嵐の足あと

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告白 ~ゼベット視点~

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静まりかえった部屋の中。
おじさんが、床に打ちこんだ拳の音だけが、辺りに鳴り響いていた。
「オマエ それ、本気で言ってんの?」
刺すような眼差しに、思わず 身がすくむ。
『こ、怖い;…』
おじさんの一撃は、思いのほか威力があって それまで ふざけていたオイさんの口を、塞ぐには十分だった。

再び 落ちついた室内で、おじさんは、ザンゲする信徒のように重々しく 語り始めた。
「実は あの時、終始シュウシ、ワケがわからなかった。
ボーとした頭で アタフタしている間に、どんどん片づいていって、気づいたら 全てを失っていた」
「もう、知ってるだろうけど…」
一度チラリと、ぼくに視線を投げると。
「あの時、オレは 寸前まで、眠ってたんだ。酒に呑まれて、けっこう ぐっすりとな」
「ところが…。
いきなり…叩き起こされ…
あげく、寸前まで 仲良く笑いあってたヤツに、【人殺し】ってノノシられた!
なんの前置きも無く…な」
「これで、平気でいられると思うか?
状況もうまく飲みこめてなかったのに、罵倒バトウまで飛んできて…。
いつも 一人ぼっちだったオレにとって、それまで友達がいたことって 割合 重要になってた。
見事に オレは、ズタボロになったよ。
一人で抱えるにはキツくて、数人にすがったけど…みんな痛までしそうな顔するばかりで 何も教えてくれなかった」
「それは 教えなかったんじゃなくて、
たぶん、そいつらも 何も知らなかったんだよ」
「あの時、ノスケは凄く半狂乱で、とても話なんて 聞ける状態じゃなかっただろうし…オレも、結構 パニックってて。
悪いけど、オマエのことまで 考える余裕なんて 、まったく なかった。
とりあえず、オレたちには、心を落ちつかせる時間が 必要だったんだよ」
「だけど…だいぶ経ってから…気づいた。
あの時、現場に オレらしか居なかったんだから、ちゃんとオレらが なにがあったのか説明しなきゃいけないったことに。
なのに…アイツ…
ノスケの奴は、なんの説明もしないまま 逃げやがった!
気づいた時には、すでに 引っ越した後だったんだよ」
その時のことを思い出したのか、
ギリリっ! 奥歯を噛締める音が 隣りから聞こえ、ハッとして オイさんを見る。
その時点までオイさんのことを 温厚な人だと思っていたから、その行動に驚いた。
「オマエも 雲隠れだったじゃないか!長期間‼︎」
再度 繰り広げられた おじさんの怒声は。
それほど、激しくわめき散らしたわけではないのに、先ほどのオイさんの行動が 霞んでしまうくらい 重みがあった。
反射的に ゾワッと体に 悪寒がはしる。
「そうだな…
オレに、ノスケを責めるシカク 無かったよな…」
途端に 落ち込み、また 下を向いてしまうオイさん。
「ワルイ‼︎;…今さら 攻める気…無かった!」
サラリと弁解したおじさんは オイさんと同じように 俯いてしまうが、かろうじて口だけは動きを止めなかった。
「しばらく 一人でいた。もう大丈夫だと、自分で確信 持てるまで。
十年近く かかっちまったけどな…」
そこで、一度 言葉を切り、おじさんは、わずかな 恥じらいをみせる。
「だいぶ経った頃、もう大丈夫だって思えたんだ。
だから、 鯉太郎を助けた。
毎日毎日楽しくて、『あぁ、一人じゃないって素晴らしいな』って思えたんだよ!最初の頃は。
でも………結局、ダメだった。
目を瞑る度に、鯉太郎に ノスケみたいな思いさせちまうような気がして、怖くて怖くて…寝れなかった」

体の脇に添えられた胸びれに、徐々に力がこもってゆくのが わかる。

「いつの間にか、オレの隣りに【恐怖】が張り付いてて
そいつが、耳元で囁くんだ。
『今度はコイツを、食っちまうぞ』ってな。
離れたくても、そいつが頭にこびりついちまってて 離れない。

たとえ 体が限界で 眠れたとしても 【鯉太郎が、オレに抑えつけられて叫んでる夢】 見て、跳ね起きる。
恐怖にかられながら、ノソノソ起き出して 鯉太郎の姿 確認しに行くんだ。
それを数回、毎日毎日 夜の間中 繰り返すんだぞ。
いいかげん ノイローゼになりそうだった」

「だから、離れることに 決めたんだ。
【鯉太郎の安全のためだ】って 自分に言い聞かせて、
オレは鯉太郎から…逃げた。
卑怯者なんだよ!オレは‼」
自分を貶めるように 言ったおじさんの言葉を受けて。
「オレが、グズグズしてたから…
オマエの傷 広げちまったんだな」
自嘲気味に笑うオイさん。
「そんなことないさ!
コレは そういう運命だって、きっと 最初から決まっていたのさ。
オマエが、気に病む事じゃない」
二人は お互いを労りあい 仲直りをする。
事態は それで終了となるはずもなく…ほくはオズオズと 声を上げる。
「提案というか、決意みたいなものなんだけど…
ぼくは 今のまま、長家でお世話になろうと 思う」
 二人、同時に振り返った。



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