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宇崎初夏

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002『人間じゃない』

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 いつ頃からだったか、もう覚えていない。

《誰か》

 気付けば、いつも知らない誰かの声が聞こえていた。

《誰でもいいから》

 耳を塞いでも聞こえるその声はいつだって。

《助けて!!》

 体が震えるくらいの、悲鳴をあげていた。

《なんで私に武器を向けるの!?》

 声の正体が何なのか、なんとなくはわかっている。

《酷いわ! 私は、自らの意思でニンゲンを……》

 でも違うって信じてる、疑いたくない。

《あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!》

 幾百年と続く、相容れない存在。

《体が、心臓コアえてゆく……》

 おかしいのは俺だから。今日も聞こえない、知らないフリをしてやり過ごす。

《どうして、こんなにも聞こえない……?》

 医者が言うには、聴覚にも、他のどこも異常は無いらしい。

《ああ、どうか、このねがいまでは》

 少々複雑な生い立ちが原因の、心の病だろうと言れた。

《灰にしないで》

 ちいさい頃は全部が怖くて、タカ兄に縋り付いてよく泣いていたな……流石に今はもうやらないけど。

みやこ?」

 夕刻。異星人専門ハンターギルド『しん』の出入口に立て掛けてあるプレートを『CLOSE』にした貴仁たかひとは、鼻先まで伸びた京の前髪をそっとかき分けて、揺れる星々を注視した。

「どうした?」

 15年前の今日、捨て子だった京を拾い、名付け、兄として傍らで成長を見守ってきた貴仁だからこそわかる、些細な変化。

 周りの誰も気付かない、小さな違和感を敏感に察知し、そしてそれをちゃんと本人に確認する。

 あまりにも手馴れた貴仁の行動を嬉しいとは思いつつ「過保護だな……」とも感じている京は、いつも通りに返す。

「ううん、なんでもないよ」

 嘘、本当は今も聞こえている。自分だけにしか聞こえない、誰かの悲鳴。当たり前みたいに命を燃やされる音が。気のせいかもしれないけど、誕生日は特によく聞こえてくる。

 そもそも、耳を塞いでも聞こえる声って何なんだ。あまりにも異常すぎて受け入れられない。当然、受け入れるつもりも無いけど。

《ニンゲンなんて下等種族の分際で!!》

《僕達は何も悪いことしてないのに!!》

《あはははははははは!!》

《この心臓コアが尽きるまで殺ってやる!!》

《息ができない、熱い!! 熱い熱い熱い熱い…………》

 なんで、俺にしか聞こえないんだろ? なんで、タカ兄や他の人は普通で居られるんだろ? ぅう、頭痛くなってきた。今日はやり過ごせそうにないかも。

「大丈夫じゃないだろ、顔色が良くない」

 真っ青な京の体調を確認する貴仁に、大きな影が落ちる。

「おやおや?」

 ずっと見ていると目が痛くなりそうな、やたらチカチカした配色が印象的な衣装をまとった道化師が兄弟に声を掛けてきた。

「僕? いや、お嬢ちゃんかな? どうかしたの、大丈夫かい?」

 にっこり笑った白塗りの、カラフルなメイクが不気味すぎる道化師が体を強ばらせた京を見るなり、芝居がかった明るい声を発する。

「おっと! それはいけない!」

 手ぶらだったように見えた道化師の両手には、いつの間にか計6本のナイフが握られていた。

「子供は笑顔が一番だよ!」

 状況が飲み込めず、呆然と目の前の光景を眺めることしかできない。兄弟の反応を無視した道化師の手から放たれたナイフが、鮮やかに宙を舞う。

「さぁさ、ご覧あれ! この妙技!」

 観客を置いてけぼりにしたまま、道化師が6本のナイフで華麗なジャグリングを披露しつつ、誰も聞いていないナイフの説明をする。

「このナイフ、なんと真剣! 何冊も重ねた本だってスパッと切れてしまう逸品なのですよ!」

 とにかく勢いだけが凄まじい。道化師に呆気にとられていた貴仁だったが京に袖を引っ張られて、やっと我に返れた。

《……………………》

 京が、真っ直ぐに道化師を見つめる京の目が、誰が見てもわかるくらいに怯えた目をしている。

 当然といえば当然だ。生まれて初めて見た、得体の知れないモノは誰だって怖い。

 大通りに近い『晨』の前で突如、始まった道化師のパフォーマンス。自然とギャラリーが集まる中、貴仁の袖を握る京の力が増していく。


 人 間 じ ゃ な い 。


 ナニかが、そこに居る。怖い。嫌だ。ここから離れたい、タカ兄……!

 すっかり怯えきって声すら出せない、京の手を引いた貴仁が「早く家に帰ろう、京のお祝いをしないとな」なんて言って、視界から道化師を消す。

 ことができなかった。
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