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023『面影』
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ヒイラギを賊から守った時に受けた傷が深く、全快するまで2年の月日を眠って過ごしていたアゥニュイだが、その2年の間で、国の状況が大きく、それはそれは大きく変わっていた。
国王だったグランは有無を言わさず、強制的に玉座から引きずり下ろされ。
次期国王だったアスティルはレオの逆鱗に触れ、国外追放の身。
アスティルの父親であり、グランの実弟である騎士団長のローアは沈黙を貫いている。
大きく揺れ動くネメアラヴァン王家の中心に居る者は、王家の関係者でも、貴族でもない、平民。だがもちろんただの平民ではない。
レオに見初められ、唯一無二の証を刻まれた【淡紫の花】と呼ばれる者だった。
「角、しっかりしててカッコイイな」
淡い紫色の髪、獅子の牙の痕が痛々しい首。
穏やかな語り口調、何の迷いもなくドラゴンの角を撫でる手の平。
数百年前の主と同じぬくもりを感じたアゥニュイが「あぁ~⋯⋯⋯⋯」と果たせなかった約束に嘆く。
「紹介がまだだったな」
ご機嫌に喉を鳴らしたレオが漆黒のたてがみをシオンの頬に擦り寄せる。
「この者の名はシオン。俺の2人目の主の名だ、心得ておけ」
2人目の主、をやたら強調したレオはもう一度シオンのうなじに牙を立てた。
「俺の【淡紫の花】に触れたら最後どうなるか⋯⋯わからない頭ではあるまいな?」
レオから発せられる、とてつもなく傲慢なプレッシャーに身構える、アゥニュイの身体がふわりと浮く。
「コラ、そんな風に言うのは良くないぞ」
幼子ほどの背丈しかないとはいえ、難なくアゥニュイを抱っこしたシオンに、グランのみならずその場に居た全員が硬直した。
希少種の、それも建国王の時代からこのレグルス国を守っているドラゴンを、まるで子供のように扱うシオンを皆、固唾を呑んで見ている。
星獣のレオ、星霊のエアルと並んで、この国に不可欠な存在⋯⋯レグルス国とネメアラヴァン王家の歴史の生き証人、アゥニュイ。
そんなアゥニュイを抱き上げるなど、その場に居た誰もが思いもしなかった。レオを除いて。
「は!? は!?」
自分を抱いているシオンの顔を見上げたアゥニュイが叫ぶ。
「え、なにしてんの!? なんで!? は!!?」
腕の中で暴れるジタバタ暴れるアゥニュイにシオンがキョトンと首を傾ける。
「病み上がりだろ?」
ーーーーお前、怪我してるんだろ?
髪色と雰囲気、無意識に人々を誑かすところが似ているだけだと思っていた。
「よく見たら小さな傷がいっぱい⋯⋯まだ全快って感じじゃなさそう」
ーーーー手当してやるから、大人しくしてろ。
似ている。何もかもが、あまりにもラッフィカによく似ている。
「今は大人しくしてた方が良いと思うけど⋯⋯」
ーーーーほら、大丈夫だから。暴れるな。
シオンに触れれば触れるほど、そこに確かなラッフィカの面影を感じてしまったアゥニュイが、悔しげに奥歯を噛み締める。
「アゥニュイ? どうかした?」
ーーーーん? どうした?
首を傾ける癖まで、ラッフィカと同じ。
「別に」
拗ねてシオンの肩に顔をうずめたアゥニュイがぶっきらぼうに呟く。
「なんもない、知らん!」
凄まじいな。
これが【淡紫の花】の権力⋯⋯。
まさかアゥニュイ様まで納めてしまうなんて。
兵士や次女のヒソヒソ声を聞いて、いつも以上に城内の注目の的になっている事にやっと気付いたシオンがグランに向き直る。
「グラン様、あの⋯⋯」
「お義父さんって呼んでほしいな!」
目を輝かせたグランに負けたシオンがか細く「お、お義父様⋯⋯」と言うと、グランは更に目を輝かせた。
「なんだい、シオン君!!」
「その⋯⋯えっと、ヒイラギはどこですか?」
城内で騒ぎが起こると、すぐに駆け付けてくる妻の姿が見えない事を不思議に思ったシオンが尋ねる。
「こんなに賑やかなのに、姿を見せないのは珍しいと思いまして」
「あぁ、ヒイラギなら今頃ガーデンでお茶してると思うけど⋯⋯きっとアゥニュイに会わせる顔が無くて、ここに来れないんじゃないかな」
言葉足らずなグランに、レオが補足説明をした。
「コイツが怪我を負ったのも、今まで眠っていたのも、全部ヒイラギのせいだからな。会いたくないのだろう」
「ちゃう、勘違いすんなアホ」
シオンの肩に顔をうずめたままのアゥニュイが低く、ポツリポツリと語る。
「ヒイラギは何も悪ぅない、ワイが力不足やっただけや、それにホンマに悪いのは⋯⋯」
アゥニュイが言い終わらないうちに歩き出したシオンに気付いたレオはすぐさま先導し、ガーデンまでの道案内をした。
ーーーーアゥニュイ、案内して。俺だけじゃ目的地に辿り着けない。
ーーーーまたか!! ええ加減、道くらい覚えろや!!
「こんなところまで似とるんやな、引くわ」
国王だったグランは有無を言わさず、強制的に玉座から引きずり下ろされ。
次期国王だったアスティルはレオの逆鱗に触れ、国外追放の身。
アスティルの父親であり、グランの実弟である騎士団長のローアは沈黙を貫いている。
大きく揺れ動くネメアラヴァン王家の中心に居る者は、王家の関係者でも、貴族でもない、平民。だがもちろんただの平民ではない。
レオに見初められ、唯一無二の証を刻まれた【淡紫の花】と呼ばれる者だった。
「角、しっかりしててカッコイイな」
淡い紫色の髪、獅子の牙の痕が痛々しい首。
穏やかな語り口調、何の迷いもなくドラゴンの角を撫でる手の平。
数百年前の主と同じぬくもりを感じたアゥニュイが「あぁ~⋯⋯⋯⋯」と果たせなかった約束に嘆く。
「紹介がまだだったな」
ご機嫌に喉を鳴らしたレオが漆黒のたてがみをシオンの頬に擦り寄せる。
「この者の名はシオン。俺の2人目の主の名だ、心得ておけ」
2人目の主、をやたら強調したレオはもう一度シオンのうなじに牙を立てた。
「俺の【淡紫の花】に触れたら最後どうなるか⋯⋯わからない頭ではあるまいな?」
レオから発せられる、とてつもなく傲慢なプレッシャーに身構える、アゥニュイの身体がふわりと浮く。
「コラ、そんな風に言うのは良くないぞ」
幼子ほどの背丈しかないとはいえ、難なくアゥニュイを抱っこしたシオンに、グランのみならずその場に居た全員が硬直した。
希少種の、それも建国王の時代からこのレグルス国を守っているドラゴンを、まるで子供のように扱うシオンを皆、固唾を呑んで見ている。
星獣のレオ、星霊のエアルと並んで、この国に不可欠な存在⋯⋯レグルス国とネメアラヴァン王家の歴史の生き証人、アゥニュイ。
そんなアゥニュイを抱き上げるなど、その場に居た誰もが思いもしなかった。レオを除いて。
「は!? は!?」
自分を抱いているシオンの顔を見上げたアゥニュイが叫ぶ。
「え、なにしてんの!? なんで!? は!!?」
腕の中で暴れるジタバタ暴れるアゥニュイにシオンがキョトンと首を傾ける。
「病み上がりだろ?」
ーーーーお前、怪我してるんだろ?
髪色と雰囲気、無意識に人々を誑かすところが似ているだけだと思っていた。
「よく見たら小さな傷がいっぱい⋯⋯まだ全快って感じじゃなさそう」
ーーーー手当してやるから、大人しくしてろ。
似ている。何もかもが、あまりにもラッフィカによく似ている。
「今は大人しくしてた方が良いと思うけど⋯⋯」
ーーーーほら、大丈夫だから。暴れるな。
シオンに触れれば触れるほど、そこに確かなラッフィカの面影を感じてしまったアゥニュイが、悔しげに奥歯を噛み締める。
「アゥニュイ? どうかした?」
ーーーーん? どうした?
首を傾ける癖まで、ラッフィカと同じ。
「別に」
拗ねてシオンの肩に顔をうずめたアゥニュイがぶっきらぼうに呟く。
「なんもない、知らん!」
凄まじいな。
これが【淡紫の花】の権力⋯⋯。
まさかアゥニュイ様まで納めてしまうなんて。
兵士や次女のヒソヒソ声を聞いて、いつも以上に城内の注目の的になっている事にやっと気付いたシオンがグランに向き直る。
「グラン様、あの⋯⋯」
「お義父さんって呼んでほしいな!」
目を輝かせたグランに負けたシオンがか細く「お、お義父様⋯⋯」と言うと、グランは更に目を輝かせた。
「なんだい、シオン君!!」
「その⋯⋯えっと、ヒイラギはどこですか?」
城内で騒ぎが起こると、すぐに駆け付けてくる妻の姿が見えない事を不思議に思ったシオンが尋ねる。
「こんなに賑やかなのに、姿を見せないのは珍しいと思いまして」
「あぁ、ヒイラギなら今頃ガーデンでお茶してると思うけど⋯⋯きっとアゥニュイに会わせる顔が無くて、ここに来れないんじゃないかな」
言葉足らずなグランに、レオが補足説明をした。
「コイツが怪我を負ったのも、今まで眠っていたのも、全部ヒイラギのせいだからな。会いたくないのだろう」
「ちゃう、勘違いすんなアホ」
シオンの肩に顔をうずめたままのアゥニュイが低く、ポツリポツリと語る。
「ヒイラギは何も悪ぅない、ワイが力不足やっただけや、それにホンマに悪いのは⋯⋯」
アゥニュイが言い終わらないうちに歩き出したシオンに気付いたレオはすぐさま先導し、ガーデンまでの道案内をした。
ーーーーアゥニュイ、案内して。俺だけじゃ目的地に辿り着けない。
ーーーーまたか!! ええ加減、道くらい覚えろや!!
「こんなところまで似とるんやな、引くわ」
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