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80話 聖女の役め2
しおりを挟む村人の半数が魔獣の餌食となった。
聖女エクレラージュは、魔獣たちが村に残していった爪痕を、丁寧に浄化してゆく。
綺麗に魔獣の穢れを祓い終わると、小さな広場に生き残った村人たちを集めて、同行した神官と犠牲になった人たちの葬送の儀式をとりおこない、鎮魂の祈りを捧げた。
『どうか、生き残った自分を責めないで下さい…』
最愛の家族を失った人たちは、自分が犠牲者たちの身代わりに死ねば良かったと… 生きていることに罪悪感を抱いてしまうのだ。
『聖女様… ううっ… う…』
『あの子はまだ、子供だったのに… 1人で死なせてしまった!』
『どうして、彼女が…! ううっ…』
『とても苦しく、心が痛いでしょう… それでもどうか、あなたの胸の中で生きている愛する人たちの記憶とともに、強く生きて下さい… それが一番の供養となるのです』
エクレラージュは、すすり泣く村人1人、1人に慰めの言葉をかけて抱きしめる。
『ラージュ、君が誇らしいよ』
真新しい騎士服を着た、魔法騎士団に入ったばかりのロアンは、聖女エクレラージュの護衛をしながら、帰り道でふと言った。
『ロアン様…?』
『君は本当に立派な聖女になったのだね』
『そういうロアン様も、立派な騎士になりましたね?』
悲惨な村のようすを見て、私が落ち込んでいたから… ロアン様は私を慰めようとしているのだわ。
『ふふふっ… 今の君は見習い神官の服を着たまま、木登りをして遊んでいたお転婆娘には見えないな…』
ニヤニヤと悪戯っ子のように笑い、ロアンはエクレラージュを揶揄う。
『ロアン様こそ… お母様が可愛がっている猫の髭を、悪戯で切り落として遊んでいた、悪ガキには見えませんわよ?』
オルドナンス公爵領で農民の子として生まれたエクレラージュは、魔力判定で聖なる力を持つとわかると… オルドナンス公爵家で保護された。
オルドナンスの神殿に通い、聖女の修行をしながら、公爵家の長男ロアンと兄妹のように育った。
『君が生意気なのは子供のころと、変わらないな!』
『ロアン様こそ、意地悪なのは変わりませんね?』
意地悪なんてウソよ! ロアン様がとても優しいことを、私は知っているわ。
両親と引き離されて不安で泣いていた私の部屋に、こっそり来て眠るまで手をにぎっていてくれたこともある。
誰よりも優しくて高潔な人… ロアン様、あなたを愛しています。
将来、アドリアン王太子殿下と結婚しなければならない聖女の身では、ロアン様の妻として添いとげることはできない。
それでもあなたに出会えただけで、私は幸せだわ…
「ソレイユ… 大丈夫か?! ソレイユ?」
「……ん」
耳元でアンバレの声が聞こえてソレイユは目を開く。
王宮の霊廟に置かれた、聖女エクレラージュの棺の上で眠っていたソレイユは目を覚ます。
「ソレイユ?」
いつの間にかこぼれていた涙を、アンバレは手袋をぬぎ、ソレイユの頬からかたい指先でぬぐう。
「アンバレ様… 大丈夫です、心配しないで下さい… 懐かしい記憶が蘇っただけで…」
エクレラージュ様が大切にしていた愛おしい記憶。
ロアン様やオルドナンス公爵家の人たちとすごした、幸せな子供のころの思い出。
アンバレに背中を支えられながら、ソレイユは身体を起こすと… エクレラージュの棺のまわりに、魔獣の呪毒で意識不明になったカルムと、魔法騎士団の騎士たちが寝かされているのが見えた。
石床に横たわる騎士たちのそばには、王太子クリストフと神官長コンプレス、ジャンティエスが心配そうにソレイユを見守っている。
「そうだわ、浄化をしないと…」
いつまでもエクレラージュ様の記憶に、酔っていてはいけない!
ソレイユは自分の身体に、エクレラージュから受け入れた聖なる力を感じていた。
「お力を… お借りします」
エクレラージュに似せて棺の蓋に彫られた、翼が生えた女神の使いに触れる。
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