侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

文字の大きさ
63 / 121
私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

第一王子アラン

しおりを挟む
 ──トントン──
「アラン殿下!本日から仕えさせていただく、侍女のナタリーがご挨拶に参りました!」
 ギースがドアの前で声を上げるも、一向に返事がない。
 (いらっしゃらないのかしら·····)

 その時、ナタリーの視界が急に真っ暗になった。
「──きゃあっ!!」
 誰かに目隠しをされている。ナタリーは、突然のことに驚き、声をあげてしまった。

「誰だと思う??当ててみて!!」
 弾んだ子どものような声が聞こえてきて、ナタリーは混乱してしまった。
「えー······と、どなたでしょうか?もしや、アラン殿下でしょうか?」
 ナタリーはそんなわけはないと思ったが、冗談で答えてみた。
 ギースはため息をつき、目隠しをしている相手を諌めた。
「······殿下。おやめください。ナタリーは今日初めて殿下に会うんですよ。」
 ナタリーの視界が開き、一人の青年がナタリーの目の前に顔を出した。満面の笑みで、ナタリーの顔を覗き込んでいる。
「君すごいね!!正解、僕がアランだよ。ナタリー?───僕と遊ぼ!」
 ナタリーはアラン王子だと名乗る青年が、あまりにも子どものようだったので面食らってしまった。見た目は、アレクシア王女によく似て美形だ。幼い言動の割に、背が高く体格がいい。
「アラン殿下は昔からああなのだ。精神的に、子どものまま成長しない。今年で20の歳になられるのだがな。」
 ナタリーはなんとなく王室の事情が分かってきた。本来であれば、第一王子のアランが王位を継ぐとして、最適な教育を受け権力を持つのだろうが、このような幼い性質を持っていた為、離宮に追いやられ、実質王女が我が物顔で振る舞っているのだろう。
「かくれんぼしよ!ギースが鬼ね!!ナタリー、一緒に隠れよう!!」
 ナタリーはアランに手を引っ張られ、隠れ場所を見つける為に連れ出された。
 後ろの方でギースが
「殿下!!私は鬼はやりませんよ!!戻ってきてください!」
 と叫んでいるのが聞こえた。

 ナタリーはアランに手を掴まれたまま、離宮の中を走り回り、回廊の一番端の部屋までやってきた。
「·····はぁはぁ──アラン殿下、ここまで来てしまったら、ギース様も到底見つけられません····!戻りましょう。」
 ナタリーの訴えも虚しく、アランは隠れ場所を探さなきゃ!とばかりに目を輝かせていた。かくれんぼをやめる気はないのだろう。
「ここに、本宮につながる秘密の抜け道があるんだ。アレクシアも知らないよ!ナタリーにだけ、こっそり教えてあげるね。」
 アランが、本棚の一冊の本を抜くと、何やら木の板が出現した。
 アランがその木の板をガチャンと下にさげた途端、本棚が裏返って、地下室へ続く階段が出現した。
「──!!!」
 ナタリーは驚いた。見てはいけないものを見てしまっている気がする。
「よーし!ナタリー付いてきて。冒険に出発だ!」
 まさか、この秘密の地下を通って、王女達のいる王宮へ行こうとしているのか。ナタリーは真っ青になった。万が一見つかり、ナタリーがアラン王子をそそのかし、王宮へ忍び込んだと糾弾されれば命はないだろう。
「お願いです!お、おやめください!!アラン殿下──」
 アランは、ナタリーの制止を全く聞かずに、ズンズンと奥へ進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...