必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
14 / 984

13

しおりを挟む
「ちゃんと食事を食べること、箸の使い方を学ぶこと、たくさんの言葉を覚えること、文字が書けるように練習すること、しっかりと布団で寝て身体を休めることだ」
 これが雪也の〝仕事〟だと言えば、雪也は大きく目を見開いた。その表情に弥生は満足そうに笑みを零す。そう、人は感情を露わにするものだ。
「何を覚えるにしても頭を使う。ちゃんと食べねば頭は働かぬぞ。箸の使い方とて、実際に練習して会得するものだ。食べずに何をやったとしても上手くはいかぬ。だから、ちゃんと食べなさい。それが今、雪也がしなければならないことだ」
 今まで教え込まれてきたこととは真逆のことを言う弥生に、雪也は僅かに目を見開いた。弥生が自分を哀れに思ってこのような偽りを言っているのだろうかと雪也は優や紫呉に視線を向ける。しかし二人ともにこやかに笑っているばかりで、弥生の言葉を諫める様子はない。むしろ……そう、むしろ肯定しているかのようだ。
「どうして……」
 ポツンと、言葉が落ちる。必死に奥へ押し込んできたけれど、一度零れ落ちてしまっては、もう抑え込むことなどできない。
「どうして……、そこまで……」
 弥生にとって雪也は縁もゆかりもない人間であったはずだ。叔父は一応血縁であるという理由で生きるだけは許し、松中は雪也に奉仕をさせる対価として、雪也に最低限の衣食住を与えてきた。だが、当然ながら弥生と雪也に血縁関係などなく、奉仕も求めない。なのに彼は雪也を生かすと言う。高価な着物を与え、満たされてなお余るほどの美食を口にし、雲の上で寝ているのかと錯覚するほどに柔らかで温かい布団で眠れと言う。それが勉強し礼儀を学ぶことへの対価だと。だが、そんなことが許されるというのだろうか?
 雪也は知っているのだ。学ぶということが、礼儀を身に着けるというのがどれほど贅沢であるかを。そんな贅沢なものが、贅沢をするための対価だとはとても思えない。
 弥生が持つのはまったくの善意か、それとも何か裏があるのか。
 雪也はスゥッと目を細める。何かを見透かそうとするかのように弥生へ視線を向けた。僅かの疑いもなく人を信じるには、雪也は闇を知りすぎている。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...