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18話 朝食室で
しおりを挟む侍女のディヴェールに案内され、ソレイユが朝食室へ行くと… 顔色はあまり良くないが、聖水の効力で禍々しい呪毒紋が消えた、左目の傷痕を黒布で覆った伯爵が先に来ていた。
ソレイユの姿を見ると伯爵はその場で立ち上がり、礼儀正しく挨拶をする。
「おはよう、ソレイユ嬢! 良く眠れたかな?」
にこやかに微笑みながら、伯爵にたずねられ…
「はい」
まったく眠れなかったけれど…
ソレイユも礼儀正しく… 寝不足で目の下にくまを作った顔で返事をした。
「ソレイユ嬢、よろしかったらこちらへ」
伯爵は自分の隣席を指ししめす。
「はい、伯爵様」
言われるがまま、ソレイユは伯爵の隣に座った。
「話は後で… まずは先に朝食をとろう」
「はい」
辛うじて伯爵に返事はするが、それ以外はほとんどの気力を失ってしまい、ソレイユは微笑むことさえ出来なくなっていた。
「君に感謝しないと… 朝からこんなに気分が良いのは、久しぶりなんだ!」
「そうですか… それはとても良かったですね? お役に立てて嬉しいですわ」
まるで、伯爵に精気を吸い取られでもしたように、ソレイユの方は気分が悪そうだった。
部屋のすみに立っていた執事のジェランが、見るに見かねてソレイユに声をかける。
「お嬢様、お身体のお加減があまり良くないのでしたら、ご無理はなさらず、お部屋でお食事をとられては、いかがでしょうか?」
執事のジェランは、ジロリッ… と非難する眼差しを、年下の主に向けながら… 目の下にくまを作り顔色も悪く、前夜と比べても明らかに口数が少なくなったソレイユを気づかった。
「大丈夫です… それより、ジェラン…? 女神ルージュの神殿に行きたいのだけど… 行き方を教えて下さる?」
いくら貧しくて行く場所が無くても、私は娼婦になどなれないわ…! どれだけ厳しい生活が待っていたとしても、神に仕えた方が良い。
ソレイユはペイサージュ伯爵家を出た後の、次の行き先をすでに決めていた。
「女神ルージュの神殿? ソレイユ嬢… まずは先に、結婚相手を見つけないと… 祈願に行くのは気が早過ぎないか?」
横でジェランとソレイユの会話を聞き、伯爵は苦笑した。
女神ルージュは多産の女神で… この女神を祀る神殿は、子宝祈願や、妊婦が安産祈願で良くおとずれるのでも有名なのだ。
「……」
伯爵様、私に結婚相手は見つからないわ。
だって… 家からすてられて持参金も無く、義妹のリュンヌみたいに私は美人でもない。
何のとりえもない田舎娘の私と、結婚したがる男性はいないわ…? 奇跡的に結婚してくれる男性がいたとしても、私が純潔ではないことを伝えたら… きっと逃げ出すに決まっている。
ソレイユは顔を強張らせて、何も答えなかった。
執事のジェランは、女性の扱いかたを知らない無粋な主人を、目を吊り上げてにらみつける。
「……っ!」
伯爵は気まずそうに、ジェランの厳しい視線に、気づいていないフリをした。
急激にその場の空気が重くなってしまったと感じた伯爵は、困った顔でやれやれと自分のうなじをなでた。
「やはり… 嫌な話は先に済ませてしまおう、ソレイユ嬢」
「……」
ソレイユの肩がピクリッ… と動く。
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