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【 番外編 】
Homunculus [12]
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「ここは……どこなんだ?」
「えっと、城の近くだ。城の近くの花街の……」
「花街……」
『花街』と言う言葉の意味をマティアスは頭の中で確認している様子だった。
「あのな、マティアス、俺はクラウス殿下に連れてこられてっ!」
「クラウス殿下……その殿下は?」
「え……と、あそこの劇場内だ」
「劇場……なぜウィルは見ないのだ? 連れてこられたのに」
「いや、なんというか、いかがわしい演目が始まってだな……」
「いかがわしい……演目……」
マティアスの声色はどんどん強張り冷たくなっていく。ウィルバートは落ち着かせようと必死に声をかけた。
「ま、マティアス、誤解するなよ? 俺はだな、」
「で、そちらのご婦人は?」
「いや、彼女は俺がここで待ってるっていったら、気遣って待つ部屋を用意するかと……」
「部屋を……」
「だが俺はここで待つと言って……。そもそも俺は自分の意思で来たわけじゃないからなっ!」
ウィルバートか必死に説明するものの、マティアスの耳には届いていないようで、俯いてブツブツと言い始めた。
「ウィル……やっぱり、私に飽きて……」
「マティアス、何を言ってる?」
ウィルバートはマティアスの肩を持ち問いただす。するとマティアスはガバッと顔を上げ、エメラルドの瞳を潤ませ叫んだ。
「だって! ウィル最近、前みたいに激しく抱いてくれなっ」
「おまっ、人前で何言い出すんだっ!」
ウィルバートは慌ててその口を手で覆い言葉を遮った。ウィルバートに口を塞がれたマティアスはフーフーッと鼻息を荒くしウィルバートを睨んでくる。手のひらにマティアスの震える唇を感じた。
「マティアス、落ち着けって!」
鋭く突き刺してくるその緑の瞳は怒りからやがて悲しみへと揺らぎながら変わり、涙の雫がコロリと頬を滑り落ちた。
「ま、マティアス……本当に違うんだ……」
ついに泣かせてしまったと焦る。早くこんな所から立ち去って、ゆっくり抱きしめて、口づけて、どんなに愛しているかを語り慰めたい。
「陛下、ウィルバート様は陛下に言えないようなことは何もしておりませんので、ご安心くださいませ」
そう声を掛けてきたのは黒髪の娼婦だ。王の疑い視線にも動じるとこなく柔らかな笑顔を浮かべ子供に話しかけるように優しく語りかける。
「本当にウィルバート様はクラウス殿下の付き添いでいらっしゃったようでございますよ」
「な……なんで、ウィルが……」
マティアスは依然不信の目を向けてくるが、少し冷静さを取り戻しているように見えた。
「夕方、城に戻った時にクラウス殿下に会って、なんでも隊長がどこに行くか知りたいからついて来いって、むりやり……」
「じゃあ、アーロンがここに?」
「ああ、店員に案内されてあの劇場に入ったんだ。殿下はそのまま劇場内で隊長を待つときかなくて……置いて帰る訳にもいかず困ってたところだ」
話を聞くマティアスの瞳から鋭さが和らいだ気がした。
「……そうか。疑って悪かった」
ポツリと小さく詫びるマティアス。
誤解が解けホッとしたが、さてこれからどうしたものか。
マティアスの空間移動魔術は不完全で恐らくこの状況だと一人で城に戻ることも出来ないだろう。悩むウィルバートをよそに黒髪の娼婦がマティアスに声をかけた。
「陛下、先ほどの魔術、間近で拝見できて感激でしたわ」
「いえ……私はまだまだで……」
突然娼婦から声を掛けられマティアスは困惑している様子だ。
「ふふ、ご謙遜を。『黒霧の厄災』を鎮められた偉大なお力ではございませんか。実は私も魔術を使えますの。でも殿方を悦ばせるくらいにしか使い道がありませんわ」
女が娼婦らしく妖艶な笑みを浮かべる。そんな下卑た話する女をマティアスはきっと軽蔑するだろうとウィルバートは思ったのだ。しかし、
「と、殿方を悦ばせる? それはどんな術なんだ?」
「あら、ご興味おありで?」
マティアスは興味津々で娼婦に近付く。
「おい、マティアス……」
「ウィルは聞いちゃダメ」
マティアスはピシャリとそう告げるとウィルバートから三歩程度離れ、娼婦とヒソヒソと話し始めた。
これまでマティアスに猥談をした者はいただろうか。その高貴なる耳に卑猥な言葉を吹き込んだのはベッドの中のウィルバートだけだろう。
マティアスは頬を上気させつつも真剣に女の話を聞いている。
(これは叱るべきなのだろうか……)
女を知らないマティアスが女に興味を持ったらと思うと焦る気持ちも湧くが、話し込む二人の空気感でどことなく『抱かれる側同士』の話だろうと予想も着く。
するとマティアスが「あっ!」と何かを思い出したように声を上げた。
「今まで………魔術で……のだ。そしたら……」
「まあ、そんなことが……」
「どうしたら……私はこれまで通り……」
「あらあら、過激ですわね。でしたら……」
延々と続く真剣な猥談。そろそろやめさせようかと思っていた時だった。
「ウィルバート殿、もういいぞ!……ん? なぜマティアスがいる?」
劇場から出てきたクラウスは待たせておきながらぶっきらぼうに声をかけてきた。
「クラウス殿下! 私のウィルを勝手に連れ出さないでくださいっ!」
「ああ、もう帰っていいぞ。アーロンを見つけた」
吠えるマティアスにクラウスはそっけなくそう言うとそのまま娼館の奥へと入っていき、その後を先ほどの男性店員が手を揉みつつ引きつり笑いを浮かべ着いていく。
「なんて勝手なっ!」
クラウスの身勝手さにマティアスが怒りの声を上げた。
アーロンを見つけたと言うのに一緒ではない。どういうことなのか。しかしこれは追及すべきではないとなんとなくウィルバートは思った。
「えっと、城の近くだ。城の近くの花街の……」
「花街……」
『花街』と言う言葉の意味をマティアスは頭の中で確認している様子だった。
「あのな、マティアス、俺はクラウス殿下に連れてこられてっ!」
「クラウス殿下……その殿下は?」
「え……と、あそこの劇場内だ」
「劇場……なぜウィルは見ないのだ? 連れてこられたのに」
「いや、なんというか、いかがわしい演目が始まってだな……」
「いかがわしい……演目……」
マティアスの声色はどんどん強張り冷たくなっていく。ウィルバートは落ち着かせようと必死に声をかけた。
「ま、マティアス、誤解するなよ? 俺はだな、」
「で、そちらのご婦人は?」
「いや、彼女は俺がここで待ってるっていったら、気遣って待つ部屋を用意するかと……」
「部屋を……」
「だが俺はここで待つと言って……。そもそも俺は自分の意思で来たわけじゃないからなっ!」
ウィルバートか必死に説明するものの、マティアスの耳には届いていないようで、俯いてブツブツと言い始めた。
「ウィル……やっぱり、私に飽きて……」
「マティアス、何を言ってる?」
ウィルバートはマティアスの肩を持ち問いただす。するとマティアスはガバッと顔を上げ、エメラルドの瞳を潤ませ叫んだ。
「だって! ウィル最近、前みたいに激しく抱いてくれなっ」
「おまっ、人前で何言い出すんだっ!」
ウィルバートは慌ててその口を手で覆い言葉を遮った。ウィルバートに口を塞がれたマティアスはフーフーッと鼻息を荒くしウィルバートを睨んでくる。手のひらにマティアスの震える唇を感じた。
「マティアス、落ち着けって!」
鋭く突き刺してくるその緑の瞳は怒りからやがて悲しみへと揺らぎながら変わり、涙の雫がコロリと頬を滑り落ちた。
「ま、マティアス……本当に違うんだ……」
ついに泣かせてしまったと焦る。早くこんな所から立ち去って、ゆっくり抱きしめて、口づけて、どんなに愛しているかを語り慰めたい。
「陛下、ウィルバート様は陛下に言えないようなことは何もしておりませんので、ご安心くださいませ」
そう声を掛けてきたのは黒髪の娼婦だ。王の疑い視線にも動じるとこなく柔らかな笑顔を浮かべ子供に話しかけるように優しく語りかける。
「本当にウィルバート様はクラウス殿下の付き添いでいらっしゃったようでございますよ」
「な……なんで、ウィルが……」
マティアスは依然不信の目を向けてくるが、少し冷静さを取り戻しているように見えた。
「夕方、城に戻った時にクラウス殿下に会って、なんでも隊長がどこに行くか知りたいからついて来いって、むりやり……」
「じゃあ、アーロンがここに?」
「ああ、店員に案内されてあの劇場に入ったんだ。殿下はそのまま劇場内で隊長を待つときかなくて……置いて帰る訳にもいかず困ってたところだ」
話を聞くマティアスの瞳から鋭さが和らいだ気がした。
「……そうか。疑って悪かった」
ポツリと小さく詫びるマティアス。
誤解が解けホッとしたが、さてこれからどうしたものか。
マティアスの空間移動魔術は不完全で恐らくこの状況だと一人で城に戻ることも出来ないだろう。悩むウィルバートをよそに黒髪の娼婦がマティアスに声をかけた。
「陛下、先ほどの魔術、間近で拝見できて感激でしたわ」
「いえ……私はまだまだで……」
突然娼婦から声を掛けられマティアスは困惑している様子だ。
「ふふ、ご謙遜を。『黒霧の厄災』を鎮められた偉大なお力ではございませんか。実は私も魔術を使えますの。でも殿方を悦ばせるくらいにしか使い道がありませんわ」
女が娼婦らしく妖艶な笑みを浮かべる。そんな下卑た話する女をマティアスはきっと軽蔑するだろうとウィルバートは思ったのだ。しかし、
「と、殿方を悦ばせる? それはどんな術なんだ?」
「あら、ご興味おありで?」
マティアスは興味津々で娼婦に近付く。
「おい、マティアス……」
「ウィルは聞いちゃダメ」
マティアスはピシャリとそう告げるとウィルバートから三歩程度離れ、娼婦とヒソヒソと話し始めた。
これまでマティアスに猥談をした者はいただろうか。その高貴なる耳に卑猥な言葉を吹き込んだのはベッドの中のウィルバートだけだろう。
マティアスは頬を上気させつつも真剣に女の話を聞いている。
(これは叱るべきなのだろうか……)
女を知らないマティアスが女に興味を持ったらと思うと焦る気持ちも湧くが、話し込む二人の空気感でどことなく『抱かれる側同士』の話だろうと予想も着く。
するとマティアスが「あっ!」と何かを思い出したように声を上げた。
「今まで………魔術で……のだ。そしたら……」
「まあ、そんなことが……」
「どうしたら……私はこれまで通り……」
「あらあら、過激ですわね。でしたら……」
延々と続く真剣な猥談。そろそろやめさせようかと思っていた時だった。
「ウィルバート殿、もういいぞ!……ん? なぜマティアスがいる?」
劇場から出てきたクラウスは待たせておきながらぶっきらぼうに声をかけてきた。
「クラウス殿下! 私のウィルを勝手に連れ出さないでくださいっ!」
「ああ、もう帰っていいぞ。アーロンを見つけた」
吠えるマティアスにクラウスはそっけなくそう言うとそのまま娼館の奥へと入っていき、その後を先ほどの男性店員が手を揉みつつ引きつり笑いを浮かべ着いていく。
「なんて勝手なっ!」
クラウスの身勝手さにマティアスが怒りの声を上げた。
アーロンを見つけたと言うのに一緒ではない。どういうことなのか。しかしこれは追及すべきではないとなんとなくウィルバートは思った。
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