嵐の足あと

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折衷(セッチュウ)案 ~鯉太郎 視点~

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淡々と ぼくは、話し始めた。
「今日 本当は、無理にでも ここに 戻ってくるつもりでいたんだ。
何が原因か、全然わからなかったけど…
たぶん? ぼくが何かやらかして、おじさんを怒らせちゃったんだろうって思ってたから、謝れば、許してもらえるだろうって 軽く考えてた。
ごめんなさい」 ぼくは、素直に あやまる。
「でも実際は、とてもとーても 寂しくて悲しかった。
ぜんぜん簡単なんかじゃなくて、我儘言ってる場合じゃないなって思った。
いろいろ 教えてくれて、ありがとう。
ぼくが、おじさんを怒らせたんじゃなくて良かったよ」
「実際、おじさんと離れるのは、辛いけど。
ずーと、もう会えないってわけじゃないから…受け入れることにしたんだ」
「こんなこと言ったら 【生意気だ】って、怒らせちゃうかもしれないけど、これ以上 迷惑かけたくない。
ぼくのことで、また おじさんを苦しめるなんて嫌だ。
それなら…ぼくが、我慢するっ!」
込み上げそうになる涙を 振りきり、顔を上げ しっかりと、おじさんと目を合わせる。
「隣りの長家に 住まわせてもらおうと思ってる。
これからの交渉しだい だけどね」
わずかに顔を歪ませ、何かを言おうとするおじさんを制し
「でも大丈夫だと思うんだ。
ぼく可愛いから、おかみさんに 気に入られちゃってるみたいでさー!
ぜひ、ココに居てほしいって お願いされちゃってるんだよね‼」
オイさんの真似をして、ちょっと ふざけてみる。
「だが…」
何かを言おうとしている おじさんの口を封じるように 
ぼくは、また 口を開いた。
「それに…ちょっと妙な言いかた だけど、
今、嬉しいんだ!
ずっと、おじさんに嫌われちゃたんだと思ってたから、
違うんだって判明して すごく楽になった」
「別にオレなんかに嫌われようと、どうってことないだろ⁉」
アッサリと 自分を卑下するおじさんに、
「そんなことないい‼」
ぼくは、少々キツイ口調で キッパリと言い放った。
「そんなことあるわけないじゃん‼おじさん!
それに、そんなふうに 自分を落としめるようなこと 言っちゃいけないんだよ‼」
「たとえば…ぼく。
もし⁉おじさんが 居なかったら、ぼくは 確実に死んでた。理由がどうであったとしても、ね。
ぼくが言うのも なんか変だけど、
【おじさんの行動fが、一つの命を救った】んだよ。
もっと 胸を張っても いいんじゃないかなー」
「そんなわけねえよ」
間髪入れずに 飛んできた言葉は ぶっきらぼうだったけれど おじさんの頬が、ほんのりと 赤くなっているように見えた。
そのまま プィッと 顔を背けようとするおじさんを すかさず呼び止める。
「あっ!待って‼おじさん」
おじさんは 動きをとめ、ゆっくりと コチラに振り返る。
黙ったまま とくに言葉は無かったけれど、その眼差しが 【なんだ?】と語っていた。
「あらためての確認なんだけど、
【昼間】…おじさん起きてる時間なら、ぼく、顔出しても 良いんんだよね?
おじさん、ドア開け くれるよね?」
恐るおそる 口にしたものの、何が飛び出してくるのか怖くて、怖くて…とても、目を開けていることが出来ない。
ギューと 祈るように 目をつぶる。
やがて…
「そうだな」
肯定とも否定とも 取れるような返事が落とされる。
「それって…」 ガバッと身を起こし
「いいってこと…だよね?」 無邪気に 念押しすると、
コクン。
「仕方ねえから 開けてやるよ」
投げやりな言葉と共に、おじさんの首が、縦に振られた。


++++++++++++++
こうして おじさんから離れ、
ぼくの新しい生活が始まった。
予定どおり 
【夜】は 、長家で過ごさせてもらい
【昼】は みんなと遊び、途中 休憩がてら おじさんの所に 顔を出す。
それは、ほぼ毎日の慣習となっていた。
『ぼくが顔 出さないと、おじさん 寂しくて泣いちゃうからね』 内心でペロリと 舌を出す。
って それは冗談だけど…
本当ほーーーぼくが寂しいんだ。
それに、すごく おじさんのこと 気になってしかたないんだよね。
これって、やっぱり 【命の恩人】だから なのかな?
本音を言ったら、ずーと 一緒に居たかったんだけど
それって、僕の我儘…おじさんに押しつけることに なっちゃうから。

ケロリと顔を上げ 扉に向きなおる。
「今日も、これから おじさんに会うんだー。
たのしみ‼
今日は何 話そうかなー!」
引きつったような おじさんの困り顔を、思い浮かべ ほくそ笑む。
そして今日も、元気に 扉を開ける。
「ただいまー」


        
          おしまい



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