
マティアスのその言葉に項垂れていたサムエルはガバッと顔を上げに驚いた表情を見せた。
「ぶ、無事です! もう孵化の寸前でしたからなんとか助かりました! しかし、陛下が何故それを? 誰がやったか知っているのですか?!」
「ええ。ああ、来ましたね」
マティアスはそう返事をしつつ人垣の奥を見た。兵士に付き添われてクレモラ卿がやってきたところだった。
「いやいや、マティアス様! まさかご無事だったとは! 素晴らしい!」
クレモラ卿は相変わらず派手な衣装に身を包み、手を揉みながらニコニコと笑顔でこちらに歩み寄ってきた。しかしその笑顔は引き攣っている。
「クレモラ卿、笑っておられるお立場ですか。サムエル陛下に火焔石の使用許可を迫ったのは貴方のようですね。それによりアルヴァンデールを揺るがす大事態になった事、どうお考えで?」
「ざ、財政難で仕方なかったのですっ!」
「いえ、我が国の経済的状況は回復しつつあった。この半年で急ぎ大量の火焔石を売る必要などどこにもない」
ピシャリと言い放つマティアスにクレモラは笑顔を引き、必死に弁解を始めた、
「し、しかし! 火焔石の使用が『黒霧の厄災』と関係している証拠など無かった! 可能性があると言うだけで使える財源を使わないのはどう考えてもおかしいです!」
「だが、現実に『黒霧の厄災』は起こったではないか! 大災害が起こる可能性を無視し、お前が民全体を危険に晒したのは事実だ!」
クレモラの馬鹿馬鹿しい言い分にマティアスも声を荒げた。そして端に控えていたマリアンナに目配せし、こちらに来るよう手招きした。クレモラはマリアンナの姿を見てさらに青くなった。
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