すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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75話 記憶の浄化

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 瓦礫がれきの下から助け出されたと聞き、アンバレと一緒にソレイユも聖女の無事な姿を確認しようとついて来たが… 聖女ブリュイは自分を助け出した騎士たちに、悪態あくたいをついていた。
 遠くまで響きわたるかん高い声で暴言をはく聖女を見て、思わず2人は少し離れた場所で立ちどまる。


「なんて非道な人たちなの?! 私を危険な瓦礫がれきの下に閉じ込めたまま、魔獣退治を優先するなんて! あなたたちは、それでも王国の騎士ですか?!」
 どろで汚れた顔を怒りでまっ赤に染め、聖女ブリュイは騎士たちを責め立てた。

 普段はふわふわと揺れる柔らかなブリュイの髪はクシャクシャにからまり、純白のころももシミだらけだ。
 口紅がはみ出た唇をゆがめ、わめき散らす聖女の姿はどこか滑稽こっけいに見え… イフリートとの戦いで騎士たちが疲れ果てていなければ、嘲笑ちょうしょうしていただろう。

「いいえ、違います! 護衛の騎士に守られ瓦礫がれきの下にいたから、聖女殿は助かったのです!」

「もしもあの時、聖女殿の救出を優先していたら、あなたも我々も間違いなく全滅していたでしょう!」
 いつもはおとなしく聖女の我がままを聞き流しているが、ほんの少し前まで死を覚悟して戦っていた騎士たちは、ブリュイの暴言に激怒し反論した。

 騎士たちと一緒にイフリートとの戦いに参加した神官長コンプレスも、騎士たちの味方にまわり、腹を立てる聖女ブリュイをなだめようと口をはさむ。
「聖女様、騎士様たちの判断は間違いなく、最善さいぜんでしたよ」

「ブリュイ、我がままはやめろ! お前の目には周囲の状況が見えないのか?! 今すぐ負傷者の呪毒じゅどくを浄化して、聖女の義務を果たせ!」
 竜輝石りゅうきせきつえを持った王太子は慣れない戦いに疲れ、瓦礫がれきの上に座りこみイライラと怒鳴った。


「……」
 険悪な雰囲気の中で、ソレイユと一緒に聖水を運んで来た神官のジャンティエスは、イフリートの青い炎で焼かれ、呪毒じゅどくけがれた騎士の腕を聖水で清め少しずつ浄化している。

 神官ジャンティエスは、南方にある別名『聖女の町』と呼ばれるジョファージュの出身で、聖女の称号を与えられるほど強くはないが、聖なる力が使える。
 弱くても聖なる力の影響で、ジャンティエスもソレイユのように、聖水による浄化の効力を高めることが出来るのだ。


「私を救うことを優先しないから、この騎士たちは女神様のばつがくだり負傷したのです! 殿下こそ、婚約者の私を軽んじる人の浄化をしろだなんて… そんな意地の悪い命令はしないで下さい!」
 フンッ…! と鼻をならし、ブリュイは腕組みをしてそっぽを向く。

「ですが、聖女殿…! 出会えば死はけられないと言われる、イフリートが出現したのですよ?! 我々は応戦するだけで精一杯せいいっぱいだった!」

「イフリート…?! そんな魔獣よりも、聖女の私が優先されるべきです!!」



 少し離れた場所で、聖女と騎士たちの会話を聞いていたソレイユの耳に『イフリート』の名が届き… ソレイユはハッ… と息をのむ。

「…っ!!」
 イフリートですって?! イフリートがここに出たの?! そんな…

 アンバレと無事に再会できたことで気がゆるみ、今までまわりのことが目に入らなかったが… ソレイユは瓦礫がれきの山を注意深く見つめると、白い灰がうっすらと積もっていることに気づく。
 ソレイユの脳裏のうりに、聖女エクレラージュが恋人のロアンを失った直後の、灰が雪のように舞っていた記憶がよみがえり… ぶるぶると身体を震わせる。

 隣に立っていたアンバレは、過敏かびんに反応するソレイユの動揺に気づき、細い腰に腕をまわして身体を支えた。

「ソレイユ、大丈夫か?!」
  
「アンバレ様… 本当にイフリートが出たのですか?! だって… エクレラージュ様の記憶では、騎士様たちは全滅して、ロアン様も死んでしまったのに…?!」
 何もかも灰になって消えてしまった、エクレラージュ様を苦しめた、悲しくて恐ろしい記憶が私にも鮮明に残っている! だから信じられない! イフリートを前にして、無事でいられることが…

「ソレイユ… 私たちは運が良かった! 王太子殿下が氷結ひょうけつの魔法を使えたから、イフリートをふうじることができた! 120年前にアドリアン国王陛下が、積極的に王家の血筋に氷結ひょうけつ魔法の使い手を取り入れて下さったおかげだ!」

「アドリアン陛下…?」

「ああ、アドリアン陛下の血を引かれるクリストフ殿下が、エクレラージュ殿とロアン殿の無念を晴らして下さった!」

「……」
 本当に、あのイフリートを倒したの…? 

 ソレイユは隣に立つアンバレから、瓦礫がれきの上に腰をおろした王太子クリストフへと視線を移す。
 アンバレとソレイユの会話が聞こえていたらしく、王太子と目が合う。

「クリストフ殿下が…?」
 本当に… 本当なの…?

 ソレイユに向けて、王太子クリストフはどこかほこらしげにニヤリと笑った。
 王太子クリストフの笑顔が、エクレラージュの記憶にある120年前の国王アドリアンと重なり… ソレイユの胸にじわじわと熱いモノが込みあげて来る。

「本当だよ、ソレイユ… きっとエクレラージュ殿の苦痛も、これで浄化されるだろう」

「……っ」
 ありがとうございます、クリストフ殿下!

 胸がいっぱいになり過ぎて、瞳から涙があふれ出し、ソレイユは上手く言葉がつむげなかった。

 120年前に亡くなった、聖女エクレラージュと恋人のロアンに代わり、王太子クリストフに感謝を込めて深々とお辞儀をする。




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