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第23話 女の子にプレゼントしたこと? ……もちろんありますよ、当然じゃないっすか③

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 昼。
 いつも通りメスガキは草原までやってきた。

 出し惜しみする理由はない。
 待ち構えていた俺は、早速渾身の作品プレゼントである美顔器を渡そうとした。

 ――だが。

「さっきからなにモジモジしてんの、おじさん? 気持ち悪いよ」
「いや……まあ、なんというかその……」

 白状しよう。俺は完全にビビっていた。
 さっきからずっと美顔器を後ろ手に隠したまま、時間だけが過ぎ去っていく。

 すごい、いざとなるとプレゼント渡すのってこんなにドキドキするのか……完全にナメてた。
 世のカップルたちはよくあんなにニコニコしながらプレゼントを交換し合えるな。尊敬する。
 俺なんて心配でしょうがないのに……。

 しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。
 覚悟を決める。

「あの、実は、今日はプレゼント的なものを用意してまして……」
「は? プレゼント? ……もしかして変なもの?」

 あからさまに不審がられている。そりゃいきなりだもんな。当然か。

 まずいな。これじゃ喜ぶ以前に受け取ってもらえるかすら怪しい。
 とにかくまずは警戒を解いてもらわないと。

「いや、全然変じゃない。大丈夫、マジでちゃんとしたものだから。なんていうかその、日ごろの感謝を込めて……みたいな?」
「おじさんのどこに私に感謝する要素があるの? 私が言うのもなんだけど」
 ……うん。まあそうだな。俺も言いながら思った。
 つーか自覚あるのかよ。よくそれで毎回平然と手刀を繰り出せるなコイツ。

「いやいやいや、そうでもないぞ。たしかにスタートはアレだったが、今じゃ異世界生活もそこそこ楽しめてるしな。普通に働いて金稼いで、メシなんか元の世界よりイイもの食べれてるし。しまいにゃ魔法なんて覚えちゃったし。そういう意味ではきっかけを作ってくれたお前には感謝している」
「ふ~ん、感謝ねぇ」
「ああ」
 嘘は言っていない、嘘は。ただ感謝以上に毎回失っているモノがでかすぎるだけで。

「だから気に入ってもらえたら……助かる」
「……まあ、くれるというならもらうけど。ほんとに変なものじゃない?」
「ああ、もちろん」
 これも本当だ。決して変なものではない。

「ふ~ん」
 俺の態度に、ようやくメスガキの警戒もいくらかほぐれてくる。

 ここだ。ここで押し切る。
 勇気を振り絞り、俺は初めて家族以外の女子へとプレゼントを差し出した。

「俺なりにちゃんと考えたものだ。ぜひもらってほしい……受け取ってくれ」

 言い切った。

 心臓がドキドキしている。
 せっかくならラッピングでもしとけばよかったと後悔した。今更だけど。

 とにかく、あとはもう俺のプレゼントがメスガキの心に響くことを祈るしかない。
 気になる。というか恐い。いったいコイツはどんな反応をするんだろう……?

「なにコレ? キノコ?」
「いや違う」
 たしかに形状は似てるけども……!

 おいおいマジかコイツ。そうはならんだろ。
 あきらかに材質がもうキノコじゃないだろ。こんなに硬そうなキノコあるか? ……あ、あったわ。いやそうではなく!

 一瞬卑猥な想像をしてしまったが気を取り直す。

「美顔器、って言うんだが知ってるか?」
「ビガンキ……?」
 首を傾げる。知らないらしい。
 どうやら名前を聞いてもピンと来てないようで、メスガキは受け取った美顔器をしげしげと不思議そうに眺めていた。

 よし。これで最初の関門である“珍しい”は突破したことになる。
 あとは気に入るかどうかだ。

「まあ簡単に言えば、肌をキレイにする機械だな。そこのボタン押すと先っぽの部分が振動して、こう顔に当てると気持ちいいというか……まあ一回試したほうが早いかもしれん」
 百聞は一見に如かず。とにかく使ってみるのが一番手っ取り早い。
 そう思って俺は促した。

「スイッチ? ああ、これか。よくわかんないけど、じゃあ……」
 意外にもメスガキは素直だった。

 言われた通りスイッチを押す。
 ブゥンという震えに「うわ」と一瞬驚いた様子だったが、そのまま顔に近づける。

 うぅ、どうしよう、これでもし不評だったら……。
 仲間にしてくれどころじゃなくなるぞ……。

 ドキドキ――。
 心臓が加速する。

 く、苦しい。メンタルがやばい。
 頼むぞ。スマホまで犠牲にしたんだ。これでもし、「え、なにコレ全然気持ちよくないんだけど。フツーにいらない」みたいなリアクションだった日には泣くぞ。
 もしくは死ぬ。ショック死する。

 徐々にメスガキと美顔器の距離が縮まっていく。

「……ゴクリ」
 俺は固唾を飲んでメスガキの反応を見守った。
 緊張がピークに達する。心臓はもう破裂寸前だった。

 そして、そのときは来た。

「ッ!!」

 美顔器の先端がメスガキの頬に接触。
 細かな振動が肌を揺らす。

 すると――。

「…………気持ちいい」
「!?!?!?」

 ――――――――――かわいい。

 不覚にも、そう思ってしまった。

 ほうっとため息を吐くような呟き。
 美顔器を顔に当てたメスガキの表情は、まるで初めてケーキを食べた子どものようだった。

「これ……ほんとにもらっていいの?」
「えっ……!? あ、ああ、うん。どうぞ」
「ふ~ん……――ありがと」

 なんだこの生き物っ……!?!?

 衝撃だった。衝撃すぎて精神が吹き飛んでしまうところだった。

 え? なにこれ多重人格? 今まで俺が対峙してきたクソ生意気な人格が引っ込んで、素直でお淑やかな別人格出てきた? でないと説明がつかんぞ。普段とまるで別人じゃん……!

 つーかマジでかわいい。
 すげぇ。見てくれがいいのはわかっていたが、素直になるとこんなにも変わるもんなのか……。

「それで? いきなりこんなものくれるとか、何が目的なの?」
「……!?」
 そ、そうだった。驚きすぎてうっかり忘れるところだった。
 本来の目的を遂行しないと……。

 でもなぜだろう。今ならすんなりうまくいく気がした。

「まあこの際だから正直に言うと、今日は交渉しに来たんだ」
「交渉?」
「ああ。実はその美顔器、錬成魔法で作ったんだ。元の世界の知識と経験を活かしてな」
「錬成魔法……」
 いつの間にそんなものを……という顔。
「で、ソイツをプレゼントする代わりに、いつものアレをやめてもらおうかと。ああ、もちろんこれっきりというわけじゃなく、今後も何かしら提供する。それこそ欲しいものがあればリクエストも聞く。だからその間、俺のことは見逃しておいてほしいんだ」
「……なるほど。そういうこと」
「!?」

 おお……。
 意外に悪くないリアクションにホッとする。

 俺の提案を聞いたメスガキは、なにやら考え込む様子を見せた。
 まるで経験値とプレゼント、どちらを取るか決めかねるみたいに。

 これは、もしやイケるのでは……?

「……まあそうね。もうこうやって賄賂ももらっちゃったからなぁ」
 肩の力を抜き、ふぅと諦めたような表情でメスガキが言った。
「それに、私だって普段からおじさんのこと、かわいそうだと思わなかったわけじゃないし」

 きたっ……!

 ついぞ咲かなかった花がとうとう開花した。
 そんな感覚だった。

「じ、じゃあ」
 メスガキの言葉に、俺は思わず前のめりになった。

「ごめん。それとこれとは別」


 ザシュ。


 …………ひょ?

「あ、ちなみに美顔器コレはもらってくから。プレゼントなんでしょ? じゃ、明日もよろしくね♡」



☆本日の勝敗
●俺 × 〇メスガキ

敗者の弁:すいません、さっきの子もう一回呼んでもらっていいですか? 最後急に変なクソガキが割り込んできちゃって。おかしいな、チェンジした覚えないのに―――え、同一人物? ウソでしょ……?(吉川)
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