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第6話
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仲間が増えた。
錬金術の研究は一人でもできるけれど、広めていくには味方がいる。
私が目指すのはこの国を救うこと。ただ便利なアイテムを生み出し、自己満足に浸ることではない。
ギルバートとジークの存在は心強かった。
「さて、ギル。これからあなたには、私の騎士になってもらうわ。それも正式な、ね」
「うっ……てことは、もしや」
「ええ。任命式よ」
アストリア王国では、王族が専属の騎士を任命する権限を持っている。
その際には国の重臣を招き、式を挙げなければならない。
兄たちがそれぞれの騎士を選んだときも、王都の広間で盛大な式が行われた。
騎士の名は、その場で正式に刻まれ、以後は王族と共に在ることを誓う。
それはただの儀式ではなく――王家に仕える者としての、永遠の証明でもあった。
「マジかぁ……大勢の前って苦手なんだけど。堅苦しいのも」
ギルが頭を抱える。たくましくなったけれど、こういうところは昔から変わらない。
それでも、こればっかりは受け入れてもらわないと。
「仕方ないでしょ。私だって緊張するんだから、ガマンなさい。これは周囲にあなたが私の騎士だって認めさせるための通過儀礼なんだから」
「そうですな。いくら幼馴染とはいえ、一介の騎士が姫に付き従うのは悪目立ちしますからな。わしは嬉しいですぞ」
ジークがにこやかに頷く。
長年王城で仕えてきた彼にとって、孫が王族の騎士になるのは誇らしいことみたいね。
前世もそうだったが、家族の出世は家自体の名誉にもつながる。
あとは単純に可愛い孫の成長が嬉しいのだろう。
「でも、式をやるってなると剣が必要だよな。もしかして、それも錬金術で作ってくれるのか?」
ギルが冗談めかして言う。
けれど、それは的を射ていた。任命式では王族が新たな騎士に剣を授けるのが古くからの慣わしなのだ。
その剣は単なる武器ではない。
忠誠の証であり、王家と魂を分かつ“契約の刃”とされている。
「そのつもりよ。期待してちょうだい。ローム帝国に祭られている“宝剣”すら超えるものを作ってみせるわ」
「また大きく出たな。あれは稀代の名工が作った伝説級の武器だぞ」
「ふふっ。それぐらいできないと、この国を豊かにするなんて言えないわ。私と錬金術を甘く見てもらっちゃ困るわよ」
「自信満々だな。でも、この光景を見せられたら全然冗談に聞こえないな」
ギルが工房の奥を見渡す。
稲穂の金色が、魔力灯の光を受けて柔らかく揺れていた。
害悪でしかなかった魔物の残骸を肥料に変え、枯れた土に命を吹き込んだこの光景――それは錬金術がただの伝承ではないと証明するものだった。
錬金術は物質の形を変える技術。けれど、本質は「無価値を価値に変える力」だ。
金属を精製するのも、穀物を改良するのも、信頼を築くのも、全部同じ。
国を強くするには、この“変換”の力が欠かせない。
この国は変わらなければならない。
「というわけで、あなたの剣をいったん預からせてもらえないかしら? 新しく作るにしても、使い込んだものと刃渡りや重心は合わせたほうがいいでしょう?」
「なるほど。確かに、剣は体の一部だからな。使い勝手が変わると慣れるのに時間がかかるし」
私の言葉を反芻しながら、ギルが納得したように頷く。
「うん、任せたよフェルト。君の剣なら、きっと俺にもふさわしいはずだ」
「ええ。最高の一本に仕上げてみせるわ」
ギルが腰のベルトから鞘を外し、両手で丁寧に差し出してくる。私は受け取り、刃を少し引き抜いて確かめた。
「いい剣ね。軽いけど芯がある。これをベースにするけど、他に要望はある?」
「そうだな。俺の剣は重さよりキレを重視してる。打ち合う前に斬り伏せるのが理想だ。だから強度が保てる範囲で、できるだけ軽く」
「なるほどね。了解したわ」
答えるや否や、私は左腕に巻いた“オリハルコン”のリングに触れた。
師匠の遺産。
伝承では“金属の王”とも呼ばれ、魔力との親和性が高い。硬さと靭性を両立し、比重は鉄よりも軽い。
武器素材としては理想的だ。
「始めるわ」
魔力を指先から流すと、リングがスライムのように柔らかくほどけ、空中で糸状に伸びる。
ギルから預かった剣の寸法を読み取り、刃渡り・重心・柄の太さをそのまま写し取る。
ただし刃の厚みはわずかに削り、剛性を落とさず軽量化。
鍔には指掛かりを付け、手のひらの回転に追従するよう微調整した。
「形はこれで終わり。ここから本番よ」
私は刀身に手を当てる。
ここからが錬金術の真骨頂――【概念強化】。
対象が本来持つ性質を引き上げる術式で、高めるのは剣という武具の持つ“切断”の概念。
そうすることで、同じ力でも刃が深く入る。
魔力を薄く満たし、刃の流れに沿って魔術文字であるルーンを刻む。
これで一時的な強化ではなく、永続的な効果が期待できる。
「……ふう」
これですべての工程が完了。
私の手の中に、真紅の片手剣が収まる。
光に揺れても鈍らない、落ち着いた赤。
オリハルコンにわずかな紅石の粉を合金化して出したものだ。
「はい、できたわよ。色はあなたの髪に合わせてみたわ」
「マジかよ……」
「これはこれは……」
私が剣を差し出すと、ギルとジークが呆れたような、あるいは圧倒されたような声を漏らした。
うん、我ながら良い出来。
外見だけ見れば、これが錬金術で造られたとは誰も思わないでしょう。
実際は様々な鍛造に相当する工程を、金属内部の組成操作で一気に済ませただけなんだけど。
「これが錬金術か……デタラメだな」
「いやはや信じられませんな。いくら魔術と言えども、炉も釜も……それどころかハンマーすら使わずにこうも容易く剣を生み出してしまうとは。しかも仕上がりも見事ですじゃ」
二人の称賛がちょっと気持ちいい。
これが師匠ならどうせ「できて当然」みたいな反応しか返ってこなかっただろうから、新鮮に感じる。
同時に修行を頑張ってよかったとも思った。
ギルが剣を軽くひと振りする。
空気の切れる音が一段高い。
「……信じられないくらい軽い。軽すぎて耐久が不安になるレベルだ」
「試してみる? 工房の隅に鉄柱があるわ。あれなら斬ってもいいわよ」
「あの鉄柱を剣で? おいおい」
「安心してちょうだい。その剣はあなたが想像しているよりずっと上質よ。それとも、帝国の聖十字騎士団の名は伊達なのかしら?」
「……言ったな」
錬金術の研究は一人でもできるけれど、広めていくには味方がいる。
私が目指すのはこの国を救うこと。ただ便利なアイテムを生み出し、自己満足に浸ることではない。
ギルバートとジークの存在は心強かった。
「さて、ギル。これからあなたには、私の騎士になってもらうわ。それも正式な、ね」
「うっ……てことは、もしや」
「ええ。任命式よ」
アストリア王国では、王族が専属の騎士を任命する権限を持っている。
その際には国の重臣を招き、式を挙げなければならない。
兄たちがそれぞれの騎士を選んだときも、王都の広間で盛大な式が行われた。
騎士の名は、その場で正式に刻まれ、以後は王族と共に在ることを誓う。
それはただの儀式ではなく――王家に仕える者としての、永遠の証明でもあった。
「マジかぁ……大勢の前って苦手なんだけど。堅苦しいのも」
ギルが頭を抱える。たくましくなったけれど、こういうところは昔から変わらない。
それでも、こればっかりは受け入れてもらわないと。
「仕方ないでしょ。私だって緊張するんだから、ガマンなさい。これは周囲にあなたが私の騎士だって認めさせるための通過儀礼なんだから」
「そうですな。いくら幼馴染とはいえ、一介の騎士が姫に付き従うのは悪目立ちしますからな。わしは嬉しいですぞ」
ジークがにこやかに頷く。
長年王城で仕えてきた彼にとって、孫が王族の騎士になるのは誇らしいことみたいね。
前世もそうだったが、家族の出世は家自体の名誉にもつながる。
あとは単純に可愛い孫の成長が嬉しいのだろう。
「でも、式をやるってなると剣が必要だよな。もしかして、それも錬金術で作ってくれるのか?」
ギルが冗談めかして言う。
けれど、それは的を射ていた。任命式では王族が新たな騎士に剣を授けるのが古くからの慣わしなのだ。
その剣は単なる武器ではない。
忠誠の証であり、王家と魂を分かつ“契約の刃”とされている。
「そのつもりよ。期待してちょうだい。ローム帝国に祭られている“宝剣”すら超えるものを作ってみせるわ」
「また大きく出たな。あれは稀代の名工が作った伝説級の武器だぞ」
「ふふっ。それぐらいできないと、この国を豊かにするなんて言えないわ。私と錬金術を甘く見てもらっちゃ困るわよ」
「自信満々だな。でも、この光景を見せられたら全然冗談に聞こえないな」
ギルが工房の奥を見渡す。
稲穂の金色が、魔力灯の光を受けて柔らかく揺れていた。
害悪でしかなかった魔物の残骸を肥料に変え、枯れた土に命を吹き込んだこの光景――それは錬金術がただの伝承ではないと証明するものだった。
錬金術は物質の形を変える技術。けれど、本質は「無価値を価値に変える力」だ。
金属を精製するのも、穀物を改良するのも、信頼を築くのも、全部同じ。
国を強くするには、この“変換”の力が欠かせない。
この国は変わらなければならない。
「というわけで、あなたの剣をいったん預からせてもらえないかしら? 新しく作るにしても、使い込んだものと刃渡りや重心は合わせたほうがいいでしょう?」
「なるほど。確かに、剣は体の一部だからな。使い勝手が変わると慣れるのに時間がかかるし」
私の言葉を反芻しながら、ギルが納得したように頷く。
「うん、任せたよフェルト。君の剣なら、きっと俺にもふさわしいはずだ」
「ええ。最高の一本に仕上げてみせるわ」
ギルが腰のベルトから鞘を外し、両手で丁寧に差し出してくる。私は受け取り、刃を少し引き抜いて確かめた。
「いい剣ね。軽いけど芯がある。これをベースにするけど、他に要望はある?」
「そうだな。俺の剣は重さよりキレを重視してる。打ち合う前に斬り伏せるのが理想だ。だから強度が保てる範囲で、できるだけ軽く」
「なるほどね。了解したわ」
答えるや否や、私は左腕に巻いた“オリハルコン”のリングに触れた。
師匠の遺産。
伝承では“金属の王”とも呼ばれ、魔力との親和性が高い。硬さと靭性を両立し、比重は鉄よりも軽い。
武器素材としては理想的だ。
「始めるわ」
魔力を指先から流すと、リングがスライムのように柔らかくほどけ、空中で糸状に伸びる。
ギルから預かった剣の寸法を読み取り、刃渡り・重心・柄の太さをそのまま写し取る。
ただし刃の厚みはわずかに削り、剛性を落とさず軽量化。
鍔には指掛かりを付け、手のひらの回転に追従するよう微調整した。
「形はこれで終わり。ここから本番よ」
私は刀身に手を当てる。
ここからが錬金術の真骨頂――【概念強化】。
対象が本来持つ性質を引き上げる術式で、高めるのは剣という武具の持つ“切断”の概念。
そうすることで、同じ力でも刃が深く入る。
魔力を薄く満たし、刃の流れに沿って魔術文字であるルーンを刻む。
これで一時的な強化ではなく、永続的な効果が期待できる。
「……ふう」
これですべての工程が完了。
私の手の中に、真紅の片手剣が収まる。
光に揺れても鈍らない、落ち着いた赤。
オリハルコンにわずかな紅石の粉を合金化して出したものだ。
「はい、できたわよ。色はあなたの髪に合わせてみたわ」
「マジかよ……」
「これはこれは……」
私が剣を差し出すと、ギルとジークが呆れたような、あるいは圧倒されたような声を漏らした。
うん、我ながら良い出来。
外見だけ見れば、これが錬金術で造られたとは誰も思わないでしょう。
実際は様々な鍛造に相当する工程を、金属内部の組成操作で一気に済ませただけなんだけど。
「これが錬金術か……デタラメだな」
「いやはや信じられませんな。いくら魔術と言えども、炉も釜も……それどころかハンマーすら使わずにこうも容易く剣を生み出してしまうとは。しかも仕上がりも見事ですじゃ」
二人の称賛がちょっと気持ちいい。
これが師匠ならどうせ「できて当然」みたいな反応しか返ってこなかっただろうから、新鮮に感じる。
同時に修行を頑張ってよかったとも思った。
ギルが剣を軽くひと振りする。
空気の切れる音が一段高い。
「……信じられないくらい軽い。軽すぎて耐久が不安になるレベルだ」
「試してみる? 工房の隅に鉄柱があるわ。あれなら斬ってもいいわよ」
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