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024『何角関係?』
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「お前さぁ」
淡く、それでいて存在感を放つシオンの薄紫の髪を見上げていたアゥニュイが、毒気のある声を放つ。
「前のオンナとよぅ似たオンナとっ捕まえて自分のモノにする野郎と同類やん、シンプルに引くわ」
病み上がりのアゥニュイを抱っこして城内を歩いていた、シオンの身体がピシッと音を立てて凍りつく。
シオンだけではなく、たまたま廊下を歩いていただけの、不運な兵士達やメイド達も凍り付いている。
その視線の先はこれでもかと言う程にストレート、真っ直ぐに、シオンを先導して歩いていたレオに向いていた。
アゥニュイ様、それは地雷なのでは!?
いくらなんでも率直なご意見が過ぎます!!
しかしこれは覆らない事実!!
得て妙、とはきっとこういう事なんだろうな⋯⋯。
はらはらあわあわしている城の者達を気にせず、振り返ったレオがその鮮血色の目でアゥニュイを睨みつける。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
流石のレオ様も反論できないのかしら!?
まぁアゥニュイ様の言う事はごもっともだしなぁ。
シオン陛下はどう出る⋯⋯?
怖いけど展開が気になる、一体どうなるんだ!?
「一緒にするな」
最上級に不機嫌な喉の音を轟かせながら、レオは続ける。
「シオンはシオンだ。何者にも代えられない、大切な俺の主だ。ラッフィカと一緒にするな、愚か者」
ドスの効いたレオの声。
その迫力に負けて黙ったアゥニュイ。
重く苦しい城内の沈黙を破ったのは、シオンだった。
「な、なぁアゥニュイ! ラッフィカ様ってどんな人だったの?」
レオに聞いてもよくわからなくて、と困った様子で首を傾けるシオンを見たアゥニュイがながあぁく息を吐く。
「せやなぁ⋯⋯髪とか、雰囲気とか、喋り方とか、人誑しとか、まんまシオンと一緒やで。レオに見つかったせいで、可哀想に⋯⋯」
ドラゴンらしい、鋭い爪でシオンの髪を撫でたアゥニュイが独り言のように、懺悔のように、静かに呟く。
「ゴメンな、守ってやれんかった」
「⋯⋯⋯⋯何をどう頑張っても絶対に覆らないから、もういいよ」
抗う事を諦めて、レオを受け入れる事しか選べなかったシオンの声は、妻のヒイラギの叫びで掻き消えた。
「アゥニュイ!!!!」
王妃らしからぬ大声で従者を呼んだヒイラギの目元が少し赤くなっている。
元婚約者で、幼少期から兄様と呼んで慕っていた、従兄弟のアスティルの国外追放。
賊から自分を守ってくれた代償に、長きに渡り昏睡していたアゥニュイの目覚め。
この数日でいろんな事があり過ぎて、感情がぐちゃぐちゃになっているヒイラギがこれまた王妃らしからぬ足取りで、アゥニュイの元へ歩み寄る。
「アゥニュイ⋯⋯」
ヒイラギとアゥニュイの感動の再会を、固唾を飲んで見守っていたシオンだったが、それは間違いだと知るのは数秒後。
「ほんっっっっとうに有り得ない!! あたしの旦那にベタベタしないでよねっ!!」
叫び声と共にシオンに抱っこされたままのアゥニュイの角をガシッと両手で握った、ヒイラギが泣きながら心中を語る。
「あたし結婚したの!! そしたら国は大騒ぎになっちゃったし、兄様はどっか行っちゃうし、叔父様は何も言わないし、レオのせいでほとんどシオンに近付けないし!! あっ、紹介するわね」
上品に、花柄のレースのハンカチで涙を拭ったヒイラギがにこやかに、すごく近くて果てしなく遠い、愛しの旦那様を紹介した。
さっき会ったばかりだが一通りシオンを知ったアゥニュイは聞き流したが、しっかり理解はしている。
自由と引き換えに、欲しくもない地位を手に入れてしまった事。
髪色に関係無く、このレグルス城を訪れた時点で、遅かれ早かれレオに見初められた事。
「たかが王家の分際で俺の【淡紫の花】に近付くな」
「何よ! シオンはあたしの旦那様でもあるのよ!?」
「レオもヒイラギも、とりあえず落ち着こう?」
きっとシオンは気付いていない。
レオに、レグルス城に囚われた身である事実を。
その身に深く刻まれた、契約印の本当の意味を。
ーーーー頼んだぞ、アゥニュイ。
何もかもが、全部が、遅かった。
生まれ持っての病のせいで、大人の身体になれない自分は、数百年生きても花ひとつ守れやしない。
⋯⋯⋯⋯いや、今ならまだ間に合うか?
「アゥニュイ?」
急に黙りこくったアゥニュイを不思議に思ったシオンがその角を撫でる。
「どうかした?」
身体に証を刻まれでも、最奥深くまで侵されても、それでも綺麗なままで居るシオンが眩しくて、目を細めたアゥニュイはもう一度、ため息をついた。
「なんもないわ、アホ」
淡く、それでいて存在感を放つシオンの薄紫の髪を見上げていたアゥニュイが、毒気のある声を放つ。
「前のオンナとよぅ似たオンナとっ捕まえて自分のモノにする野郎と同類やん、シンプルに引くわ」
病み上がりのアゥニュイを抱っこして城内を歩いていた、シオンの身体がピシッと音を立てて凍りつく。
シオンだけではなく、たまたま廊下を歩いていただけの、不運な兵士達やメイド達も凍り付いている。
その視線の先はこれでもかと言う程にストレート、真っ直ぐに、シオンを先導して歩いていたレオに向いていた。
アゥニュイ様、それは地雷なのでは!?
いくらなんでも率直なご意見が過ぎます!!
しかしこれは覆らない事実!!
得て妙、とはきっとこういう事なんだろうな⋯⋯。
はらはらあわあわしている城の者達を気にせず、振り返ったレオがその鮮血色の目でアゥニュイを睨みつける。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
流石のレオ様も反論できないのかしら!?
まぁアゥニュイ様の言う事はごもっともだしなぁ。
シオン陛下はどう出る⋯⋯?
怖いけど展開が気になる、一体どうなるんだ!?
「一緒にするな」
最上級に不機嫌な喉の音を轟かせながら、レオは続ける。
「シオンはシオンだ。何者にも代えられない、大切な俺の主だ。ラッフィカと一緒にするな、愚か者」
ドスの効いたレオの声。
その迫力に負けて黙ったアゥニュイ。
重く苦しい城内の沈黙を破ったのは、シオンだった。
「な、なぁアゥニュイ! ラッフィカ様ってどんな人だったの?」
レオに聞いてもよくわからなくて、と困った様子で首を傾けるシオンを見たアゥニュイがながあぁく息を吐く。
「せやなぁ⋯⋯髪とか、雰囲気とか、喋り方とか、人誑しとか、まんまシオンと一緒やで。レオに見つかったせいで、可哀想に⋯⋯」
ドラゴンらしい、鋭い爪でシオンの髪を撫でたアゥニュイが独り言のように、懺悔のように、静かに呟く。
「ゴメンな、守ってやれんかった」
「⋯⋯⋯⋯何をどう頑張っても絶対に覆らないから、もういいよ」
抗う事を諦めて、レオを受け入れる事しか選べなかったシオンの声は、妻のヒイラギの叫びで掻き消えた。
「アゥニュイ!!!!」
王妃らしからぬ大声で従者を呼んだヒイラギの目元が少し赤くなっている。
元婚約者で、幼少期から兄様と呼んで慕っていた、従兄弟のアスティルの国外追放。
賊から自分を守ってくれた代償に、長きに渡り昏睡していたアゥニュイの目覚め。
この数日でいろんな事があり過ぎて、感情がぐちゃぐちゃになっているヒイラギがこれまた王妃らしからぬ足取りで、アゥニュイの元へ歩み寄る。
「アゥニュイ⋯⋯」
ヒイラギとアゥニュイの感動の再会を、固唾を飲んで見守っていたシオンだったが、それは間違いだと知るのは数秒後。
「ほんっっっっとうに有り得ない!! あたしの旦那にベタベタしないでよねっ!!」
叫び声と共にシオンに抱っこされたままのアゥニュイの角をガシッと両手で握った、ヒイラギが泣きながら心中を語る。
「あたし結婚したの!! そしたら国は大騒ぎになっちゃったし、兄様はどっか行っちゃうし、叔父様は何も言わないし、レオのせいでほとんどシオンに近付けないし!! あっ、紹介するわね」
上品に、花柄のレースのハンカチで涙を拭ったヒイラギがにこやかに、すごく近くて果てしなく遠い、愛しの旦那様を紹介した。
さっき会ったばかりだが一通りシオンを知ったアゥニュイは聞き流したが、しっかり理解はしている。
自由と引き換えに、欲しくもない地位を手に入れてしまった事。
髪色に関係無く、このレグルス城を訪れた時点で、遅かれ早かれレオに見初められた事。
「たかが王家の分際で俺の【淡紫の花】に近付くな」
「何よ! シオンはあたしの旦那様でもあるのよ!?」
「レオもヒイラギも、とりあえず落ち着こう?」
きっとシオンは気付いていない。
レオに、レグルス城に囚われた身である事実を。
その身に深く刻まれた、契約印の本当の意味を。
ーーーー頼んだぞ、アゥニュイ。
何もかもが、全部が、遅かった。
生まれ持っての病のせいで、大人の身体になれない自分は、数百年生きても花ひとつ守れやしない。
⋯⋯⋯⋯いや、今ならまだ間に合うか?
「アゥニュイ?」
急に黙りこくったアゥニュイを不思議に思ったシオンがその角を撫でる。
「どうかした?」
身体に証を刻まれでも、最奥深くまで侵されても、それでも綺麗なままで居るシオンが眩しくて、目を細めたアゥニュイはもう一度、ため息をついた。
「なんもないわ、アホ」
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