73 / 92
69話 義務 王太子クリストフside
しおりを挟むアンバレに手渡された竜輝石の杖を、王太子クリストフは震える手でにぎりしめ… 顔は青ざめ強張っていたが、騎士たちに次々と指示を出す。
「私とペイサージュ伯爵は、救援の騎士たちを連れて現地へ移動する」
まさか、こんなことになるとは、思いもしなかったが! だが、私も王家に生まれた者として、この身に流れる氷結の魔法使いの血にかけて、義務を果たさなければ!
王太子クリストフの命令に、アンバレと騎士団本部で待機していた4人の騎士、王太子の護衛騎士3人がうなずく。
「聖女ブリュイはここで待機し、戻って来た負傷者の浄化を!」
「ふんっ…!」
元通りに完治したアンバレの姿を見て、驚愕していた聖女ブリュイだが、その衝撃が過ぎ去ると… 今度は子供のようにすねて押し黙り、クリストフの命令に対して反抗的に視線をそらした。
「ブリュイ!! お前はいつまで子供のように、我がままを言う気だ?! 聖なる力があっても、必要な時に使えなければ、お前から聖女の称号を取り上げても良いのだぞ?! 新たな聖女候補が見つかったからな!!」
この非常時に、お前の機嫌取りなどしていられるか! こうなったら伯爵には悪いが… 気弱だろうが、心の病を抱えていようが、伯爵夫人を引っぱり出してやる!
「……っ!」
クリストフに脅され、聖女ブリュイは顔を真っ赤にする。
「ブリュイ、返事は?!」
「…はい、殿下」
ブリュイは悔しそうに横を向く。
「王太子殿下…!」
『聖女候補が見つかった』と聞き、アンバレは自分の妻のことだと読み取り、険しい表情でクリストフをにらむが… 非常時に議論することをひかえ、抗議の言葉を飲み込んだ。
理性的なアンバレの態度に、内心でホッ… とクリストフは胸をなでおろす。
これから強敵を相手に、命をかけて一緒に戦う仲間と、言い争いはしたくない。
「王太子殿下、私にも何かお手伝いさせてください!」
アンバレと一緒に来た、王宮街神殿の神官長コンプレスが助力を申し出た。
竜輝石の杖をアンバレに渡した後、イフリート出現の知らせを聞き、神官として自分も何か手伝えないかと、同行して来たのだ。
「それは助かる! 殿下、聖女殿だけでは負傷者全員の浄化をするのは、時間がかかり過ぎるので… 先に神官長殿に、大量の聖水を用意していただいて、聖女殿の補助を頼んではどうでしょうか?」
「それでしたら、聖女様ほどではありませんが、ジョファージュ地方出身の聖なる力を微力ながら宿す、神官がおります! 彼女が聖水で浄化をお手伝いすれば、より聖水の効果が出るでしょう!」
ジョファージュ地方とは… 理由は解明されていないが、昔からソレイユのように聖なる力を持つ者が、多く誕生する地域である。
「それは心強い! 神官長殿、そのように頼む!」
「お任せください、殿下!」
神官長コンプレスは胸に手をあてうなずく。
「それと、王宮所属の治療師たちにも魔法騎士団の帰還に備えて、救援を要請しておけ!」
「は… はい!」
王太子の護衛の1人が魔力で伝言を書き、王宮へ赤い警告色の幻鳥を飛ばそうとした時… 背後で急激に魔力が高まる気配を感じ振り向いた。
魔法陣が光を放ち、転移魔法が発動する。
「誰かが帰って来る?! 殿下、カルムが先に、負傷者をこちらに送り返したのかも知れません!」
地下施設内に転移魔法のまぶしい光があふれ、まぶたを閉じた次の瞬間……
ドオオオオォォォ――――ンッ…!!!!!
その場にいた全員が、世界の崩壊を連想させる轟音と衝撃に襲われた。
88
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む
青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。
12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。
邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。
、
誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが
迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
魔法もろくに使えない役立たずと言われ、婚約者にも彼の周りの人達にも馬鹿にされてきた私。ずっと耐えてきたつもりだったけど、誰もがこんな私よりも、もっと優秀な魔法使いがいたはずなのに、とため息をつく。
魔法によって栄え、王都にまでその名を知らしめた貴族の婚約者は、「なんでこんな役立たずが……」と私を蔑み、城の中で魔法使いたちを統率する偉大な魔法使いは、「こんな女がこの領地を任されるだなんて! なんて恐ろしく愚かなことだ!!」と嘆く。
貴族たちに囲まれ詰られて、婚約者には見放され、両親には罵声を浴びせられ、見せ物のように惨たらしく罰せられた。「なんでこんな役立たずがこの城に来たんだ……」そう落胆されながら。
魔法が苦手でここを出る手段はないけど……もうこんなところにいられるか!
そう決意した私に、私を虐げていた誰もが腹を立てる。激しくぶたれた私は、機嫌を損ねた残忍な竜たちに、枷をされて隣の領地まで連れて行かれることになった。
重労働を言いつけられ、魔物や魔獣、竜たちがうろつく森の城についてからは、暗く小さな部屋に放り込まれた。
たった一人で食事をして、何もない部屋から見窄らしい格好で窓の外を見上げる。
なんだこれ…………
「最高…………」
もう、私を踏み躙る奴らに好きに扱われることはないんだ! それだけで、何もかもが最高!!
金もなければ能力もまるでない! 魔法すらまともに使えない! だけど今は思いのままに身につけに行ける!! 何もないのでこれから欲しいもの全部、手に入れに行きます!
そんな風にして竜族の城に住むことになった私。気づいたらやけに皆さんとの距離が近い? 元婚約者も「戻って来い」なんてうるさいけど、知りません!! 私は忙しいので!
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる