やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 番外編 】

Homunculus [15]

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 六月半ば。
 ウィルバートは城内にある立て師たちの工房を尋ねた。

「スクレダー様、今お時間よろしいでしょうか」

「ええ、もちろんでございますよ」

 作業の手を止め単眼鏡を外したスクレダーは笑顔で返事をしたがその目は笑っていない。他の弟子たちは会釈するくらいで聞こえていないかのように振る舞っている。……気がする。

「数分で結構ですので」

 ウィルバートは申し訳なさを感じつつそう告げるととスクレダーは「こちらへどうぞ」と部屋の奥の小さなテーブルへと案内した。
 本来は事前に約束を取り次ぎ、前回のようにサロンで話すべきなのだが、この『答え』があっているのか確認したかった。

 簡素な椅子に腰を下ろしウィルバートはラフ画を差し出した。

「見ていだけますか」

 スクレダーは「拝見します」と小さく言い、それを手に取り一枚めくる。途端にフッと視線を和らげこちらを見た。

「お気付きになられたようですな」

 その言葉にウィルバートは心の中で『やった!』と叫びつつ、平静を装い頷いた。

 ラフ画にはマティアスとウィルバートの二人が並んだ衣装案を描いていた。

「陛下お一人でのラフを拝見した時はどうしようかと思いましたよ」

 スクレダーがため息混じりに、だがどこか嬉しそうにウィルバートに告げる。ウィルバートはひと月前の己を恥に思いつつ語った。

「自信が……自覚が無かったのだと気づきました。陛下の横に立つということの自覚が」

 ウィルバートをしっかり見てスクレダーは頷いた。

「長きに渡りこの国を苦しめた『黒霧の厄災』をマティアス様が終わらてくださり、これからは新しい時代が始まります。マティアス様が選ばれた貴方もまた新しい時代の象徴でもあるのです」

 マティアスの伴侶となる自覚。マティアスの横に立ちそれを支える。それは単なる情夫とは違う。マティアスが『愛妾』ではなく『妃』と言う称号をウィルバートに与えようとしている意味はそこにあるのだ。

 街へ出てヨエルと話し娼婦や民たちからの声で、この結婚はウィルバート自身も注目されていること、そして多くの人が祝福してくれていることを知った。
 婚礼の儀はマティアスがどんな人物を選んだかお披露目する場であり、ウィルバートはマティアスの単なる添え物ではない。

「私が嫉妬で意地悪していると思っていたでしょう」

 スクレダーがニヤリと笑った。ウィルバートは「いやぁ……」と誤魔化し頬を掻く。

「そんな恥さらしはしませんよ。弟子の成長を喜べない程、私は小さな人間ではないつもりです」

「スクレダー様……」

「貴方は昔から指摘するとムッとしながらもより良いものに提案してくるので、これは伸びるなと期待していました。十年越しに服作りで戻ってこられてどんなに嬉しかったか」

 スクレダーが自分を弟子だと思い育ててくれていた。驚きと共に心奥深くから温かいものが湧き上がる。ウィルバートもまた口うるさいと思いながらも絶対な信頼を置いていたのがこの男なのだ。

「さて、これでやっと衣装案を練り始められますね」

 スクレダーはニッコリと笑い再びラフ画に目を落とした。そしてそこから怒涛のダメ出しを繰り出し、婚礼衣装に対する議論は二時間に及んだ。
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